また、特別に閑話を挟む予定です。本編とは無関係なので1話と2話の間に挟ませていただきます。
同時に、次の話も掲載する予定なので、その時にもう一度アナウンスさせていただきます。
現在はレイドクエストの真っ最中。円になり従魔を呼び出す召喚士達。俺はトラスの呼んだアラバスターゴールドの肩に乗り、安全圏を確保しての参戦だ。
準備を終えた召喚士達を見て、王国のギルドマスターが紫色の毒々しい結晶を叩き割る。同じ色をした煙が周囲を包み込み、空気が震える。それは徐々に冷えて澄んだものへと変わっていく。
どこか清浄で超然的な雰囲気を漂わせる空気の中、ゴーンと鐘のような音色が響き、その従魔が姿を表す。
赤褐色の肢体。頭は山羊で上半身ははち切れんばかりの巨大な筋肉の塊。下半身は馬などの四足獣を思わせる蹄があり、二本足で立てるようにとても短く大きい。
「ブモオオオオオオ!!!」
野太い声に大きく口を開けて呆けていた樹少年が息を吸う。
「スリープさんのバーカ!」
雑踏と喧騒に紛れて樹少年の罵声が響く。しかし、それはすぐさま飲み込まれて消えた。
なんだか最近叫ばれたり罵倒されている気がするが、それもまた仕方のないことだろう。俺は基本的に人間関係において最大限の努力をしない人なので、いずれこうなることは分かっていた。
観客席で、勇者アヤナと里香、そしてミルミルがのんびりと見学している。開会前に召喚士ギルドのマスターが安全性を見せていたので、他の観客も興奮こそすれど、恐怖に怯える姿はない。
俺達召喚士ギルドが仮に敗北したとしても、後詰めにギルドマスター達が控えているので問題はないのだ。立ち並ぶ強者の中には、
召喚士ギルドの力を見せ付ける前夜祭のようなこのクエストでは、多くのNPCが参戦する。樹少年、柊菜、そして俺とトラスが加わっていれば、溢れた召喚士分の戦力を補えるだろう。
アラバスターゴールドを正面にして向かい合うレイドボス【血染めのデーモン】は、この巨像の半分程度の大きさである。人間を軽く凌駕するサイズがあり、足元から次々と、人間と同じ大きさのスケルトンが湧き出てくる。
レイドクエストの開始だ。
MMOのレイドだと、ラストアタックだとかなんだとか、特殊なシステムを使ってゲーム性を与えているものも多い。しかし、スマホ使用が基本のソシャゲではラグだとかターン性の都合上そういったものは採用されていないものが多い。
フルダイブVRでも不和の元なので使われてはいない。というかDPSしか活躍できないシステムは無理がある。
イズムパラフィリアも、レイドを銘打ったソロコンテンツだった。従魔参加数上限三十に、ホスト設定で野良の横殴りやら参加を拒むことが出来るので。
デーモンへ様々なエフェクトを光らせては攻撃する召喚士達。レアリティこそ低いものの、トラスのアラバスターゴールド同様、大型従魔というのはHPが極めて高い。攻撃は通っているだろうが、致命傷に至る様子はない。
レイドイベントで登場する敵は、一部を除いてほぼ従魔が登場する。特徴としては、攻撃力を減らしてHPを大幅に増加している傾向がある。もしくはレア度が高い従魔が出る。
雄叫びをあげてデーモンが足を踏み鳴らす。足を中心に円の壁が広がり、従魔達へと襲いかかった。
すかさず硬い従魔達が前に出て衝撃波を受ける。広がった攻撃は威力を大きく減らして他従魔へ流れる。
『全体攻撃は盾役の従魔が前で受け止めて減衰させよう!』
ゲームだったらきっとこのような表示が出るだろう。敵の攻撃が終わればお返しだと言わんばかりに従魔が前へと出てスキルを放っていく。
本来の主人公は、この時点での手持ち従魔がチェリーミートとミルミルになるので、ここで前衛攻撃と後衛攻撃の行動チュートリアルが入るはずだ。
ここは現実なのでそんなもの無いが、全体の流れを見ながら柊菜が攻撃を指示している。
樹少年は盾役の従魔へ回復をしていた。今回は前に出ることを諦めたらしく、死んだ魚のような目で絶望のままデーモンの胸筋を見つめている。怒った様子のピクシーに顔を突かれていた。
デーモンが身を屈めて力を溜める。少しの間をおいて、絶叫と共に力を解放すると、地面に次々と予測サークルが発生する。
レイド用特別スキルだ。かなりの高威力攻撃で、受けると一気に体力を持っていかれる。避けるための練習技だ。
「トラス」
「……」
抱きしめて膝の間に収まったトラスの肩を叩く。トラスが足をぱたぱたと動かして、アラバスターゴールドへ指示を送った。
「主よ、任せろ!」
アラバスターゴールドがスキルで魔法防御のバリアを張る。ステージ全体を覆ったバリアが次々と落雷を受け止めた。
一定値を越えたのか、早めにバリアは割れてしまったが、それでも被害は皆無であった。
そして、その隙にデーモンは座禅を組み瞑想をしていた。HPとMPを回復させるスキルだ。攻撃を受けると解除される。落雷が降らなかったので、今回はほとんど相手に回復させずに瞑想を中断させた。
後は攻撃パターンの変わるHPが半分切った状態になるまで単純作業だ。
「ずいぶんあっさりしてますね」
「……まあ、ストーリークエスト用だからね」
ちなみにだが、俺はノーソだけを召喚しての参戦だ。フレンドリーファイアが有効だったらウィードは前に出したくないし、いるだけで仕事が出来るノーソはレイドで有用なのだ。アビリティでコンスタントに削りつつ、スキルで補佐に回れるので。
「ゲームの仕様だと、レイドクエストは上級者向けのコンテンツなんだ。リスクが高いからその分報酬もいいけど」
ロストするまで撤退出来ない仕様なので、レイドクエストはクリア出来なかったら出した従魔全てを失う可能性がある。どのクエストでも課金で石を割り従魔を復活させる連コによる粘り勝ちが可能だが、一応それもサーバーメンテナンスという時間切れがある。
使い捨ての精鋭──つまり、ロストするリスクを持ちながら、なんの情報も無いまま最新コンテンツに挑戦する攻略者──達が情報を集めるまでは手を出さない。出してはいけないものなのだ。
MMOのような全体即死ギミックや、DPSチェックこそ無いと言えば無い(初見殺しはある)が、一発勝負でコンテンツをクリアしないといけないので。
「最大の良点は挑戦回数が一日三回だけだが、クリア報酬に毎度石が出るところだね」
「それは……凄いですね」
ノーソもこの事実に驚いたのか、目を丸くしていた。
クエストへの挑戦に対してソシャゲの行動力的な制限は無いが、レイドクエストは一日三回しか挑めない。その代わり、初回じゃなくても石の定期入手が可能なのだ。
「でもまあ、こいつ相手でも今の俺の戦力じゃ勝てないけどね」
石を割れば勝てるだろうが、それでは本末転倒だし、当分は見送りとなる。樹少年達の力を借りても厳しいだろう。泥試合にする為の回復力も足りないので。
ダラダラとレイドクエストは続き、既に戦闘が始まって十分が経過している。
ようやくHPが半分になったらしく、デーモンの体色が赤褐色から鮮やかな赤色に染まっていく。
「ここから攻撃パターンが変わります! 注意してください!」
後方で見守っていたギルマスが声を張り上げる。叱咤するような鋭い声に、弛みつつあった召喚士達の顔立ちが引き締まった。
憤怒色のデーモンが頭上に人と同じ形をしている手を掲げる。登場時に聞いたゴーンという鐘を鳴らす音が響き渡る。
それは二度三度と続き、掲げた手の内に強力な魔力が集まっていく。重量も影響しているのか、強めの風が吹き始める。
「……」
「やめときな。ロストするよ」
トラスがアラバスターゴールドで防ぎに行こうと足を動かし始めるが、それを諌めた。これは下手に防げる威力じゃない。
「無防備かつ特殊パターンによるステータス変化が入ってるんだ。攻撃力が上がって防御力が下がる。怯ませるか行動妨害挟むか攻撃までに削りきるか、そのどれかで止めた方がいい」
何より、でかいけどアラバスターゴールドはレベル上げてないはずなのだ。例え新緑の森に放置していた時に自分で敵を片付けていたとしても、大して強くはなっていないだろう。
ついでに言うと、大技だけどアレは自分を中心に同心円状に広がり減衰していく広範囲技だ。最悪場外ギリギリまで退避すれば最低ダメージで済む。それでも結構大きいダメージをくらうが。
「あー、遅いなぁ……。攻撃型従魔欲しいや」
「あるじ様、私はどうしたのですか?」
「所持アビリティとステータス見てきてからもう一度言って」
ノーソはデバフ削りだ。サポートタイプの従魔なのである。
攻撃型従魔というのは、柊菜の持つエンドロッカスやチェリーミート、後従魔になった場合のミルミルを指して言う言葉だ。
攻撃性能だけで言えばミルミルがその中でも最優である。多少威力は下がるが魔法を三連射出来る【三つの試練】というアビリティは魔法系スキルを使う時にかなり役に立つ。その分MPだって消耗するが、瞬間火力はかなり高い。
それだけに、ミルミルが従魔にならなかったのは結構痛手である。
エンドロッカスは第一部ラスボスだったこともあり、万能型に近い。最終限界突破後に入手出来るアビリティ【ワールドエンド】はウィードのシェイプシフト同様変身してステータスを大幅に上昇させるアビリティである。攻撃で自分を回復出来る地獄属性スキルを持ち、自己強化が可能で、ボスによる耐性が優れているエンドロッカスは完成度が高くバランスが取れている分長時間の戦闘に向いたファイターである。
チェリーミートも好感度イベント挟むとシェイプシフト入手したはずなんだけど、柊菜の育成は普通らしく、そこまで育てていないらしい。
「…………マジで苦戦し過ぎだな。そうか、育成してないもんな」
従魔の数は十分いるが、メインアタッカーが碌に育って無いのか。ミルミルも不在だし。
ウィードを出していれば話も違うのだろうが、奴は現状俺の最高戦力なので温存しておきたいのだ。
攻撃型従魔の有無というのはやはり大きいな。
ちなみに、このタンクだファイターだ攻撃型だという分類は、それぞれの従魔が持つアビリティとステータスで判断されている。
ウィードは物理防御力増加。アラバスターゴールドは魔法に対するHPシールドといった風に、アビリティでステータスが追加されるなりの特徴で役割を想定しているのだ。アビリティは基本的に長所であり恩恵なので、そこを伸ばすように育てるのが普通である。
龍種覚醒? 聞いたこと無いアビリティですね。
「敵攻撃第一波発生! 退避を!」
ギルマスの指示に召喚士達が素早く下がっていく。アラバスターゴールドはもう一度スキルを使用して防御に入った。
「ブモオオオオオオオ!!!」
魔力が解き放たれ、紫電が四方を駆け巡る。とんでもない音の爆裂を辺りへ轟かせながら従魔へ襲いかかった。
「ひゃあ! これは厄介ですね。こういうのをやばいやつというものですね」
悲鳴をあげたノーソが耳を遅ればせながら塞ぎ、顔を嫌そうに顰める。
俺やトラスにも攻撃は届かなかったし、アラバスターゴールドもシールドだけで受けきれたようで怪我はない。
地上では多くの従魔が紫電に焼かれているが、八割以上残っているし、脱落した召喚士も、ロストはしていない。戦えないので下がっていく者と、新しい別の従魔を召喚する者とで別れている。
樹少年と柊菜は無事だったようだ。見れば、樹少年はアラバスターゴールドを盾にして隠れていたらしく、柊菜も同じように連れ込んでいた。
生き残っていた従魔のほとんどが立て直しに時間を割かれている。新しく召喚した従魔はサブメンバーであり、そこまで戦力として見れない。現に、次々現れるスケルトンの処理で精一杯のようだ。
ノーソの状態異常ではスケルトンは削れないからな。病魔と呪いは通用しない。耐性を突破できないだけで、上位互換なら骨でも無機物でも病気にさせられるんだが。
現実での処理はどうなるんだろうな。
もたつく現場に更に悪い事が重なる。またもやデーモンは手を掲げゴーンという音が鳴り響いた。
このままジリ貧になって削り倒されそうな勢いだ。ゲームだとHPがどれだけ削れようとNPCは戦い続けたはずなのだが。
召喚士兼勇者である里香なら「死んでも復活出来るんだし手間省いてさっさと戦いなさいよ」とでも言いそうである。
「『コール』シルク」
戦局を変える為に手を打つことにした。呼び出したシルクに、新しく教えたスキルの発動を指示する。
無詠唱だが、待機時間を僅かに挟む。
「『エアロブレイク』」
直後、シルクの前に半径二メートルほどの魔方陣が浮かび上がり、そこから赤熱で光る珠が発射された。それは真っ直ぐにデーモンの元へと突き進む。
真空による一瞬の無音の後に、空間が歪み、低く鈍い爆発音で全てを上書きした。
シルクのMPで放てる限界があのスキル『エアロブレイク』である。単純な空気の圧縮と解放である。属性は風。エフェクトに対する音響が特徴的で結構好きなスキルである。
穿たれた一撃は血染めのデーモンの肉体を揺るがし、片腕を血飛沫に変えた。苦悶の声を上げて倒れ込むデーモンの攻撃がキャンセルされ、その間に立て直しを終えた召喚士達が殺到する。
様々なエフェクトがデーモンの身を包み、最後に大きくガラスの割れるような音と共に、デーモンは光の球となって天に昇っていった。
歓声と拍手が送られる。それは死闘を制した者への称賛というよりかは、いい見世物を見れたといった感じのものであった。
この程度は見慣れているらしい。ほんの少しだけ、抱き合って喜ぶ召喚士達を憐れに思う。