一部文章の編集。追記。
気付けば森の中だった。なんかまた同じ始まり方な気がする。
「あれ? 洞窟は?」
「おはよーマスター!」
イケメン君はピクシーに張り付かれ、少し戸惑っている。
少女の方は寝起きに弱いのか、頭を振りながらもぼんやりとしている。
「無事に目が覚めたみたいだね」
俺が声をかけると、二つの視線が集まった。
「夢……夢だけど夢じゃなかったのか」
「もう嫌ぁ……」
どうやら実際に夢から覚めて五感のほとんどが強くなった事で、ここがゲームの中で、現実だということを理解したようだ。
まあ、さっきまでいた場所は明晰夢のようなものだったのだと感じれるのだから仕方の無いことだ。
ある程度、というかゲームでの流れはほぼ完璧に把握している俺は、さっさと次の行動に移したいのだが。
「とりあえず街を目指すけど、どうする?」
「あ、ついて、行きます……」
「俺も……」
「それじゃあ行こうか」
洞窟の入口を後にして、森の中を進む。
意気消沈したままで二人は付いてくる。おそらく日本の事とかを考えているのだろう。
俺も残したものはあったが、そこまで気にはしていない。両親は既に他界してしまっているし、親族とも繋がりはない。友達と呼べる相手もいないし、仕事はしていなかったもので。
「ところで、二人はなんて名前なの?」
「あ、俺は原田樹です。スリープさんはなんて言うんですか?」
「私は、新田柊菜です……」
「そう。改めて自己紹介するけど、俺の事はスリープとでも呼んでくれ」
地龍ウィードの先導について行くと、新緑の森を抜けた。少し遠くに踏み固めたような砂の道が出来ていたので、それに沿って進む。
落ち込んでいた二人も、そこらをのんびりと歩く動物や、見たことも無いような自然を前に明るさを取り戻していた。
辿り着いた場所は、煉瓦のような模様がある巨大な壁で囲われた街だった。
【資源都市ヴエルノーズ】である。恐らくほぼ全てのプレイヤーが最初に辿り着く街だ。
ヴエルノーズ周辺は東が先程やってきた新緑の森があり、西は【カラサッサ平原】北には【キリタツ崖】という通れそうにない場所がある。一応フィールド扱いなので、後々行けるが、今は移動手段も確立していないので無理だろう。ちなみに南は海だ。
東西を挟んで街があるから、それなりに通行の便は良い。
関所的な役割もあるのだろう。早速俺達三人は入口の大門で止まっていた。
「従魔を連れている様子からするに、お前達は召喚士だろう? 召喚士ギルド証を提示してくれ」
この発言に後ろで着いてきただけの二人がうろたえた。その様子を見て衛兵が眉間にシワを寄せる。
面倒になる前にさっさと済ませるべきだろう。
誰かが喋り出す前に声をかけた。
「俺達は召喚士ギルドが無い場所からやってきてね。後ろの二人は村から出ないで牧畜とかの手伝いをしていたお上りさんなんだ。ここへは出稼ぎに来ているんだ」
「そうか……一応傭兵として入れるが、さっさと召喚士ギルドに登録しろよ」
衛兵が何かを用紙に書き込んで俺達を通す。大門をくぐればそこはファンタジーな街並みがあった。
わかりやすく例えるなら、竜なクエストではなく、最後の幻想的な街並みだ。見たこともない生物がゴロゴロと荷車を引き、街は石畳で出来た外国のような綺麗さ。街を歩く人の服装はよく分からない宝石が付いていたり、ゆったりとした民族衣装みたいな服装だったり。
剣を携えて歩く人、鎧を着た人なんかもいて、これでよく治安を維持出来るなぁといった世界観である。
まあ、実際に治安は悪い。めちゃくちゃ悪い。
「すげぇ……異世界だ! ファンタジーだ!」
「綺麗…………」
興奮している二人を引っ張って先へ進む。
そこらを歩く人にギルドの位置を聞いて、早速召喚士ギルドへ向かうことにした。
ギルドでの登録はあっさりと終わった。ネット小説とかによくある、絡んでくる輩はいなかった。
まあ、最初の街だし、剣士ギルドも魔術師ギルドも教会もある大都市の施設で大暴れする輩は少ないだろう。
「我々召喚士ギルドは新たな召喚士がここに誕生したことを嬉しく思う」
ゲームでも聞いたセリフと共に、召喚士である証のカードタグを渡される。
これは自分の階級や身分を示すと同時に、生死の判定をする道具だ。再発行はされないが、無くすこともないらしい。
とりあえず身分が保証された事でほっと一息をつく。これで下手をしなければ安心だ。
さて、このゲームの世界に来てまだ一日も経っていない。この後どうするのかを伝えておくべきだろうか。
「それじゃあ、俺は続けてギルドの依頼を受けるから。じゃあね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
休むなりなんなりやりたいことはあるだろうと離れる旨を伝えると、二人から引き止められた。
やはり不親切だっただろうか。
「この後の流れはストーリークエストを進めるなり、フリークエストを受けるなり適当に過ごしていくといいよ」
「え……あの。もう少し、何か無いんですか?」
何かとはなんだろうか。
「ゲームの時は宿に泊まっている設定だったけど、ここでも同じように泊まれると思うから。詳しいことは俺よりも現地の人に聞きなよ」
「あ、そういうことじゃ……なくて。ゲームの事、とか」
ゲームの事を聞かれても、何を教えろというのか。
そもそも、ゲームは説明するとしたらキリがない。世界観からエネミーの情報、従魔のステータスなど色々あるのだ。
俺はネタバレされるのが嫌いなので、極力聞かれない限りはストーリー等については話すつもりは無い。
そして、ゲームの初心者というのは、一々人に聞いてくる奴は大して強くならないものだ。優秀な奴は自力で調べて強くなる。
まあ、ネットとか無いからこの世界にどれだけ情報があるかによるけど。
俺は自分を善人と自称出来るような人間では無いと理解している。メリットの薄い相手に対し優しくするつもりは無い。
とりあえず、手持ちのレア度十一以上完凸スキルマアビ全開放してから出直して来い。話はそれからだ。フレンド申請も、パーティーメンバーもとりあえずそれが出来ていたら考えてやる。
と、言ったところで理解出来るとは思っていないので、嘆息しながら足を止める。
「とりあえずこのゲームは育成ゲーで課金ゲーだ。最低限、第一部シナリオは無課金でも攻略可能な難易度に設定されている。だから君達の初期キャラでも下手なサブクエに手を出さない限りは詰むことは無いよ。この街で気を付けるとしたら、地下に行かないこと。廃ビルに近寄らないこと。他には?」
「あ、えっと……。目的とかって、無いんですか?」
「ストーリークエストなら大陸にいる魔王の討伐。この街のサブクエは地下街に潜む勢力を倒すこと。サブクエは今のままだと絶対に勝てないから手を出さない。ストーリーを進めるつもりならこの街の責任者を探すといいよ。確か中央左手の青い扉の家がそう」
「…………ありがとう、ございます」
非常に不服そうな顔で少女が身体を引いた。
「俺達はプレイヤーであっても主人公では無いかもしれないから、とりあえず何か自分でやりたい事とかを目標に動いた方がいいよ」
無課金だと本当に綱渡りのストーリー攻略になる。敵の強さよりも、周囲の味方に助けられて戦うからだ。最終戦ではバフがかかってようやく魔王を倒せるようになる。
魔王とほぼ同等のスペックを最終的に持つ死種のエンドロッカスなら、単騎では無理でも、回復役さえ手に入れば勝てるとは思うが。
ピクシー? リセマラしなよ。この先の戦いについていけないぞ。どう足掻いても無課金勢のサブのサブヒーラーがいいとこだ。
「あのさ!」
今度はイケメン君が引き止めてきた。俺は忙しいのだが。
「同郷なんだし、俺達何すればいいのかわかんないからさ、とりあえず付いていってもいいか?」
ダメだよ。
新緑の森。初心者向けの日差しが差し込める明るい森である。
ここはゲームチュートリアル後、最初に訪れるフィールドだ。
奥地には終末の洞窟がある崖や、魔王がいる滅びの大地が広がっている。
まあ、今の段階で滅んでいるのかどうかは不明だが。滅ぶ前は小さな貴族の街がある。
俺は、この初心者向けフィールド【新緑の森】にやってきていた。
…………学生服に身を包んだ二人を連れて。
「ほら、さっさと行くよ」
「はい!」
ちなみにこれは俺が受けたクエストだ。いつでも受けていいギルドが依頼を出しているクエストで、薬草を集めるのが目的だ。
戦闘は極力行わないようにする。森も入り口のエリアから動くつもりは無い。なんでこんな事をしているかと言えば、彼らに手続きのやり方とか、細かい現実的になった部分を教えるためだ。
そうでも無ければ召喚石も持たずに戦闘が発生するエリアには来ない。
「ウィード。とりあえず何かあった時の為に戦闘準備だけはしておいて」
「嫌」
足元に佇む緑色の髪をした幼女へ声をかける。そっぽを向かれた。
龍種はプライドが高い。それはフレーバーテキストだけではなく、実際にアビリティとして設定されていた。
【龍種覚醒】一定時間経過か、最大HPの一割以上のダメージを受けないと行動を開始しない完全なデメリットアビリティである。
これがあるから龍種はステータスが最強でも使えない種族なのだ。デバフとバフ積まれて勝てなくなるのが龍種の弱点だ。
初心者向けの新緑の森ならば、レアエネミーを引いても勝てるはずなので、極力リスクをかけずにさっさと終わらせるつもりで受けたのだ。
「薬草の場所はわかる?」
「…………あっち」
とはいえ、龍種覚醒は戦闘アビリティである。基本的に大人しく従ってくれるのだった。
しかし、フレーバーテキストだった地龍の設定も生きてるのか。
今回のクエストはそれの確認でもあった。ゲームでは特に採集や探知系にアビリティが無いウィードだが、迷いのない案内や、薬草の位置を探す様子も見せずに教える様子から、ウィードの持つ設定は現実になっているものだと思われる。
地龍の名前の通り、ウィードは大地を操る力があるのだ。それの範囲として、薬草の把握や街の位置を把握しているのだろう。
これは良い収穫だった。
ウィードが指さした先にある草を取っていく。根っこは取らずに葉の一部を貰う。これで良いだろう。少なくともアイテムアイコンはこんな感じだった。
「マスター! ヒイナ! こっちだよ!」
「あ、これか!」
「えっと、私も少し貰うね」
本当についてきただけの二人を見ると、イケメン君とヒイナはピクシーの先導によって同じような薬草を発見していた。三人分入手したので報酬は山分けでいいだろう。
「集めたかい? それじゃあさっさと戻るよ」
「はーい! って待て待てーい!」
イケメン君が元気よく手をあげて返事をしたら、返す手でこちらの胸を叩いた。ノリツッコミというやつか。
イケメン君は軽い性格をしている。慣れてきたのか、口調も段々そんな感じになってきた。
「ここファンタジー! 俺達転移者! ここから始まる大冒険! 初回のクエストゴブリンキング! 倒して注目シルバーランク!」
「挑みたいなら行ってきていいよ」
途中でラップっぽく言いやがって。あとこんな序盤からスライムだとかゴブリンみたいなモンスターは出ない。強いから。
出るのは緑種だよ。レアエンカウントでも緑種しか出ない。
「そもそも何がしたいのさ。それなりに君達の事考えて街の外のクエスト受けたんだけど」
「あ、わりぃ」
「この手の手続きとかクエストの受け方とかは見せたでしょ? 次からは一人でやるんだよ」
「……そこだよそこ!」
そう言ってイケメン君は肩を組もうとしてきたので腕を払う。
一瞬だけ悲しそうな目をした。
「三人で突然異世界に転移したんだからさ、助け合いとかあるじゃんか! そりゃあスリープさんはこの世界がゲームだとかで前知識あるんだろうけどさ、俺達は右も左も分からないのよ!」
「別に街から離れる訳でもないし、ずっと一緒にいる必要は無いと思うよ」
「とりあえず一週間! 一週間だけお試しで付き合ってみない?」
なんとノリの軽い誘いだろうか。そして押しが強い。これがリア充コミュニティか。こういう奴がいるから現代は穴兄弟竿姉妹ばっかりでぐるぐる循環してしまうのだ。
そしてどこかの穴が金銭の為に開いて病気を持ってくる。パンデミックの始まりだ。
「そう言って肉体関係を迫って来るんでしょ!」
「いや迫らねぇよ!?」
失礼。気付いたら自分が地味だけどよく見たら可愛い系女子だと思い込んでしまっていた。
初心者相手には優しくするのがネトゲが長続きする秘訣だ。このゲームは無課金高レア一発引きが絶対にありえないゲームなので、そこら辺優しく出来る古参プレイヤーがいたものだ。
まあ、そこまで人気があるゲームではなかったが。ガチャ法が作られ、ソシャゲが衰退した結果ユーザー数が減ったからな。それ以前に悪辣なソシャゲが良質なソシャゲを駆逐していったか。
これもそんな最中で生き抜いたクソゲーオブクソゲーである。課金させるために手段を選ばなくなっている所が悪質だった。
何をするにもまずは石が必要なのだ。石を持たねば始まらない。
徐々に焦りが湧いてきた。一つも石を持っていない状態に体が震える。
突然の震えに二人が驚きながら寄ってきた。
「だ、大丈夫か? なんかトラウマ刺激したなら謝る」
「体調悪いですか? 毒……とか? ここから離れた方がいいかな……」
こんな見ず知らずの人が震え出して心配出来るのは珍しいと思う。稀有な精神と価値観だ。
「と、とりあえず早く帰ろうか。このままだと死にそうだ」
「これでクエスト完了だ。報酬は三千シルバ。受け取れ」
ギルドに薬草を納品して、報酬を受け取る。シルバは単位だ。見た目は銀貨。
初回クリア報酬が見当たらない。
「召喚石は?」
「んなもんあるか。あれは召喚士が呼び寄せるものだ。例え石を貰っても他人の召喚石じゃあ使えねぇよ」
なんという事だ。それじゃあ危険を冒して外へ出た意味が無い。
頭ガンガンと痛み、平衡感覚が無くなる。寒気が全身を這い廻り、吐き気までしてきた。
「スリープ!?」
「スリープさん!?」
崩れ落ちた俺に二人が抱え上げる。貧血を起こしたように視界の上側から真っ暗になっていく。
「何か落としたぞ」
ウィードが俺の服から落ちたらしい八面体の水晶を見せてくる。
全力でそれを奪い取った。
「石だ! 召喚石だ!」
もう離さない。これは俺の石である。頬擦りまでする俺を見て、学生二人は距離を取った。
「えぇ……依存症じゃんか」
「スリープさんってよく分からない人だね……」
一つも石も持たない初心者に言われたくない。どうせすぐに石を持っていない事に怯えるだろう。