イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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生活が安定してきたので執筆速度が上がると思います。


50話 ヘドニズム

 例によって宿の一室。トラスを除いて誰も人がいない状態にしてから、俺は一人の従魔を呼び出した。

 

「『コール』」

「──いやぁ、いつ呼び出して貰えるのか不安でしたよ。旦那さま」

 

 ゲートから現れたのは、水色の髪をおさげにした小さな女の子。薄く目を開いたまま笑みの形をしており、ニヤニヤとでもいうような擬音が似合いそうな、そんな嘲笑を顔に張り付けている。

 

 彼女は、俺がイベントに巻き込まれている間に召還した従魔である。星五の野種【ヘドニズムのリリィ】という従魔だ。

 外見こそ幼い人間の女の子に見えるが、彼女は設定上ドワーフに分類されるらしい。このような手段で人間の姿をしたキャラだって現れるのがイズムパラフィリアなのだが、一応それに応じた程度の強さは持っている。

 まあ、彼女はどちらかというとイベントによるミニゲームの方が主体のキャラだ。レアリティに対して性能はあまり良くない。

 

 その性質も、ノーソのような疫病感染源──病魔の体などのようなものではなく、ヘドニズム。つまりは快楽主義というただの思想の一つが彼女の名に付けられている所から、戦闘能力に期待は出来ないことを示している。

 簡単な話、彼女はサポート系かつ、ステータスよりもアビリティに特徴があるタイプなのだ。

 

 彼女には他に無い性能を持った従魔であり、それこそが俺が彼女を召還した理由でもあるのだ。いや、出てきたのは運だと思うが。

 まだ、確信が取れていないのだ。

 

「それで、挨拶なんて今さらですし、何が欲しいんですか?」

「スキルは取り扱っているか?」

「本職じゃないんですけど、出来ますよ」

 

 その言葉にうなずきを返す。

 彼女、リリィは商人系キャラなのだ。とはいえ、ミニゲームでは宿の経営をしていたので不安ではあったが、これで俺の憂いは無くなった。

 従魔のスキル構成が出来ないのでは、出せる強さが何割も落ちるからな。

 従魔は最低一つはスキルを持つ。最大で六つ枠があるが、多くの従魔は枠を全て埋めるスキルを持たない。それに、あまり優秀なスキル構成をしていない物が多いのだ。ウィードに跳躍撃はまだ理解出来るが、魔法スキル持たせるとか意味が分からない。

 

 

「旦那さまでも、きっちりお代はいただきますけどね?」

「金に関しては問題無いと思うよ。足りないなら稼ぐまでだし。それよりも」

 

 今まで以上にこれは重要な質問であった。他全てにおいて最優先で知るべき事柄を口にする。

 

「課金…………出来るよね?」

「……申し訳ないんですが、これ現実なので課金は無理なんですよね」

 

 終わった。

 

 

 

 

 イズムパラフィリアにおいて、石というのは最も重要なものである。いや、課金出来るソシャゲ、ガチャがあるゲームならば、それこそが重要であろう。

 石があるのと無いのでは出来ることが違う。税を払わない人間は国民ではないように、無課金プレイヤー、乞食には人権など無いのだ。

 

 石があればガチャが回せる。欲しい従魔を幾らでも召還でき、育てる為の経験値すらも短縮できる。召還枠の追加も可能で、軍団率いて蹂躙プレイだって可能なのだ。

 

 逆に言えば、課金出来ないプレイヤーはこれらが不可能なのだ。一応無課金でもストーリーだけは最低限遊べる。他コンテンツはまともにクリアすることが出来なくなるが、法律でゲームの体裁だけは保っている。

 

 イズムパラフィリアは育成がマゾゲー仕様である。レアリティと種族によって経験値テーブルが大きく変動し、限界突破にも必要な条件があるのだ。

 従魔のレベルは、基礎上限値にレアリティボーナスが加算される形で決まる。星一の従魔と星十の従魔では、最初の限界突破に必要なカンストレベルまでの上限が九十は違う事になる。

 そして、限界突破可能数もレアリティが上がるだけ増えるのだ。

 つまり、育てれば育てるだけステータスに大きな差がつく仕様なのだ。言い替えれば、初期の従魔にそこまで大きな差は無い。それでも絶望的な差があるが、最終的なステータス差に比べれば、そこまで大きくはない。

 強い従魔ほど、より育てるのが困難になり、それだけの苦労に見合った力がつく。そこの時間とリソースの取捨選択が必要になってしまうのが無課金プレイヤーの限界だ。

 

 だからこそ、俺には課金という、簡単な従魔の強化方法が欲しかった。現実になってしまった以上は、イベントやレベル上げ、アイテム集めでマラソンなどしている暇がない。ポチポチするだけで何十周と出来るゲームとは違うのだ。どれだけの金を支払ってでも、時間を買う手段が必要だったのに。

 

 最後の希望を絶たれた俺はベッドで横になった。心配そうな気配を漂わせたトラスが無表情で俺の顔を覗き込む。いつの間にか出てきたウィードやノーソ、シルクはリリィと交流をしている。

 

「いくら旦那様と呼ぼうが私には関係ありませんが、それでも貴女は私の後輩なんですからね。上下関係はしっかりしないといけないのです」

「現状ほとんど役に立てない従魔を見てると可哀想だなーって思いますよ。センパイ」

「生意気な小娘ですねっ……!」

「グルル……わざわざ石を使わなくても狩りをすれば良いと思うが、まあ、強さを求めるなら手段を選ばない貪欲な姿勢は認める。それよりも、何故金をお前に渡すとスキルを覚えられるんだ?」

「これでも私、経営者だったんで社員の教育は可能なんですよねー」

 

 確かにリリィは経営イベントだった。規制で表現されていたが、絶対娼館経営だった。なんなら薬物も売ってた。

 一応商人系従魔なので、スキルだって本業じゃないだけで教えることが可能なのだろう。

 

 というか、俺がリリィにスキル売却能力があると思っていたのは、イベントのミニゲームで稼いだ金を、彼女に支払うとイベントで所有するスキルが強化されるからである。

 娼館経営なので、主に交渉やら自動体力回復やら精神耐性やらといったものだったが。

 

 ふと、リリィはプレイヤーにスキルを与えていたな。と思い出す。

 

「旦那さま、これは現実なのでスキルを渡す事はおすすめしませんよ。不可能ではないですけど」

「いいよ。薄々気付いていたことだし」

 

 スキルを持つだけでも、人間の枠組みから外れてしまうのか。とは思った。

 まあ、能力を外付けされるのでそれが問題なのだろう。そこまで詳しく知っている訳ではないが、間違いでもあるまい。

 

 イズムパラフィリアで使われているステータス、レアリティは、ある設定に基づいている。公式からはっきり言われた訳じゃないが、プレイヤーの間では【情報質量システム】と呼ばれていた。

 本来なら、ウィードのような小さな身体で軽い生き物が、自分より重いものを動かす事はできない。摩擦係数が無い状態で互いを押し合えば、軽い方がより早く動かされることと同じように、物理法則が適用されるならば、ウィードにはそこまで出来る事はない。エンドと殴り合う時に、彼女が吹き飛ばされないのは本来おかしい事なのだ。

 作用反作用で両者に同じ力が働くが、より質量が大きいほど、加速度は小さくなる。それが本来の物理法則のはずだ。

 しかし、殴り合えばウィードがエンドを倒したように、物理法則そのものが適用されていない瞬間がある。これについての公式側が出した設定が情報質量システムだ。

 

 簡単に言うと、従魔には、互いのやりたいことをどれだけ先に実行できるかの優先権が存在する。それは、基本的に従魔がどれだけ世界に対して情報を含有しているか、量と価値で判断されている。

 

 より大きなデータの塊の方が、世界的に重要なので、そちらの命令が先に実行されている。大体はそんなイメージで大丈夫だ。そのシステムのお陰で、ウィードは自分よりはるかに大きな存在相手にも、殴り勝てるし押し倒すことも出来る。

 俺が、現地の人間に殴られて吹っ飛んだのも、それが適用されているからだ。地球人よりも、この星、この世界の人間の方が重要だというわけだ。

 

 ちなみに、俺の予想では、召喚士に従魔の情報が紐付けされることで、従魔の持つ能力に対する耐性等が産まれているのではないかと思っている。それについては要検証だが。

 

 とはいえ、本人の情報質量自体は変動しないので、強くなっている訳ではないのだが。今でも殴られれば俺が吹き飛ばされるのだろう。

 

「旦那さまの、その自分の本来の目的を遂行する所、私は好きですよ」

「そうだね。俺も自分のそういうところは好きだよ」

 

 俺は自分大好き野郎なんでな。謙遜する気もない。

 ヘドニズム的にも、そういう部分は好ましく映るのだろう。リリィは実に満足そうに俺を見つめて嗤っていた。ノーソと仲良くなれそうな奴である。

 

「この世において最も優先すべきは快楽ですよね。最高の快楽を得ることこそが全ての種における目的ですから。宗教も、生き方も、最後に幸せになれるからこそ、今を苦労しているのですよ」

 

 死後の幸福を約束する仏教など、まあ、人の思い付くことというのは、自分に良いことがあるように考えられている。だからこそ、その極みであるヘドニズムに彼女は身を費やしているのだろう。

 

 分からなくもない。俺の暴力主義だって、自分の思い通りに行くための思考だからな。

 

「そうですね。また今度、旅が終わったら私と一緒に店でも開きましょうか」

 

 ゲーム時代にプレイしたイベントミニゲームの事を言っているのだろう。懐かしい記憶を思い出しながら、リリィに笑いかけた。

 

「旅が終わったらね」

 

 ゲームでも数年程度の規模はあった。更新頻度はそこまででもないが。だが、現実のペースを考えれば、おそらくゲームの時以上に進行は遅れるだろう。

 少なくとも数年、十年以上は旅をやめるつもりはなかった。

 

「さて、ウィード」

「グルル……なんだ?」

 

 リリィとの顔見せも終わり、ウィードを呼び寄せる。首を傾げながら近付いてきたウィードを抱き上げる。

 

「現状最高戦力のウィードには仕事がある。どうせ後で幾らでも変えられるし、まずはウィードからスキル構成を変えようか」

 

 ウィードは既に新しいアビリティを入手している。好感度イベントも終わらせており、ようやく彼女の本領を発揮できる時が来たのだ。

 

【雑草魂】これこそが地龍ウィードの持つ固有アビリティであり、そのタンク性能を存分に発揮できる効果を持つのだ。

 物理ダメージを受けるほど、その戦闘中のウィードには、永続的な物理防御力が一定値加算される。

 ぶっちゃけ雑魚狩りスキルとでも思っておけばいい。俺がウィードをあまり強いと思わないスキルもこれだが、同時に、上手く使いこなせれば優秀なアビリティでもある。

 龍種相手の戦闘方法は短期決戦なのだ。基本的にウィードのアビリティを使うには、ウィードを介護する必要がある。初撃で殺されない為のバフ。重厚な回復力。それらがあって初めてウィードのアビリティは真価を発揮する。

 

 そんな事が出来るなら、既にウィードを使わなくても勝てる程度に従魔が揃っているはずだし、魔法防御自体は何にも強くならないので、物理型で手数の多い的相手に出すくらいしか使い道はないとも言える。

 

「だからこそ、ウィードは基本的にタンクよりもファイター的な、曖昧な立ち位置につくようなスキル構成が多いんだよね」

 

 実際今の俺の手持ちだと、ウィードは攻撃も出来た方がありがたい。普通に考えるなら、食い縛りでもつけて回復と攻撃を持たせた万能型にでもさせるだろう。

 

「だからこそ、ウィードにはそれをメタにした構成にしようか」

 

 仮想敵は、ヴエルノーズで戦ったもう一人のウィードである。あれは回復技こそあまり持っていないが、敵に行動妨害をする当時人気だったスキル構成をしているだろう。

 

「いざというとき用の跳躍撃だけ残して、後は全部防御系スキルにしようか」

「グル!?」

 

 どうせ行動妨害スキルはそんなに火力が出ないので、足りないステータス差をアビリティとスキルで補うようにして、泥試合からの殴り勝ちを狙うしかない。育成出来るのならもっとやりようはあっただろうが、一番安定した勝てる戦法はこれだろう。

 

 反射ダメージは物理ダメージじゃなくて万能属性のダメージだからな。

 

 慌てるウィードを押さえ付けて、リリィからスキルを購入する。かなりの額のシルバを持っていかれたが、これでウィードの構成はウィードメタ構成になった。

 

「シルクは一発屋に変更だよ」

 

 あまり高くないステータスに低いスキルを複数つけた所で意味がないので、せっかくの無詠唱アビリティを活かした使い捨て砲台に変更する。

 

「さて、それじゃあ、ノーソ」

 

 慈悲の無いスキル変更を食らわせた従魔二体を見て、存在感を薄くさせていたノーソへと顔を向ける。ビクリと肩を震わせ、冷や汗混じりの笑顔を向けるノーソに、無情な宣告を下した。

 

「これからはノーソにも外へ出て貰うから」

「…………へっ?」

 

 ようやくノーソを出して歩けるようになったのだ。存分に使いまくるからな。

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