イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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28話 合流

 落ちる、落ちる。飛び降り自殺は数十メートルを数秒で落ちるが、その間に後悔やら走馬灯でも見ると聞く。

 俺はどうやらそういったものを見ないらしい。それは自殺の為の落下ではないからか。それとも、そういった事が起きない性質なのか。

 

「お疲れ様、ウィード『リコール』……またすぐに呼ぶけどね」

「フン……気にせずに頼れ。そして私を偽物よりも強くしろ」

 

 戦闘が終わりシェイプシフトを解除したウィードが空気にとけて消える。下がどこまであるのか不明なのでさっさと次の従魔を召喚することにした。

 

「『コール』シルク。羽根を広げて」

 

 シルクを呼び出し全力で滑空させる。元々自重で飛べない虫だが、羽根はあるのだ。空気抵抗を生み出すことくらい出来るだろう。

 気持ち少しだけ速度の緩くなった落下で、下が明るい光を見せていた。電気の光であり、コンクリートにも似たような足場にが広がっている。

 

「シルク『シルバーウィンド』」

 

 シルクがレベルカンストした際に覚えた、虫が持つ風属性スキルを発動させる。鱗粉を纏い、光の反射以上にキラキラと輝くエフェクトを発生させながら、強烈な風が生まれる。地面にぶつかった風が俺らを押し上げるように一度ふわりと浮いて、無事着地に成功した。

 

 地下社会。ミラージュの本拠地である。ここには犯罪者と召喚士くらいしか居ない危険な場所だ。サブクエストで来るのだが、攻略するには星五の従魔が四から六体ほど必要になる。もちろん完凸レベルマだ。

 現在のウィードでは勝ち目が無いのでさっさと離れる事にする。それでも、いずれこの場所に戻ってくるであろう。俺は敗北を敗北のままで済ませるほど弱者でいるつもりは無いのだ。

 

「忘れないよ。俺が受けた屈辱は。この街の最高戦力をいただく事で返させてもらう」

 

 ウィードを呼び出す。幼女姿のまま、どこか疲れた様子のウィードにもう少し頑張ってもらう必要があるのだ。適当な壁にウィードが手を触れると、土が自然と蠢き穴を作り出した。

 これを登っていけば、いつかは地上へと出られるだろう。大地の化身たる龍種のウィードなら、魔法が得意でないと言ってもこれくらいの事は出来るのだ。

 育てばウィードじゃ使いにくいスキル【地殻変動】を覚えるくらいなのだから。

 

「というかですよ。シルクさんですら私よりも活躍しているのが気に入らないのです。私がいればあのような化け物の一人や二人呪い殺してさしあげましたもの」

「代わりに近くの人間も死ぬよねそれ」

「もう……あるじ様はいじわるです。早く人の居ない土地へ行きましょう?」

 

 ウィードを背負い後ろで組んだ腕を外すようにノーソが袖を引っ張る。くいくいといった引き方だが、かなり力が込められているらしく、油断したら腕が外れてウィードが落っこちそうだ。

 ちなみに現在ウィードを背負っているのは、歩きながら大地を動かすよりもじっと集中した方が疲れないからである。

 

「血を飲ませるような危なっかしいドラゴンよりも私の方が役に立てますよ? 殿方はおぼこが好きでしょう? 神だって好きなんですから。捧げられた身なれど、私の身体は綺麗なままです。どうせ粘膜から溶解液でも出そうだとか思ってたんですよ」

「急に卑屈になったね」

「性に興味深々だった子供の頃の婚約者が言ってたんです」

 

 面倒くさい女である。俺はため息をついた。

 こういう時でもないとノーソとは滅多に話すことも出すことも出来ないからと、コールしてみれば、延々と愚痴のような何かを聞かされている。とはいえここで喚び出したノーソへ文句は言わない。この調子だと陰湿に恨まれそうだから。

 

「私だって処女だ」

「野生においてそれは魅力的ではない事の証明ではなくて?」

「……そもそも龍は滅多に番など作らないし、私は大人じゃなかったし」

「子供は寝てなさいな。私は大人の話をしているのです」

 

 イズムパラフィリアに出てくる従魔となった元人間の女は割と似たりよったりなので、これにもさっさと慣れるべきなのだろう。二人にして姦しい騒ぎを無視してウィードを背負い直す。

 俺が女だったらここにガッツリ混ざってやろう。性転換出来る従魔を引くまで二人で騒いでいやがれ。俺はギャルとメンヘラが出来る男だ。

 

「……そろそろ外に出るぞ」

「おう。ありがとねウィード」

「ぐるる……」

「……」

「話し相手になってくれてありがとなノーソ」

 

 ウィードの喉を撫でると、若干嬉しそうに鳴いてくれた。好感度の高まりを感じる。

 じっとこちらを見つめていたノーソにも手を伸ばして頭を撫でる。カサカサだぜ。

 

「次は戦いに出してくださいよ」

「うーん……次はもしかしたら出れるかもだけど、どうだろう」

 

 東へ行くのなら多分魔道学院編が始まるだろう。ダンジョンコンテンツがあるので、もしかしたらそこでノーソを使うかもしれない。

 頭に乗せた手を取り固くひび割れた頬へそっと当ててきた。頬擦りすると引っかかるのを知っているのだろう。少しだけ悲しそうな顔をしながら、微かに微笑んでいるノーソと視線が合う。

 

「じゃ、お疲れ様でした。『リコール』」

「今ひろいんむーぶしてたじゃないですかぁぁ……」

 

 怪しいと思ったんだよ! 俺は好感度が足りてなさそうな従魔がどのようなものなのかよーく知っている。

 逆に高過ぎるとヤバそうなのもいるが、好感度が足りないとこっちを籠絡して上手い具合に操ろうとしてくる従魔もいる。魔女とかはその傾向が強い。

 姫キャラ召喚して貢がされる訳にはいかないのだ。

 多分どのように接すればいいのかわからずに戸惑っているのであろうノーソには、軽く扱って気安く接するのが良いだろう。

 

「お、光が見えてきた」

 

 薄くなった地面が光を透かす。ウィードが最後に手を一振りした事で、完全に穴が貫通した。

 

「うおおお!? 穴が開いた!」

「えぇ!? ここそんな従魔いたかしら?」

「地面からの襲撃なんてゴルの召喚でぺちゃんこにしてやるわ!」

「……みんな待って! 人だよ!」

 

 ひょこりと顔を出すと、ビビり散らしている樹少年がやや遠くに、そしてスカート女子高生達が近くにいた。

 眼福だぜ。

 

「す、スリープさん! 生きてたんすか!」

「勝手に殺さないでよ。トラス、引っ張るのはいいけど俺の耳掴むだけじゃあ千切れると思わんかね?」

 

 駆け寄ってきたトラスが俺の身体を引っこ抜こうと耳を掴み持ち上げた。必死に引っ張っているが、痛いだけである。というか邪魔だ。お前で全部見えなくなったわ。

 

「ウィード」

 

 背負ったウィードへ声をかけると、足場の地面が持ち上がり、ズモモモと音を立てて俺が湧き上がった。

 遠い目をして柊菜が呟いた。

 

「泉に斧落とした女神の登場みたいな感じ……」

「思ったよりも綺麗ね。穴掘るにしても結構早いし」

 

 勇者アヤナが俺の格好を見て首を傾げた。背負ったウィードをぽんと叩いて見せた。

 

「これ大地の権能たるドラゴン」

「……もぐら?」

「なっ!? 貴様、勇者だかなんだか知らないが不敬だぞ! 大地の化身を土竜扱いだと!?」

 

 疲れきったウィードでも流石に土竜呼ばわりは許せなかったらしい。俺の背から降りてアヤナに掴みかかった。

 

「なんにせよ無事で良かったっす。俺らもあの後すぐに街を出ました。新緑の森に着いたらこんな荒地見つけたんですけど、トラスちゃんがずっとここに居たがってたんです」

「そりゃあここがトラスの召喚した場所だからね」

「あのでっかい石像っすね。マジでかっけえわ」

 

 物言わず佇むアラバスターゴールドを樹少年が見上げる。少し見つめていると、ニッと笑ったアラバスターゴールドがサムズアップした。

 

「なんかアメリカン風……」

「そうか。樹少年も善人だからな。相性いいのか」

 

 意外な好感度の高さを見せつけられた。俺アイツと初対面で殴りかかられたんだけど。

 

「あっ! どうせアンタ達もう街に戻れないでしょ? 私達のところに来なさいよ!」

「あ、王都の話……でしたっけ」

「そうそう。どうせ明日っていうか、もう今日にでも出るつもりだったし、ちょうどいいでしょ?」

「えっと……私は大丈夫です。二人はどう?」

「俺もバッチリ! もちろんスリープさんも来ますよね!」

 

 何故か俺にはグイグイ来る樹少年だ。もちろんついて行くが。

 頷くと、里香は、すっかり日の登った空を見上げて目を痛そうに閉じた。

 

「もうこんな時間ね。だけど野宿なんてしたくない! さっさと次の中継地点まで行くわよ! 着いてきなさい!」

「ちょっと里香! 走らないの!」

「うひぃ……二人とも元気過ぎぃ! 俺もう寝たいんですけどー!」

「ふふっ……。ほら、樹君。がんばろ?」

 

 若者たちがどんどん先へ進んで行く。

 アヤナへ襲いかかったウィードがヘロヘロになって俺の元まで来た。その手をトラスが握る。

 

「グル? おい、引っ張るな! 私は寝るんだよ!」

「……! ……!」

「トラスの足じゃ間に合わないでしょ。ほら、ウィードも乗りなよ」

 

 トラスを抱き上げ、ウィードを肩車する。アラバスターゴールドは多分置いていくのだろう。どうせ呼べばすぐに来るだろうし。

 

「『コール』シルク。トラスの遊び相手でもしときなよ」

 

 シルクを喚び出し、トラスへ押し付ける。そうして、俺は皆の後を追いかけて歩き出した。

 

 いつかヴエルノーズには戻ってくるだろう。ようやくゲームでの一章も完全に終わり、次の場所へ行ける。

 

「次かぁ……。魔法使いだよなぁ」

 

 最寄りの街ならば魔導都市だろう。サスペンスと夜の街。ダンジョンとダークファンタジー。ここよりも犯罪っぽさは無いが、この世界に生きる人間の仕組みや役割を知るだろう。

 

 魔法使い。人間で最も従魔に近い力を持ち、操る存在。魔女の系譜の近縁種。

 俺達に足りていない遠距離火力を入手出来る場所である。新たな従魔と石を目指して、俺は足を急がせた。

 

 

・・・・・

 

 最初の記憶は、一組の動物だった。

 絡み合う肉。水の音が混ざり、柔らかいぶつかる音と混ざって聞こえる甘えるような媚びた声。

 それがなんなのかは分からなかったが、とにかく嫌なものだと思った。

 少女のオヤというご飯を与えてくれる大人は、一日に僅かな水やパン切れを与えてきた。彼女は最初から乳を吸ったことなどなく、ただ生き延びる為に生まれたての弱い身体が全力で適応をしていった。

 嫌な記憶以外の事はなんでもやった。盗み、詐欺、ゴミ漁り、死体から剥ぎ取り売りに出した。自分よりも弱い奴がいても、なんでか暴力だけは振るわなかった。あの肉のぶつかる音と感触、流れた血の水が嫌いだった。

 ある時から、少女のオヤは少女に見向きもしなくなった。少しばかりくれたご飯もまた無くなった。

 何かの粒だけを食べるようになった。アレを食べると、オヤの声が一段階高く大きくなり、ボロボロで細い身体でもまるで健康な人のように跳ね回っていた。

 

 そんなある時、オヤに連れられて、少女は小さな小屋に入った。

 何となく、最初に見た記憶にも似た場所だと思った。同時に、自分は恐らくここでオヤと同じ事でもすることになるだろうと悟っていた。

 しかし、そんなことはなく、激昂した男が女を殴り殺していた。その瞳には、少女のオヤと同じ粒を食べる人間と同じ色をしていた。

 少女は怯えた。いつか見た最初の記憶とは別の現象だった。だが、似たような光景が広がっていた。

 違いがあるとすれば、女の周囲にある水の色が、白ではなく赤であることくらいだろうか。

 

 少女は赤が嫌いだった。白も嫌いだが、赤はより苦しそうな声がするし、痛いのだ。

 自分も今からあんな目に会うのだろうか。そう思っていた時に、少女のいた小屋の扉が開いた。

 

 そこに居たのは、ヒーローだった。強くて格好よくて、圧倒的な暴力。自分の思い通りにできる力。

 それからは、少女はそのヒーローについて行った。彼は意地悪だけど、少女になるべく優しくしてくれたし、オヤと同じ、それ以上の事をしてくれる。

 

 ある日、ヒーローは少女のオヤを土に埋めた。彼女が拾われ、捨てられたくないが為に召喚した日の事だった。

 

「あんたの娘は貰うよ。名前はトラスって決めたんだ」

 

 オヤを埋めた地面に手を合わせて、ヒーローは目を瞑っていた。何故だか、少女はその姿に強烈な感情を抱いた。

 この人になら、白くされてもいいだろう。

 

 それからは、毎日が刺激的で楽しかった。偶に出会うオヤ以上に汚い女性が虐めてくるが、それもまた楽しいものだと感じた。

 

「ううっ……光が眩しい」

「ガキ相手に本気出すなよ……。ほら、戻れ『リコール』」

 

 ヒーローは少女を抱き上げて首を傾げた。

 

「しっかし、現地の人間は凄いな。僅かでも病気に耐性を持つくらいに身体が丈夫だとは……」

 

 最近ふっくらとしてきた頬をヒーローがつつく。くすぐったくて少女は身を捩った。

 

 今は言葉も覚えて、少女は世界を知った。彼女には夢がある。目の前にいる自分を助けてくれたヒーローへ伝えたい言葉があるのだ。

 

「お父さん」と。




 これにて二章は終了です。次回更新はまたストックを貯めないといけないので、一週間後になります。例によって本編とは関係ない閑話が入ります。
 なお、一週間で十分な書き溜めが出来るとは思っていないので、二回くらい閑話更新すると思います。
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