イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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2023/7/15
ウィードのアビリティ【雑草魂】の効果が初期のものとは変わっていたために修正。


27話 ウィード

 地龍ウィードという従魔は、四つの元素を操る龍の内の一体である。風龍ブリーズ、火龍アッシュ、水龍プール、地龍ウィードの四体が世界における四つの元素を担う存在だとして扱われているのだ。

 初回召喚における最高レアリティである星十という、リミテッドキャラ以外では最高峰の実力者である。更には、デメリットこそあれどステータスが最強である龍種であり、リセマラ終了キャラとしても名高いのだ。

 トップクラスの高ステータスにタンクという役職の打たれ強さ。攻撃力も高く、物理においては非常に強力な従魔であると言える。

 ウィードの固有アビリティである【雑草魂】は、そんな打たれ強さを補強するアビリティだ。HPの減少量に対して物理防御力が跳ね上がる事で粘り強さを発揮する。物理防御限定だが、ウィードはこのアビリティもあり物理においてはトップクラスの硬さを持っている。

 

 だが、俺は、俺のような廃課金プレイヤークラスにおいては、ウィードは決して強いとは言えないのだ。アビリティが死んでいる。一定水準以上のプレイヤーになれば、ウィードは戦闘候補から外れるようになっていくのだ。

 

 そもそも、龍種の倒し方というのは、彼等が持つ種族アビリティである【龍種覚醒】という一定時間か最大体力の一割以上のダメージを受けなければ動かないアビリティが発動している間に、高火力キャラにバフを積み、龍種にはデバフを与えまくってワンパンで沈めるのが正規の攻略法なのだ。

 そんな中でタンクという攻撃の受け役ながら防御力が徐々に高まっていくタイプのウィードは弱い部類に入る。一撃で倒されたらアビリティも役に立たない。星十一以上という通常プレイでは入手できないキャラがいる領域において活躍出来る余地がないのである。多段ヒット系攻撃なら計算を狂わせる事ができるのだが、相手に依存しすぎている。

 

 だが、無課金プレイヤーや微課金プレイヤーにおいては、最強のステータスがある龍種かつ、彼等にとっての最高レアリティである星十の地龍ウィードとは、入手出来れば一生活躍出来るキャラクターでもあるのだ。リセマラでは誰もが星十を引くまでやり続けるだろう。

 

「……おい、お前は私だな!?」

「…………」

 

 幼女姿のウィードが吠える。女子高生くらいの少女ウィードは表情をピクリともさせず、更にはウィードを見てすらいないように思える。

 

「誰だ、誰だお前は! 私はお前のような存在を知らない! お前は私だけど私じゃない!」

 

 ウィードが混乱している。普通の従魔というのは、ゲートを通じてこの世界に降り立つ存在だ。必ずしもここにいる身体が本体だというわけじゃない。

 フルダイブVRをプレイしているようなものだ。意識やアバターはここにあり、感覚もある。同時に従魔はここにいるがこことは別の場所にいる。死ねばゲートを通って元の世界に戻される。だからこそ従魔は召喚士の命令を聞き、命をかけて戦闘をする。

 画面の向こうでゲームをしているようなものだろう。違うのは、画面の向こうには従魔の身体はないという所だが。感覚としてはそれであっているのだ。

 

 シルクがいい例である。シルクは食事が出来ず、元の世界にいてはあっという間に死に至るだろう。しかしゲートを通じてこの世界に来ている間は、ゲートの向こうにある身体が死を肩代わりし、ゲートの向こうで過ごした時間だけ長く生きられる。

 

 この時、従魔は分霊的な感じに複数の召喚士の召喚に応える場合がある。ウィードもまた、他の召喚士が持っている可能性もあるのだ。

 一番わかりやすいのは【共同幻想のアリス】という従魔だろう。あれはイベント入手のキャラクターであり、同一個体ながら複数体同時に存在し、それぞれに意思は無い。そんな複数存在するのが不思議ではない従魔である。

 とにかく、従魔は複数体召喚される事が可能であり、同時に自己がどこにいるのかといった情報をある程度うっすらと把握出来るらしいのだ。

 それが、今ウィードの目の前にいる地龍ウィードは知らないらしい。全く別の存在なのだとか。

 

 ちなみに、リミテッドキャラたるチェリーミートは一度誰かが召喚したらロストするまでは誰も召喚出来ないだろう。分霊認識機能は持っていなかった。

 

「フッフッフ……いやはや、かの龍種を召喚している人間がいるとは思いませんでしたが、こちらの召喚士よりは強くないようで。これなら私達の目的も無事遂行出来そうです」

 

 ローブの男が笑う。こいつの外見は見たことが無い。俺の情報には無い相手だ。

 余裕そうなローブの男に対し、ハンチング帽の男はこちらを全力で警戒していた。一挙一動を見逃さないと言わんばかりに凝視している。

 

「……いやぁ、まいった。まさか最初の街にいるとは思わなかった」

「どうしました? あの召喚士共くらいいつものように始末すればいいでしょう?」

「いーや。撤退だ。無理無理。アレは無理だ」

 

 気楽そうな表情からたらりと汗が流れている。ローブの男はそんな様子に気付いた。

 

「何者です? あなた程の人がそこまで言う人など我々は聞いたことがないです」

「使い捨ての精鋭だ。個人サイトでwiki以上の情報を掲載しているこの世界の最強だよ。言っただろ? 社会氏寝太郎って」

 

 こいつが柊菜の言っていた男か。俺と同じ元プレイヤー。しかも無課金だ。俺を使い捨ての精鋭だと呼ぶだけで警戒するのは無課金の証拠だ。

 

「……おい、スリープ! 奴らはなんだ」

「無課金兵団でしょ。ノーマネーボトムズなんて聞いたことないし。見た感じ彼等があんたの言ってた敵対勢力なんじゃないの?」

「うっわ。相変わらずの情報収集力。なあ、君。俺と手を結ばないかい?」

 

 ハンチング帽の男がヘラヘラと笑う。あっちも情報を欲しがっている様子だな。こっちとしては相手を引かせればそれでいいのだが。

 

「答えはいいえだね。俺は個人レギオンだよ」

「あ、やっぱり? んじゃあ見逃してくれないかなぁ」

「…………」

 

 そこで俺はウィードを一目見て笑った。

 

「二進化ウィード、スキル構成はチャージ、グランドメイル、激震……無課金プレイヤーだから、ウォールかな。後二つはなんだろうなぁ。まあ普通の構成だろうねぇ。君さ、無課金でしょ? 色々調べたいことあったんだよね」

「……『コール』! 引くよ。こりゃまずい。行け、ローコス」

 

 男が従魔を召喚する。出てきたのは両腕が翼になっているピンク色の半鳥半人。ハーピーだろう。一瞬すぎて分からなかった。

 

 ローコスと呼ばれたのはハーピーではなかった。ローブの男が連れていた十を超える化け物の方だった。ハンチング帽の男の声によって枷が無くなったようにこちらへ突っ込んで来た。

 

「ウィード! 動け『シェイプシフト』!」

「……っ! グルルルル……アアアアア!!」

 

 男を引かせる事には成功した。どうにも対戦経験がありそうな相手だ。どうせ俺の新メタ作ろうとしていた時の実験台にでもされたのだろう。必要以上に警戒してくれていて助かった。

 

 しかし、警戒され具合がやばい。化け物の物量で引き止めてくるのは俺の方が危機に陥る事になった。さっき召喚したハーピーも速度特化個体なのだろう。今頃全力で逃げているはずだ。

 龍の姿に戻ったウィードが俺に向かってくる化け物達を受け止め、殴り飛ばす。しかし、多勢に無勢だ。ウィード単騎だとこのままでは抜かれる。手数が足りない。ウィードのサイズが大きくなった分的も広がっているのだ。

 

「あー、くそ。こりゃ無理だ。手に負えないぞ」

「スリープさん、大丈夫っすか!」

「エー君行って! 『ダークネスブレード』」

 

 ナイスタイミングだ。開けた穴から樹少年と柊菜が降りてきた。増援としては心許ないが、それでも物量で押し潰される時間は引き伸ばされるだろう。

 数が多過ぎる。ウィードもステータスでこそ勝っているが、流石にこの数相手では倒しきるのは難しいだろう。

 俺達に化け物が向かってくるのを殴り飛ばして防ぐので精一杯だ。エンドロッカスも未凸のままじゃ補助にしかならない。

 前衛火力ばっかりの癖に本気で大したことないの辛い。ステータスでもウィードが一番強いし。範囲攻撃力が欲しい。

 

「これ戦況が辛くなる前に引くぞ! 柊菜、チェリーで徐々に下がっていけ!」

「でもっ! ここの人達はどうするんですか!」

「知らん! 殺せ! 助けられるとでも思ってんのか!」

 

 人命救助とか余裕がある奴だけがやるもんだよ。今足元で転がっている女とトラスくらいしかすぐに脱出出来るやつはいないんだ。

 勇者なら生き延びるだろう。ミラージュも問題ない。樹少年達が倒してきたゴロツキ達とパーティーの招待客はどうなるか分からないが。

 

「っこのクズ! 強い従魔を持っているんだからそれ相応の振る舞いくらいしたらどうなんですか!」

「自分第一に決まったんだろ!? 召喚士が死ねば従魔は使えなくなるんだよ! 君らの従魔に俺を守らせて無い分こっちにも自由な戦力なんてないんだよ!」

「けけけ、喧嘩してる場合じゃないっすよぉ!」

「ああもう、エー君数秒だけスリープさん守って!」

 

 エンドロッカスがウィードよりも一歩前に出た。瞬間に化け物達はエンドロッカスを狙って攻撃し始める。

 

「ウィード! 階段落とせ!」

「グルオオオ!」

 

 ウィードが数秒集中し、大地を操る事で階段を崩壊させた。こうすれば脳なしの化け物だから下手に存在を示さなければ二階へは行かないだろう。

 

 そして、その数秒でエンドロッカスが完全に下がった。ウィード単体で俺達を守り始める。先程の階段崩落と同時に背後を壁にして一方向だけの防御に集中できるようにしたようだ。逃げられなくもなったが。

 

「エー君『リコール』。樹君はウィードちゃんの回復に集中して!」

「なによ、なんの騒ぎよ! どうしてアンタ達がそこにいるのよ!」

「援護するわ!」

 

 音を聞いたのか、勇者まで入ってきた。里香のゴーレムは壁としても役に立つ。非常に助かる。

 

「アヤナ、そこの足でまといを二階に引き上げて」

「なっ!? 確かに私は何も出来てないが……」

「いるだけ邪魔だよ」

 

 悔しそうに俯いたまま、アヤナに抱えられて女が上へ登って行った。俺達も二階に逃げたい。

 

「とりあえず今日のパーティーは失敗ね。私達も目を付けられたと思うわ。これが終わったらアンタ達も一緒に王国まで来なさいよ。日本に帰りたいってんなら調べてあげるし」

「……そうですね。これが、どうにかなったらですけど。お願いします」

「えぇ……すっごいのんきっすね。俺ちょっと漏らしたんですけど」

 

 一旦硬直状態にまで持ち直したので、僅かながら一息つけそうだ。ウィードとゴーレムには悪いが、現状を打開するための作戦会議くらいさせてほしい。

 

「戻ったわ」

「アヤナ。これどうしよっか?」

「私達が手こずった相手がかなりの数いますよね。エー君は戦闘不能。チェリーは予備戦力。ゴーレムは回復出来ないからこのままじゃジリ貧になる……」

「お、俺も剣持ってるけどあの群れの中には飛び込みたくないっす」

 

 樹少年を生贄にするのは最終手段だろう。きっと。

 と、各々が適当な事を言っている状況の中、一際大きな衝撃と共に俺達の正面の壁が吹っ飛んだ。

 そこから覗くのは白亜の石像。随所に黄金を飾り付けたヒーロー。アラバスターゴールドだ。

 俺が抱き抱えていたトラスがどことなくドヤ顔風の無表情をしている。非常に誇らしそうだ。

 

「いいね。最高だ」

 

 頭を撫でる。少し強めに抱きしめた。将来有望な幼女は大好きだぜ。

 後はあそこまで一気に突破するだけだ。

 

「何をしているのかしラ?」

 

 声がした。見ると、二階ではなく一階からミラージュが現れた。

 

「階段を落として、こちらのアジトへ行けなくしたつもリ? 見た感じ、その化け物に考える脳なんてなさそうネ。仲間割れかしラ?」

「そういう場合じゃないって! た、助けて下さいよ!」

「まあ、そうネ。そこまで怪しい情報なんて入ってこなかったし、君達は関係ないわよネ。でもまあ、こっちも色々迷惑かけられているし、落とし前つけて欲しいのよネ」

 

 そこまで言うと、ミラージュは指を鳴らした。

 半透明の結晶が中央に組み込まれた関節の無い人型がいる。俺は即座に撤退を決断した。

 アレだ。アレこそがミラージュの切り札だ。ウィードでは敵わない強力な存在。

 従魔ではない。一応リミテッドキャラではあるが、ミラージュの従魔では無く、チェリーと同じこの世界で作られた存在である。

 

「ー・ ーーー・ー ー・ーー ・ー・ーー」

「行きなさい。セイントシステム」

「・ー ー・ー・・ ー・ ・・・ー ・ー・ ・ー」

 

 セイントシステムと呼ばれた人型が動き出す。光の杖を掲げ、無数の槍を生み出す。

 打ち出された槍に次々と貫かれる化け物達。僅かに薄くなった攻勢を見て、一気に駆け出た。

 

「スリープさん!? 何してるんすか!」

「ヴエルノーズから出ろ! 外で合流するぞ。新緑の森に行け! チェリー、受け取れ!」

 

 トラスを放り投げる。チェリーミートが受け止めるのを確認したのを見届けてセイントシステムへ殴り掛かる。

 

「ウィード!」

 

 姿勢をそのままに俺へ注意を向けたセイントシステムへウィードをぶつける。化け物共は知らん。勇者アヤナがいるなら問題ないだろう。

 

 ウィードの跳躍撃を喰らってもノックバックしないセイントシステムへ迫る。奴の戦闘能力は魔法特化なのを知っているのだ。まあ、人間にとっては脅威なのだが。

 

「ーー・ーー ーー・・ ・・ ・ー・ ・ー」

「お前はいつか俺が手に入れる。絶対だ」

 

 僅かに中央の結晶へ触れる。心を全力で閉ざす。思うのは強さ。自らの根源。確固たる暴力への信念。

 

 この結晶はかなり危険なものだ。どういう仕組みかは知らないが、とにかく危険である。

 

「抜けました! スリープさんも逃げてください!」

「ちょっと待って! スリープさん。その人倒さないで!」

 

 勇者アヤナが言ってきた。流石にゲームキャラはこいつの言葉も分かるらしい。

 

「モールス信号よ! 絶対に倒さないで!」

「倒さないよ。これは優秀なんだ。魔法に関してトップクラスの実力があるんだ」

 

 リミテッドキャラにして星七クラスである。特化した魔法能力に上位互換こそ数あれど、彼女の属性は貴重である。絶対欲しい。

 

「それじゃあ、逃げさせて貰うよ」

「逃げられると思ってるノ?」

 

 ミラージュの言葉に答えず、ウィードへスキルを命令する。

 

「跳躍撃」

 

 頭上へ飛び上がったウィードが地面を砕く。

 二階から一階へ落ちるのとは違う巨大な空洞。生身で落ちれば命は無いと思える地下空間。

 

 本日二度目の足元が崩れる感覚を味わいながら、暗く深い穴へと落ちていった。

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