今回のイベントはクリアすることで星八機種【プログラム・イブ】がガチャで登場するようになります。
カーテンを閉めきった暗い部屋。無機質なフローリングの床とファンの回る音がする大きなパソコンの筐体。ガラス張りのテーブルの上には、ただ白い画面を写し続けるモニターディスプレイと少し型の古い黒のスマートフォン。そして、メタリックなフレームに分厚くスモークガラスのかかったゴーグルが置いてあった。
そして、それ以外はその部屋には何も無かった。クローゼットやベッド等も無く、ただパソコンを動かすための部屋として、存在していた。
生活感は一切無い。機能だけを残した部屋に、二つの息遣いがある。
「大地の化身たる私を呼ぶか……」
「おぉ……」
一つはこの現代日本に相応しい装いの男。もう一人の幼女を見つめて唖然としている。
「【地龍ウィード】大地の力、貴様如きに使いこなせると思うなよ……」
もう一人は幼くも浮世離れをした恐ろしいまでの美貌を持つ女の子。しかし、顔つきは人のものに近いが、その歯と目が人間のものではなかった。
首から下にいたっては人外そのもの。蜥蜴を思わせる白い腹部。緑色の鱗や甲殻が纏わり付き、隙間無く身体を覆っている。
人外コスプレかっこガチ。と言えば半分ほどの人間なら通じる姿の幼女へとフラフラと手を手を伸ばす男。その手はパシリと叩き落とされた。
幼女の腰から生える尻尾によって。
「グルル……気安く触るな」
「本物じゃん。キタコレ!」
不快そうに顔を顰めるウィード。興奮する男。
「俺、いつ……スリープってプレイヤーネームなんだよね! よろしく!」
この日、男の、スリープの元へかつて愛したゲームのキャラが現実にやってきた。
・・・・・
マンションの契約を切り、PCをタワーからノートに切り替え、ハードディスクの中身をクラウドに保存した上で叩き割って、スマホとカードと通帳だけで旅に出ることにした。
最初に購入したのはバイク。サイドカー付きのものを用意して、ウィードの目立つ格好をヘルメット等で誤魔化しながら、俺は世界を巡り石と従魔を集める方法を模索することにした。
元々会社等には入っていない。ブログと作った3Dモデルとプログラムだけで日々の生活をやっていたフリーランスだ。専門はAR。ソシャゲ時代に配布された従魔のデータをゴーグルに投影して惰性で毎日を生きていたが、ある日突然、PCからウィードがやってきた。
その日から俺の目標は全従魔をコンプリートすることになった。
最初は石の入手方法の確立だった。とりあえず現代でいうクエストにあたりそうな日雇いのバイトを幾つかこなし、石が手に入らなかったので打ち切る。
「なあウィード。お前どうやって日本に来たんだよ?」
「グルル……知らん。ただ、強く呼ばれた気がして、気付いたらここに来ていたんだ。ゲートを通った記憶もない」
「そっか。それじゃあ、今日もモーションデータ取らせてよね」
「グル……」
拡張現実に映る数々の従魔達。イズムパラフィリアが運営終了した時に、モーションデータや3Dデータこそ配布されたが、動かす為のプログラムや、素体構成上の干渉点など、色々問題はあった。それらを違和感を持たれず納得のいく程度に形を整え作り上げたのが今までの俺だった。そこまでしてでも、もう一度あの従魔達に会いたかった。
しかし、現在はウィードがいる。別に好きだった従魔でもないが、本物が確実に一体いるのだ。これから増える予定の従魔達を、情けで元プレイヤー達にデータだけでも渡そうと思い(商品の為の広告でもある)今はこうしてウィードから仕草のデータを一つ一つ取っているのだ。AIに関しては既に完成品が世界中に出回っているので、それを利用してウィードと同じAIの作成をしている。
お陰で、他の従魔達を拡張現実で動かすと、まあ偽物だな。としか思えない動きをするのに、ウィードだけはリアルと同じように動くようになってきている。
仕事が石の入手に関係ないと分かったら、次はウィードから石を入手する方法を模索することにした。好感度イベントは確実にイズムパラフィリアでもあったクエストだし、初回ならば石が貰えたはずなので。
ウィードを連れて世界中を巡った。今ではグローバル化も人間の管理形態も確実なものとなっており、国境を越える為にパスポートの入手など不必要になってきている。一応、それはまだ全世界で可能という訳ではないのだが、安全で平和な国の日本からの旅行なら、西洋やら欧米辺りなら問題なく渡航出来るのだ。
もちろん好感度稼ぎが主目的なので、思い付く限りの方法を確かめる。美食巡りやら、観光やら、現地で適当なパフォーマンスをしてみたり、色々やった。
ウィードも俺に慣れてきたのか、触れようとしても嫌がらなくなったし、好奇心が旺盛なのか、あちこちを見回しては袖を引っ張り興奮するなど、ウィードからの接触も増えてきた。とはいえ、従魔は従魔らしく、他の人間とはろくに会話も何もしないが。
「人間の建造物というのは凄いな。見映えばかりで実用性は大して無いものばかり残っている」
「権威とかそういうのの象徴だったり、歴史だからね」
「グルル……外敵がいないと不思議な発展をするんだな」
海外を回ってウィードとあれこれ会話しながら旅を楽しんだ後は、日本に戻ってきた。安心度的な意味合いで言えば確実に日本が一番だと言える。島国であり銃がなくても大丈夫な人間性が培われているからだろうか。
まあ、外れ者には多少排他的な島国根性もあるので、ウィードを連れて歩くなら、人のいない自然の中が多くなった。地龍というだけあって、俺でも歩きやすいように木々が避けてくれる様子を見た時は、ウィードが従魔でありこの世の存在とは違う部分を思い知ったものだ。
既に限界集落が進み廃村廃町となった地域に二人で彷徨き、川で水を掛け合ったり、焚き火で捕まえたヤマメやイワナを焼いて食べたり、澄んだ人工灯の無い中で二人空を見上げたり。ゲームの話をしたりした。
「ウィード」
「……なんだ?」
「帰りたい。って思ったことはない?」
「別に」
俺はウィードの召喚された目的であった龍の姿になることを達成させている。ゴロツキが現れたりはしないし、好感度イベントが進んだのに、石は手に入らなかった。
なんとなく、この時からはもう石の入手を諦めていた。ウィードも召喚したわけではなく、PCのディスプレイがぶっこわれるのと引き換えにやってきていたようなものだし、なんとなく、ウィードは俺の従魔でもなければ、俺が召喚士だという訳でもないのを、薄々感じていた。
だから、ウィードが帰りたいと思うのなら、そのまま帰って貰っても良かった。本音でいえば嫌だ。あまり使わなかった従魔であるが、彼女は俺が求めた従魔でもあるのだし、彼女がいるお陰で、俺は今この日本を生きているようなものなのだから。
今度こそ、従魔のいない世界に戻ってしまえば、俺は自殺をするだろう。
生きることに気力なんて元から無かった。俺の主義であり思想の根幹を成す力の、暴力への信仰は、今の世の中では誰でも訓練すれば使える平均的な外部暴力装置という武器が台頭し、一個人の出る幕などない。
スーパーマンなんてどこにもいないし、超能力者もいなければ、世界中を敵に回す悪もいやしない。
空虚でただダラダラと生きていただけだ。全ての人間、生命は人間の産み出した機械や科学の元に平等で無価値。社会に作られたルールの上で賢く運良く生きれる者だけが得をする世界。
嫌な宗教に囲まれて生きれる訳も無かった。ただ、誰もが信じているから価値があるという、他人に依存して生きる不気味な人間とどうしても合わなくて、引きこもりになり、暴力を求め焦がれ続けて、主義を通すのに暴力を使う
ゲームは好きだ。暴力的で、キャラクターに主張があって、思想があって、綺麗に見えるから。
だからこそ、本物を見つけてしまえば、きっと俺は元に戻ることが出来ないだろう。見えた光を追い求め、されど届かず、絶望の内に自死を選ぶだろう。
「私は元々落ちこぼれだった。龍になれず、成長を見捨てられた子供だ。ならば、こうして別の世界に行っていようが誰も気にしないだろう。私もまだ戻りたいとは思えないしな」
「そっか……」
「しょせん人間の一生を共に生きる程度だ。私達龍にとっては暇潰しにもならん」
「……産まれて五年もしないくせに」
俺の事が分かっていたのかもしれない。元々、俺達は似たような存在だった。龍として成長することが出来ず、親に見捨てられたウィードと、世界が歪に見えて仕方がない俺。互いに元の世界に居場所は無かった。
ただ、ウィードはその日から俺と同じ寝袋で眠るようになったし、俺も俺でウィードを半身のように思い始めていた。
それからは、従魔と共に生きる覚悟を持った。今までの俺は、従魔と一緒に生活こそしていたが、共に生きてはいなかった。レベルを一度も稼いだことは無かった。人や獣を殺せば稼げるだろうが、それをして、ウィードの正体が露見することを恐れていた。
だが、俺はそれでも覚悟を決めたのだ。目の敵にされないよう、犯罪者で凶悪な者だけを狙い撃ちにして狩り、人として社会に生きる事を放棄した。ウィードがいれば、一応水と食料に問題は無かったし、住居も、日本中を巡って見つけていた廃村にいくらでもあった。その多くは蛇が住み着いていたりするのだが。希に人間もいる。
俺はネット上に顔バレしているし、ウィードはゲームキャラであったので、わりと簡単に俺達の正体はバレた。それでも、警察こそ追いかけてくるが、自衛隊は出てこないし、逃げるのは容易だった。明らかに人外であり、既存生命体の範疇を越えたウィードが珍しいためか、殺しにまでは来なかったし、なんなら政府から命令があったのか、警察が交渉にまでやってきたことがある。
とはいえ、俺は既にウィードと好きに生きていく事を決めているので、今さら組織所属になることはなかった。
旅の途中で、元プレイヤーというハンチング帽の男達無課金プレイヤーと仲良くなったり、男子高校生達にネットに晒されたこともあった。最近の子供達はどうにもスれているようで、斜に構えてこっちを馬鹿にしてきた。泣きそうな憧れているような目をした金髪の少年が印象的だった。
ウィードを狙うどこぞの組織とやりあう事もあったし、異世界からの侵略者と蔑まれたこともある。所詮は他人の戯れ言だと無視して俺達は自分の思う通りにやった。社会を捨てた個人は、守る物が少なくていい。それだけ自由に動けて、強いのだから。
ウィードと社会を捨てて生きる道を選んだ後は、俺の思うような日々を送った。安全で管理された世界から逃れて、暴力だけが身を守る唯一の手段となった世界。サバイバル生活は決して楽とは言えなかったが、求めていた世界がそこにはあった。
なんのしがらみも無い生活は本当に楽しく、時間をあっという間に過ぎ去らせていった。
他の従魔は手に入らなかったけど、ゴーグルを掛ければ完成したウィードがそこにいる。それを外してもウィードは隣にいるわけだが。
いつしか、俺達を追い掛ける存在はいなくなっていた。世界規模で活躍する大企業がウィードを研究しようと、兵隊を差し向けてきて、それを排除した時辺りから、誰も干渉しなくなった。
ウィードもいつしか、限界突破をして、幼女の姿から、俺の胸程もある背丈の女性へと成長していた。
あれだけの人間や動物を倒して二回しか成長しなかったのか。とは思うが、こんなものだろう。
「ウィード」
「グルル……なんだ?」
「この世界は楽しいな」
「……今さら気付いたのか? だとしたら、私の相棒も目が節穴だったんだろう」
「そういうなよ。それに──楽しかったのは、お前と一緒にいたからだよ。きっと」
アスファルトの道を歩く。周囲に人気はない。それもそうだ。一人の技術者が、AIと手を組んで人間を皆VRの中に閉じ込めたというのだから。
白亜の塔を背後に立つ女性がいる。彼女が今回の事件の首謀者なのだろう。
「…………こんにちは。スリープさん」
「やあ、はじめまして。君が今回の首謀者でいいのかな?」
「はい。全ては私がやったことです。人類の永遠の存続と、不幸をこの世から無くすため。スリープさんとウィードさんも人間社会では生きられなかったでしょう? これからは皆平和に仲良く暮らせますよ」
女性が笑う。自分の行いに正しさを感じている人の笑みだ。
ウィードの肩を抱く。ウィードはウィードで俺の腰に尻尾を巻き付けてきた。
「悪いね。元々俺達は人間社会に馴染もうとしてないし、生きるつもりもないんだ」
「……そうですか。残念です。でも、私の計画は全員を同時にVRに入れる事なんです。時期のズレで不平等を発生させない為にも」
女性が手を上げると、白亜の塔から、空から、地面から、大量の機械が現れた。
「人類の更なる進化には、機械が必要なんです。疲弊した地球を元に戻して、再び人類の文明を再興させるには必要なことなんです」
「ふーん。それなら俺達個人レベルは放っておけばいいんじゃない?」
「信用できないので」
拒絶の笑みで言い切る女性。彼女は一人でここまでやってきたのだろう。人間味はそこに一切無かった。
「俺達は二人で生きたいんだよ。邪魔をするなら止めさせて貰うまでだ。最近は本当に邪魔ばっかりだったからね。機械を差し向けてきてさ。放っておいてくれればいいのに」
「あなた方の強さは把握してますから。計画の邪魔をされないように、それでいて目的を達成する為にも、こうするつもりだったんです」
一人の少女型の機械が女性に並ぶ。
女性は笑みを薄めて目を開いた。そこにあったのは、絶望と諦観に彩られた亡者の瞳だ。
「自己紹介が送れました。私は新田柊菜。この世界の平和と平等を願うただの技術者です」
ウィードの裏設定を話します。
ドラゴンは産まれてすぐに龍の姿になる練習をします。野生の草食動物が産まれてすぐに立ち上がるのと同じような感じです。しかし、龍の姿になれなかったウィードは、その時点で地龍の家族から見捨てられた存在になっています。
それでも血を啜り泥を食い何とか一年程度生き延びたウィードは、生きる力と家族に認めて貰う為に召喚士の手を借りてでも龍の姿になろうとします。
好感度イベントは、ウィードの抱える問題の解決(シェイプシフトによる龍化)その後彼女の足りないものを埋める作業(親の愛情を受けずに育った為に、赤ちゃんプレイをする)という感じに推移していきます。家族に混じりたいが故に彼女は特に野生の龍としての意識が高いです。
なお、ウィードには恋するドラゴンが無いため、赤ちゃんプレイ以外にいちゃラブみたいな展開はないです
ネタバレ注意
イズムパラフィリアでのラスボスはいつだって柊菜ちゃんです