イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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35話 大誤算

 サスペンスシーンとか、諸々のメインストーリーが一気にカットされた。

 これが、俺たちが原作の流れを変えようと足掻いた結果に対して思ったことだ。

 元から俺は、ゲーム通りの流れに進めるつもりであった。ミルミルを見殺しにして、魔法都市の新たなるボスにさせる。そうして僅かな彼女が生きている時間で、残りのメインストーリーを進め、ミルミルの本音を聞き出して、魔法都市と敵対する。それが俺の知る流れであった。

 

「スリープさん」

 

 振り向く。視界には、かつてあった巨大な木は無くなり、それどころか、抉り抜かれたように大きな穴が大地に出来ている。

 その前に立つ。二人の少女。一人はよく見る召喚士。そして、彼女の傍には、両足のある魔術師の少女が立っていた。

 

 

 

 俺の予想は正解であった。ミルミルの命を一つ消費する事で、彼女から地脈の契約は剥がれ、里香のゴーレムがそれを肩代わりした。

 しかし、そこからまた流れは大きく変わった。元々魔法都市は、来る危機へ備えてのシステムも兼任しているのだ。地脈を結んだダンジョンを含めた魔法都市を起動させて、ガイストは天へと登って行った。

 儀式の失敗と、俺達の戦力を見て、今こそが決戦の時だと言い残して。

 

 置いていかれた魔術師のミルミルは、意識を取り戻すと、儀式を防いだ俺達に、小さく感謝した後、俯いた。

 原作の流れを大きく変えたのだ。ミルミルの心は俺達に開いておらず、彼女の意志を聞くことも無く勝手に助けたつもりになって、彼女をひとりぼっちにさせただけである。

 柊菜は、そんな彼女を連れていくことにした。従魔ではないが、師匠として、この先の旅にも着いてきて欲しいと頼んだ。

 結果は見ての通りだ。ミルミルは仲間に加わり、これから王国を目指して進もうと準備に皆が動いている途中だ。

 これからまた歩き通しだ。食料もない。それなりに辛い旅になるだろう。

 

「私、ずっと疑問に思っているんです。なんで、私達がこの世界に来たのか。どうして、あなただけがこの世界を詳しく知っているのか」

 

 柊菜が口を開く。遠くから樹少年がずっとハラハラした表情でこちらを伺っている。シリアスなのに、シリアスになり切れない。そんな雰囲気。

 俺は既に、お前の事ブロック済みだからなこのやろう。

 

「さり気ない形で、今まで全部誘導されてきているんです。ヴエルノーズに行った時も、この魔法都市に来た時も、全部、スリープさんに誘導されて、ここまで連れて来られているんです」

 

 ウィード便利だからね。しょうがないね。

 

「スリープさんは何が目的なんですか? あなたは一度も自分の目的を話そうとしていない。地球に戻りたいようにも見えない。本名も明かさない。全部、全部、私にはあなたが怪しく見えて仕方がないんです」

「俺の目的はゲームの世界で生きていくことだけだよ」

「それ! 本当にこの世界はゲームなんですか? 確かに、見たこともないファンタジーに生き物達はいます。だけど、この世界が本当にゲームなのか、全く分からないんです。設定が細すぎる。主人公は召喚士なのに、なんで魔法使いの設定があるんですか」

「いい感じに作り込まれたゲームってことじゃん。俺こういうの好きだったんだし」

「…………最後に、一つだけ教えてください。スリープさんは、味方なんですか?」

 

 敵だ味方だと言って信じられるんだろうか。少なくとも、柊菜の目的が地球に戻ることならば、俺は味方でいるとは思うけど。

 それも、絶対ではない。

 

「味方なんじゃない? 少なくとも、今は味方だと思うよ」

「そう、ですか……」

 

 少しのあと、柊菜は小さく「ありがとうございました」とだけ呟いて、踵を返した。

 

 この世界はゲームではない。現実だ。正史より外れた行動をしたところで、修正力が働いている。なんて様子もない。

 ヴエルノーズから、俺の知らないことばかりだ。大まかな流れこそ同じであるが、既に俺の知っているゲームの流れから、大きく外れてしまっている。

 

 あの場で柊菜がミルミルを生かそうとするのは予想出来た。しかし、勇者達が介入しくる所までは読めなかった。

 その結果が、これだ。ミルミルは生きている。しかし、従魔の頃よりも表情が良くない。死種になることで、色々吹っ切れたようなミルミルは、すでにこの世界にはいなかった。

 いるのは、仲間達に置き去りにされた可哀想な迷子のような顔の女の子だけだ。彼女からは、ガイストを倒すことで、自ら全ての負の連鎖を断ち切るという覚悟が聞けていない。世界を救う覚悟が、ない。

 

 ゲームにおけるミルミルの役目は重要だ。それが、人の枠組みに収まった彼女のままで、果たせるとは思えない。決して、ゲームの通りのラスボスが出るわけじゃないが。

 

「……このままで、大丈夫だろうか」

 

 この世界では、ウィードは完成しない。本来の力を発揮することは出来ない。それは、全ての星六以上の従魔に言えることである。

 石を使えばどうにか出来るだろうが、ウィードを育てる分に石を使うのは、他の戦力が無くなる事を意味する。元々ウィード単体では、この世界のラスボスに勝つのは難しい。星五エンドロッカスの癖に補正が半端ないのだ。

 それをどうにかするために必要なのが、勇者アヤナやミルミル達だ。だけど、そのピースの一つは欠けてしまった。

 

 力が足りない。このままメインストーリーを進めるだけでは、いつか負ける。

 ノーマネーボトムズという敵までいるのだ。恐らく相手はゲーム時代のデータを持っている。それは今の俺にとって脅威でしかない。

 今のままでは勝てない。更に力が必要だ。星十六のような、絶対の勝利が約束された従魔が必要だ。

 

 ……近いうちに、樹少年や柊菜とは道が別れるだろう。二人はメインストーリーを進めてくれればいい。そうすれば地球に戻れるとは思う。

 崩れた原作には、それを知る俺が対応するべきだろう。ユーザーデータによる別の世界線みたいなものだ。気にする事はない。

 

 次の召喚を急ごう。必要な石の数は残りは一つだ。

 

「私達がいるじゃないですか、ねぇ?」

「いつの間に出てきやがった」

 

 柊菜とは反対側の方へ進もうと背後を向けば、そこにはノーソが立っていた。

 今日は熱でもあるのか、上気した頬に息が切れている。そんな状態でフラフラと立っていた。

 

「そんな事はどうでもいいんですよ。従魔は主人の危機になれば自力でやってくることだって可能なんですから。それよりも、です」

 

 ノーソがしなだれかかってくる。歪んだ笑みが俺を迎え入れた。

 

「どうしてあんな小娘共を助けるのですか? あるじ様は暴力こそが、力こそが、絶対の価値だと考える人じゃないですか。それに照らし合わせれば、人間程度の存在に気を煩わせる必要などないはずです。弱く、愚かで、考えが合わない。そんな存在捨ててしまえばいいじゃないですか」

「実際何度もそう思ったよ」

 

 俺が日本にいた頃ならば、柊菜も樹少年も、仲良くなることはなかったであろう人物だ。それこそ邪魔だと蹴り飛ばしてでも離れていたかもしれない。

 だけど、コンテンツを長く維持する為にも、初心者というのは優しく保護するべきである。そして、非常に不本意ながら、俺には日本の時に受けた倫理が働いている。

 

 目の前で転んだ人間なら、手を差し伸べた方がいいだろうという良心がある。

 

「悪いね。俺は人間なんだ。偽善者として振る舞うクズさ。目的の為だけに動く存在にはなれないよ」

 

 俺は紛れもない悪人だが、救いようがない悪人になりきる事は出来ない。中途半端でしかない。

 俺が持つ最後の良心が無くなった時、俺は完全な暴力主義を掲げることが出来るだろう。いつかはそうなると信じている。

 今はまだ、寄り道の時間だ。

 

「……ふふっ。変わりませんね。あるじ様は。魔に触れていてなお魔に堕ちない。理想的な召喚士です。私としてはつまらないですが」

 

 そう言うと、薄れるようにノーソが消えていった。感覚としてリコールされたことが分かる。まさか自力でやってくるとは思わなかった。

 

 ノーソを見ればわかる通り、イズムパラフィリアの召喚は若干リスクを伴う。召喚には互いの条件の一致が必要という設定があるのだが、それで召喚したとしても、互いがビジネスライクな関係を築けるという訳では無いのだ。

 性質が闇に偏っている従魔はプレイヤーを闇に引っ張ろうとするし、光の従魔はプレイヤーに善であることを強要してきたりする。

 そもそも人外の強靭で魅力的な価値観に引っ張られて召喚士がいつの間にか別人のようになっていたということだってありえるのだ。

 人間は共感性を持つ生き物だが、立場が強くなると、それを忘れる傾向がある。従魔という目に見えた強力な存在は、人間の共感性を容易く奪いさっていく。それもまたイズムパラフィリアの醍醐味なのだが、危険といえば危険なのだ。

 

 自分の主張を忘れるな。かつてのゲームと、日本にいた頃の自分を思い出しながら、この場を離れた。

 

 

 

「それじゃあ準備も出来たわね。王国へ向かって進むわよ! 案内よろしく!」

「が、頑張りますっ!」

 

 里香の言葉に、チェリーが尻尾を振ってやる気を見せる。先頭を柊菜、次に里香、アヤナ、樹少年、俺の順にならんだ編成で新緑の森を抜けきることにしたらしい。

 柊菜が道案内するのは妥当だろう。彼女は俺を信用しておらず、知らぬ間に誘導されることを警戒しているのだから。

 

「……なんか、空気悪いっすね」

 

 樹少年が呟く。たしかに、俺と柊菜の間に出来た溝は深刻なものになっている。察しのいい、そして覗き見していた樹少年は、それを感じ取っているのだろう。

 この面子での旅も、恐らく王国で最後になる。それからが、樹少年達の物語になるだろう。

 王国には何があっただろうか。ギルド系のイベントしか思い出せない。

 まずは樹少年の剣士ギルド対抗戦だろう。セイコウを師匠にもつ彼なら、対抗戦に参加するだろうし。

 こっちも召喚士の戦いに参加するべきだろうか。ここは柊菜に任せてもいいか。俺は石が手に入らないイベントをやるつもりはない。

 ダンジョン攻略とクエスト回って石集めかな。王国関連に関わる気は無い。いいえを選べない場所など行きたくもない。樹少年も危険かもしれないが、どうしようかな。

 

 そろそろ本格的にゲームが始まってくる。今まではチュートリアル程度のものだった。戦力の確保に、二人も全力を尽くすようになるだろう。

 特に、柊菜は一回だけステージ解放したエンドロッカスとチェリーがいるはずだ。ミルミルは従魔にならなかったので、重要な戦力を一つ失ったまま今後生きていくことになる。樹少年は上手いことメインストーリーから外れているので、実は心配していない。着実にメインストーリーを進めている柊菜こそが、一番死ぬ可能性が高いのだ。

 

「どうにかした方がいいとは思うんだけどねぇ」

 

 彼女は俺の手を借りることは無いだろう。アドバイスをしたところで聞くかどうか。まあ、自力でどうにかするだろう。ダメなら死ぬだけだ。気分は悪いけど、どうってことは無い。その程度の相手だ。

 勇者二人もいるのだから、全員で協力すればどうにかなるだろう。

 

「……トラス」

 

 最初から頭に乗せていたトラスを思い出す。そういえばこいつノーソいた時にもここにいたぞ。短時間の接触は可能だということか。

 

 こいつはこいつのやりたいようにさせるつもりだ。俺に付いてくるなら全力で鍛えるし、柊菜達について行くなら最低限のことは教えておく。

 

 うん。次にやるべきことはだいたい決まったな。いつも通り。そこまで大きく変わらない。

 

「ウィード」

「……グルル」

 

 声をかければいつでも答えるドラゴンがいる。戦力としては心もとないが、こいつには随分助けられてきた。

 

「これからもよろしくな」

「フン……言われなくてもわかっている。私の主はお前で、私は従魔だ。龍を従えたんだ。常に強者であれ。それさえ出来ていれば、私に言うことは無い」

 

 幼女を連れて学生達の後を追う。俺の前途はロリの道だけがある。柊菜の言っていたことは間違っていないな。と、二人を見て苦笑した。

 

 

 不安も数多く残っているが、なにはともあれイズムパラフィリアのメインストーリーは第二章終了である。




これにて三章は終了です。実はかなりプロット段階でも描写されている部分を削ったりしているので、話がめちゃくちゃじゃないかとか不安になってます。それ以前に作者の作ったプロットやら設定集の情報が不足過ぎて、矛盾部分とか色々あるんですよね……。セイコウの強さとか、手に負えないとか書いておきながら、次の話で強くないって言っていたり。重要じゃないんで色々無視して完結まで進めたいと思います! 手直しする時間ないんじゃあ!

次回はお待ちかねのTSイベントの話です。一章しかTSしないので、その分濃厚なTS物語書ければいいなぁと思っています。その前に、一回閑話入れますけど。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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