イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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流石に一月以上の遅刻は不味いと思い、不出来ながらも無理やり投稿することにいたしました。大変申し訳ないです。

次回更新は8/20以降になります。新章ですので、多分早めに投稿出来ると思います。


閑話 イベントの裏側

 従魔の好感度を一定まで稼ぐRTAはぁじまぁるよー。今回はイズムパラフィリアでも希少な好感度上昇期間限定イベント【TS学園p-z】をプレイしていきたいと思います。

 

 イズムパラフィリアというゲームは、VRゲームが登場した時代から公開されていたソーシャルゲームです。一応スマホでもプレイ可能だけど、数年後には容量やスペックの都合上PCでプレイした方がいい位に色んな要素が詰まった素敵なゲームです。

 基本的には、従魔と呼ばれる異世界に存在する奴を召喚して、冒険するといった感じの内容になっているソシャゲにしては王道なストーリーっぽくなっております。

 コンセプトとしては、これ一つで全てのゲームを楽しめる。というものを目指したのか、無駄にRPG要素なり、色んなゲームのシステムを持ってきてはイベントだけのプレイに使えるというよく分からん迷走をしていたゲームです。

 

 そもそもイズムパラフィリアは育成がキツすぎるゲームであり、本気でやり込むには課金必須という糞みたいなソシャゲです。時代の流れによって極めて発展した機械文明で、ソシャゲ自体が衰退しているのに、ゲームの単価が高いイズムパラフィリアなんか、ほとんど誰もプレイしていないくらいキツいです。新規参入者に厳しいから滅びたのは必定の運命でしょう。

 まあ、昨今のゲーム業界は金銭回収の為にパッケージ代以外にもガチャ要素盛り込むのが普通なのですが、無課金でもクリア可能なレベルには調整するべきでしょうに……。

 

 今回は、そんなイズムパラフィリアの最初の公式イベント『TS学園p-z』をプレイしていこうと思います。

 

 以前までに説明していたのはレベルアップと限界突破のシステムですが、その内容だけでもこのゲームの育成は、ハードな内容だと分かるでしょう。

 

 今回は、従魔のアビリティ等に大きく影響する好感度を上げやすいイベントになっています。そこで、アタシはこれを機に従魔の好感度を一定まで上げる作業に入ります。

 

 イベント期間は大抵一週間から二週間程度なので、目標までは間に合うでしょう。

 

 計測開始は目が覚めてから。なお、プレイヤーであるアタシは、現状の把握に数十分ほど時間を使っているので既に開始から大幅なロスが出ています。

 ゲーム版では、最初のイベントであるTS学園は、大きくゲームシステムすら変更したイベントだったので、受け入れられ無かったと聞きます。まあ、そうやってどんどんふるい落としをしていくのがこのゲームのスタイルなので、最終的には優秀な課金兵士しか残りませんでした。

 一応、イズムパラフィリア一つで色んなゲームが遊べるという面だけで言えば、結構優秀なゲームだったのではないかと今になって思い返します。バランスも意識していたし、ゲームとして破綻しない程度に別ゲーも出来ていましかたらね。

 

 さて、イベントは家族が誰もいない謎の一室から開始されます。所持従魔の数によって割り振られる役割が変わるので、プレイヤーによっては目覚めるのに幼馴染役の従魔が登場したりします。

 内部ステータスにあるタグを参照してここの役割が決まるので、アタシの現在の所持従魔では誰も幼馴染にはならなかったのでしょう。

 

 ぶっちゃけ妹姉幼馴染母親役だけを集めてここに閉じこもったまま好感度稼ぎをするのが一番早いです。そこら辺は運によりますが。

 

 さて、このイベントでは手持ちの従魔は好感度MAXか、地獄属性と神経属性無効持ち以外は全員確定参加になり、かつ一時的にリンクが切られるので、誰がどこにいるのかは分かりません。ついでにここで襲われた場合自分一人で戦う必要があります。

 しかし、その代わりにプレイヤーは星二から星三従魔相当の身体能力を獲得します。一般人相手には決して負けません。

 まあ、この世界のキャラクター全員が同じくらいの身体能力に変わってるんですけどね。一応、軍人相手に負けない程度の強さ以上はあるとだけ言っておきます。が、それがこの世界のデフォルトの強さです。まず戦いになったら逃げましょう。

 

 向かう先は街の中でも一際目立つ大きな学園です。これがイベント本編の舞台となる学園です。名前は知らない。

 プログラムゾンビ共を避けて通り、幾つかある安全地帯のどれかに向かおうと思います。

 手持ち従魔を思い返すに、保健室か屋上のどちらかに向かうべきでしょう。中庭にシルクがいるでしょうが、あいつはこれ以上成長の余地が無いので放っておきます。

 

 今後の成長性を考えて屋上に決定しました。早速向かいましょう。

 

(少女移動中)

 

 屋上に無事到着しました。なお、道中でTSした里香と出会いましたが、面倒くさいので放っておきましょう。

「何よこれ? どうなってんの!?」と騒がしい限りですが、ここは全員集めてから説明すると言っておきます。

 

 屋上に上がって周囲を見渡しますが、今のところ誰もいませんね。屋上には恐らく男の子になったウィードがどこかで寝ているので、始業開始時間になるまではここで待っていましょう。

 ちなみに、従魔には内部ステータスとして、性格のようなタグが付いており、それを参照することで、今回のイベントでどのようなTSキャラクターになるかが決まります。

 ウィードの場合は、幾つかありますが『プライド』『混沌』『自然』といったタグがあるので、総合して屋上にいる俺様系不良になっているでしょう。他に被りの従魔がいると、どうなるかの予測も難しいですが、ほぼ問題ないと思われます。

 ここの待ち時間で他プレイヤーにメッセージを送っておきます。アタシの見た目も古いギャルっぽい感じなので、メッセージもそんな感じの文章にします。

 

 感極まって泣き出した里香に流石に悪いと思うので、ここは少しだけ慰めながら人目に付かない場所に移動させておきます。

 しかし、他プレイヤーも参加しているらしいですね。イズムパラフィリアはソシャゲだったので、もちろん他プレイヤーもイベントには同時に参加していたのですが、今回のイベントは、別にランキングもレイドも無いので意識から外れておりました。

 しかし、このようなソロイベントでも他プレイヤーが混ざってくる事を考えると、今後の立ち回りを考えないといけませんね。まず危険視するのは、他プレイヤーがイベントフラグを立ててしまうこと。ソシャゲだった時なら気付きにくいイベントフラグでしたが、現実になれば絶対気付くと思うので、ここをどうするか考えておきましょう。

 個人的には他の人全員排除するのが楽なのですが、それを実行するにあたって、ここでの死亡がどのような扱いになるのか確認してからになります。

 

 色々と思考を巡らせていると、強化された聴覚が階段を登る音を聞きつけます。多分樹少年が来たと思いますが、一応警戒しておきましょう。

 

 扉から入ってきたのは、樹少年──いや、少女でした。

 結構可愛いですね。元がイケメンだからか普通に今どきの女の子って感じがします。

 立ち振る舞いからして男っぽいですけどね。

 

 さて、もう一人が来るのを待って、それから今起きていることを説明しましょうか。

 

(少女説明中)

 

 一連の説明が終わった頃に、給水塔の上からウィードが降りてきた。恐らくずっと寝ていたのだろう。

 

「……グルル。俺の昼寝の邪魔をする奴は誰だ?」

「アタシ」

 

 テンプレみたいな会話をするウィードが少し笑えますね。

 ここら辺の会話はゲームではテンプレのものであり、ある程度キャラクターを統一化されているので、固定されます。どうやらここはゲームの通りになっているようです。

 恐らく、リンクが切れた状態でプレイヤーと出会っていない従魔は、特殊な状態になっているのだと思います。元よりゲートからこちらの世界に来ている従魔が、更にイベントを介して肉体を別の器に入れているのですから、多分記憶の一時的な喪失が発生しているのでしょう。

 そうじゃないと、他のヤンデレ従魔とかがいる場合世界が壊れますからね。

 

 ウィードも、アタシの姿を見て徐々に記憶が戻ってきているようですね。執着心からか、顔が赤くなってきています。

 

「ふぅん……龍の俺を見てビビんないのかお前。おもしれぇ」

 

 それでも、今現在の状況を見てか、記憶を取り戻し切れていないのか、セリフが続きます。

 

「お前、今日から俺の女な」

「はぁ? あんたがアタシの従魔でしょ? 忘れないでよ」

 

 トドメのセリフを刺すと、ウィードはパッと離れました。くるりと背を向けます。

 

「ふん、そう言ってられるのも今のうちだ。龍は自分のモノに執着するからな」

 

 ……完全に記憶を取り戻したようですね。アタシに言外に後でコンタクトを取りに行くことを伝えてきました。

 返事をすることも無く、アタシは他のプレイヤーに向き合います。

 

「……まあ、こんなふうに、出会いイベントが発生するから。あとは上手いこと出会ってイベント起こして好感度稼ぐといいよ」

 

 出来れば、これで皆好感度稼ぎに邁進してくれればいいんですけどね。そうはいかないでしょう。

 

 さて、他のプレイヤーが屋上から出ていった後。アタシはしばらく屋上から動かずにぼんやりとしておきます。

 すると、扉が開く音が聞こえ、中からはウィードが出てきます。

 

「おっす」

「…………おい、これはどういうことだ?」

 

 誰も彼もがアタシに聞いてくるところに、なんだか不安が出てきます。嘘を吐かれているとは思わないんでしょうか。

 

「これは従魔の世界だよ。ウィードも知っているでしょ?」

「……ゲートのこっち側なのか?」

 

 こっち側というのは、通常従魔が存在するゲートの向こう側の事です。ウィードはリミテッド従魔では無いので、こっち側、つまりゲートの向こう側の世界に来たのかと聞いている訳ですね。

 

「いんや。違うよ。ここはちっぽけな世界であり、ゲートの向こう側ではない」

 

 それは事実です。従魔クオリアの世界は、クオリアが作り出した、言うなれば彼女だけの空間に等しいです。ちょっとした神様の作った世界とか聖域とか、そんなイメージです。

 

 もちろんクオリアは神様では無いので、作った世界も地球とか、第一部の舞台である元いた場所と比べれば、非常にお粗末なものです。物質はともかく、人間は形が同じなだけの不完全なものであり、不気味な世界ですからね。

 

 いずれは人と見分けのつかない哲学ゾンビが完成すると思いますが、現時点ではそこまで精巧なものは作れないのでしょう。

 

 さて、そんな哲学ゾンビがいる世界で、どうやって好感度イベントを稼ぐかですが、このイベントでは、プレイヤーも戦闘が可能になるという所にあります。

 例えば、ウィードなら不良キャラという設定が付いているので、場所や人を選んで行動すると、意図的にイベントを引き起こせるのです。

 要は、相手の行動プログラムに引っかかるようにこちらが動けば、ちゃんとそれらしいシーンを作れるという事です。

 

 屋上から飛び降りて一階の校舎裏へウィードを連れて行きます。

 そこには不良という役割を与えられた哲学ゾンビがおり、同じような姿のウィードと、それなりにいい女になっているアタシが目に入ります。すると。

 

「おいおい、いい女連れているじゃねえかよ。俺達にもちょっと味見させてくれよ」

 

 不良ゾンビ共が立ち上がってくる訳ですね。

 

「グルッ!? おい、いきなり飛び降りたらなんでこんなのに引っかかってるんだ!?」

「そういう世界だよ。ここは。百聞は一見にしかずって言うだろ?」

「グルル……もう少し理知的に会話しろよ」

 

 野生ドラゴンに突飛な行動を咎められてしまいました。

 まあ、そんな会話も彼等のプログラムには引っかからないので、普通に襲いかかってきます。

 

 戦闘開始です。

 

 プレイヤーは通常攻撃か防御位しか選択できないので、防御を選択しましょう。

 迫り来る不良共相手に半身になって構えつつ下がります。

 

「グルルオオオオ!!!」

 

 その間にウィードが入ってきて、素早く不良共をノックアウトしていきます。

 ちなみに、現在のウィードは龍種ではありますが、厳密に言うと従魔では無いので、龍種覚醒のようなアビリティは全部発生しません。その代わり、ステータスも著しく落ちていますが、問題無いでしょう。

 

 余程運が悪くない限り、序盤のイベントで負けることは無いので。

 

 戦闘終了です。一応これで好感度は稼げているはずなので、次に向かいましょう。

 近くにあるのはゴミ捨て場ですかね。

 

「おい! 待て!」

 

 ウィードがアタシの後を追いかけてきます。この調子でどんどんイベントを進めましょう。

 

 

 

 

 数分後、学校中の不良共をあっという間に片付けたウィードがアタシの胸ぐらを掴んできます。

 

「グルル……お前は勝手に動くな!」

 

 もうこれはメロメロですね。冗談ですけど。

 とりあえず、ウィードがアタシにくっ付いて離れないようになったので、一定の好感度は稼げたみたいです。これ以上好感度を稼ぐ必要はありません。

 

 尻尾を腰に巻き付けられ動けなくされましたが、ウィードの好感度稼ぎはこれで終了なので、次に向かいましょう。

 自力で尻尾から脱出したら、ウィードに向かって言います。

 

「次は保健室に向かうから、五分後位に追いかけてきてね。大丈夫。次は戦闘じゃないよ」

 

 ノーソを回収しに行きます。

 コンセプトがはっきりしている従魔のノーソは、役割が被っても病弱キャラにしかなれないので、学園にいるなら保健室で出会えます。

 

「おいっすー」

 

 ここにいると確信を持ったまま保健室の扉を開くと、金髪の女の子と、学ランのナヨナヨした感じの男子生徒がいました。

 見た目が変わっていますが、陰湿な雰囲気と、こちらを見て表情を変える男子生徒の様子から、彼がノーソでしょう。

 

 スっと腕を開いてウェルカムスタイル。

 

「あるじさまぁ!」

「おお、いい子いい子」

 

 どうやら何処かでアタシを見つけていたらしく、記憶があるみたいですね。

 接触しようが何しようがアビリティが切れているので、ノーソには触れたい放題です。

 

 ノーソが満足するまで抱き合っていると、樹少女が空気を読んだのかいなくなっておりました。

 

 ウィードも保健室にやって来て、これでシルクを回収すればイベントは終了です。

 ノーソは好感度イベントを一つも解放していないので、これ以上下手に稼ぐとイベントスキップされてしまいます。

 よって後は放置です。捕まえた魚に餌は与えない。

 

「ウヘヘ……ウェヘヘヘヘヘヘ!!!」

 

 少し好感度が高過ぎるような気もしますが。

 

 触れても大丈夫だと知ってからは、ノーソがベッタリとくっ付いて離れません。ウィードもさり気なく腰に尻尾を回してきている辺り、アタシはモテモテですね。

 

「お昼になったら一旦屋上で集まるから、ノーソは植物園か校舎裏の森でシルクを探してきてくれない?」

 

 シルクは好感度イベントも大した奴がないのですっ飛ばしても問題は無いですから、後はシルクの好感度をMAXにしながら、この世界を攻略していきましょう。

 

 屋上に戻り、皆を待っておきます。

 ウィードにも学園の外を探索してもらいたかったのですが、離れてくれなかったので、仕方ないと放置しましょう。

 

 屋上で待ち続けていると、樹少女がピクシーと手を繋いで戻ってきました。

 

 このゲーム、一応健全ゲームなので、好感度稼ぎ切っても、プラトニックラブな感じでイベントは終わります。今回のイベントも、好感度をMAXまで稼ぎ切れば、恋愛シュミレーションゲーム同様に、従魔達と付き合えて、幸せなイベント期間を過ごすことだって可能です。

 ですが、初日で好感度稼ぎ切るなんて有り得ないはずなんですが……?

 

「は? 樹ちゃんなんで手繋いでんの?」

「そりゃあ……告白されたら断れないし」

 

 告白イベントまで済ませてきたみたいです。イズムパラフィリアはコール状態の従魔は時間経過でも好感度が稼げますが、微々たるものです。同じ時間を過ごしているはずのウィードですら告白イベントまでは行っていないので、普通なら、そんなに好感度が高くならないはずなのですが。

 過ごした時間や会話の違いかと思い、柊菜の方を見ます。

 

 エンドロッカスとも、チェリーミートとも手を繋いではいません。

 

 ……このイベントで好感度を稼ぎ過ぎると、好感度イベントがスキップされてしまうという問題があります。ゲームだったら、回想でイベントを見直せますし、ステータスから、追加されたアビリティやスキルを確認出来るのですが、現実となった今では、現状確認手段が無いので、樹少女には悪いことをしてしまったかもしれません。

 

 更に言えば、このイベントで、従魔の好感度をMAXまで稼いだ後に、別の従魔の好感度を稼ぐと、ヤンデレエンドに繋がります。簡単に言うと、刺されて死にます。

 最終日に発生するので、樹少女はピクシーと一緒にいてリビングエッジの好感度稼ぎを行わないように言っておくべきでしょうか。

 

 いえ、それよりも、この世界で死んだ場合の処理がどうなるかを考えましょう。ネタバレは極力避けて、樹少女が安全に元の世界に戻れるのかどうかだけ探っておくことにします。

 

 出来れば大人しくこのまま好感度稼ぎだけをしてくれるといいんですけどね。

 大丈夫、ええ、きっと大丈夫でしょう。

 

 

・・・・・

 

 

 とりあえず彼等を置いといて、次の行動を決めましょう。

 シルクの好感度を稼ぎつつ、このイベントは死亡エンドでも帰れるのか、検証する必要がありますね。

 樹少女が下手に好感度を稼ぎ過ぎたので、とりあえず生存を最優先に行動しましょう。

 

 思い付く手段としては、勇者を使います。

 

 そもそも、第一部の世界における勇者という存在は、魔王への対抗戦力というものではありません。

 

 厳密に言うと、魔王を含む従魔への対抗戦力として作り上げられた、召喚プログラムの事を勇者と言います。

 

 このゲーム、イズムパラフィリアは、従魔と召喚士の物語です。必然的に、最強の存在は従魔、そしてそれらを使役する召喚士ということになります。

 

 魔術師は、自分達を地脈に適合させる事で、星という強大な存在から力を借りて対抗する道であり、剣士は自己鍛錬と武器で強さを追求した、ぶっちゃけ敗北者です。

 勇者もまた、災害のような従魔を模倣して作り上げた仕組みであり、従魔のゲートに似通った召喚術を使用して異世界から人間を呼び寄せています。

 

 彼らは、従魔のゲートの仕組みを真似して、死んでもゲートの向こうで復活出来るという現象を作りました。

 勇者は、王国が召喚を保持している間は、死んでも王国で復活が可能で、何度でも挑戦と進化を繰り返すようにさせた存在の事を言います。

 

 とはいえ、ゲートは本来人間を通さないものなので、勇者と従魔は似て異なるものでしかありません。

 具体的にいえば、勇者は王国が首輪を付けた状態の人間です。召喚状態を切ったとしても、召喚された人は、同じ世界に留まり続け、死んだら復活出来なくなるようになります。

 

 従魔は、リミテッドキャラ以外には『手放す』という選択を取ることが可能です。従魔を手放すと、従魔はいなくなり、多少のアイテムだけが残るという、ゲームでは使われなかったシステムです。

 死ねば一回で元の世界に戻される従魔と、死んでも戻されず、戦いを強要される奴隷の勇者。これは全くの別物だということです。

 

 今回は、その勇者の死んでも復活出来るという仕組みを利用して、クオリアの世界とファーストスタートでの死亡処理がどのようになるかを確かめようと思います。

 

「…………ウィード」

「グルル……これは、あの男のやった事だろうな」

「ノーマネーボトムズって言ってたっけか。エンドだかローコスだか知らないけど、随分好き勝手にやってるみたいだね」

 

 ふと血の匂いを感じてとある一室に向かいましたが、そこは既に手遅れでした。

 思わずため息が出ます。

 

「……ったく。なんであるがままの世界を受け入れられないんだろうかね」

 

 自分の思い通りにいかないから、めちゃくちゃにするのでしょう。

 アタシもまた、クオリアの世界を壊したであろう存在への怒りが湧いていますね。

 

 とはいえ、それは無視していい感情です。ある程度、今後の目的も決まったので、屋上へ戻ることにしましょう。

 

 屋上へ来ました。樹少女や、柊菜はどこかへ行ってしまったようです。

 里香だけが残っています。

 

「……何よ?」

「もう少ししたら、里香に頼みたいことがある」

 

 何も初日からイベントをプレイ出来ないというのは可哀想なので、折り返し地点位の日数までは待つことにしました。

 

「……返事はおっけーにしとくわ」

「何も聞いてないのに?」

「別に、私は他の二人と違って、アンタの事をそれなりに評価してるの。何も分からない世界にいきなり放り出されて、パニックにもならないで上手くやってんだから、頼まれたこと位は手伝うつもりなだけ」

「分からないって程でもないよ。確実性が無いだけだ」

 

 ゲームとしてだけど、知識はあるのです。

 

「……一度も死なずにやってるだけ、充分よ」

 

 どうやら里香は死んだ経験があるようですね。以前も匂わせてましたので、知っていましたが。

 これなら頼んでも、大きな問題にはならないでしょう。

 今日はノーソがシルクを連れてくるまで、他にやる事も無いので、今後の予定でも考えておくことにしましょう。

 

 その後は、帰ってきた樹少女が泣いたりと、少しのアクシデントがありましたが、特にイベントに関わりは無かったです。

 

 放課後。樹少女も里香も帰り、アタシはノーソが戻ってくるのを待つだけになりました。

 

 あれほど広い敷地を一人で探させるのは、キツい仕事だったと思うので、次からはそんな無茶をさせないようにしようと思うくらいに帰ってきませんでした。

 

「あるじさま、ようやく見つけてきましたよ……」

 

 あちこちに葉っぱやら枝をくっ付けたノーソが戻ってきました。今夜は同じ家に帰るつもりなので、いっぱい労うことにしましょう。

 放課後なので、シルクの好感度稼ぎも出来ないでしょうし。

 

「失礼しまーす……。あ、いた」

 

 屋上の扉が控えめに開かれました。顔を覗かせたのは柊菜です。

 見覚えのないだろう男子生徒が混ざっているのですが、ちらりと一瞥しただけで、柊菜は無視して進める事にしたようです。

 

「えっと、スリープさん。聞きたい事があります」

「……どうぞー」

「このイベントっていうのは、本当に恋愛が目的なんですか?」

 

 ああ、気付きましたね。一番最初に気付くとは思いましたが、気付かれたら面倒な人に気付かれました。

 こんな質問をするってことは、他に異常を見つけたとしか思えないですし、ほぼ確定で哲学ゾンビ共に気付いたことでしょう。

 

「イベントの主目的は好感度稼ぎのイベントだよ。それに合わせて幾つか取り組みもあるけれど、それら全ては無視してもいいはずだし」

「そう、ですか。無視してもいいという事は、それらを調べても良いという事ですよね?」

 

 返事をするつもりはありませんでした。何を言ったところで聞かないでしょうし、他者の行動を束縛することは、アタシにとっても好まない事ですから。

 

 ただまあ、ひとつ言えるとしたら。

 

「知らなくてもいい事と言うのが世界にはあるし、わざわざ危険を冒す必要は無いと思うよ。まあ、柊菜のやりたいようにやればいいさ」

 

 最低限、死種にならないように立ち回りはしておきます。

 

「それと、必要な情報は学園で集められるよ。街には、好感度用のイベントか、事実を知ったプレイヤーがどのルートを選ぶかで、必要な物が変わってくるから」

 

 ちなみに、世界を破壊する選択を選ぶと、街を破壊するために、研究所のエネルギーを爆発に転用する必要があります。

 まあ、流石にそこまでしようとするなら、止めますけどね。

 

・・・・・

 

 翌日。里香が樹少女の水晶を使って、こちらにメッセージを送ってきました。

 内容は、樹少女の下着が無いというものでした。

 そのまま、里香には樹少女の水晶を持っていて貰いましょう。後で使う事になりますから。

 

 さて、樹少女と二人でショッピングです。女装経験まではアタシも持っていないので、これを機に色々経験を積んでおきましょう。

 樹少女は、昨日柊菜と何かしたのか、眠そうな様子が見受けられます。ついでに考え事でもあるのか大人しいです。

 アタシがわざわざ聞き出す必要も無いので、放っておきながら買い物を進めましょう。

 

 死亡処理がどのようになるかの検証ですが、勇者を殺した場合どうなるかが分かれば問題はありません。つまり、里香には死んでもらうのですが、そこは了承して貰えたのでいいでしょう。

 問題は、里香を殺した後、どんな処理が起こるのかの観測方法が無いという事です。ここの問題点は、召喚を利用しようと思います。

 

 そもそもこのイベントは、地獄属性と神経属性の無効持ちは参加することが出来ず、また、好感度が開始前の段階でMAXになっていると、参加出来ない状態になります。

 それらの従魔はどのような扱いになるかというと、ゲーム上では、プレイヤーに、不参加従魔の能力がボーナスで追加されます。要は繋がりが残された状態になっているということですね。

 イベント開始後に召喚を行った場合も、同様の処理が発生するという訳です。転校生が来ることは無いということですね。

 

 これらを利用して、まずは、元の世界に従魔を召喚します。石は今回のイベントの初回クリアで既に充分稼いでおります。

 樹少女とのショッピングが終わったら、早速召喚の準備に入りましょう。

 

 

 

 

 樹少女をアドバイスに見せかけた適当な言葉で煙に巻いた後で、一度開始地点である自宅に戻ってきました。

 ここにはシルクとノーソとウィードも居ます。

 

「それで? 僕達の内誰かが死ねば戻れるのかどうか調べられると思うんですけど」

「ロストしたら嫌じゃん?」

 

 ノーソの指摘も、リスクがあるのでやりたくないんですよね。最初に思いついたのは、シルクをぶち殺して元の世界に戻っているかどうかの確認をするというものだったのですが、それはロストした場合の傷が大きすぎるので不採用となりました。

 戦力も拡充出来るし、確実な手段として、召喚と勇者殺害をすることにしたので。

 勇者は殺しても死なないですからね。最悪王国で復活しますし。

 

 アタシが欲しい従魔としては、こちらに干渉、もしくは何らかの手段で接触が可能な従魔ですかね。これで向こう側に役に立たない従魔が来てたら、シルクを送り込む事になりますからね。最低でも意思疎通が可能で知性のある従魔でなくてはいけません。

 

 ついでに言うなら、サポート系の従魔が欲しいですね。スキル屋がいない現状、サポートスキル持ちの従魔は貴重になりますから。

 本当に、スキル屋の真似事でも出来そうな従魔がいませんかね。

 

「『召喚』」

 

 召喚石を放り投げて、召喚を行います。今回はこの世界に召喚される訳じゃないので、発生した光の帯は虚空へと流れて消えていきます。

 

 ……。

 

 …………あー、サポート系の従魔が出てくれましたね。望んだ通りの商人系従魔でもあります。会話も可能でしょう。アタシも結構好きな従魔が出てくれました。

 でも、ちょっと欲しいのとは別でしたね……。いや、いつかは欲しい従魔なので、今来てくれたのはありがたいのですが、このタイミングだったらもっと別の従魔が来てくれた方がもっと嬉しかったなーっていう。

 

 いえ、文句はやめましょう。来てくれた方が嬉しいのですし、当分の間は無駄になるだろうけど、後で絶対役に立つんですから。

 

 しかし、樹少女と話したことで何か引っ張られたんでしょうかね。今回の従魔は普通の人型従魔です。特徴はヘドニスト。パラフィリアにはあまり関係のない従魔が出てくれました。

 

 早くイベントが終わってくれないかと思いますね。仕込みは終わったので、アタシも情報集めとして、街に出かけることにしました。

 

 ノーソ、シルク、ウィードを引き連れて、街を歩きます。目的地は、街の外れ。

 

「いやあ、デートみたいですね!」

 

 男子生徒となったノーソが腕を組んでくる。接触できる間にベタベタしようと思っているのか、彼はめちゃくちゃスキンシップが激しいです。

 

「僕は、以前話した通り、ちっぽけな村の疫病の贄として捧げられた存在ですから、その場に居るだけで疫病と呪いを撒き散らすんですよね。だから、こうして誰かに触られるなんて滅多に無いですし」

「召喚した当日にアタシ触ったよね?」

「だからです。こんな僕にも怖気付いたりせずに、触れてくれた人、主様が初めてだったんです」

 

 ノーソの好感度イベントは、看病系が多いので、ゲームだとガッツリ触れ合ってたと思うんですけど。

 

「さて、樹少女がクオリアを引き付けている間に、こっちは探索と行きましょうかね」

 

 引っ付いてくるノーソは無視して、街をガンガン進みます。同時に、ノーソの好感度もなんか上がっていきます。デート中ですからね。他にも従魔いるんだけど。

 向かう先は町外れです。建物もほとんど無い、人もいないような山間部に向かいます。

 山の中をウィードの力を使って道を開けつつ、洞窟へ向かいます。鉄線で立ち入り禁止の標識がありますが、そんなもの無視して入りましょう。

 ここへ至る道はいくつかありますが、その中でも一番簡単な方法が、街から歩いて行くことです。まあ、見つけられるのなら、という注釈が付きますが。

 

 奥へ進めば、未だ使われていそうな綺麗なリノリウムの床の通路になります。ここが、あの哲学ゾンビ共の生産工場です。

 生産方法としては、一枚一枚層を重ねて人を作っていくスタイルです。凄い手間がかかると思うのですが、大きな機械一つで人を作れる分、工場みたいに大きな施設を作らずに済むからじゃないですかね。

 

「……グルルルルル」

「悪趣味ですねぇ」

「まあ、こういうのがイズムパラフィリアって奴だからね」

 

 アタシとしては見慣れた光景ですが、自然派のウィードは不機嫌そうに唸り、ノーソは悪趣味だと言っておきながら、どこも引いたような様子はありませんでした。

 今回のイベントでは、これを壊したり、街を破壊することはしません。まだクオリアイベントにはやりたいことがいっぱいあるので、街の破壊や生産工場に攻撃をするのはやめましょう。

 ここに来たのは、幾つかの情報を得る為です。ゲーム時代の情報なら頭に入っておりますが、それ以外の知識は無いので、ここで、現実との差異がどれくらいあるか調べましょう。

 

 人間プリンターを尻目に、更に奥へ進みます。向かう先はクオリアが完全な人間を作ろうとしている特別な部屋です。あそこに重要な情報が置いてありますので。

 

 目的の部屋を見つけ、扉を開けます。暗い部屋に、培養器のようなでかい円筒形の水槽が青い光を放っていますね。これがクオリアの作りたかったものです。

 

「これは……」

 

 そこに居たのはアタシでした。いや、正しく言えば、TSする前の自分。現実世界やら第一部の世界にいた頃のスリープの肉体です。なんでこれがここにあるのでしょうか?

 

 ウィードはこれを見て少し驚いた表情を見せたものの、それ以降は目を固く閉じて部屋の扉部分で動かなくなりました。ノーソは凄いいやらしくニッコォ……。とでも言うような顔をしています。良いモノを見つけたと言わんばかりです。

 しかし、何かを喋り出す前に、ウィードの尻尾に叩かれて、しぶしぶ引っ込みました。ウィードの隣に並んで、静かに部屋を眺めるだけです。

 

 二人の内情は放っておきましょう。ある程度察することも出来ますし、自分のやりたいことを優先せねばなりません。

 近くにあるコンソール機械を触ります。IDとパスワードを打ち込んで、するりとロックを通りました。

 

 適当にフォルダを探して、それらしいタイトルを見つけて読みます。

 

「…………ふーん」

「何か見つかりましたか?」

「いーや。よく分かんなかったね」

 

 時間もありませんし、これ以上の情報も見つからなさそうですし、電源を落として部屋を後にします。

 

 大した情報はありませんでした。アタシが見つけたのは、ただの恋文ですね。宛先も無い。誰に向けたのかも分からない。まるでこの世界には存在しないものにでも向けて書いたような文章でした。

 水槽の中にいる人にでも向けて書いたんでしょうね。

 

「ちょっと目的を変更しようかな」

「一体何をするんですか?」

「大筋は変えるつもりは無かったんだけどね。少し欲が出てきたよ」

 

 ウィードとノーソを見ます。二人とも、こちらを見て首を傾げていますね。

 

「悪いけど、柊菜と樹少女には、早めにご退場願おうか」

 

 

 

 翌日。早速里香を呼び出し、街を歩きます。

 

「それで、話ってのは何よ?」

「死んで貰えないかな?」

 

 単刀直入に言うと、里香は少し立ち止まり、また何も無かったように歩き出しました。

 

「予想とは違ったけど、そんなことでいいの? アンタ、この世界がゲームだって言うんなら、勇者の事も知ってるよね?」

「うん。だからこそだよ。勇者は死んでも生き返る。だからこそ、この世界で死ねば、ただ元の世界に戻れるのか、死んでしまうのかを知りたいんだ」

 

 しかし、分かってはいましたが、里香は死ぬことに対してそこまで強い忌避感を持っている訳じゃないようですね。死んでも生き返れるということに、僅かに驚いた様子はありましたが、それ以外はなんてことないように言ってます。

 

 これは、何度死んだのかも分かりませんね。勇者アヤナがかなり弱い状態なので、それに伴う苦労は多かったと思われます。二人勇者がいれば、出来ることは増えますが、同時に負担も減るので、それを乗り越えるだけの成長も減りますからね。

 

 里香はともかく、アヤナだけは原作と同じ程度の強さにはなってもらわないと困りますね。これも後でどうするか考えて起きましょう。

 

「……ふーん。まあいいわ。この世界のくだらなさも理解出来たし、アヤナが今どうなっているのかも気になってた所だしね。死ねば戻れるんでしょ? なら死んであげる」

「多分、意識が無い状態で放置されていると思う。あっちで目が覚めたら、アタシが召喚した従魔が一体増えているはずだから、そいつに何か伝えてくれるとありがたい。何もなかった場合、死んだと判断するからよろしく」

「本当にただ死ぬだけでいいのね……」

 

 里香は、自分の身体をぺたぺたと触り、これともお別れかーと呟いています。

 最期の晩餐というわけではありませんが、このまま里香を連れて、少しだけデートをします。

 

「そういえば、アタシの従魔達が、デートすると凄い疲れた顔するんだよね。ちょっと女の子目線で色々教えてよ」

「えー? 貸し一ね。戻ったらなんか言うこと聞いてもらうから」

 

 人間相手の好感度の稼ぎ方なんて知らないので、適当に建物なりなんなりを見て回ります。

 結果は特に不評ということも無く、無難な評価を貰えましたね。

 ただ、この姿を見て、ウィードが頭を抱えていたのが特徴的でした。

 

 思ったよりも時間を使ったので、ノーソに少しだけ時間を稼ぐように言って、下手なフラグを引っ掛けないように、里香の部屋で殺します。

 

 しかし、既に一度殺した経験があるからか、そこまで罪悪感も忌避感も感じませんでしたね。

 

 手早く作業を済ませて、部屋を後にします。

 出会ってからずっと一緒に行動しているドラゴンに呼びかけます。

 

「ウィード」

「……グルル」

 

 丁度いい感じにウィードが成長しているので、ここは新しいウィードのスキルを使いましょう。

 クオリアを相手に戦って勝つには、少々準備不足ですからね。アビリティは使えずともスキルは打てるので、そっちで対応しましょうか。

 さて、明日が最終日です。

 

 

 

 最終日、既に他のプレイヤーは行動に移っているらしく、出遅れたと少し急ぎ気味で樹少女と柊菜を追いかけます。

 朝には、あちら側に召喚した従魔より、里香が上手く戻れたということが判明したので、そこが分かるまでに時間がかかったせいで出遅れましたね。

 まあ、ここは必要な所なので、経費として置いておきましょう。

 

 一触即発の雰囲気な生徒会室に突入すると同時に、ウィードがスキルを発動します。

 高ステータスを誇る龍種だとしても、本業じゃない魔法系スキルです。その名も『地殻鳴動』大地を揺らしたり隆起させて攻撃する、ウィードが持つ権能そのものをスキルにさせたような技です。

 

 一気に柊菜とクオリアに攻撃を与えます。柊菜には口で説明するよりも強引にやった方がいいと判断しての行動です。後々殴られようが、今はこれを止めるのが先決です。

 

 多少無理やりに動いたせいで、樹少女と喧嘩することになりましたが、上手く二人を排除することに成功しました。

 

 警戒は解きません。クオリアはそう簡単に殺せるような従魔ではないですから。

 

「そろそろ出てきたら?」

「……ふふっ。ずっとずっと会いたいと思っておりましたよ。私のマスター」

 

 ずるりと空間が溶けて歪み、形を作り出してクオリアが現れます。

 元々別の肉体に入り込んでいただけなので、倒せていないのは読めていました。あの場で確認したものからすれば、おそらく敵対することは無いとは思いますが。

 

 いえ、それ以上に柊菜が問題ですね。予想以上に従魔から影響を受けていました。

 これは自力でどうにかする事を祈るしかないでしょうね。好感度の低い男からの忠告よりも従魔を優先するのは当たり前でしょうし。

 まさか、ほとんど情報もないままにクオリアへ突貫するとは思いませんでした。

 

「……色々話したいことはあるけど、アタシもさっさと戻んなきゃいけないから、手短に聞くよ」

「なんなりと聞いてください。……と、言いたいところなのですが、私からマスターに話せる事はあまりないです」

「はぁ?」

 

 ペコリと下げた頭に対して、幾つかの思考が巡っていきます。確証は無いのですが、クオリアが知らない、もしくは言えないとしたら、それはより上位の存在が関係していることでしょう。

 

「ひとつ言わせて頂くと、記憶を持っているのは、私のような異界に住む存在だけです。それも、大きな影響を与えない範囲でしかないですが」

「……ふーん。一応、ありがたい情報としてもらっておくよ」

 

 用は、ゲームの舞台となった世界にいないリミテッド従魔だけが記憶を持っているということでしょう。

 

「それ以上を知りたいのであれば、私を召喚してくださいね」

「うん? 教えることは禁止されてるんじゃないの?」

「いえ、単純に『所持していない従魔から多くの重要な情報を貰うのは都合上よろしくない』とのことです」

 

 あー……だいたいそれで読めましたね。どうしてそうなったかまでは知りませんが、このアタシの異世界転移について知っていそうな黒幕だけは見つかりました。

 

 龍種星十六【神龍ロードアルカナム】龍種における最強の存在が、今回の件の犯人でしょうね。能力的には機種も候補だったのですが、それも無くなりました。余計な情報を残しいているところに機種は関係ないと判断できますね。

 

 まあ、ここまで情報を手に入れられただけでも良いとしましょう。柊菜と樹のアフターケアをするためにさっさとこの世界からアタシもおさらばすることにしましょう。

 

「じゃあ、アタシは帰るから」

「マスター」

 

 ウィードが地殻鳴動を発動する僅かな猶予。その瞬間に、お茶目に笑ったクオリアが言い残しました。

 

私達(リミテッド従魔)は、既にマスターへの召喚に応じる事が出来ますよ?」

 

 記憶を持っているという時点で、その事に可能性があると想像していたのですが、ここでクオリアから太鼓判が押されました。

 ニヤリと笑って返しておきましょう。

 

「そんなの知ってたさ」

 

 既に先日召喚に成功しているんですよ。嬉しいことは嬉しいですがね。

 

 ここまでを最後に、意識が暗転しました。

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