イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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こんにちは! イズムパラフィリア運営です!
本日は一部矛盾した描写の修正をいたしました。
変更点
トラスの外見:赤い髪を登場時の金髪へと

なお、運営は今までトラスを赤い髪の幼女で考えていたので、もしかしたら他の話にトラスが赤い髪だと書かれている可能性があります。その場合は報告をお願い致します。
この度はプレイヤーの皆様に多大な混乱とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
なお、今回の件による詫び石の配布はありません。
12/12(土)


56話 邂逅

 さて、状況は最悪に近い。この名前も良く分かっていないプレイヤーの男を相手に戦ったところで、俺に勝ち目は無いのだ。

 前回に、はったりを効かせて相手を自主的に撤退させたのに、こうして顔を見せに来ているということは、俺が脅威ではないことがバレていることの証左だ。もしくは、過大評価した俺の戦力すら確実に対処可能な方法を編み出したか。どちらにせよ、今の俺では手も足も出ないことは間違いない。

 

「いやぁ、この間は騙されたよ。まさか、元プレイヤーの君がデータの引き継ぎをされていないなんてね」

「おあいにくさま。俺は無双するよりも一からゲームをする方が好きなんだ」

 

 嘘だ。俺は雑魚を蹴散らして煽り倒すのが大好きな人間だ。そして、全キャラコンプしているデータを引き継げるなら引き継ぎたかった。もったいなさすぎるから。八桁の金と数万時間かけてんだぞ。

 この多くのものを失った感覚は筆舌に尽くしがたい。愛するものを失った。以上の喪失感なのだ。

 

 自分の身を削られてるからな。そりゃあ数時間かけた努力の結晶が失われるのは誰だって辛いだろ。

 

「俺も一度は最強プレイヤーと手合わせしたことがあってね。あの時のトラウマが甦っていて固定観念が外れなかったよ」

「ふぅん……じゃあ何がきっかけで顔を見せにきたのさ」

「教えて貰ったからさ。あそこにいる男の子にね」

 

 男が指差した先には、樹少年がいた。申し訳なさそうな顔をしており、表情に驚愕が無いため、樹少年も知らず知らずの内に相手へ情報を渡していた訳では無さそうだ。

 

 …………いや、そもそもこいつに情報を与えている時間がない。接触出来そうな時はプレイヤー強制参加のTSイベントだろう。他は目を離していても侵入者が分かる魔法都市と、僅かな時間しかない王国だ。他は警戒の都合上、姿は見えなくても音だけは聞こえる位置にいた。

 つまり、知らない内に情報を渡したが、王国でもう一度接触をしており、事情だけは把握しているだけだな。TSしてたなら、知らないこの世界にいる似たような境遇の人として情報を明け渡してもおかしくはない。

 

 もう少し情報リテラシーを学んで欲しいとは思うが。

 

「まったく、樹少年も無用心だね」

「ありゃ、裏切りだとは思わないの?」

「多少なりとも、相手の人格くらい把握しているさ」

 

 嘘を言った。俺は樹少年の行動可能な時間だけで判断した。そこに彼の思考や性格は反映されていない。

 

 まあ、人格を知っていようがそんなもの信じないがな。人間は自己の価値判断で動く生き物だ。

 不利益だと知っていて人が動くことはない。殺人者は殺す瞬間だけは絶対にそれが最も価値のある行動だと信じて動くものだ。あの時殺さなければ、等と後悔出来るのは、人が忘却する生き物だからでしかない。

 何も忘れることがなかったら、判断を間違えることなどしないのだ。カッとなったというのは、その瞬間に記憶しているもののなかで、理性も何もかもを置き去りにして動く理由があったということだ。もし仮に何も忘れることのない人間がいたら、カッとなる情報と、その激情に身を任せた際に起きる結果を一瞬で判断出来るだろう。出来ないと、人を短絡的に殺したり暴力を振るうことになる。

 

 人は社会的生命体であり、そこにあるのは地位もそうだが、本人の積み上げた過去とそれに応じた価値観がある。そのどちらも崩してはいけないものであり、失われると人は命を絶つ。会社で上司に全員がいる場で侮辱をされた日本人は自殺をするし、他アジア圏の人間は上司を殺そうとする。

 恥をかかせるというのは、人が生きるにおいてやってはいけないことの一つだ。面子は社会的に、集団で生きていく上で立派な要素である。一つの会社で生きる人間に、その集団全体に周知させる形で侮辱するというのは退路を断たせるに近い行為だ。

 

 完全な利益を相手に提示できない限りは、俺は人間を心の底から信用することはない。その者にとっての神になれないのなら信頼はしてはいけない。精神を満たし要求に応じれるだけの力を持たねば隙が生まれるからだ。

 

 俺は自分自身か、常に主張を変えない停滞した存在でもなければ信用しない。真に心を預けることは不可能だ。

 

 そう、従魔のような。召喚士以外との関わりを受け付けない存在でもなければ。

 

「……まあいいや。俺も、次善策の為に仲間割れを狙っただけだよ。君がダメなら、彼らを相手にすれば良いだけさ」

 

 俺から視線を外し、まるでミュージカルでもしているように、大仰な手振りで注目を集めだした。

 

「この国は悪だ。俺達日本人がここに連れて来られているのは、この王国のせいだよ。それも身勝手な理由でね!」

 

 その口上に観衆はブーイングをし始める。当たり前だ。観衆のほとんどはここ王国の民なのだから。

 彼らの発する雑音を無視して男の声は伝わっていく。

 

「俺が……俺達が喚び出された理由は聖女が倒せなかった敵の討伐だった」

 

 そこから語られたのは、俺の知らない物語の部分だ。

 この世界に誕生した聖女が目的を達成しないまま眠りについてしまい、困り果てた王国は、勇者の召喚に手を出した。そうして喚び出されたのが男らしい。

 勇者は、最初からこの世界にも存在している従魔を使えた歴戦の召喚士であり、激闘の末に災厄を倒す事に成功する。

 その後、元の世界に戻れない事を黙ったまま王国が極秘裏に処刑しようとしたところで、逃げ出された。

 そして、現在に至る。

 

「最初に喚び出された勇者は俺を含めて四人だった。全員が大事な仲間だった……処刑に気付けずに俺以外はみんな殺されてしまったけど」

「それで、復讐でもするの?」

「ああ! これはなんの関係も無い俺達を巻き込んだ王国の、この世界に対する復讐だ! 逃げ出した俺を新たな災厄に指定し、更に勇者を召喚して負の連鎖を引き起こしている王国を消さなくちゃいけないんだ! そのための準備はもう出来た」

 

 パチンと指を鳴らすと、一体の怪物と共にローブで全身を隠した男が現れた。今回はローブの男に喋る気は無いようで、こちらを一瞥した後は一切合切を無視したように目を閉じた。

 

「滅びの大地……いや、滅んでいないから貴族の街か。そこである研究をしていた男の研究内容を応用したものだよ。全体の種族名が、人類の到達点として『エンド』その量産品が『ローコス』だ」

 

 以前見た理性無き暴れまわる化け物よりも大人しく小さくなっている。捻れた黒い角。薄くなった皮膚みたいに真っ赤な肉体。

 

「まあ、このゲームで言うことじゃないけど、センス無いね。エンドのローコスト品だなんてさ」

 

 エンドロッカスとほぼ変わらないじゃないか。まあ、元がそれだからもじったんだろうけど。

 

「今ここで! 俺は、俺達は世界を相手に宣戦布告する! 不当な在り方を変えるために! 元の世界へと戻るために!」

 

 男がそう宣言すると、周囲からざわめきが起きる。見ると、何人かが彼の元へ集まった。

 

「エムルス……! 召喚士ギルドを裏切るのですか!」

「裏切りではない。これは我ら召喚士こそが真の支配者だと証明するための行為だ。お前こそ、いつまで王国に頭を下げ続けている? 従魔使いによる新しい秩序を今こそ作るべきではないか?」

 

 ヴエルノーズの召喚士ギルドの長、エムルス。彼を筆頭に幾人かの召喚士や、剣士、魔術師が集まっている。

 

 なんていうか、彼等で新しい国でも作れば良いんじゃないかな? わざわざここまで事を大きくする必要は無いと思うのだが。

 王国潰して万々歳で終わりで良いでしょ。その後釜にこいつらが立って、新しい国でも興せばいいだけだ。

 

 わざわざ世界を相手にする意味が分からない。聖女は確かにこの世界の人間から迫害を受けて身も心もボロボロになった末に眠りについたが、その人間達の行動を変えさせる理由が理解できない。

 聖女いなけりゃ人類が災厄で滅ぶだけだ。それを回避するために勇者を呼んだ王国は潰すのも分かる。だが、それ以外は放置でも問題無いだろうに。

 

 なんというか、烏合の衆って感じだな。力はあっても思想が違う気がする。統一感がない。

 

「スリープ君や樹君達も、こっちに来ないかい? 俺は、ストーリークエストはクリアしているから、元の世界に帰る方法を知ってるよ」

「嘘ばっかり言わない方がいいよ」

 

 樹少年達へ手を差し伸べている男に言葉をかける。不機嫌そうに眉を歪めてこちらを睨み付けた。

 

「第一、あんたの言う元の世界は勇者アヤナのいた地球でしかない。第二部までやってるなら分かるよね?」

「確かにゲームではそうだった。でも、俺達が来てるなら、元の地球に戻れる可能性はあるよ?」

「不確実。検証足りてないよ。俺は少なくとも嘘は教えない。戻れなかったらどうするのさ」

 

 クオリアから得た情報が正しいなら、少なくともゲームと同じ方法を使ったら第二部の世界へ連れていかれるだろう。裏にいるのは星十六だ。星八以上の従魔で異世界へと渡る方法を模索すべきだろう。

 

「それにさ、俺達なんて言ってるけど、どこに同じ日本人の召喚士がいるのさ?」

「は?」

 

 なぜかそこでわけが分からないという顔をする男。

 

「殺されたと言っただろ?」

「蘇生してないの?」

「……蘇生は、間に合わなかった」

「ふーん。じゃあ召喚は?」

 

 そう訊ねると、今度こそ、何を言っているのか分からない、こちらの言語を理解していないような顔をした。

 

「召……喚……?」

「試してないの? 知らない訳ないよね。イズムパラフィリアのルールを」

「人間は召喚出来ない……だろ?」

「そうだよ。人間以外なら大抵の意思ある存在は召喚出来るんだよ」

 

 まさか、スレを見たりしたことないのか? まとめサイトも? 俺の名前を知ってるし、戦った経験があるなら、最低限リセマラのために情報集めくらいしたよね? そもそもマイナーソシャゲに広告はないんだからどこかで知る必要がある。

 

 以前俺はゲーム上で勇者アヤナの生死確認が出来ていない時、召喚出来ないから死んではいない。と言っている。つまりは、逆なんだ。

 

「人間は召喚出来ない。つまり、人間じゃないなら召喚出来るんだよ? 死んだ仲間を召喚しなかったの?」

 

 ゲートの向こうにいる訳じゃないから、どうしてもリミテッド召喚になるだろうが、存在を認知しており、彼等に認められていれば召喚は可能なのだから。

 このゲームでは常々言われていた事だ。好きな人間のキャラに死ねと言う文化がある程度には知られている情報だ。

 死ねば従魔に出来るのだから。好きな人とずっと一緒にいたいなら殺すべきだろう? 死んだ後でも喚べば別れにはならない。

 

「……アンタ、それでも人間か?」

 

 男は理解不能な化け物を見るような目で俺を見ていた。

 問いかけを無視して続ける。

 

「それにさ、この世界の災厄問題は、聖女の好感度イベントで全部解決出来たよ?」

 

 聖女の好感度イベントは、最初に彼女の過去の再現。次に過去の克服、最後にいちゃラブイベントといった感じに推移していく。

 つまり、聖女さえ持っていて彼女を育成していれば分かったはずの出来事なのだが。王国に召喚されるのは不可避だとしても、わざわざ処刑されて、今でもこうして従魔以外の戦力を用意しないといけないくらい疲弊するまではいかなかったはずだ。

 

「まあ、しょせんはどこまで行っても『低予算で強い力を持ったこの世界に適正のある人物』でしかないね」

 

 無課金プレイヤーに人権は無い。君が生んだ悲劇は無課金でなければ回避出来た事だった。情報不足だった。それだけだ。

 嘲笑してやると、彼は人を殺せそうなほど強い憎しみの籠った目で睨むようになる。

 

「…………それが、最期の言葉かい?」

「おっと、ここで殺されるのは嫌だね『コール』リリィ」

 

 危機的状況にも関わらず、リリィはいつものように嘲りの笑みを浮かべて静かに佇んでいる。

 

「どうかしましたか? 旦那様」

「ここが正念場だ。全財産を支払う。これで一回でいいからテレポートを」

「──んもう、しょうがないですねぇ」

 

 移動手段でも随一のスキルである『テレポート』は、正直に言うと今の手持ちシルバでは足りなかっただろう。しかし、ここで戦っても、俺は無残に殺されるだけだ。

 従魔としてもそれは避けたいのだろう。かなりの無茶を頼んでいるが、それでもリリィは受けてくれた。

 

「一回だけですよ」

「出世払いで頼む」

「それとあわせて、今日から一緒の時間を設けさせていただきます」

 

 それは大丈夫だ。ウィード、シルク、ノーソと従魔の身体を調べているが、最近は安心してゆっくり確かめられる場所じゃなかったからリリィの番を後回しにしていただけである。

 まあ、誠意として他に時間を作っておくか。

 

「樹少年!」

「は、はいっ」

「……とりあえずここでお別れだ。合流出来るかは不明。後は君たちだけで頑張りなよ」

 

 彼らがどのような選択をするのかは知らない。

 現実に帰るのか、この世界に復讐するのか、定住するのか。

 なんにせよ、ずるずると続いた彼らとの旅は一度終わりだ。

 

「とりあえず、ここは逃げな。来た道は引き返せない。海か空か、あるいは北の山脈を使ったルートでヴエルノーズを避けて西を目指すといいよ。滅びの大地はどうなっているか分からないし。確認してもいいけど、とりあえずは西へ」

 

 貴族の街は、こいつらの本拠地か、最低でも手が入ってる場所だ。

 安全を優先するなら西へ。ヴエルノーズより西は治安がよろしくないが、彼らの強さならどうにかなるはずだ。

 

「スリープさんはどうするんすか!?」

「俺? 別にどうってことないよ」

 

 多少予定は変われど、目的は同じだ。

 

「この世界を存分に楽しむだけだ」

 

 リリィのテレポートによって、俺はハンチング帽の男を連れて、王国から転移した。

 

 

 

 飛び込んできた金色の髪の幼女と、それに引っ張られた黒髪の少女と共に。

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