イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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2020/11/21(土)一部誤字や表記ミスを修正


25話 黒歴史

 社会氏寝太郎。これは俺がイズムパラフィリアで使っていた最初のプレイヤーネームだ。

 名前を続けて読めば分かるだろうが、これは社会死ねに太郎を付けて文字を変えただけの名前だ。ゲームの主人公に付ける名前では無い。

 当時の俺は、まだ学生だったが非常にスレており、社会のなんたるかを知らないままに社会への反発を覚えて、こんなインターネット上でモラルの無い名前を使ったのだ。

 

 イズムパラフィリアの魅力に取り憑かれるうちに、この名前は不味いと気付いて変更したのだが、その時には既に俺の名前は社会氏寝太郎として浸透し切っていた状態だ。配信ですらそのアカウント名だったもので、プレイヤーネームをスリープに変えたところで今更といった状況だったのだ。

 

 それでもスリープとして活動していたのだから、イズムパラフィリアにおいてはスリープだと名乗っても、ほとんどのプレイヤーが俺に気付くと思っていたのだが。

 

「……なんか、知ってそうな反応ですね。特徴的にプレイヤーネームですか?」

 

 柊菜の発言によって、俺が勘違いしている事に気付いた。

 どうやら柊菜は元プレイヤーだった訳じゃないようだ。俺の存在に今になって気付いたのでは無い。

 恐らく、誰かから聞いたのだろう。その名前を。この世界にいるであろう、元プレイヤーから。

 

「…………俺の最初のプレイヤーネームだよ」

「あー……」

 

 納得したように頷きやがった。同情の視線を感じる。

 

「誰にでも黒歴史っていうのはありますよね。自分の名前を語呂合わせやらアナグラムにするのがスリープさんだっただけですよ」

「うっせ」

 

 どっちにせよ今はスリープを使ってるんだ。忘れたくとも忘れられない黒歴史なんぞ放っておいてくれ。

 

「で、それがどうかしたのさ」

「いえ……。私の記憶にある怪しい出来事とか不審者を思い出しただけですね。スリープさんの反応的にこれはハズレでしょうが」

「俺としてはめちゃくちゃ気になるけどね。誰だよそいつ」

「【ノーマネーボトムズ】という【レギオン】だと言ってました」

 

 柊菜の言葉を聞いて俺の中に該当しそうな奴が当てはまった。

 

「無課金兵団か。そういう名前のレギオンは確かに居たかもね」

「レギオンってなんですか?」

「ソシャゲで言うギルドとかのソーシャル要素だよ。他のプレイヤーとチーム組んでチーム同士で争ったりする為のシステム」

 

 実はソシャゲでいらない要素である。長続きするソシャゲを見ていれば、大体不必要になり、しかし外してしまえばソシャゲというジャンルに入らなくなる。五年以上続いているゲームがある、ソシャゲに分類されそうなゲームを見れば、ほとんどにギルド要素が無かったりする。せいぜいがレイドクエスト程度だ。

 ぶっちゃけ課金した奴の優越感をくすぐるだけの要素にも近いからな。より長時間張り付いて、より課金して、よりゲームに貢献した奴が、いずれ無くなるゲーム内アイテムとゲーム内での名誉を貰える。

 

 そりゃ廃れるわ。地球で最も価値を見出されやすい時間と金を使って手に入るのがそんなモンなのだから。

 金を回す分には電子情報というのはかなり役に立つだろう。複製して売れば幾らでも稼げるのだから。その売れるかどうかまで漕ぎ着けるのが大変なのだが。

 

 ちなみに俺はそんなギルド要素であるレギオンにて、金をジャブジャブ使い個人レギオンでありながらランキング一位を獲得する人間であった。

 好きな物で一位になれるのっていいわ。どこまでも本気になれない奴がこぞって悔しがり時間の無駄金の無駄って言い訳するの眺めるの超楽しい。

 

 閑話休題。とにかく、そんなギルド要素があったソシャゲなので、複数人で集まるプレイヤーはいた。

 

 

 

 手持ち星十一以上、五体以上所持。完凸レベルマ。ノルマあり。アットホームな雰囲気でまったりやってます! ヒーラー持ち歓迎! タンク持ち歓迎! 新規プレイヤー募集中!

 

 こんな感じの文章が紹介欄に書かれているレギオンばっかりだ。どいつもこいつも糞である。一度入ったらゲームをアンインストールするまでしゃぶりつくされるだろう。ちなみに新規プレイヤーは入れない。星十一以上は全部リミテッドキャラなので、課金していても既に文字通りの新規プレイヤーでは無くなっているからだ。少なくともメインストーリーは全部終わっている。

 

 そんな中でも無課金プレイヤー限定とかいうマゾ仕様のレギオンはある。課金プレイヤーに数の力で勝ちたいのだろう。後はどうしても個人でイベクエやレギオンクエを進むには無理があるからだろう。

 無課金プレイヤーは課金プレイヤーの為に使われる舞台装置だ。どうしても勝てない。課金プレイヤーに優越感を抱かせる為の当て馬だ。それでもレギオンを作り、どうにか課金プレイヤーと対抗しようとする存在もある。

 

 イズムパラフィリアは無課金プレイヤーに優しくない。コンテンツによって課金前提の難易度が組まれているし、課金に次ぐ課金で従魔を増やし続けないとあっという間に落ちぶれる。

 リミテッドキャラクターが入手出来るまでは、課金プレイヤーと無課金プレイヤーに戦力的な差はそこまで大きくない。運があれば課金プレイヤーを追い越すことも出来る。

 

 しかし、リミテッドキャラクターが出てくれば、課金プレイヤーが有利になっていく。無課金プレイヤーがクエストやイベントで稼いだ石をほぼ全てガチャに回し、多大な時間をかけて戦力を増やす。そうしてリミテッドキャラクター一体を解放する為の戦いに使う。そうして手に入る一体はガチャでしか仲間にならない。そして更なる戦力が無いと次のリミテッドキャラクターは手に入らない。

 

 ガチャに天井こそあれど、実質エンドコンテンツをクリアする必要があるので、星十一以上の従魔というのは一定ラインを超えた人間しか手に入ることは無い。それに見合っただけの強さを持っているが、そこに辿り着くまでにどれだけのプレイヤーがいることだろうか。

 

 ノーマネーボトムズとかいう奴は、戦力的に言えばほとんど脅威ではない。かつての俺ならば、という注釈を付ける必要はあるが、この世界を完全に破壊出来るようなヤバい力は持っていないはずである。

 そもそも石に余裕が無いだろう。ギルドマスターを倒すだけでも徐々に弱っていく程度には。

 …………つまりこの世界、ファーストスタートにおいて最強の存在というわけだ。要警戒リストに入れておこう。

 

「ところで、そいつ? そいつら? はなんで俺の名前を言ったわけ?」

「うーん……多分スリープさんを探しているんだと思います。というかこれ以上のことはわからないです。それに、今回の件には関係ないみたいですし」

 

 そう言って柊菜はこちらの質問を打ち切った。好感度が足りない。

 

「それで、この現象についての情報を教えてください」

「……この世界で一番強いのは召喚士だ。厳密に言うと、召喚士が喚ぶ従魔こそが最強だ」

 

 要は人間も強くなる為に従魔の力を欲しがった。というだけの話だ。

 それの完成品がこれ。化け物を作る薬だ。副産物にレフトオーバーという肉体強化の薬ができた。

 

 適応出来る人間は従魔になれる。エンドロッカスがそうだ。彼が唯一の適応者であり、この薬の開発者の魔王だ。

 

「従魔になれる薬って事ですか?」

「さあ……多分あっているとは思うけど」

 

 俺も原理は詳しく知らないし。適当にばらまいている辺りとゲームの時の情報から薬だとは思うが。

 逆に薬だけで従魔になれるのか? いや。なれるか。死ぬだけで従魔になる奴もいるのだ。薬で従魔モドキ位にはなれるだろう。

 

「なんのためにこんな事をしているか分かりますか?」

「そんなの……。いや、確かにそうだな」

 

 エンドロッカスがこの現象を起こした張本人だ。そいつは既に目的を完了させている。本人の従魔化に成功しているのだ。

 では、今起きている現象はなんだ? エンドロッカスは自分自身のみの力を求めていた。ならば彼がこんなことはしないだろう。

 無課金プレイヤーか? いや。目的こそ不明だが、わざわざ従魔を作る理由が見当たらない。勇者を鍛える為ならば、自分が動けばいい話だろう。

 

 そもそもレフトオーバーはサブクエストで出てきた従魔化薬が裏で出回る為の陽動であった。従魔化薬はその後に出てきた。それをばらまいていた人間は誰だった?

 あの時は商人だ。滅びの大地にて貴重なアイテムを集めて金持ちに売り付けるだけの骨董屋だったはずだ。これはサブクエストでもひとつの街で起きた事件程度の事だったはずだ。

 

 レフトオーバーを売っていたのは誰だった? 薬屋だ。誰に頼まれたかは不明だが、貴族の地位を約束されていたという。

 貴族のいる国はどこだ? 新緑の森から更に奥。東の果てにある滅びの大地だ。滅ぶ前が貴族制の王国なのだ。

 エンドロッカスもそこにいる人間だった。今現在召喚されているエンドロッカスはなんだ? 死種だ。死んだ存在だ。

 

 ……東の果てに行く必要があるな。この世界で何が起きているのか確認しなきゃいけない。

 

 

 

 

「かんぱーい!」

 

 里香の音頭の元、各々が杯を掲げる。カランと、氷とガラスがぶつかる音がした。

 従魔化事件の後、警察らしき人物が近寄ってくる気配を感じ取り、俺達はその場から逃げ出した。そして、そのまま街の酒場にてこうして仕事の完了を祝っての小さな宴会を開くことになったのだ。

 

 人を殺して宴会。なかなかにあの勇者達はこの世界に染まっているようだ。

 樹少年など暗い顔してジュースを飲んでいる。

 

「ほらほらもっと元気出しなさいよ! なにはともあれ、今日も一日生き延びる事が出来たんだから、まずはそのことに感謝しときなさい!」

「う、うっす! あざっす!」

 

 二人は体育会系なのだろうか。背中をバシバシ叩かれた樹少年がジュースを一気飲みし、笑顔を作った。

 樹少年は普段でも不安な時でも人前だとはしゃぐタイプだ。表に出さないのである。これはこの世界に来て早々に判明した事実である。

 

「しっかし、将来有望な召喚士ばっかりね! イツキは新しい従魔をさっき召喚してたし、ヒイナも既に二体目の従魔がいる。スリープも柊菜と同数の従魔とか、勇者の私よりも召喚士としての成長が早いんじゃない?」

「そうなんですか?」

「そうよ。私が最初にいた王国じゃあ召喚士が二体同時召喚出来るなんてかなり優秀な召喚士だって言われるんだから!」

「え? 枠の拡張はしないんですか?」

「枠? 枠ってなによ」

 

 小首を傾げた里香に柊菜が目を細めて顔を伏せた。

 

「ゲーム仕様の私達と違う……? なんで私達はゲームと同じ方法で強くなるの?」

「ヒイナ?」

「石を召喚と復活以外で五個くらい一気に消費したことってありますか?」

「ん? あるわよ」

「へ? あれ?」

「最初の頃だったかしらね。私の召喚士の師匠が石を五個使うと召喚士自体の強化が出来るって言ってたの。ヒイナはもう自力でこの情報を見つけたの? すごいじゃない!」

 

 ……もしかしたら、情報が意図的に隠されているのかもしれないな。早くトラスの石を集めて検証したくなってきた。

 樹少年が身を寄せて小声で話しかけてきた。

 

「スリープさん。スリープさん。コレって俺らはゲーム仕様で考えてたけど、リアルでも同じことすりゃプレイヤーと同じことが出来るってことなんじゃないっすかね」

「というかゲームの仕様を現実に当てはめた状態だと思ってたんだけど」

 

 ゲーム脳で行動すりゃあ、いつか絶対に痛い目を見る。そんなのはわかっている事だ。

 俺はこの世界が現実になったことで起きるゲームと現実の差異を探しているのだ。スキル屋、肉体、従魔。これらの多くは生きた存在となることで、ゲームのシステムによって動く薄っぺらい存在とは違うものになっていた。スキル屋など存在すらどこにあるのだろうか、全く不明である。

 そして、同時に主人公だけが使えるような特殊な能力というものは、直接描写されているもの以外では、他の召喚士も使えるものだと予想はしていた。召喚士の才能だけで召喚枠が決まるとは考えにくいのだ。後半のサブクエストに出てくる召喚士はほとんど三体以上の従魔を同時に使ってくるので。

 

 ミラージュとか六体の従魔を同時に繰り出してくるのだ。その全てが緑種だとしてもめちゃくちゃ強いのだ。

 だが、ミラージュは召喚士そのものの能力は低いと思われる。従魔の数こそあれど、レアリティは低いからな。

 星四一体、星三一体、星二四体の構成である。シルク四体、ピクシー一体、チェリーミート一体分の戦力と言えば、どれだけ奴のガチャ運の低さと手持ちの弱さが理解出来るだろうか。

 まあ、ウィード一体じゃあ多分勝てないのだが。星四との相性が悪すぎるので。ブリーズかアッシュなら単騎でも勝てただろう。

 

 閑話休題。そもそも俺達がゲームのプレイヤーと同じ主人公であるのかすら定かでは無い。時期は恐らくゲーム開始時と同じなので、暫定的に俺達がプレイヤーと同じ立場にいるのだと決めているだけだ。

 

 フレーバーテキストから推察するに、召喚士の才能は従魔がどれだけ召喚に応じるか。枠ではなく出てきてくれる数と、その偏りが現実のものとなっているのだろう。

 

「なんの話しをしているのかしら?」

「うおっ!? い、いえ! 俺異世界転移しちゃったからこの仕様とか俺だけの能力だったのかなーって思ってたんですわ……」

 

 一人でいたアヤナが俺達の方へ来る。樹少年が口を滑らせてゲーム世界だと言わなくて良かった。

 アヤナは確実にゲーム世界側の人間なのだから。

 

「特別かぁ……。私にとっては、里香こそが特別なんだと思うわ」

「えっとー、どうして?」

「あの子日本にいたって言うけれど、随分この世界に馴染むのが早かったのよね。召喚条件にこの世界に馴染めるっていうのがあるにしても、あまりにも早かったし」

 

 まあ、攻撃的な気質に合うのだろう。俺よりも生き生きとしていると思う。任侠物のドラマとか好きだったんじゃないかな。

 

「今日はありがとね。樹くんもスリープさんも。私達明日は招待されてて……。この街の町長さんのところへ行くから、その後、明後日辺りに召喚士ギルドに会いに行くわね。王国に行くかどうか、決めておいてね」

「えっ? それって……」

 

 樹少年がちらりと視線をよこす。

 この都市の町長が傀儡でミラージュが実権を握っている事を樹少年は知っている。柊菜も知っている。

 そんな町長のもとへ行く事が気になったのだろう。しかも招待されていると聞く。

 

「スリープさん。少し気になるんで潜入とかしてみませんか?」

 

 今の状況は、俺達だけなら見えない存在に敵対されていないとはいえ、勇者を狙って何かが起きているのは確かだろう。

 勇者の力は必要なので、俺も一連の出来事を調べるつもりだ。

 

「よっしゃあ! それじゃあこの子達の宿の特定から始めましょうね! 尾行作戦開始っす!」

 

 いや、町長の家に行ってみればいいだろ。

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