次回更新は来月になると思います。また引っ越しするので……。
里香からの依頼を終えた次の日の朝。俺達は召喚士ギルドへ呼び出されていた。
理由は以前語ったものと同じ、ギルド対抗戦の前座であるレイドイベントと、トーナメント戦についてである。どちらもそこそこの実績を積んだ俺達には出てほしいというものだった。
「……二人ほど、実力に関しては未知数な所の方もおりますが」
俺とトラスをちらりと見つめる王国のギルドマスター。確かに俺とトラスは下から順番にクエストを受けているので討伐系の依頼はほとんど受けていない。
当時はウィードしか使える戦力も無かったし、しょうがないのだ。
「半竜人なら龍種のアビリティくらい分かるよね?」
「……そうですね」
王国のギルドマスターは星八の龍種使いだ。リミテッドながら、エムルスほど強くもないので興味も無いが。
ちなみに、王国のギルマスは女性である。大きく胸元を開けた服に樹少年の目が吸い込まれており、俺も彼女の背中から生える翼に視界が定まっている。
リアルで見る有翼人種ってこんな感じなんだな。こう、ムラムラと込み上げてくるものがある。
次は天種が欲しくなってくる人物だった。
「あれ? 人以外に召喚士はいないって話じゃなかったっすか?」
「あら、お詳しいようで」
樹少年の言葉に、ギルマスがクスリと笑う。
「確かに、召喚士は人間のみです。ですが、後付けで人間を辞めることも可能なのですよ。現在この大陸にいる召喚士ギルドのギルドマスターは全員が、ある程度召喚してからさらに力を付けるために人間を辞めたものばかりです」
ヴエルノーズにいたエムルスもまた、人間を辞めている。彼は機種の星八を持っているのでヒューマノイド化しているのだ。
ちなみに、人間を辞めることが本人の意思なのかどうかは不明だ。力に飲まれているギルマスもいないわけではないので。
ついでに言うと、俺からしてみればあまり良い手段では無いと思っている。召喚し続けた方が最終的に戦力に差が出るだろうに。
「一度人間を辞めれば元に戻ることはないので、よく考えてから辞めた方が良いですよ。ちなみに、私達のような存在は召喚士ではなく従魔使いと呼ばれることもあります」
「人間を辞めちゃったんですか……」
「ええ、まあ、人のままなんて弱いですからね」
微かな蔑みの感情を瞳に写したギルマス。柊菜もそれを悟ったらしく、少し身を震わせた。
「……スリープさん、この人は安全なんですか?」
「元人間のギルマス勢は大抵人類種を見下しているけど、そこまで積極的に有害行為は働かないから大丈夫だよ」
人間と従魔の価値観や感情が混ざった面倒くさいエリートみたいなもんになるだけだ。
リリィがいる今、ここのギルマスはそこまで脅威ではないし、放っておいても問題はない。プライド高いけど元の人間が善良だから悪いやつじゃないし。
「とりあえず、話を進めましょうか」
王国のギルマスが語った内容は、ゲーム時代と大して変わらないものだった。
ソシャゲのレイドなんぞ、チーム作って全滅するか敵を倒しきるかするまで戦って、支援要請でフレンドとかを呼んで最大ダメージ与えた奴がMVPみたいな印象があるが、イズムパラフィリアはポチポチゲーじゃないので、システムが違う。
まず、ソロでクリアできる。
……ソシャゲながらドマイナーだったので最初から付いているシステムだったのだ。プレイヤー参加数ではなく、戦闘参加従魔の数で制限がかけられており、ソロでも従魔が三十体いれば、個人でレイドボスの参加上限まで独占できる。
後は、自己設定で参加時に出せる従魔の数を決めておけば、野良でも入り込める。たまに無設定の初心者がレイドに挑戦し、星一従魔二十九体を引き連れたベテランに占拠されて自分の従魔をロストして引退する事件が発生するので、最大五体程度に制限をかけておくといい。というか、課金出来ないプレイヤーは手を出さない方がいいコンテンツの一つである。
とにかく悪いイメージが多いレイドクエストなので、このイベントから入手出来る従魔はほとんどいない。一応星十六がレイドコンテンツだったが、最後までクソだった。毎ターンHP全回復とか、死亡時復活とか。
あと、イズムパラフィリアのレイドは、MMOのレイドだと思った方がいい。攻撃は自動でするし、オートバトルも可能だが、ギミックは回避可能なものがあるし、頭割りとかもある。軍隊指揮ゲームから一体だけを操作して、MMOのようなレイドクエストの楽しみ方など、色々な挑戦方法があった。とはいえ、基本はソシャゲだが。
ちなみに、今回はロストしないから良いものの、以降は死ぬとロストする。
「安全に関しては万全ですし、これを乗り越えた召喚士には新しい権限も与えられます。いかがでしょうか?」
ギルマスの言葉に、樹少年と柊菜が顔を見合わせる。ちなみに、勇者達は召喚士ギルド所属ではないので今回は不参加だ。
「やります」
俺達を代表して、樹少年が了承の旨を告げる。
半竜人の女性は、その言葉ににっこりと笑顔を見せて、割れた舌を出した。
俺達が王国に来た時から既に準備は出来ていたらしく、開催日は本日の午後からだと言っていた。飛び入り参加させてでもレイドクエストに戦力が欲しいらしい。
召喚士ギルドを後にした俺達は、渡されたトーナメント表を見て、ああだこうだと話をしている。
「俺、知らない人と当たってるっすね」
「私、トラスちゃんとだね……よろしくね」
「…………」
柊菜に話しかけられたトラスは、むんと腕をまくりぷにぷにの上腕二頭筋を見せつけている。その様子を見て柊菜の顔がゆるゆるになっていく。
どうにも甘く見ているようだが、昨日召喚した新しいトラスの従魔はかなり強力だった。本人の資質なのか、善良で優秀な従魔ばかり呼び寄せられるトラスは、召喚士としての
今のままだと柊菜も負けるかもしれない。
まあ、アドバイスするつもりはない。一度トラスに大敗して危機感の一つでも抱いてくれれば御の字といったところだ。
俺の相手も知らない名前の奴だった。ピースメーカーとだけ書かれたその名前は、一つの従魔を思い出す。
ピースメーカーは機種星五の拳銃型従魔だ。立ち位置的には樹少年のリビングエッジと似たようなものである。
まあ、それなりに使えるゴミだと評価しておこう。ウィードとの相性は悪いので注意は必要といったところだ。
「さて、この後お昼を食べたら即座にレイドクエストが始まるけど、それまでに聞いておきたいことはある?」
「あ、それじゃあ……私から」
おずおずと手をあげた柊菜が切り出す。
「今回のクエストについて詳細を教えてください」
「……今回のレイドクエスト名は【封印されし者】エネミーは星三天種【血染めのデーモン】三十秒に一度スケルトンを召喚する能力を持っていて、下手に時間かけると瓦解する程度には強いよ」
元々、これの適正はチェリーミート、ミルミルを加えて一体適当な星三従魔を所持したプレイヤーがクリア出来る難易度となっている。この場にいる戦力的にはなんの問題もないだろうけど、下手に前に出るとぶちのめされる可能性はあるとだけ言っておいた。
「あと、他の召喚士も参加する奴だから、樹少年や柊菜は自分自身を前に出さないこと」
フレンドリーファイアに関しては未だに良くわかってないのだ。完全無効でもないが、ある程度は無視されるといったところ。おそらく戦闘時は無視されるが、それ以外だと通用するって感じだと思う。不確定だが。
人間には適用されていないので、前に出ると後ろからミンチにされるので注意が必要だ。
より詳しいデータに関しては、聞かれたら答える程度でいいだろう。耐性、属性はまだ意識したところで意味がないし。
「天種なんすね」
「死に関係していないからね」
空飛べて野種じゃないならほとんど天種になる。
「そういえば、多分これが初の天種戦になるんだね」
「天種以外でもあまり戦ってない奴はいますけど……?」
「まあ、それもそうだけど、一応これで一通りの従魔を目にすることになる訳だ」
本来なら目にすることもほぼ無いであろう龍種にはウィードがいるからな。
「なにか、特別なアビリティでももってるんすか?」
「種として持っているのはないよ。ただ……天種は強い」
ステータスで他を圧倒している龍種の不利なアビリティを差し引けば、最強の種は天種だと言えるだろう。
別に他も弱い訳ではない。だが、種としてある程度特徴があるのだ。シナジーの機種、数の野種、場面の緑種、下落の死種、個の龍種、そして、万能の天種だ。
天種はオールラウンダーが多い。あらゆる盤面で活躍出来るだけの能力があり、特出した要素はあまり無いが、大きな弱点もまた少ない。
俺が最も愛用していた種でもある。そして、それによりランキング一位。最強の座を保持していたのだ。
もちろん全部持っているのが一番強いが、もし俺が一体だけ従魔を連れて旅をするのであれば、確実に天種を選ぶ。
機種は機種同士に効果のあるアビリティを持つ奴が多いので、一体だけ持つと活躍しにくい。野種はその特性上幅が広すぎて選びにくい。本当に数が多いのだ。緑種はどちらかというと補助的側面が強いし、死種もデバフ系の補助個体が多い。龍種は強いがアビリティで明確な弱点を持つ。
天種は最上位が究極の個というのもあり、大抵どれを選んでも死にキャラになることがない。
もちろん例外はある。星十六にもなればどいつもこいつも一体で十分強いし、大体の特徴なだけであって、天種にもゴミはいるし、弱いのもいる。安定性が段違いとでも言った方が良いだろう。
「まず、天種は全ての個体が空を飛べるんだ。翼を持たない奴もいるけれど、そのどれもが宙に浮ける」
アビリティで飛翔を持たない奴もいるが、グラフィックと処理上で浮遊していて下に判定が無い。
「スキル構成が初期でも優秀だ」
最低限回復と攻撃スキルを一つ持つからな。回復を受け付けない奴でも持っている。
「そして、これが一番なんだが
──グラフィックが優遇されている」
これはマジで言えることだ。機種の女の子は大抵アンドロイドタイプで、人外萌えでもないと受け付けない奴がいる。野種も同様。死種は次点で優秀なのだが、いかんせん死に関する従魔が多いので、肌艶の悪い従魔が多い。龍種は数が少ない。その分バリエーションがない。
緑種? 虫と自然がほとんどだぞ。機種以上に人気がない。俺は好きだが。
その点天種はマジで強い。女神だとか天使というのは基本的に萌えの一大ジャンルとでも言えるレベルだし、翼を設定で消せばただの美少女になる。人外要素も薄くて、一般受けもいい。
天種は野種に被りがある分ジャンル幅が小さいが、その分あらゆる外見性格による萌えを追求している。
「グラが良いから人気がある。人気があるから強いのが多い。強いのが多いと人気が出るし、インフレも進む。まじ優遇種」
まあ、そんなの無くても俺は天種を使うんですけどね。翼と箱頭は俺の性癖だ。
熱く語る俺へと絶対零度の蔑みを籠めた視線が貫く。普段のおどおどした様子も鳴りを潜めた柊菜が舌打ちをする。
樹少年は、そんな柊菜を見て輝かせた瞳をそっと伏せた。
「性癖の坩堝。それがこの世界だ」
なんたってイズムパラフィリアだからね。大きな分類で分けたが、最終的にどの種も他の種に似た特徴持った従魔が入っている。ケモ耳天使で死種とか普通にいるし。キメラで機種にもなる。ワイバーンの亜種で龍種にだってなる。流石に無理のある緑種にはならなかったが。
「ほんっと、サイテーです……」
俺に向けてそう吐き捨てると、柊菜は離れていった。黙って見ていたミルミルも、気配を殺して柊菜についていった。
樹少年がしっかりと手を握ってくる。
「俺……召喚士、極めます!」
「ようこそ、こちら側に……」
柊菜への好感度を下げて、変わりに今まであった樹少年とのしこりのようなものは綺麗さっぱり無くなっていた。
「いやぁー、楽しみですね! これから戦う天種そんなに美少女なんすか! 倒すの躊躇っちゃったらどうしよ。うわぁ気になるなぁ」
うっきうきのステップを踏む樹少年。俺はその期待に対して何も伝えること無くそっと微笑んだ。
別に今回の天種が女の子だなんて俺は言っていない。勝手に勘違いした樹少年が悪いのだ。
敵として登場する従魔が美少女のパターンは少ない。それはゲーム以外でも結構多い展開だろうに。