イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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短いです。



閑話 なぜなに従魔講座2

 クリスタルと水の色を反射して、全体的に青く清浄な雰囲気を漂わせる湖畔の祭壇に二人の少女が並び立つ。手頃な大きさの平らな石に腰掛けたトラスがそれを眺めている。異様な光景にアヤナが遠巻きにしていた。

 トラスの後ろでは、シルクを肩に乗せたスリープが立っている。

 

「なぜなに従魔講座の時間だ。司会進行は私ウィードと」

「ラインクレストでお送り致します。ちなみに、サブタイトルの元ネタであるウサギ等はおりませんのであしからず」

 

 何か始まったとアヤナが半眼になる。従魔講座といえば、以前召喚士組を集めてスリープが開いていた勉強会だったとアヤナの記憶に残っている。が、こんな漫才のようなものでは無かったはずだ。

 

「それで、ウィード様。今回はどのような話をするのですか?」

「ああ、新入りが入ってきたことだし、話もごちゃごちゃしてきたから『聖女』という従魔について話をするぞ」

「聖女ですか……。私の同期にも聖女がいましたね」

 

 呼んだ? とトラスの隣に同じポーズをした罪罰が現れる。呼んでません。とラインクレストが返事を返すと、そのままトラスの横で拝聴する構えをとる。

 ちびっ子観客が二人に増えたところで、ウィードが話を続けた。

 

「ああ、高頻度で増え続けるロリ枠の一人だな。あいつも聖女だし、私も短いながら対峙した魔法を放つゴーレムも聖女だそうだ」

「機種が魔法とは珍しいですね。というか、聖女とは勇者の相方だと思うのですが違うのですか?」

 

 そういえばそうだな。と勇者であるアヤナも思ってしまった。ライトノベルなどでは確かそういう設定の方が多かったはずだと。

 それがこの世界では、身勝手に自死を選び、その挙げ句に世界が滅茶苦茶になるきっかけを生み出した諸悪の根源となっているが。

 

「勇者は人間、聖女は従魔だ。まあ、私のいる従魔の世界には聖女なんぞいないのだがな。いるのは魔女だけだ」

「ラインクレストも従魔の世界にはおりませんが、聖女は知らないですね。基本的に同じような機械ばっかりいました」

「私自身元いた世界の事はそう知らないな。真の姿になれなかったから、母様には外へ出させて貰えなかったし」

 

 脱線して二人の故郷の話が始まると、スリープの肩に止まったシルクから『話を戻して』という魔法で書かれた文字が浮かんだ。カンペ役である。

 番組のつもりなのだろうか。アヤナが回りを見ても、撮影をしている様子は見受けられなかった。

 ママゴトのつもりなのだろう。と、一人で結論を出して、この茶番劇の様子を見守る。

 

「話が逸れましたね。それで、聖女というのは特徴か何かがあるのですか?」

「いや、お前も従魔ならば知っているだろう? 従魔は龍種機種といった大まかな分類以外にも、地龍や聖女で枠組みを作られているじゃないか」

「リミテッド従魔という一点物になりますので」

 

 ささやかな自慢をかましてきたラインクレストにウィードは隠すこともなく堂々と舌打ちをした。

 カンペ役から『笑顔で!』と指示が入ってくる。

 

 なお、元々二人は笑顔になってなどいない。無表情としかめっ面で漫才をしている。

 

「まあいい。そのリミテッド従魔という奴でも、私達のいるゲートの向こう側。いわゆる従魔の世界にいないだけで、従魔に分類され、なおかつ似通った性質を持つ存在は、聖女などの枠組みを設けられるというわけだ」

「そんなに似た存在がいるのですか?」

「世界は広い。というのもあるが、別に従魔は生物的に似ている訳じゃないからな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「情報の質とは?」

「概説すると、私達の身体は生物的側面と物質的側面に分かれる。生物的には、龍は人間に似て、食事をし、生殖行為で数を増やせる。大抵の生きている従魔は、そこら辺にいる既存生物と変わりない。だが、物質的には大きく違う。従魔に分類される存在は、その世界が持つ法則よりも優先される法則がある」

 

 従魔になってステータスが現れるのではなく、ステータスがあるから従魔であるのだ。従魔は召喚士に使役されずとも、ステータスを持ち、アビリティが使え、スキルを操る。

 

「そもそも従魔には非生物もいるからな。進化系統図よりも、所属する文明やら持ちうる主義やら役割で枠組みを作られる方が多いぞ。クリスタルドラゴンだって地龍の一種だが、私の眷族なだけで、従魔的に見れば別の存在だ」

「なんか余計に分かりにくいですね」

「グルル……一応ここまでで話したことはあそこのペドラゴンマスターが出した情報のはずだが」

 

 ウィードが指差した先を、トラスと罪罰が向く。振り返った先にはシルクをリコールし、腕を組んで真剣な表情で格好つけているスリープがいた。

 

「真面目に聞きなさい」

 

 ふざけていた人が何を言ってるんだ。そうアヤナはツッコミたかったが、収拾がつかなくなると判断して開きかけた口を閉ざした。

 二人が正面に向き直ったのを見て、話が続けられた。

 

「とりあえず従魔の分類は理解できました。それで、今回は聖女という従魔についてですが……」

 

「説明しよう!」

 

 ノリノリでスリープが入ってきた。

 

「聖女というのは、基本的に身体の構成は人間と同じで、精神も似通(にかよ)った存在だね」

「人型で召喚されるような従魔は大体人間に合う奴しか出ないからな」

「しかし、同時に従魔でもあり、人間とは似ているだけで同じでは無いんだよね」

「ああ、わかりました。同族じゃないから排斥されてきた存在って事ですね」

「辿る運命はそれで合ってるよ」

 

 会話をしながら、スリープは罪罰に手招きする。駆け寄ってきた少女を抱き上げて、腕の中に納めると、話を続けた。

 

「聖女は人類に味方をする使命を持って生まれた存在で、方法や内容は多岐に渡るものの、その全てが善行であり、種としても善性的存在だよ。ちなみに羽は無いけど天種に分類される」

 

 罪罰で言えば、人というよりあらゆる生命体の死をその身一つで受け止めるために生まれた存在だよ。と言いつつ腕の中にいる聖女を撫でるスリープ。

 

「人に寄り添う形で目的を達成する聖女が多いんだけど、そこで人との差異が問題になるんだよね」

「自分の住処によそ者が入るのは不快だからな」

「迫害や、その力を求めて人間同士で戦争とかしそうですよね。ラインクレストの出番でもあります」

 

 自身が持つ性質に(ちな)んだコメントを残していく従魔達。確かにこういう所は従魔っぽいとアヤナは感じた。

 

「罪罰ちゃんのように、今までの人の理をぶち壊すタイプもいれば、この世界の聖女のように、災厄を倒すのが目的の人ではどうにも出来ないことを解決するために生まれた聖女もいるよ」

「罪罰さんはなぜそのような使命を?」

「あー……戦争に次ぐ戦争で、その世界は人どころかほぼ全ての生命体が絶滅しかけてたんだよね。それで、その原因である人間に罪を自覚させるために、人と同じ姿の聖女が、他の存在の死を受ける事で罰を与えながら、生命の復興を目指していたんだ」

「滅ぼせば良かったんじゃないか?」

 

 ウィードの指摘にスリープが頷く。

 

「もう滅んだよ。罪罰ちゃんが誕生した後も戦争は続いたからね。復興よりも、今ある資源の奪い合いをしてたから。俺が罪罰ちゃんを召喚した時点で、生き返らなくなった人間は戦争を続けて、死を恐れないまま絶滅するだろうさ」

 

 まるで決定した事実を告げるように淡々と話した。罪罰の事を知っているのなら、恐らく先ほどスリープが話した内容も、ゲームでの決定事項だったのだろう。

 アヤナは、ふと思った事をスリープに聞いてみた。

 

「ねえ、聖女ってさ柊菜が召喚しやすいんじゃないの?」

「え? むしろ柊菜は召喚出来ないような気がするけど……。召喚出来る聖女は基本的に世界をどうにかしようとかそういう考えは既に無く、逆に救いを求めているようなキャラが多いんだよね。柊菜は、弱者への救済だっけ? それを目的に行動してるんでしょ? その為の力を与えるのが従魔であって、助けを求めて召喚されるなんて事は無いんだよ」

「ヒイナさんという方の召喚に応じる可能性がある聖女は、自力で使命を果たせるか、果たした方が多いから、わざわざ召喚士の手を借りるまでもない。ということですね」

「そういうこと。召喚に応じる従魔は、それぞれ目的があるから、それを叶えられるかどうかも重要になるんだよ。聖女の場合、大体は使命の放棄が目的だから、救済を掲げる柊菜より、平穏を望む樹少年の方が召喚しやすいよ」

 

 あくまで召喚しやすいかどうか。だけどね。と予防線を張るスリープ。

 

「なるほど、召喚される側にも都合があるのですね」

「まあ、一応好感度イベントで、召喚された時にネガティブな事情を抱えた聖女は立ち直るから、それもあってないようなものだとは思うけど」

「グルル……それで、ゴーレム聖女の方はどうなんだ?」

「あっちは、災厄を倒すために生まれた聖女なんだけど、生まれてすぐに災厄と敵対し、手傷を負わせるも敗北するんだよね。それで、今では勝てないから旅に出るんだよ。そこで魔法を発展させたり、この地に魔術として魔法を遺したりしつつ、力を蓄えたり協力を得ようと動くんだ」

 

 アヤナ達勇者も、世直しの旅をしつつ金銭面でもいいから何とか協力を取り付けようと試行錯誤していた時期がある。

 

「まあ上手くいかないんだよね」

 

 倒せるかどうか分からない存在相手に立ち向かうくらいなら、襲われないための防備に手を回すのが人間だ。地位や権力を持つ人間は基本的に保守的になる。ましてや自分達よりも強い存在が闊歩する世界では、一都市を築けば後はもう守勢に回るやつしかいない。

 目立てば殺されるのだからしょうがない。基本的に都市の大きさは、そこのトップが持つ力の大きさである。守護できる範囲までしか広げていられないのだ。

 

 アヤナは北条院財閥の令嬢だ。企業団体は利潤を第一に考える組織なので、そこら辺の事情には理解があった。

 実績すら無いままに力を貸す事はないだろう。アヤナ達も世直しの旅という名目であちらこちらの賊やら従魔を倒さなければ、勇者として名を馳せることすら無かったであろう。

 

「そうして上手くいかないまま災厄は激化して、争いは増え、人に余裕が無くなっていった。そんな時に、災厄さんから人間にお話があったんだよ『聖女を渡せばこれ以上は襲わない』ってね」

 

 アヤナはそこまで聞いて、その後の展開を容易く予想できた。日本の歴史でもよく見る出来事だ。

 

「聖女狩りが始まって、最終的に単騎でもう一度災厄に特攻した聖女様は敗北。一応引き分けまで持っていったけど、その後は人間に捕らえられて、なんやかんやあって逃亡、身投げ。終末の洞窟に流れ着いて、人間のことなんぞもう知らんと眠りに就きましたとさ」

 

 紙芝居の締めくくりのような台詞で話を終えた。

 

 罪罰をリコールし、スリープはトラスの横に座った。祭壇にはウィードとラインクレストだけが残っている。

 

「悲劇的でしたね。ラインクレストの演算能力には問題ないようです。予想通りでした」

「グルル……下等種族なんぞに手を出すからいけないんだ」

「その言葉は我々にも刺さるのですが」

 

 自慢気なラインクレストと、子供っぽい感想のウィードで空気が若干軽くなる。

 

「それではマスター。聖女とは結局どのような存在なのでしょうか」

「……イズムパラフィリアでも、聖女ガチャにはキャッチコピーがあったんだ『その聖女は人の世で生きるには高潔過ぎた』ってね」

 

 結論を出すようにスリープは言葉を続ける。

 

従魔(聖女)は人と相容れないんだよ。召喚士以外とはね」

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