「それで、アンタ達は日本人だよね? どうしてこんな所にいるの?」
ゴロツキ達を倒した後。人の少なくなった大通りにて、勇者と俺達は合流していた。
既に戦闘の後始末も終わり、無力化されたゴロツキ達は警察へとしょっぴかれていった。街を僅かに破壊した事は問題だが、そもそも大工や土木工事といった作業が無い世界観だったので損害賠償などは請求されなかった。
壁そのものを直接生み出す魔法があるので、基本的に建築は魔術師が担っているのだ。従魔でも似たような事は出来るが、人の住む場所だからこそ人の手で作り上げるというものだろう。
ぶっちゃけこの世界の人間は弱小生物の部類に入るので、頻繁に街など破壊される。その度に街を作り直しているのでここが更地になろうとも三日もあれば元通りになるのである。ゲームではそうだった。
「えっと、その言葉は俺達も返したいものなんですけど」
「ふーん? 私達は勇者として召喚されたこの世界の魔法で引き寄せられた日本人よ。アナタ達はどうやって来たの?」
「それは……わからない、です」
ちらりと柊菜は俺の顔を覗いた。
残念ながら俺もなぜこの世界に来たのかは知らない。この世界へ連れてきそうな従魔辺りは幾つも思いつくが、どうして俺たちがここにいるのかまでは知らないのだ。
「っていうか! 地球への移動手段とかあったんすね! これは俺達も帰ることが出来ると思うんですけど、スリープさんそういうことは言わなかったっすよね?」
「聞かれなかったからね。というのもあるし、そもそも俺達は勇者として呼び出された訳じゃないから同じ方法で帰れるとは思わないよ」
「あ、それはあるかもね。なんか私達勇者ってこの世界でいう従魔召喚のゲートを再現したようなもので連れてきているらしいし。死ぬと王城に戻されるのよね」
あっけらかんと言い放った女子中学生だが、それは一度死を経験しているという事で間違いないのだろうか。とんでもない情報である。
「あ、私は和内里香。こっちの大人しいのが北条院アヤナよ」
「よ、よろしくお願いします……!」
「おおっ普通の反応。俺は原田樹、こっちの女子高生が新田柊菜さんで、最年長のあの人がスリープさん」
「スリープ……? なにそれ偽名?」
「偽名だよ」
俺の本名もプレイヤーネームもこの世界がゲームだと知っている人なら一度は見たことあるレベルで有名なのだ。広告とかなかったからプレイヤーとして知らない奴はいないというだけだ。
名前は覚えやすいものを使ってたし、俺のブログ経由でイズムパラフィリアを始めた奴もいる。そして、俺は常にランキングで一位にいたのでとにかく有名なのだ。
本名に関してはプレイヤーとしてじゃなくても知る奴はいるだろう。ちょっとしたアプリ開発者としてメディア露出した経歴があるのだ。
イズムパラフィリアのキャラクターデータやモーションデータを利用したAR機能による拡張現実だ。スマートグラスによる投影方法で動画配信をした結果人気が出て話題になったことがあるのだ。スマートグラス自体が知名度無かったというのもあるかもしれない。
まあ、なんでもいいが身バレは嫌だしそういった面で嫌がらせも受けた事がある。下手にリアルの情報を晒す必要は無いと思って偽名を使っているだけだ。
ぶっちゃけ日本じゃないから言ってもいいけど言わなくてもいいよねって思っている。好きに生きようぜ。樹少年が明日アンドリューとか名乗っても、俺はアンドリューって呼んであげられる自信がある。
「アンドリューも軽い気持ちで人の情報出さないでくれよ」
「アンドリュー!? 俺の事ですか!?」
失礼。心の中での呼び名を出してしまった。
樹少年はうわごとのように「俺どんなイメージ抱かれてんだろう……」とか呟いている。柊菜はそれを見て肩を震わせている。
「それで、スリープとアンドリューだっけ? この世界結構暴力的だから偽名使うのも悪くないかもだけどさ、結構自意識過剰よね」
「いやいやいや! 俺原田樹って名乗っただろぉ!?」
「冗談よ。もしかしたらアンタ達も勇者なのかもしれないから、一度王都に来てみるといいわよ」
「え? どうしてですか」
「なんか私達を召喚する前にも何回か勇者を召喚しようとしたらしいのよね。確か『低予算で強い力を持ったこの世界に適性のある人物』と『この世界にて最強の力を持つ人物』と『成長性のある強い意志を持った人物』で召喚しようとしたらしいのよね。どれも上手く行かなかったみたいで、召喚陣に該当者は現れなかったんだけども。ちなみに私は『戦い方が上手くこの世界に馴染める人物』で、アヤナは『召喚士じゃない最強の人間』で呼び出されたのよ。一応私の方が三日くらい先輩なんだから!」
胸を張るリカ。こうして見ると確かに戦い方は上手く、そしてこの世界でやっていけそうな性格をしていると思えた。
というか、話を聞いた限りではこの世界に来ている可能性のある人物は勇者を入れずに三人らしいのだが。そうとは思えなかった。
第一に低予算系である。該当無しならともかく、この世界は元がソシャゲなので、無課金プレイヤーがいそうなものである。現在の俺たちをそれだとするのなら、複数召喚されている事になるし、そもそも俺は低予算で動かないと思う。
思いつくとしたらレギオン【無課金底辺団】のプレイヤー達である。無課金の代わりにノルマがガチ勢のレギオンだ。
ちなみにレギオンとはゲームによくあるギルドと同じシステムで、所属しているプレイヤーにはレイドバトルで有利に戦えるアサルトタイムやら、恒常的に効果が得られる祝福等の恩恵がある。
同時にレギオン同士で争いがあり、対人戦ランキングや、レギオンイベントのランキング等といったソーシャル部分で奴隷になる。多くのプレイヤーはこの他人と比較される部分を見てソシャゲを辞めていく。MMOよりもクソゲーな部分だからである。誰も主人公になれないわけじゃなく、より金と時間を積んだ奴こそが無双出来る仕組みだからだ。
ちなみに俺は個人レギオンを作って参加していた。時間は人生ドロップアウト組だから余裕があったし、金もほぼこれにだけ費やしていたから戦力は十分だったのだ。
課金してちゃんとゲームをやり込んでいれば、基本的に他人の手を借りずともどのコンテンツもクリア出来るのだ。精々が参加人数制限という壁に阻まれるだけであり、それさえ突破すれば個人でやる方が早くクリア出来たりする。
「該当者無しなんてあるんですかね?」
「うーん……無理やりでも当てはめれそうだから多分召喚はされていると思う。それが日本人だとは思わなかったけど」
樹少年や柊菜と里香のやり取りを眺める。勇者側の情報は特に知らないのでまとまってから樹少年にでも聞くとしよう。
俺の知る勇者を見る。長い黒髪に低めの身長清楚系とでも言えそうな外見をしていて、その癖いわゆる清楚系が持っているようなこちらを欺くような雰囲気は無い。
育ちが普通に良いのだろう。
「な、なによ……」
「んー……。最強の勇者さんとやらはどうしてこんな所に来たのさ? ここに魔王でも匿われていると?」
俺の視線に気付き警戒心のレベルを引き上げたアヤナへ適当な言葉を返す。まさかゲームのキャラ本人がいる状況でこの世界がゲームだとかなんだとか言うつもりは無い。
そもそも現実となっているので、誤魔化すなら規定の未来が見えるとでも嘘をつく。そうしてまでアヤナをどうこうしたいとは思わないが。
勇者アヤナはプレイアブル化しないキャラであり、しかし第一部以降は一切その消息が不明になる。死亡説と現地移住説の二つがあった。死んだら呼べるのだから多分この世界に留まるのだろう。
「そういえばすっかり忘れてたわ……。リカ! ちょっと!」
「何さアヤナ。アナタも日本人だったんだし話したいこととかあるんじゃないの?」
「そんな事よりも、例のアレどうするの!?」
「あっ……」
里香がしまったという顔をした。勇者なのに魔王討伐以外で行動していた理由を思い出したらしい。
「……どうかしたんですか?」
「やっばいすっかり忘れてた! ほら、アナタ達も行くわよ! さっさと付いてくる!」
里香に押し切られて柊菜が連れていかれた。それに続いて樹少年も後を追いかけた。
今まで存在が空気だった小さいのがペシペシと俺の額を叩く。今回はウィードじゃない。トラスである。
「…………」
「トラスは日本人じゃないからね。つまらなかったよな。あとさ、ヴエルノーズで起きる出来事って俺の知る限り残りは地下へ行く事だけなんだよね」
あそこには行きたくない。ウィードの育成が完了していない時点でまだミラージュに勝てないし、その後は今の手持ちじゃ勝てないからだ。
勇者アヤナがいても無理だろう。アレは少規模の戦闘で活躍するタイプだ。
トラスのアラバスターゴールドを戦力に入れても勝つのは難しいだろう。恐らく打たれ弱い柊菜の従魔がロストする。
まあ、流石に地下へは行かないだろう。あそこは犯罪の温床ではあるが表に出てはいないはずだ。
地下へ行くつもりならアヤナだけでも拐おうと覚悟を決めて彼らを追いかけた。
結論から言うと、地下には行かなかった。
大変ありがたいことである。サブクエスト関連は少なくとも終末の洞窟をクリア出来る戦力を持っていること前提で挑む必要がある。
ピクシーはレベル上げきってないしチェリーとエンドロッカスは未だレベルマックスのままステージ解放していない。ウィードもレベルが四十で止まっている。
勝てるわけがないのだ。
では、現在どこにいるかというと、俺も知らない屋敷の前だった。
「えっと……里香さん、ちゃん? ここに何があるのかな?」
「呼び捨てでいいよ別に。私も気にしないし呼び捨てで呼ぶから。それでね、ここには迷いの森っていう場所から誘拐された獣人がいるのよ! 証拠は既に掴んでいるから解放しなきゃいけないの!」
「ん? 迷いの森で獣人を誘拐……?」
どこかで聞いた事のある話だ。樹少年も気まずそうな顔して立っているチェリーを穴が開きそうなくらい見つめている。
「あのー、勇者さんや……もしかしてだけど」
「私達は今世直しの旅をしてるの! 魔王を倒さなきゃいけないんだけど、魔王の目撃情報すら出てないし、私達も鍛えなきゃいけないから、ついでではあるけれど勇者らしいことをしようってね!」
全くない力こぶを作ってみせようとする里香。世直しは良いのだが焦っている樹少年の顔も見てやって欲しい。
柊菜は柊菜でチェリー以外の誘拐された人がいるなんて……! といった雰囲気で事情に気付いていない。まあ、結構前にあった事だからね。チェリーの誘拐事件って。
「チェリーの仲間かもしれないし、絶対に助けてあげるからね!」
「あの……ご主人様、勇者様が言ってる人って多分私だと思うんですけど」
「……ねえ、里香。なんか屋敷が騒がしくない?」
人一倍感覚も強化されているであろうアヤナが怪訝な顔をした。
「……なにか来る!」
アヤナが一際鋭い声で警戒を促すと同時に、屋敷の壁が勢いよく吹き飛んだ。壁の内側は赤いシミが出来ており、なにかのピンク色をした肉片が散乱している。
「はぁ!? 聞いてないんだけどこんなの! 『コール』!」
即座に飛び退いた里香が素早くゴーレムを召喚する。壁を壊して出てきた異形の頭上へと召喚するも、あっさりと躱される。
「グルル……あれ、人間だぞ」
「マスター、危ないよー! 早く逃げよう!」
「っ! ご主人様、アレ人間の香りがします!」
従魔達がいち早くその正体を見破った。
しかし、現れたのはかろうじて人の姿を保っているとしか言いようのない怪物だ。全身が赤く異常なほど筋肉が膨れ上がり、全長を三メートルほどに大きくさせている。ホラゲーで出てくる筋肉ダルマな敵みたいな奴だ。
「グゥオオオオ!!!」
「シーちゃんあれマジでやべぇな! 大きさ的に俺もシーちゃんも勝てそうにないんだけど!」
「あれが……人間?」
樹少年も柊菜も怪物を目にして首を傾げた。人間っぽい素材はあるが、アレを人間に分類したくはないのだろう。
「ちょっと! そんな事気にしている場合じゃないでしょ! アヤナは下がってて、私のゴルが攻撃を受けるから他は素早く倒してね! 民間人に被害が及ばないように戦うよ!」
里香が怒鳴り声で指示する。久しぶりの強敵っぽそうな存在との戦闘だ。
ウィードは動かない。ノーソを街中で呼び出す訳にはいかないのでシルクが護衛だ。
力を持つと集団に混ざって生きるのは難しくなるな。なんとなくそう思った。