イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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こんにちは! イズムパラフィリア運営です!
今回のアップデート内容をお伝えします。

12/7(月)指摘をいただいた箇所の文字に読み仮名をふる。

今回のお知らせによる召喚石の補填はありません。


32話 見習い魔術師ミルミル

「ういーっす。おはようございます」

 

 欠伸をして、まだ眠そうな様子の樹少年が顔を出した。

 

「ありゃ、三番目? てっきり一番か二番目だと思ったわ」

「残念だったね。俺たちは探索してたんだよ」

「うっそ。俺寝てたのにスリープさんそんなTRPGみたいなことしてたんすか。神話生物いました?」

「スライムとガーゴイルがいたよ」

 

 言外に戦闘があった事を伝えると、樹少年は顔を顰めた。

 

「ここ、大丈夫なんですか?」

「一人行動はやめておくといいよ」

「そうします……」

 

 特に現状一番弱いのが樹少年なのだ。次に弱いトラスは基本俺と一緒に行動しているので、心配は無いが、ここで樹少年も誘拐されたら探すのが面倒な事になる。

 

「そうだ。これをあげよう」

「ん? あざす。なんですかこれ?」

「回復アイテム」

 

 ドラゴンブラッドである。これで在庫は無くなった。トラスのお薬だけである。

 

「一応樹少年にも効くとは思うけど、従魔に使うのが前提だからね。そして、即効薬じゃないから」

「ネトゲタイプのポーションっすね。回復量は?」

「多分実数値で七百じゃないかなぁ。端数まではわからん」

 

 初期ポーションが百五十なのを考えると、結構いい薬だが、そもそもアイテムは使う意味が無い。数値インフレがあっという間だからな。

 実験はノーソに感染させたシルクで行った。これがHP自動回復量の増加アイテムだったら計測し直しである。

 

「……おはよう、ございます」

「お、新田さんおはよー!」

 

 次に来たのは柊菜だった。背後にエンドロッカスだけが佇んでおり、チェリーは寝ているのかリコールしているのか姿が見えない。

 柊菜が何故かこちらを見ている。

 

「なにかな?」

「いえ……」

 

 歯切れが悪い。こりゃガイストに接触したのは柊菜で良さそうだ。彼女は情報収集に力を入れていたから、何かを知ったのだろう。この世界から地球へ戻る方法か、何かか。

 取引は問題無さそうだな。

 

「ちょっとアヤナ! あんた何先に来てるのよ! それならそうと言いなさいよ!」

「ごめんごめん。てっきり呼ばれていると思ってね」

 

 騒がしく里香もやって来た。全員が揃ったので、食事にようやく付けそうだ。

 人目を気にしてもしょうがないので、幾つかのパンやらの手に持てる食料を清潔な布等にまとめていく。

 

「なにしてんすか」

旅糧(たびがて)

「そんなにすぐに出るんですか? あと、さすがにはしたないと思います」

 

 早速樹少年と柊菜に見咎められた。ノーソのご飯なんだよ。いいからほっといてくれ。

 

「さて、そろそろディナーといこうじゃないか。食べながらでいい、聞いておくれ。少しだけ迷い子達に頼みたいことがある」

 

 ガイストが立ち上がると、指を鳴らした。扉を開けて一人の少女が入ってくる。彼女は、ここに来た時に見かけた少女である。

 

「彼女はミルミル。若き僕の弟子にして天才の魔術師さ。僕はこれ以降少しだけ忙しくなるから、彼女が君達の相手をしてくれる」

「ミルミルよ! 三つの命を持つ若き天才魔術師なんだから、それなりに敬意を持って接してちょうだい。魔術師は高貴な存在なんだから!」

「おおー。いかにもな高慢キャラ」

 

 樹少年がズレた感想を残す。聞こえたのだろうミルミルはそちらをキッと睨みつけた。

 

「それと、君達にひとつ頼みたいことがある。僕らの都市の近くに、先日君達が襲われた怪物の拠点がある。アレは僕以外だと倒す事が難しい相手だ。一度でも立ち向かおうとした様子から、君達はアレを倒せるのだろう。それを見込んでのお願いさ。拠点へ侵入し、敵を排除して欲しい。こちらが頼み込んでいるのだ。報酬も用意しよう」

「お、おおお!? 遂に王道RPG風イベントが!?」

 

 ガイストの言葉に樹少年が興奮する。それに水をさすように里香が手を上げた。

 

「悪いけどそれ、私とアヤナは用事があるから参加出来ないわ」

「ふむ……それもいいだろう。僕から頼んでいることだしね」

「そういうことだから、三人でお願いねっ」

「え、ちょっと! 里香ちゃん……!」

 

 言うが早く。里香は食事をかき込むと、アヤナを連れてどこかへ行ってしまった。

 元より勇者がダンジョンに入れるか不安だったので、ゲーム通りになった事に安心しよう。多分そのことを勇者二人も理解しているだろうし。

 

「急に味方がパーティーから離脱するのすっげぇRPGっぽい」

「わかるよその気持ち」

 

 樹少年の感想に強く同意する。ゲームっぽいよな。

 

「さて、先に報酬を支払おう何を求めるかい?」

「随分気前が良いっすね」

「龍の召喚士がいるんだ。負けはしないと思っているよ」

 

 ガイストは確信を持ってこちらを見つめている。まあ、ウィードならダンジョンクリアも簡単だろう。

 

「そうだね。俺は金でも貰うよ」

「え、そんなんでいいんすか!?」

 

 別に欲しいものないし。どうせクエストクリアすれば石だって貰えるからね。こいつらから情報を貰おうとしたところで、大した事を教えてくれないだろうと思う。

 奴らは魔術師だ。魔に属するものたちだ。契約を結び力を得る存在だ。どうせ契約の穴を突いて色々してくるだろうし、それなら物でも貰った方がいいだろう。

 

「あ、千万シルバ以上ね」

「思った以上に大金だった……!」

「ふーむ。いいだろうよ。それで契約は成立だ。さ、少年はどうする?」

「お、俺っすか……。うーん。魔法を教えて欲しいっすね」

 

 まあ、力を求める樹少年なら、そんなことを願うだろうとは思っていた。

 

「そうか……。契約は成立だ! 少年と少女はミルミルから魔法を教わり、君は僕が千万シルバを渡そうじゃないか」

 

 そう言うと、ガイストは小さな袋を俺に渡した。

 

「空間に作用する魔法をかけている。魔道具の一種さ。中身も確認しておくれ。ああ、気にしなくていい。これもサービスだよ」

「ふーん。まあ、貰っておくよ」

 

 ヴエルノーズでは逃亡の為に全資産捨ててきたからな。スキル屋を見つける前にお金が手に入って良かった。

 

「さて、場所はミルミルが知っている。後のことはミルミルに任せるよ。それじゃあ、頼んだ」

 

 そう言ってピンク天パの優男は消えてしまった。

 

「──さて! それじゃあ今日は夜だし私は寝るつもりだけど、迷い子達は寝起きかなんかでしょ?」

「そうっすね」

「それじゃあ最初に魔法の課題でも出しておきましょうか、これからは私の事を教官と呼びなさい! わかった?」

「イエッサー!」

「それは男にする返事よ!」

 

 早速樹少年とミルミルが戯れている。何となくこの後の樹少年のメンタルに不安がでてきたぞ。

 

「そこの男も聞いておきなさい。いい? 魔法っていうのは、幾つか系統があるの。最初は従魔が使う『スキル』から魔法をそっくり再現しようとしてたんだけど、それじゃあ人間には合わないってのがわかったのよね。そこから私たち人間の使う魔法は『アクセス型』というものに変わったのよ」

 

 軽い座学のつもりなのだろう。席に座ったミルミルが口頭で説明をしていく。既にゲームで知っている俺はいいのだが、二人は大丈夫なのだろうか。

 

「まあ、名前は様々なんだけど、私達が魔法を引っ張ってくるのは、純然たる元素の王者に対して奉納を捧げる事で奇跡を生み出して貰うタイプね。地脈の接続でよりアストラル体を異界に近付けて、それからゲートを介して魔法を貰うの。基本的なプロセスは召喚士とやっている事は同じよ!」

「はい! はい!」

「何よ! こんな初歩で分からないことあるの?」

「もう最初からほとんどわかんないっす……」

 

 まあ、世界の成り立ちとか色々知っていることが前提だったりするからな。魂を異世界に近寄せて親和率を上げて魔法を引き寄せるって考えればいいだけだ。異世界をあの世に置き換えれば、半幽体離脱状態になって心霊現象を引き起こすとでも言えるだろう。

 

「はあ!? ……あんた別系統の魔術師かしら? オド、マナ、エーテル、アストラル。これに聞き覚えは?」

「だいたいあります!」

「えー? 何それ、しっちゃかめっちゃかに覚えてるのね。うーん、どうしようかしら」

 

 樹少年のネットかゲームかラノベ辺りの知識でミルミルが悩み始めたのを見て、助け舟を出す。

 

「俺達に一番感覚が近いのは、魔力を体内から引っ張り出して使う精神力タイプだよ」

「あー……面倒くさいしあんまり強くないやつね。まあいいわ。マナ式かエーテル式かオド式のどれかは知らないけどそっちで教えましょうか」

 

 この世界の魔法は本当に複雑である。同じ炎の魔法でも、メラやファイア、アギ等と使う人によって魔法が分かれている。それぞれに系統があり、引き起こす結果は同じでも、それまでの方法などに大きな違いがあるのだ。

 

 そういう意味では最初の魔法が一番楽に覚えられる。ミルミルの得意技であるし、この世界にいる神官系も使う魔法タイプなので、師匠が多いのだ。

 

「グルル……なんだよ?」

「なんでもないさ」

 

 まあ、その魔法は俺が使うのには難しいだろう。元素の王者。つまりウィード達のような存在に祈りを捧げる事になるので。

 ぶっちゃけ土はウィードがいるし、他はウィードが嫌がるだろう。

 そもそも魔法なんぞは魔女なりなんなりを召喚すれば全て解決すると思っているので、俺はこうして学ぼうとする二人は無駄な事に時間を費やしているとしか言えない。

 

 そんことしてる暇あったら石集めろよ。割れ。火力支援と回復不足してんだぞ。

 俺後四個石集めたらまた召喚するんだからな。柊菜も樹少年も俺が従魔三体なのに対して二体なんだぞ。急げよ。焦れよ。

 

「まあ、私もそこまで勉強した訳じゃないんだけど、迷い子達の言う魔力を消費してーって奴は、いわゆる内在精神力か、存在力か何かを代償に現実に魔法を引き起こす奴でしょ。アレ結構リスク大きいのよね。どの魔法にしたってタダで出来る訳じゃないけど」

「俺が知ってるのは精神力だと思うっす。ね、新田さん」

「えっと……そういうの詳しくないから……」

 

 柊菜は元々良いとこの子供っぽいのでサブカルに詳しくないのだろう。ミルミルが出来ない子供を見る目で見下した。

 

「そんなんでよくガイストから教わろうとしたわね。身の程を知りなさいよ」

 

 好感度が足りない。というか、ミルミルはガイスト大好きっ子なので、最初はこんなもんである。

 ミルミルはため息をつくと、ひとつ指を鳴らそうとしてカスっとスカした音を立てた。

 すると、指を鳴らそうとした手にひとつの玉が握られていた。どこから取り出した様子も無い。

 

「……なんすか、これ?」

「私人間が使える初歩の初歩たる魔法。これは衝撃を与えると割れて音を出す玉を作るわ。魔法使いじゃなくても使えるし、小さい子供なんかは、互いにこれをぶつけ合って遊びながら、魔術に触れるのよ。他の使い道は、近所に投げて嫌がらせか、害獣を追い払うことくらいかしら」

 

 グッと力を込めると、簡単に玉は割れて、パァンと音を出した。

 

「最初はこれが使えるようになりなさい。迷い子じゃあ使った事も無いでしょう?」

「コツ……とかは?」

「音玉の魔法は最初の概念だから言葉にするのは難しいのよね。これの作り方で迷い子達の使う魔法が決まるから、思いつく好きな方法で挑戦してみなさい。それじゃあ、明日。またここに集合……は出来なさそうだし、私が迎えに行くからよろしく」

「あ、ストップ! 他には何か魔法ないの?」

「欲張りねぇ……。それじゃあ」

 

 ミルミルは、引き止めてきた樹少年へ歩み寄り、胸を強調するポーズで樹少年へと向かい合った。

 前かがみになり、樹少年の頬を人差し指でつつく。

 

「あなたに幸運を」

「うっ!?」

 

 途端に樹少年は胸を抑えて後ずさりした。顔も若干赤い。

 それは、魔法を使ったミルミルも同様で、僅かに赤い頬を誤魔化すように服をあおぎながら、体を起こした。

 

「スリープさん、何があったんですか?」

「あれは幸運の魔法。母親が我が子に使うようなおまじないの魔法だよ。自分自身に使う事は出来ず、自分の幸運を他者に分け与えるタイプの魔法だ。使用するには相手へ僅かでも好意を抱いている必要がある。使うと好感度が上がる」

 

 実は恐ろしい魔法である。ゲーム主人公でも使える魔法であり、犯罪者として捕まり、西にある大監獄へ連れて行かれた先に待っているのが、幸運の魔法を瓶に詰めた幸福薬を作るハッピー工場である。

 使用者の幸運を使うので、作ると死ぬ。死ぬまで作らされる。それがハッピー工場である。脱獄は困難で、その中で生存するには隣の人に幸運の魔法を使うしかない。

 というのも、実は幸運の魔法は自分で消費した量よりも僅かに多く相手を幸運に出来るのだ。これを利用した無限幸運回復で、ハッピー工場は回っている。

 隣人愛に溢れた職場。ハッピー工場。それが作る幸福薬は、一人の人生に相当する幸運が詰め込まれている。ゲームだとランダムな回復とバフを与えるアイテム。幸福薬。使い方は静脈注射。針は無いので戦闘中でも使える安心設計!

 

「そ、それじゃあ、この魔法か、音玉の魔法が使えるようになっているように! わかんないなら明日教えるわ。それじゃあ解散!」

 

 まくし立てるように言うと、素早くミルミルは出ていった。呆然としている樹少年や柊菜を眺めていると、ウィードがこちらを見上げてきた。

 

「グルル……お前はやらないのか?」

「興味はあるけどね。やっても意味無いでしょ?」

 

 そもそも、現地の人間より俺達は弱い。それがどんな影響を与えるか不明だし、俺が魔法を使えるように修行する時間を石集めに費やせば、極めるよりも早く、極めるより強い存在を手に入れられるだろう。

 召喚士の道を捨ててまで魔術師になる理由はない。召喚士は人間だけがなれる職である。唯一のアドバンテージを捨てるなどありえない。

 

 今から魔法を始めたところで、ピクシーよりも強くなるのにどれだけの時間がかかると思ってんだか。

 

 クイクイとトラスが袖を引いてくる。

 トラスの方を向けば、無表情のままにトラスがパチリとウィンクしてきた。

 

「……」

「おま……すげぇな」

 

 俺の知覚範囲の外からノーソが唸るような感覚を覚える。同時に、トラスが幸運の魔法を俺に使ってきた事を理解した。

 あいにく俺は魔法を使えないので、幸運を返して二人の幸運を際限なく高める事は出来ないが、貰ったものの分くらいは返したくなる性分だ。

 

「ありがとな。今度トラスが集めた石で従魔を召喚したら、もっとイズムパラフィリアの事教えるから」

 

 なんなら隠しイベント情報の一つは教えてもいい気分だ。

 

 感謝を込めてトラスを撫でるが、肝心のトラスは、どこか嫌そうな雰囲気を漂わせていたのだった。

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