イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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文量少なめです。新章なのでそこまで新しい情報も無いです。

12/8(火)ご指摘のあった分かりにくい文章の変更(流れそのものの変化はありません)


王都編 それぞれの道
48話 亀裂


 穏やかな昼下がりの中、林に一陣の風が吹く。

 空は吸い込まれるように青く、天頂には深い海の底を思わせるような黒さが青の向こう側にあった。

 地球となんら変わらないような空だが、そこには一つだけ違うところがあった。巨木とその周辺の大地がまるごと天空に浮かんでおり、時折陽光を反射して薄紫色の膜のようなものを見せていた。

 

 空を見上げていた魔法使いのミルミルは、僅かに瞳に寂しそうな色を乗せたが、すぐに顔を正面に向けた。まるで、想いを振り切るかのように。

 周囲への警戒もまばらに、黙々と歩みを進めていた一向は、林を抜けた先にある光景を目の当たりにして、足を止めた。

 

「……着いたわね。ここが、目的地である王国よ」

 

 学生服のままである勇者アヤナが誇らしげに言う。

 

 周囲一帯が開けた土地であり、僅かな起伏から丘だと分かるような場所の頂点に、威風堂々と巨大な城と壁がそこにはあった。

 

「ファンタジー的には見映えはいいと思うっすけど、どうみても攻めやすそうな土地じゃないっすか?」

「生憎と、この世界じゃあ人間の敵はモンスターなのよ。食物連鎖的にも、身を隠しにくい平地にモンスターが集まる事は少ないからこうなったんじゃない?」

 

 早速地球人観点から考察を始める樹少年。それに里香が答える。

 

 それなりに長い道のりだったが、俺達は途中で更に異世界に行っていたので、一番歩き通したのはアヤナだったりする。眠りについた俺達をまとめて運んでいたのである。

 

「やっと、たどり着きましたね。それで、ここには何があるんですか?」

 

 柔らかな笑顔で俺に声をかけてくる柊菜。それに対して、少しだけ微妙な気分になりながらも返事をする。

 

「……ここでは、ギルドイベントと、レイドクエストが解禁されるはずだよ」

 

 道中で色々邪魔は入ったが、ゲームでのイズムパラフィリアでは、第三章にあたるのが、ここ王国である。

 俺としては、あまり関わり合いたくはないような場所でもある。だが、ここで解禁されるシステムは結構ありがたいものが多いので、行かないという選択はない。

 

 ようやく見えた目的地に、騒がしく歩きながら、俺達は王国へと向かったのだった。

 

 

 

 

 イベント終了後、俺は他のメンバーに対して行動した理由の説明と、必要なら謝罪をするつもりであった。

 しかし、俺が得た情報というのは、柊菜や樹少年にとっては未知の情報も多く、それらも相まって、今回の件は不問に終わっている。

 

「……エー君がロストしていないだけ、ありがたいですから。それに、早めに出る為に必要だったことですし」

 

 意外なほどに穏やかだった柊菜の言い分がこれである。それ以降、柊菜は自分の仲間にべったりとくっついている。精神の支柱である割合がより強くなったように思える。

 

 アヤナは里香から話を聞いており、召喚士じゃないからこそ自分は巻き込まれなかったのだなという納得と合わせて「ふーん」の一言だけだった。里香も同様の反応であった。

 

 逆に問題があったのは樹少年の方だった。まず、後遺症として、所作が女々しいものになっていた。履いてもいないスカートを巻き込むように座ったり、膝は開かないようにと、無意識に立ち回っていた。それも数日のことだったが。そして、今回決定的な決裂をした俺達だが、そこは樹少年がなんとか飲み込むことで一応の解決をした。

 とはいえ、思想の大きな違いもあって、未だに樹少年とはギクシャクしているというか、樹少年がやや避け気味になっている。最低限の連携は取れるので俺としてはそれで良いような気がするので、そこは放置したままである。

 

 というか、俺自身にはなにも引っ掛かる事はないので、歩みよりも何もあったものじゃないという。冗談を言っても突っ込み一つキレがないので、それすら言うことは無くなった。

 話し合いでもすれば良いとは思うのだが、俺の主張は話した通りであり、樹少年がそこの何を受け入れられないのかを教えて貰わねば改善も出来ないので、これ以上はお手上げなのである。

 

「ここ王国は、私達勇者を呼び出した元凶といっても良い場所よ。今まで私達が全員で行動していたのは、貴方達が勇者かどうかを確かめる為でもあるのよね」

 

 城下町への入り口は、アヤナと里香が顔パスで入れてくれた。そして、街の往来の邪魔にならないところまで進んだ所で、アヤナは振り返った。

 

「……で、どうする?」

 

 問答無用で王と謁見とかにはならないらしい。アポもないし妥当か。

 

「俺は遠慮しておくよ。国の王様とか会いたくも無い」

 

 率先して不参加の意思を表明する。生憎と、ここに来るまでに得た情報から、王と出会った所でなんの意味も無いことを把握している。

 

「……えっと、俺は会えるなら会っておきたいっすね。あ、でも用事もあるんだけど」

「用事? イツキってここに来るの初めてだよね?」

「まあ、そうっすけど……」

 

 樹少年の言葉に里香が反応した。

 歯切れの悪い樹少年。これは溜まっているということなのだろうか。

 一応助け船を出しておく。

 

「買い物にせよなんにせよ、やりたいことくらいあるでしょ。久々の文明的な場所だからね」

「ふーん……それもそうね。じゃあ城に行く人と行かない人で別れましょうか」

「……まあ、いいっすよ。それで」

 

 釈然としない様子の樹少年の顔的に、風俗へ行くつもりではなかったようだ。なんかごめんな。

 王城へ行くメンバーは樹少年と、柊菜、里香の召喚士組になった。俺はウィードだけを召喚したまま、トラスを肩車して勇者アヤナと街を歩くことになった。

 

「ちなみに、王様に会いたくない理由って聞ける?」

「ん? ……ここの王は本当に面倒臭いからな。王が法の状態で王様に会いたいと思う人がいるとは思わないね」

 

 里香が少し遠慮がちに聞いてくる。

 イズムパラフィリアに神は存在しない。厳密に言えば、神と等しい存在やらそれ以上はいるが、従魔として呼び出せるものだ。

 日本、というか世界では、王は神と法の下にあるという思想があったのだが、この世界において、実利無き神の存在は一切認められていない。そもそも思想にすらならなかったのである。

 力こそが全て。そんな思想の世界において、国は民主制になんぞならない。圧倒的な力を持った存在の下へ庇護を求めて人が集まるのだから、民は基本的に王への奉仕者となる。そのいい例がミラージュの支配していた都市ヴエルノーズである。治安滅茶苦茶だが、俺達のような不穏分子相手には、本人が出てきて牽制をしてくるのである。そうして、最低限あの場所はルールが出来ているのだ。

 

 それをより規模を大きく規律を生み出した場所が、ここ王国になる。

 文明的、文化的に成長したこの場所では、王へ反論、敵対的行動の一切は禁止である。やれば殺されるまでだ。

 それって帝国なのでは? と思うところだが、帝国との違いは、別にこの国はさほど大きくないというのが理由になる。

 あくまでも、一都市よりかは大きいが、周囲の国を巻き込んで巨大だと言うわけでもないのである。

 

 ぶっちゃけ、虚勢と意地の国とでも言うべき場所なのだ。ここ王国というのは。

 まず、王は召喚士じゃない。剣士でも、魔法使いでもない。魔法剣士とでも言えば通るような、特化してない器用貧乏な奴である。

 一応国家元首として、国の中では最強である。だが、国民全員に一気に攻められたら死んでしまう。その程度の強さしかないのである。

 

 だからこそ、舐められないように立ち回るしかない。そうして生まれたのが、ここ王国という場所だ。

 国民から反感を買わないように政治は上手く、機嫌を取る。しかし相対した者には絶対者として振る舞う。そんな生き方しか出来ないのである。

 

 これで実力が本物なら、多少の無礼だろうがなんだろうが許したっていいだろう。だが、ここの王はそれが出来ないのだ。

 

 生憎、その在り方は否定する気はないので、こうして変に関わるよりかは、スルーした方が良くなるので、そう立ち回っているだけだ。

 

 ここで王と敵対すれば、王国全てが敵になるのだ。ここに政治はない。ひとつの巨大な生命体みたいなものなのだ。

 

 樹少年と柊菜に関しては、里香が上手くやってくれるだろう。一応この国所属の勇者だし、やり方は知っているはずだ。

 

「それじゃあ、後で樹少年にでもメッセージ送っておくから」

「了解っす!」

 

 とりあえず、謁見をしない俺とアヤナで宿を借りておき、夜にそこで合流することにして、俺たちは別れた。

 

 ひとまず、俺が向かった先は召喚士ギルドだった。ここのギルド長に適当に挨拶だけしておき、所在を明らかにしておくだけ。これで一応、王国で召喚士そのものを敵に回すような出来事が発生すれば、彼らが味方になってくれるだろう。

 

 移動してきた直後というのもあって、今日は依頼を受けないでそのままギルドを後にした。先にやることを全て済ませようということで、宿を借りに足を運んだ。

 

「ところでさ、聞きたいことがあったんだけど」

 

 最低限休憩と食事が出来る宿を探して裏通りを歩く。時間もあってか、人気が無くなったところで、アヤナが切り出してきた。

 

「なんだ?」

「あの時は適当に流したんだけどさ」

 

 そこまで言われた時点で、俺はアヤナの疑問を悟った。

 

「召喚士だけが巻き込まれたっていうのなら、なんでトラスちゃんには意識があったわけ?」

 

 咄嗟の誤魔化しには無理があったようだ。この致命的なミスは言い繕いようがない。

 一応、彼女は自分が俺達召喚士組から見てゲームのキャラとして存在を確認されていることを知っている。だから、はっきりゲームのイベントだと言って良いのだが、それ以外の理由ももしかしたらあるかもしれないので、断言したくなかったのが心情である。

 

「んー。まあ、端的に言えばイベントだからかな」

 

 まあ、聞かれたなら答えるけどさ。

 

「……そういえば、この世界って元はなんのゲームだったの?」

「ソシャゲ」

「そしゃげ?」

「凄く分かりやすく言うと、複製が容易な電子データを利用した高利多売なシステムを組んだ社会的ゲームだよ」

「ふーん?」

「ここで言えば、従魔をお金でランダム購入し、より良い従魔を手に入れた人がゲームの頂点に立てる」

「ゲームなのに、プレイヤーみんなが主役であり最強なんじゃないの?」

「ソーシャルだからね」

 

 実に資本主義的である。社会主義が世界の主流だったら、きっとどれだけ努力しようが貰えるものは皆同じだったんだろうな。それだと絶対課金されないだろうが。

 まあ、無課金プレイヤーには喜ばれるのではないだろうか。

 

 そんな下らない会話へとなり下がった追及を受けつつ、宿を取った。

 

「この後はどうするの? あなたはここの王都も知っているだろうけど、案内する?」

「そうだな。一応お願いしようか」

「それじゃあ決まりね。聞いたわよ。リカと一緒にデートしたそうじゃない。結果は面白味の無いものだったらしいけど。従魔やトラスちゃんを見るに、ああいう子が好みなの?」

 

 ちなみに、里香の身長はかなり小さい。俺と里香とだと、大体二十センチは越えているのではなかろうかというほどに差がある。

 

「ベースの姿に関して俺はあまり要求する項目は多くないんでね」

「ふーん?」

 

 あまり理解していない様子で首を傾げるアヤナ。

 

「外見が良ければ大体それでいいと思うよ」

「うわ、人としてどうかと思う発言だわ」

「でもさ、内面性って外見である程度補正できるよね」

 

 近年嫌われキャラの代名詞たる暴力系やら、昔はギャルゲーなら一人はいたのではないかという電波系ヒロインやら、外見で誤魔化しているキャラって多いと思うのだ。

 可愛ければ個性として認められる性格も、外見が悪かったらヤバイ奴で片付けられるからな。

 

「それもそうね」

 

 これには同意も得られて、満足である。

 それから、アヤナと適当に駄弁りながら街を散策するのであった。

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