イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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30話 勇者アヤナ

 一眠りしているところに、見知らぬローブの人に扉を叩かれて起こされた。どうやら晩餐会の準備ができたらしい。

 最初に紹介された開けた場所ではなく、ガイストの所有する研究室で行われるそうだ。

 

「トラス……起きてたんなら上に乗るな」

「……」

 

 先に寝ていたトラスは、子供なだけあって体力の回復も早いらしい。俺が起きた時には既に目覚めていて、じっと俺の上に乗り顔を覗き込んでいた。

 もう少しだけ寝たい。感覚的にもウィードが不調気味なので動きたくはないのだが。

 かと言って皆を待たせるのも悪いので、ローブの男に渋々着いていくのだった。

 

「おはよう。もう夜だけど」

「おはよーさん」

 

 俺が来た時に待って居たのは、勇者アヤナ一人であった。

 

「そういえば、貴方は大人なのね」

「どういうことだよ」

「私達って高校生だから、そういう年齢の子がこっちの世界に来ているんじゃないかなって考えてたの」

 

 そう言うと、アヤナは指を鳴らしてノートを一冊虚空から取り出した。

 

「魔法か」

「ええ。私は貴方達と違って、自力で戦う必要があるの。だから使えるものならなんでも使うつもりよ。王国ではそういう教育も受けていたし」

「ふーん……。それにしては本気で戦っている訳じゃないようだけど?」

 

 アヤナは勇者である。先程の言葉の通り、使える物を使って戦う勇者だ。別にショートソード一本で戦う訳じゃない。

 むしろ魔法を使って自分が持ってきた筆記用具などを巨大化して戦う学生魔法戦士と言えそうな戦闘スタイルが本来の彼女だ。

 

「……やっぱり、貴方は私を知ってるのね?」

「それなりには」

「おかしいと思ったのよ。リカは私の名前を聞いても知らないみたいだし、なんなら高校の名前も知らなかった。住所的にはあまり近くないけれど、それでも首都一大きな高校の名前を知らないなんてことないはずよね……」

 

 アヤナが手に取ったノートは、表紙に『考察ノート』と書かれていた。それを広げると、胸ポケットからシャーペンを取り出して机に向かった。

 

「北条院グループは?」

「知ってるけど知らない」

「つまり?」

「俺の世界には無かった」

「あー……凄い察し良いわね……。そうよ。私も一つ仮説を作ってたのよ」

 

 そう言うと、ノートの見開きを俺に見せてきた。

 書かれている内容は、この世界と地球の事、里香とアヤナの認識の食い違いから地球に平行世界があるという仮説が書かれていた。

 

 まあ、間違ってないんじゃないかな。勇者アヤナはゲームでの登場人物だ。ついでに言うと、ゲームの主人公が行くことになるのもゲームの地球である。

 ならば、俺達は別の地球から来た平行世界の住人となるのだろう。ちなみに、勇者アヤナの地球にはイズムパラフィリアというゲームは無い。

 第二部、いわゆる地球編にあたる物語だが、そこでは勇者アヤナは一切影も形も見えないのだが、彼女が地球上に存在した人間だと表すものはいくつもあった。

 北条院グループというアヤナの家が一族経営している財閥、アヤナが通っていた東京都にある巨大な学園。それらは第二部での舞台にもなる。世界的にも有名だという設定もある。

 知らない方がおかしいというレベルなのだ。耳にしたことはあるくらいに知名度があるのが北条院グループである。

 

「ただ、イツキやヒイナが言っていた所から考えると、おかしいのは私の方なのよね。ゲームだ。ゲームの世界だって、たまーに言っていたから」

 

 アヤナは平行世界の所に横線を引くと、新しく言葉を書き込んだ。

 

『ゲームの世界、北条院アヤナはそのゲームの登場人物』

 

「…………そういうことでしょ?」

「いい思考力だ」

「まあ、決め手は貴方だけど。別世界の地球に関する知識が無いのに、知っているっていうのなら、それを観測する手段があったって事になるじゃない。日本じゃあまり信用ならないけど、里香の教育水準は私と比べて高くなかったし、平行世界を観測出来る文明レベルでもなかったでしょうね。それにしてもフルダイブVRとかいう電子世界へのダイブ機能については驚かされたけどね。つまりは、私は何かの創作物の登場人物だった。後はキャラ背景の知られ具合と皆の発言を見てみればわかるものね」

 

 そこまで言うと、アヤナは一息つき、俺にビシッと指をさした。

 

「つまり私はフルダイブVRゲームでのヒロインキャラ! 異世界ファンタジーから見て、地球ヒロインね!」

 

 ババーンと効果音の鳴りそうなキメ顔で言い切った。その精神力は認めよう。

 

 少ない情報を繋ぎ合わせて予測する能力は良い。だが、それで完全正解とはならないようだ。

 

「ふっ……ふふっ……こういうの一回やってみたかったのよね。最高だわ……今人生で一番輝いてる……。ミステリー小説読んできた私に隙はないのよ……」

 

 頬を緩ませ、紅潮させ、小さく何事か呟いていた。ネタばらしするのも悪いから、黙っておこうと思う。

 残念ながら、君は弱小ソシャゲの第一部にのみ登場したご都合キャラだよ。魔王討伐後には消息不明になる。

 

 召喚出来なかったし、とあるイベントにも登場しなかったので、死亡説はないと思うが。まあ、それでもそれ以降の彼女を探すのも俺の目的である。

 

「さて、謎解きも終わったし、次に行きましょうか」

「そうだね」

 

 少しして、アヤナが落ち着いたと同時に腰のショートソードを抜いた。それに合わせて俺も立ち上がった。

 トラスもやる気満々のようで、俺の肩に乗り拳を作り虚空に向かって振っている。

 

「いくら何でも、遅いわよね。思い付くとしたら、罠かなにか。私は勇者だし、貴方は龍の召喚士」

「ま、貴重な研究材料だよねぇ」

 

 ウィードは召喚しない。ここは星二従魔たる迷いの森のシルクに任せようじゃないか。

 従魔の魔法使いに人間がどれだけ足掻けるものか。確認といこう。

 

「ふふん。やっぱりゲームってのは舐めプが一番楽しいわ。真剣にやるのも疲れるし、やっぱり気楽に勝利が快感なのよね」

「まあ、ダメージ計算とかまですると疲れるけど、俺は真剣勝負大好きだぜ。本気の相手に勝って煽り倒すのが最高に気持ちいいんだ」

 

 俺達が異常に気付いた事で、相手も動き出したようで、周囲の風景が歪み、空間がどこまでも広がっていく。

 食器やテーブルが形を変えてガーゴイルとなって襲いかかる。

 

「今更こんな敵怖くもないわ!」

「さて、仕上がりの確認といこうか。トラスは大人しくしてなよ。シルク、やれ」

 

 前衛はアヤナ。後衛は俺。数度の戦闘で理解した互いの戦闘スタイル。相談も意思疎通も無しに俺達は敵を迎え撃つ。

 

 さて、イズムパラフィリアは新しいゲームだったということもあり、全てオートで戦闘出来る。しかし、それではポチポチゲーと変わらないので、RPGらしく、設定で細かく手動にする部分とオートで操作する部分を選べていた。

 完全手動にすると、プレイするのにPCが必要になったりするくらいには操作性があるゲームだ。リープやブリンク系スキルがあるように、3Dの三人称視点での戦闘ゲームであったりする。

 

 要は、MMOとかMOBA系ゲームみたいなジャンルの要素があるということだ。

 そういうゲームでは、常に問われるものがある。ターン制バトルゲームではあまり聞くことの無い言葉だ。

 

 DPSである。秒間に出したダメージ数のことであり、これが高ければ高いほど、無駄な行動が少ないということになる。

 PCゲーム時代は、スキル回しやら立ち回りやらターゲティングやらで手間取ることも多かったが、フルダイブVRゲームになってからは、アクションゲームっぽくなったので、そこまで使われる事も無くなった古いネット用語だ。

 これは、スマホソシャゲであったイズムパラフィリアでも使われた。他プレイヤーと行うダンジョンやらレイドバトルでは、従魔の使用制限数があるから、必然的に手動操作の方が効率が良くなるからだ。

 

 かく言う俺も、DPSは気にしていた。今でも従魔の使い方を学んでいる身として、常に研鑽を積んでいる。召喚士のようなキャラは、基本的に召喚獣へ命令する手間が入るので、DPSが落ちやすいのである。

 そこで考えるのが、指示の簡略化だ。わざわざ柊菜のように指示を出さずに、出来れば名前を呼ばずとも全員が思い通りに動くのが理想である。

 

 今回は、その従魔との意志の伝達を極力減らした戦い方をしてみるということだ。

 

 最初の掛け声で、シルクはいつも初手で使うマナボルトを発射する。複数打ち出された魔力の矢は飛んできたガーゴイルを数匹撃ち落とす。

 数の減ったガーゴイルはアヤナが一閃を放ち全て両断する。

 

 続けて空間の歪みから滲み出るように不定形のモンスターが出てきた。スライムみたいなモンスターだ。

 

「ふーん……下がるわ。物理攻撃効かなさそうだし」

 

 攻撃を入れることも無くアヤナが下がってきた。まあ、俺とアヤナを見てどっちが脅威かは歴然だろう。

 次のシルクの行動は、シルバーウィンドだった。

 銀色に輝く風がスライム達を襲う。幾本かの裂傷が発生したものの、すぐに覆われた。

 

「やっぱこっちの想像とは別の行動するなぁ」

 

 ウィードは俺の望んだ事を名前を呼ぶだけで察する。対してシルクは普段の行動パターンかなにかでも参考にして動いているのだろう。

 ガーゴイル相手にシルバーウィンドを使うべきだし、動きがそこまで早くないスライム相手にこそマナボルトを撃つべきだろうに。

 好感度の違いか、コミュニケーションの少なさか、はたまた知性か。何が関係しているのかはまだ不明だが、これではオートバトル並に酷い動きをし続けるだろう。

 ぶっちゃけ従魔任せに動かすのはオートバトルと同じってことなのかもしれない。

 

「これ以上は意味無いかな。二手続けて失敗だ。シルク『マナボルト』でいい」

 

 改めて口頭で指示を送る。それに反応して、シルクは魔力の矢をスライムに撃った。

 今度こそ魔力の矢は全てスライムに突き刺さり、それ以上の回復を許さなかった。刺さった矢によってHPを全損したスライムは、魔力による死亡で弾け飛んだのだった。

 

「…………さて、次はまだ来ないようだし、何をしましょうか?」

「ここを出るにしても、部屋そのものが変えられているからねぇ」

 

 歪んだ空間は既に戻っているが、先程までいた木をくり抜いた空間ではなく、鋼鉄の壁と床で密閉された空間へと変貌していた。

 これが魔術師の面倒くさいところだ。基本的に魔術師は皆建築魔法を使えるので、一瞬で戦闘フィールドを塗り替えてくる。あくまでも建築魔法なので、雨を降らしたりは出来ず、せいぜいが、床を鉄や木製、荒地に階段、浅瀬にしてきたり、壁を作ったり消したりしてくるだけだが。

 

 ちなみに、建築魔法は人や物、生物相手には使えない。よって、死体をコンクリートの壁に埋め込んだり、壁の中にいる状態には出来ないのだ。

 このように周囲を鉄の壁で囲ってしまえば、動けるが出られない状況にすることくらいは可能だが。

 

「互いの最大火力をぶつけるってのはどう?」

「場所までは変わってないだろうから、それをすると他の場所にも影響があると思うよ」

 

 まあ、初手で選ぶのは遠慮するが、最終手段というほどでもない。先に手を出したのはあっちなんだから、どう動こうがいいとは思う。それをした時点でここから追い出されるとは思うが。

 

「外からの救助を待った方がいいってことかしら」

「とりあえず十分くらい待ってみようか」

 

 ここはウィードを使いたくないし、しばらく休んでいるのもいいだろう。

 肩に乗せたトラスを下ろし、ポケットに入れていた液体を与える。

 

「それなに?」

「うーん……抗体薬?」

 

 具体的にはウィードの血とノーソの病魔が入っている。今後生活するにはノーソの体に感染しないようにならないといけないので、トラスの体に抗体を自力で作ってもらっている最中なのだ。

 味は甘くしているので、トラスは小瓶に入った液体を喜んでいそうな無表情で開けて飲んだ。

 

 インフルエンザの予防接種みたいなものである。ちなみに俺もやってみたが効果は無かった。しかし、トラスには効果があるのだ。

 まあ、単純に生活水準が上がり健康体になっているだけかもしれないが。俺は現地人の肉体の強さだと思っている。

 

 こいつら最終的に星五従魔の攻撃にも数発耐えてくるからな。しかもゴロツキがである。

 

「さーてと、アヤナも座りなよ。どうせだから気になる事を質問したかったんだ」

「あら奇遇ね。私もゲーム世界のことを知っている貴方に聞きたいことがあるの。あ、セクハラはダメよ?」

 

 とりあえず時間を潰すために、床へ腰を下ろしてトラスを抱える。

 樹少年と柊菜が気付くのか、里香が気付くのかは知らないが、探してくれるとありがたいのだが。

 とりあえず、夜明けになる前にはここから出たいなぁ。

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