イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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 こんにちは、イズムパラフィリア公式運営です。本日はイズムパラフィリアにおけるアップデート内容を説明します。
変更内容
 星六死種【アビスの暴剣エンドロッカス】→星五死種【アビスの暴剣エンドロッカス】

 星六死種【アビスの暴剣エンドロッカス】の弱体化が決定しました。これ以降の文章では運営の記憶上エンドロッカスのレアリティを星五で想定し記述していた為のミスです。星五だとどこかで明記したようなしなかったような記憶があるので、随時修正パッチを当てていきます。ちなみに元々彼の強さは星六想定でしたが、弱体化されております。
 なお、現在発覚している【】と『』の表記揺れも随時修正をしていきます。この度はプレイヤーの皆様へのご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ありませんでした。
 これによる詫び石の配布はありません。
2020/2/12(水)


24話 モンスター

 元人間の従魔というのは、かなりの数がいる。

 パラフィリア(異常性癖)の中にはズーフィリア(動物性愛)のような非人間を対象とした性愛も多いのだが、それ以上に人間の何かしらの行動やシチュエーションに性的欲求を起こすものが多いのだ。

 欠損嘔吐病気溺水排泄。一部を上げたとしても、それらは基本的に人間の姿でないと目的から離れてしまうのだ。

 だから、少なくとも人間に近い形をしていたり、元々は人間だった存在というのは、イズムパラフィリアというソシャゲにおいて、かなりの数が存在しているのだ。

 

 人間は召喚できないという設定の時点で、人間は召喚されない。では何が人を定義するのかという話もある。ノーソなどは人間をやめた訳でもない。死後にて従魔となっているが、それでも原型は、生前は人のままだ。死後にて何かしら人から逸脱した特徴を得た。と言えるのだ。

 ノーソならば呪いの力だろう。死種として、呪いの力を手に入れて従魔になった。その時に人間をやめたということだ。

 つまり、後天的にでも人間を辞める方法なんぞいくらでもあるということだ。

 

「ワシの……ワシのオンナァァァァ!!」

「うおっ。さっきまで獣みたいに叫んでいたのに急に喋りだした!」

 

 やはり、チェリーを買い付けた男だったのだろう。俺達を見て急に理性を取り戻したかのように喋った化け物に樹少年の腰が引けた。

 化け物は叫ぶや否や、こちらへ猛然と突進してくる。

 

「ゴル、受け止めなさい!」

 

 里香の命令を受けてゴーレムが動いた。化け物の突進を体で止める。両腕は化け物の肩を掴んで離さない。

 互いの重量もあり、これでは動けないだろう。

 

「今のうちに叩いて!」

 

 里香の言葉に即座に動いたのは相方の勇者アヤナだった。

 素早く接近し腰のショートソードを引き抜いて足裏の腱を切り裂く。

 ドス黒い血を噴き出したものの、僅かな時間で瞬くまに切り傷が治った。

 

「なっ!?」

「シーちゃん、炎の魔法!」

「りょーかいっ! ファイアー!」

「エー君は攻撃、チェリーは警戒して!」

 

 驚愕するアヤナを無視して樹少年が動く。ピクシーの炎魔法が怪物とゴーレムを焼き焦がしていく。たまらず悲痛の声を上げた怪物へ柊菜のエンドロッカスが剣を構えて切り刻む。

 

「こっちも少しくらい戦わなきゃだね。シルク、マナボルト。ウィードは俺に攻撃が来た場合抱えて躱すように」

「グルル……。私も戦いたいんだが」

「龍種覚醒が解除されるまでの間戦ってれば動いていいよ」

 

 ゲーム仕様といえばそうなのだが、なんでウィードは動かないんだろうか。龍種全体に言えることだが。そのどれもが動かないのは、普通に考えれば変な話である。

 後日確認しよう。

 

 シルクから放たれた灰色の弾丸が怪物に当たる。これだけの攻撃を受けてもまだ死なないらしい。

 適正レベルを大幅に超えているようなメンバーなのに、一度の行動で敵一体のHPを削り切れないのは想定外だ。ゲームには無かったような展開にクエストだが、基本的には一巡で倒しきれていたはずなのだが。

 

「ハアッ!」

 

 勇者アヤナが、どれだけ暴れようとも動けない怪物の首へショートソードを叩き込む。バツンと無理やりちぎったような音と共に怪物の首が落ちる。

 

「やった!」

 

 柊菜が喜びの声をあげる。返り血を浴びたアヤナが一瞬怪訝そうな顔をして、次の瞬間驚愕へと変わった。

 首を落とした怪物が動き、ゴーレムの拘束をも剥がしてアヤナへと勢いよく拳を振り上げた。

 素早く防御体勢に移ったアヤナだが、単純な体重差もあって殴りつけられると地面に体が強く打ちつけられ、バウンドした。

 

「うわああああ!!」

 

 そのままアヤナへと連続して拳を振り上げた怪物に、樹少年が割って入る。気合いと言えば聞こえはいいが、悲鳴としか言いようのない叫び声で樹少年も幅広の剣を抜いた。

 剣を怪物の腕に当てて切り落とすなんて真似が出来るわけもなく。ただ剣で拳を防ごうとしたのだろう。横に構えた剣ごと殴られ、樹少年の剣は半ばから真っ二つに砕け折れた。

 

「ヴォオオオオ!!」

「グルアアアア!!」

 

 その一瞬で龍種覚醒の時間が切れたウィードが動き、開いた距離を一瞬で埋めた。振り抜いた拳同士がぶつかり合い、怪物の方が力負けし、のけぞり、尻もちをついた。

 

 龍種のステータスはやはり動けさえすれば圧倒的である。体勢すら整っていない不安定な一撃でも、巨体をひっくり返して見せた。

 

「チェリー、回収!」

「了解ですっ! ご主人様!」

 

 ウィードが作り上げた空白の時間に柊菜のチェリーが動き、樹少年と勇者アヤナを回収した。

 

「ゴル、まだいけるでしょ!」

 

 里香が一度拘束を振りほどかれたゴーレムへ尋ねる。ゴーレムは、まだまだ動けると言わんばかりに両腕を振り上げ、威力を示すように地面へと叩きつけた。

 石畳にヒビが入る。大地が僅かに凹み周囲がしわ寄せを受けて若干盛り上がる。

 

「あー! 弁償する必要が出るじゃない。それは禁止よ!」

 

 里香に叱責され、ゴーレムの勢いが心なしか弱まった気がする。

 シュンとなったゴーレムへ拳を叩きつけるものがいた。それはウィードがひっくり返した異形の化け物よりも大きい。

 

「キャア!」

「二体目!? エー君援護!」

 

 ウィードがひっくり返した奴とは別の、さらに大きな個体がゴーレムを殴り飛ばした。その余波で一番近くにいた里香が悲鳴をあげる。

 すかさず攻撃に入ったエンドロッカスだが、ゴーレムを殴り飛ばすほどの膂力とぶつかり合って勝ち目が無かった。柊菜のイメージか指示が悪かったのか、真正面に突撃したエンドロッカスは羽虫でも振り払うかのように弾き飛ばされる。

 

 近くにいる存在へ攻撃するようになっているのか、金切り声をあげた里香へ攻撃を行う化け物。俺はすぐさま右手をかかげた。

 

 ウィードは尻もちをついた方の化け物を相手にしている。シルクは俺とトラスを守っている。何より、シルクの唯一の攻撃手段であるマナボルトでは止められないだろう。今のタイミングではトラスの従魔を呼んでも間に合わない。リコールしていないまま森に放置しているからだ。今すぐ喚び戻しても、ここまでの距離を移動するのには流石に時間がかかる。

 

 諸刃の剣となるが、ノーソを喚ぶという手段もある。しかし、肉壁にはならないだろう。一度攻撃を受ければ即座にロストだ。身体能力も召喚直後のレベル一のままでは人間と大差ない。

 狙うのは呪縛。呪いを持つ従魔だからこそ持っている、ノーソの所有スキル。

 問題は確率による成功だというところだ。呪いに耐性を持っていないモンスターであろうと、体感四割程度でしか通らない。

 

 しかし、やらないよりかはマシだろう。最善を尽くさずに人命を失うよりはいいはずだ。その後どうなるのかに不安が残るが。

 

「うあああああっ!!!」

 

 大きな悲鳴にも近い気合いが飛び出した。声のした方を向くと、樹少年がまたもや里香へと向かい走っていた。既に攻撃を受けてボロボロの状態だが、ピクシーの回復を受けて動けるようになったのだろう。

 

「シーちゃん、風!」

「りょうかいっ! ウインド!」

「ヒィィッ! 『召喚』!」

 

 恐怖で顔を思いっきり引き攣らせ、目尻から透明な雫が溢れ出ている。竦む足に対し背中を押し飛ばす風に吹かれて、弾丸のように樹少年はまっすぐ化け物へと突っ込んでいった。

 その手には折れた剣の代わりに召喚石があり、光の奔流が樹少年の手から溢れる。

 次の瞬間、樹少年の手には片刃の曲刀が握りこまれていた。刀身には機械のカバーが複雑に貼り付けられているように線が入っている。刃の部分では、何かしら機械の力の影響を受けてか、緑色に輝いている。

 樹少年の動きが変わり、風に背中を押し飛ばされた不安定な格好から、上手く体勢を整えて化け物の首を切り裂いた。上手く化け物とすれ違い、反転。

 

 苦悶の声をあげる化け物にトドメの一撃を放った。

 

「うっ……おえぇぇぇぇ」

 

 残心も取らずに返り血を浴びた途端に地面へと膝をついてゲロを吐き出した。顔は真っ青なほどに血の気が引いており、手に持った剣を放り捨てたほどだ。

 

 …………なんというか、変な反応だ。まるで自分が殺人を行ったことを忌避しているような動きである。

 そもそも樹少年は既に一度人を殺している。俺も現場へと確認をしたので把握しているのだが、樹少年が誘拐された時に一人だけ、黒焦げになった死体があったのだ。

 そもそも樹少年は剣道をしていたと聞く。武道をある程度大きくなってから嗜むと分かるのだが、案外人間というのは理性を保ったまま人を殴ることに抵抗を抱くのだ。

 剣道部ということは、基本的にそういった感情を乗り越えた人間でもあるはずだ。暴力とは無縁の一般人よりも暴力への垣根が低い人。それが武道などを経験した人間だ。

 

 そもそも経験の有無はその行為へのハードルを著しく下げる効果がある。暴力以外でもそれはありえる話だ。一度人を殺した時点で、樹少年があんな反応をするのはおかしいと言えるはずなのだ。ピクシーを用いて人を殺した時に、そのような反応をするのだったら、まだ理解は出来るのだが。

 

 まるで、従魔のやったことは自分がやったこととは違うとでも言いそうな雰囲気だ。召喚士ギルドで社会見学していただろうに、いったい何を学んだのやら。

 まあ、そこら辺の心構えはゲームにはなかった要素だ。ぶっちゃけ俺個人で思っていることなので、それを樹少年に伝えるつもりはない。

 ただ、樹少年の今後に不安を抱いただけだ。あの調子では、いつか従魔に飲まれるか、自壊でもしてしまいそうだ。

 

 そんな樹少年を慰めるかのように、片刃の曲刀が樹少年へと近寄っていた。誰も手に持っていないのに、勝手に浮いて勝手に動いている。

 

 星四機種【遺跡兵器のリビングエッジ】だ。無課金プレイヤーの夢であったりする面白従魔である。

 武器の形をした従魔だが、別に他の従魔が装備できるという訳でもない。自立して動く自動機械である。

 低レア機種の数と種類を増やす為の量産型従魔である。似たような奴がいっぱいいる。

 

「グルルルル……ぺっ」

「お、よくやったな。動けば単騎でも勝てると思ってたよ」

 

 ウィードの方も何事もなく化け物を倒しており、食い千切ったのだろう肉片を吐き出しながら戻ってきた。口がドス黒く染まっている。

 ハンカチなどは持っていないので、直接手でウィードの口元を拭う。黙ってなすがままのウィードだが、ジト目をこちらに向けていた。

 

「どうしたよ」

「おまえはいつも私に戦わせようとしないな。龍らしく強い敵と戦いたいんだが」

「星十クラスが十分に戦えるレベルになると、今のレベルなら滅びの大地へ行く必要があるだろうね。まあ、ウィード単体だとあそこでの戦いになってくると動く前に積まれて死ぬだろうけど」

 

 龍種というのは最終兵器とかエースとかスロースターターなんだよ。運用方法が特殊だからぶっちゃけ現状作れるスタイルに合わないのだ。

 普通に使うのならば、もっと後々になり、従魔の数が増えまくってからの戦闘で時間を稼いで大暴れさせるのが一般的だ。

 ドラゴンを活躍させたいのならば、ヒーラーとデバフを用意してドラゴンが動き始めるまで、死なないように援護する必要がある。

 

 龍種というだけで戦法が限られてくるのだ。その分動き出せばめちゃくちゃ強くてどんな敵もステータスの暴力でなぎ払えるほどのポテンシャルがあるのが龍種というやつだ。

 その上でウィードは弱いと言える。星十クラスに見合ったステータスこそあれど、こいつのアビリティが龍種という存在にあまりにも合わないのである。

 ぶっちゃけ使いたくない。

 

 そもそも俺は龍種はあまり使わないタイプの戦闘スタイルだった。俺のエースは龍種ではなく天種だ。

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」

「う、うぃ……明日から一週間肉は食えねぇ」

「勇者だって言うのに、助けられちゃったね……」

 

 復帰した里香が樹少年の背中を摩った。樹少年も冗談を言える程度には元気が出たらしい。アヤナも二人の元へ行った。

 

「スリープさん。あの人間だという怪物について、何か知ってますか?」

「まあ、大体の検討というか予想は出来ていると思うよ。時期が違うというかゲーム時代の知識とはちょっと違うんだけどね」

 

 思案げな表情を浮かべて腕を組んだ柊菜が周囲を見渡しながらこっちに来た。君は俺に近付いて来なくていいよ。俺も疲れる。

 なんで柊菜は冷めているんだろうか。次々と先の事ばかり考えて情報を求める。

 ついでに俺を嫌っている様子ならばあまり関わらないで欲しい。柊菜の精神衛生上もそれがいいだろうに。

 

「……社会氏寝太郎という名前について知ってますか?」

「……………」

 

 唐突に話を変えた柊菜に対し思わず口を噤んだ。その名前をどこで知ったのだろうか。


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