そもそも、俺が王都へと来たのは、ギルド対抗戦があるからだ。
ギルド対抗戦とは、ここ王都で発生するメインクエストであり、魔術師ギルド、剣士ギルド、召喚士ギルドで互いの交流として戦闘をする、サブクエスト『ギルドイベント』が開始される最初のクエストなのだ。
これ以降、メインストーリーでギルドが関わってくることはほとんど無く、サブクエスト関連にて、その設定などが掘り下げられていくことになっている。
本編に関係無いがために、ギルドイベントは、当時の時点でという注釈は付くが高難易度であり、それに見合った報酬が得られるイベントであった。
特に、最後まで進めれば、ここファーストスタートの世界のメインストーリーを完結させた後ではあるが、エンドコンテンツたるギルドマスター達への挑戦が可能になる。クリアすれば、彼らが使う強力なリミテッド従魔の召喚が可能になるという、最高のおまけ付きだ。
これ以外にイベントを介さないリミテッド従魔の入手条件があるのは、サブクエストに登場するミラージュ達のような都市にいるボス的な召喚士のみである。
元から勇者以外は召喚されない王国には用は無く、そもそも、開始地点が終末の洞窟である時点で、ここに答えがあるとは思っていなかったのだ。
イズムパラフィリアはソシャゲである。ネットで課金してポチポチコマンドを選択しては戦って、アイテム集めて、ストーリー読んで、また戦うようなゲームである。操作性の都合上、自由にマップを動き回るなんてこともなく、一本道気味なストーリーを延々と回り続ける作品だ。最終的に、イベントでゲームシステム組み込みまくって要求スペックがPCになったり、メンテナンス時間が爆発的に延びていった過去はあれど、メインストーリーに大きな手を加えられたことはない。
少し話が変わるが、ソシャゲというものは、コラボがある。基本的にはコラボ先のキャラが限定ガチャで入手出来れば以降も使えるようになるなど『コラボ相手側のファンをこちら側に引き込む為の手段』として有名なやつである。
つまり、コラボで優先されるのは自分側のユーザーではなく、コラボ先になる。そこで、コラボキャラへどれだけ配慮するべきかという問題も発生したりするが……。まあ、ここは運営の采配次第で切っておく。
ゴミにするとソシャゲにヘイトが向くし、最強にすると、炎上が発生する。インフレも発生するし、コラボは基本的に危険なのだ。次がないであろうレベルの限定ガチャのため、売上は上がるからメリットが無いわけでもないのだろうが、基本的にはコンテンツの寿命を削るものだと思ってもいい。特に、ソシャゲのようにプレイアブル化が発生しやすく、また同時にインフレも起こしやすいものでは。
同じような経験を持つ人なら、一度は思うだろう。毒にも薬にもならないコラボであってくれ、と。
ちなみに、イズムパラフィリアでも、マイナーゲームながらコラボも経験がある。どれも炎上の歴史だが。
当時の時点で、新規参入よりも、既存ユーザーの保護をした方が賢明であったという理由もあるのだろう。一応の名目は世界観に準じた。というものだが。
コラボ相手は徹底的にボコす。それがイズムパラフィリアだ。
よほどの無双ゲームでもない限り、このスタンスは変わらない。何よりも、ほとんどのコラボ相手のキャラクターは人間であり、あって変身だとか、その程度でしかなかったのだから。
何度も言うが、イズムパラフィリアの世界線にいる多くの人間は雑魚だ。先天的、後天的に人間から逸脱する力を持たない限り、ストーリーのボスにすらなれない。味方側として登場するコラボキャラは、基本的に介護相手と呼ばれていた程度には弱い。原作に準じているとの名目で。
設定上このキャラのこの能力は最強だから! という声もあったのだが、そこは大抵が設定と概念のマウントバトルになるので割愛させていただく。
何が言いたいのかというと、わざわざ王国に来るまでもなく、イズムパラフィリアには世界を越える手段など幾らでもあるということだ。それこそ、召喚方法であるゲート然り、人間ですら世界を渡る能力はあると言える。
それ以上に俺が気になっているのは、樹少年や、柊菜が別世界の地球出身者ではないかというものである。
現状確認出来ているのが、アヤナがいた、イズムパラフィリアでも登場する、本来のゲームで出てくる地球と、俺がやって来た、イズムパラフィリアがゲームとして観測されていた地球の二つだ。この二つには明確な差異があって、一番大きいのには、北条院グループという財閥が存在するかどうかである。
俺はこのままこのゲームの世界に留まり続けてもいいのだが、二人は帰りたいのであろう。そうなってくると、俺も、彼らを帰すための方法を知っている者として、色々考えなくもない。
とはいえ、本当に元の世界に戻るのに、一番可能性がある存在とは、出合うことすら困難なのだが……。
「どうしたものかねぇ」
「なにか不備でもあった?」
「いや……原作解離という現象に悩んでいるだけさ」
こうして現在隣を歩いているアヤナもまた、ゲームのキャラクターである。
そして、たった今思い出したのだが、アヤナはゲームではまだこの世界にいないはずのキャラクターだった。
「アヤナ、というか勇者って今なにしてんの?」
「今? アンタ達を王国まで連れてきている状態だけど」
「じゃあ、その前と、この後は何すんの?」
そもそも勇者は現時点で誕生していなかったはずだ。魔王たるエンドロッカスが登場するのが、王国の後、滅びの大地へ行かないとフラグが立たないので、勇者も召還されないのだ。
勇者というのは、人間における最大の戦力、最強の個人を示す。条件を指定して、それに見合った人間を、王国の持つ力の及ぶ範囲から取り寄せた存在だ。その方法は、従魔召還よりもアイテムボックスのイメージに近く、元の世界からこちらに入れる時に、暫定的かつ不完全な不老不死の保護機能がつけられて送られることになる。
少なくとも、この世界において最も強い人間はアヤナになる。王国の持つ技術と能力次第だが、とりあえず世界を越えた召還が行われている時点で、この世界にいる人間よりかは強いことになるのだ。潜在能力を含めて計算すると。
その強さを使って、彼女は魔王を倒す旅に出るはずなのだが、今のところ魔王の目撃情報が出ていないし、彼女も魔王を倒すことが目的ではなさそうなのだ。
そもそも魔王死んでいるしね。
「……世直しの旅? 里香と一緒にこの世界にいる悪を倒そうって感じでフラフラしてるのよ」
「なんで召還されたの?」
「…………あ、災厄がいるって聞いてたわ。消えた聖女のかわりに、私達がそれを打倒するのが目的なのよ」
災厄……? レイドイベントのボスの事か? でもレイドボスは災厄と呼ばれるほど強くない。ピンキリ過ぎる。
聖女、この世界での聖女と言えば、終末の洞窟関連のミラージュにセイントシステムと呼ばれていた彼女だが、なにかあっただろうか。
と、そこまで考えて、思い出した。
好感度イベントである。彼女の好感度イベントで、災厄と呼ばれていた存在を相手にした記憶がある。
確かに、聖女はアレを倒してはいなかった。イベント補正でぶっ倒していたが、本来は致命傷負わせて撤退させただけだったはずだ。
まさかそいつが戻ってくるのだろうか。
「ちなみに、建前はそれなんだけど、実際は戦争でも始まりそうな状況だから召還されたのよね」
「あ……。ふーん」
確かになんか暗躍してる奴もいるし、魔法都市は空に浮かんでしまった。世界の緊張感は高まっているといえるだろう。
だが、人間同士で争えるのか? この世界の頂点は人間ではないのだが。
「まあ、ここにいれば多分知ることになりそうだし、言っておくと、私達より前に勇者の召還があったって言ったわよね?」
「そうだな」
「その中でも、最初に召還した勇者が、この国に復讐でもするんじゃないかって意識してるのよ。詳しくは知らないんだけど揉め事があったらしくてね」
内緒話だと、唇に人差し指を持っていくアヤナ。
「複数人同時に召還されたらしく、英雄的存在だったそうで、国に逆らったから処刑されたそうよ」
「……帰還させられなかったんだ?」
「帰還方法があるの?」
アヤナに聞かれて、そういえばと思い出した。
ゲームでも、勇者アヤナが生還したかどうかは一切不明なのだ。第一部以降は一切登場しない存在で、召還出来ないから、恐らくは生きているとプレイヤーが判断していただけだ。
そもそも、プレイヤーが第二部で地球に行ったのは魔王を殺した時に発生した空間の穴を塞ぐためだったはずだ。
返す方法も無いままに召還しているのだろうか。
まあ、それが悪いことであったとしても、正すことは難しいか。
ペットみたいなものである。入手したはいいが、要らなくなった後に戻す事は出来ない。
ならば、捨てるか殺すかだろう。
それが人間相手になっただけだ。そもそも誠実な対応なんかするわけがない。戻すと言っておき、そのまま殺して、帰っていったとでも言えば真実は闇のなかだ。
そりゃあ国にも復讐したくなるわな。
生物的に、一度見下した相手に対して温情などは期待出来ないものだ。食物連鎖の上位者は下に対して遠慮なんかしないし、人間もまた、自惚れて環境に配慮だなんだと言いつつ自然破壊はやめられない。
呼び出した勇者が不誠実な対応を見せれば、処理すれば良いとでも思っていたのだろう。
その勇者が思った以上に力を持っていたから今焦っているというだけだ。
「時に、アヤナ達って地球に戻りたいって考えてるの?」
「元いた場所に戻りたいとは思わないわね。私も、リカも多分そうよ」
だからってここが良いとも思わないけど、とアヤナは小さく呟いた。
「…………そうね。旅も一応一段落ついたのだし、今晩にでも皆で話し合わない? これからどうするのか、とか。色々あるでしょ」
「うーん……。それもそうか」
「決まりね。それじゃあそろそろ宿にでも戻りましょう? 今日は疲れたわ」
アヤナの提案通り、俺も宿に戻ることにした。夜までに済ませておきたいこともあったしな。