草木も眠る月明かりの夜、窓から差し込む明かりだけを頼りに、一組の男女が絡み合う。
この日、一人の悩める男が失敗した。
「しーちゃん……」
「うん、いいよっ! きて……マスター!」
男女は勢いのまま行為へ至ろうとし……。
「流石に入んないっす……」
物理的に無理があった。
異種族間の文化交流。ぶっちゃけ好感度稼ぎきった少年が性事情に悩み、困り果てたタイミングにTSしたことがきっかけで、二人は付き合いだしていた。
この日は久しぶりに安心できる街中に、彼らを含む旅の一行が到着したので、宿へと籠り二人の時間を過ごしていた。
ソーシャルゲームが元となっているからか、思春期の青少年にとって普段の旅は美少女に囲まれてのものとなっている。姦しく少しきわどい話道中でもあったり、結構厳しい旅だったりと、彼らは仕方の無い事情からかなり距離の近い生活を送っているのだ。
それゆえに、時間をかければ否応にも仲が深まっていく。羞恥心もある程度は削れていく。そうして出来た産まれも育ちも思想も違う人達で作られたグループには、一種の壊しがたい雰囲気というものがあった。それはただの仲良しグループに収まるようなものではない。
魔術師ミルミルの登場により、特に女性陣は衛生面での生活指数の向上が著しい。それまでは長くても三日は越えない野宿の旅だったが、そこに毎日魔術による毎日の風呂やらなにやらで、身嗜みに気を遣うようになった美少女達とずっと時間を共にし続けるのだ。
もう我慢の限界だった。何か良い香りはするし、肌は惜し気もなく晒されるし、この世界の女の子達はとんでもない美少女ばかりだが、日本人である彼女達も引けを取らんばかりの美少女揃いなのだ。
従魔を除いた彼の同性である大人の男も一人いるのだが、彼は不能なのかと思わんばかりに普段から平然としており、未熟で若々しい性の色香に惑う様子は一切見受けられない。
ホモなのでは?
実際のところは、その大人も普通に性にアレコレ興味はあるのだが、歪んだ性癖等の要因が彼を冷静にし続けていた。異形頭が好みであり、どちらかというとシチュ萌えするタイプなので、間違いなんぞ起きるはずがなかった。
そんな事情も知らない少年は、年の差を感じさせない距離感で関わってくる彼を前に、こっそりケツの穴を引き締めていたりする。
閑話休題。TSした時に告白を受けた少年は、今でもその妖精の少女と付き合いを続けていた。
今まで以上に発展した物理的に小さな女の子と少年の関係に女性陣は訝しげにしていたり──黒髪の一人だけ耳年増な少女はニヤニヤしていた──大人の方は満足そうに頷いていたりするが、それはまあ問題じゃない。
彼は普通にあどけない妖精を大切に想っているし、魅力的な女の子だとも思っていた。付き合う前はそのお人形サイズがどうしても欲情出来なかったが、プラトニックに愛を重ねつつ、ムラムラ我慢大会を開いていれば、いずれ悟りを開けるのも無理はない。
いつしか、彼は妖精相手に欲情出来る肉体となっていた。
イズムパラフィリアは様々な異常性癖を内包するゲーム。故に彼もいずれはこうなるのは自明の理だ。
かなり強引にこじ開けた気がしないでもないが、それでも一度歪んだ性癖は戻らない。
彼はこれからも徐々に道を歪めつつ、進み続けるしかないだろう。
いざゆけ、性少年!
・・・・・
「風俗に行きたい?」
「ウッス……」
俺が里香の依頼を終えて宿へと戻ると、意気消沈した面持ちの樹少年が風俗に誘ってきた。
今回は行く気無かったんじゃないのか。
「どうしてまた急に。というか一人で行ってきなよ」
「いや……本当は行くつもりなんて無かったんすよ。でも、ちょっと自信無くしちゃって……」
「はぁ……聞こうか」
面倒くさい雰囲気の樹少年から話を聞く。なんで俺が樹少年の性事情を知らねばならんのだ。そう思いつつも、妙な落ち込みっぷりを発揮するので仕方なく相手をする。
そもそも気まずい間柄だったのに、俺に頼ってくるくらい落ち込んでいるので、メンタルケアも兼ねておいた。樹少年は女の子に囲まれて大変そうだしね。
俺は別に思春期も通りすぎており、そう高頻度で性欲処理が必要でもない。だが、樹少年は思春期真っ只中にあるのだし、今の状況というのはかなり我慢を強いていることだろう。
生憎と、俺は身重になった同行者に配慮しつつ旅を続ける気はない。最低限街に着いたら生活費兼手切れ金であるシルバを幾らか渡して、はいさようならだ。
「……で、物理的に入らなかったと」
「そうなんすよ! 今までそっちの雰囲気とか関係を想定してなかったから気付かなくて……っ」
ワッと泣き出した樹少年に送る言葉に悩む。
気付けよ。せめて前段階の時に気付きなよ。なんで二人揃って挿入段階で気付くんだよ。
「ピクシーはオッケーだったんだからイけば良かったのでは?」
「痛がるに決まってますし、お腹裂けちゃいますよ!」
ステータス的に考えても俺達人間がピクシーにダメージ与えるのは可能でも、一撃で腹を割くのは無理だから大丈夫だよ。ボコォッ! ってなるだけだから。
「大丈夫だよ。ピクシー柔らかいから」
「本当っすか?」
「ウンホント、スリープウソツカナイ」
攻撃力的に考えれば入れることすら無理かもしれんな。いや、でも一ダメージは入るから可能か。あそこへの挿入が一ダメージなのかは置いておくとして。
「でも……痛くさせちゃって下手くそに思われたくないんすよね」
知らんがな。
「それで風俗へと?」
「妖精系の場所とか無いんすか?」
「これ健全なゲームなんだよね」
あるとは思うけど。サイズ小さいのから徐々に大きくして慣らせばいいじゃんか。ゴム製綿棒とか探そうか? 多分風俗では売ってなくとも召喚士用としてはその手のグッズはあると思う。
「とりあえず探しに行きましょう!」
「やだよ。今日はもう疲れているんだ」
樹少年は嫌がる俺を持ち前の強引さで無理矢理連れて行った。稀に発揮する強引さはなんなんだろうか。
繁華街へとたどり着く。王国はヴエルノーズと違い暴君ではないので、治安がいい。いや、別方向から見れば独裁者で暴君みたいなものだけど、舐められたら終わりな国王様は上手いこと増長させずにやっているらしい。
「普通の人が多いっすね……全体的にレベルは高いと思うんすけど」
「悪さは出来ないからね」
健全かどうかはさておき、夜の街で客引きをする人はゲームでもモブにしては可愛いレベルの女の子ばかりだ。その代わりか、ヴエルノーズのような退廃的雰囲気も無ければ、混沌具合も無い。
あそこで会ったのはゲームとは思えない凄い外見の人だったからな。悪い意味で。
そこにいた少女達は、人間も居たが、召喚士が提供しているのか、サキュバスも混ざっていた。悪魔っ娘はいたのだ。
まあ、イズムパラフィリアの従魔は絶対服従ではないので、そういう方面でもオッケーな従魔でもなければ風俗には出ないか。
……今さらながら樹少年の作戦は無理がある事に気付いた。従魔は召喚士以外の人間とはほとんど接触しないのだ。
従魔がわざわざ野良で現れて人の生活圏で風俗嬢に身を落としている可能性はなきにしもあらずだが、そんなことするくらいなら、もうちょっと別のことをしていると思われる。
「引き返そうか」
「いや、ここまで来て男なら引き下がれないっす!」
いや、帰れよ。目的忘れてんぞ。
頑なに帰りたがらない樹少年と俺の元に客引きの女性が近付いてくる。肌の露出が多く、人目を引くような女性だ。
「素敵なお兄さんたち~ちょっと休んでいかない?」
「妖精はいるっすか?」
「えっと……そこまで小さい娘はいないけど、でも、妖精みたいだって言われている娘はいるわよ~」
「妖精みたい……」
条件反射じゃないか。
……あ、樹少年は生殺しで終わったのか。だからこんな見境無いんだな。自己処理しておけばいいのに。
しょうがないので、樹少年がフラフラと女性の後に付いていく背中を追いかけた。
ヴエルノーズはそっち系の宿だったのだが、ここは普通にお酒飲んだりと繁華街の名に相応しい店のシステムがあった。
表向きは飲食店とかなんじゃないかな。
「ご指名ありがとうございます~。ユキノ・フェアリーでぇーっす」
全体的に小柄で、髪をツインテールにした女性がやってきた。
きっつ。顔は老け気味だしグラフィックは良くない。色々配慮した感じの後進国ジャパン時代にあったできの悪い3Dゲームのキャラみたいだ。
ツインテールにしたらロリだと思うなよくそが。
樹少年も女性を見て「妖……精……?」と首を傾げている。
待っている間に注文した酒を一口飲んで口を開いた。
「チェンジで」
結局、フェアリーは居座り続けたので、俺の分として新しく嬢を頼んで樹少年に押し付けた。
樹少年は気配り出来る人間だし、今時の学生にしては知識もある。そして、フェアリー嬢もお酒を飲んで金を出す客相手には普通に愛想良く会話するようだった。新しい嬢も新人なのかフレッシュさがあり、上手く相槌を挟んだり持ち上げたりと樹少年を気持ち良くさせている。
ちなみに、キャバクラネタだが、初見の人を相手にする時は本番と言われる。別にそういう行為をするわけではなく、隠語的なアレだと思う。
「彼女との(体格的な)サイズが違いすぎて、入らなかったんすけどどうすればいいっすかね……?」
「は、入らないくらいなんですかぁ? とりあえず、最初は小さいのから慣らしていくとか……」
「もう入れたら物理的に千切れちゃいそうで……」
「ちぎれる……」
話しは進み、樹少年の悩み相談に変わった。なんか面白い事が起きているのを隣で聞きつつ、一人静かに酒を飲む。
ちなみにだが、樹少年も弱めの酒を飲んでいる。そのせいかお互いのすれ違いに気付かないまま口がよく回っている。
ごくりと生唾を飲み込む嬢達が顔を見合わせる。
樹少年は二人を持ち帰ることに成功した。
繁華街を少し離れた路地を歩く。前には樹少年と、それに組み付いた二人。俺は後ろで気配を殺し他人のふりをしつつ付いて行っている。
そこに黒いフードで顔を隠した男が近寄る。
「おや、お兄さん。これからかい?」
「あ、そうなんすよ」
「へぇ、女の子二人を相手にね。それってちょっと不安じゃない?」
「まあ……」
樹少年は今自分に自信を持てない状態なのでどんどん悪い方向へと連れていかれる。
「そんなお兄さんにこれをあげよう。『レフトオーバー』といって、まあちょっとした自然由来の安全な精力剤さ。これで一日中だって元気いっぱいだよ!」
そう言われて数粒の青色の錠剤を渡される。
ヴエルノーズでも裏で流通してたが、こんなところにまで流れてるのか。ただちに人体へ悪影響がある訳ではないのだが、それは普通に危険な薬なので止めてしまおう。
「樹少年、それは──」
「いただきます!」
「危険な……やつ……。まあいいか」
貰った分を一気に口へ放り込んでしまったのを見て、引き留めようと上げた手を下ろした。
これ以降使用しなければいいだけだ。知らない人から貰った食べ物を食べる樹少年が悪い。
俺の様子を目に入れた樹少年が咳き込み、涙目で吐き出そうとしても、もう遅い。
気付けばフードの男もいなくなり、樹少年は今にも死にそうな顔をしている。
「スリープさん……なんだったんすかこれ」
「ん? 精力剤だよ。安心して」
「本当のことを言ってくださいよぉ! 死にたくない。死にたくないっすよ俺!!!」
「大丈夫。アルラウネの蜜を使った自然食品。人体へ巡り、徐々に肉体を作り替えるだけの薬物だから」
数粒だけなら問題ない。蜜段階のレフトオーバーだから、食べてもアルラウネへの抵抗力が下がるだけさ。
半泣きになりながらも、樹少年は俺達が寝泊まりする宿とは別の、ムーディーな宿へと向かっていった。
今さら止まれなくなったらしく、覚悟を決めた男の顔をしていた。
宿の一階受付には誰もおらず、樹少年も先ほど鍵を借りて上階へと消えていった。椅子すらないここで時間を潰すのもアレかと思い、この場を離れようとするも、宿の入り口が閉ざされた。
俺に背を向けたまま、小さな背をした女の子が話す。
「懐かしいですね。旦那様」
「……そうだね」
リリィが現れて、宿の入り口に鍵をかける。営業妨害じゃないかなぁと思いつつも、じっくり会話する時間が欲しかったので、リリィとの二人きりの時間を楽しむ方に思考を切り替えた。
リリィもまた、街で複合宿みたいな建物の経営者である。イベントでは、雇った女の子を部屋に放り込み、カーテンがサッと閉じられると、暫くの後に体力と精神力を減らした女の子がお金を持ってくる。といったシステムの宿屋経営ゲームをプレイ出来る。毎度キツくなる一日の支払いを何度か繰り返すと話が進んで、最終的に街で一番の宿屋になったらゲームクリアのイベントだった。
わりと難しい上に作業ゲーなので、評価としてはそこそこだったイベントである。
「私の世界にひょっこり現れた旦那様を拾った時は、私が街で一番の経営者になることも、ましてや従魔になるなんてことも、思いもよりませんでしたね」
「……あの宿屋はどうしたの?」
「ああ、あれですか」
ゲーム時代でも少し気になっていたが、リリィは最初から一番の経営者を目指しましょう! といってイベントが始まり、クリアするとリミテッド従魔として召喚される。
リミテッド従魔は肉体そのものをこちらに持ってきているので、彼女の宿はどうなったのか不明なのだ。
「旦那様がいなくなった後、他の人に任せることにして、一人で小さなレストランを開いてましたよ。私の道楽として、金だけ払って。一からやり直そうと思ったんです」
その回答は、少し以外だった。彼女はヘドニストで、快楽を得るには過程の方が大事だとは思うのだが、それだけ苦労もあるだろうに。
むしろ金を使って豪遊の限りを尽くすと思っていた。
「……ぶっちゃけ、つまんなかったですね。旦那様といた時は、大きくなっていく建物を見るのが好きだったんですけど。なんか足りないっていうか、一度経験したから飽きたというか……張り合いもなかったんで」
だから。と彼女は言葉を紡ぐ。
「旦那様に喚ばれた時は、ついていこう。って思いましたね。二人で挑んだからこそ楽しかったんだろうなと思ったんで。知らない世界に行くことになりますし」
くるり。と振り向いたリリィの顔は、いつもの如くニヤニヤと小馬鹿にしたような嘲りがある笑顔で、薄く目を開いているそれこそが、彼女らしい表情だと思った。
俯瞰的に、観測者で、見下ろして笑う。頂点に立つ者の享楽の表情。
「また、この旅が落ち着いたら、一緒に世界一の娼館を作りましょうね」
「あ、やっぱあれ娼館だったんだ」
「そうですよ。一部屋一部屋に女の子放り込んでいるんだから分かるでしょ?」
寄り添うように隣に立った少女が俺の手を握る。
「さあ、未来の娼館経営の為にも、ここの宿がどうなってるのか探索しに行きますか! あ、今度は一階をレストランにしたいですね。アレも途中で放り投げて来ちゃったんで」
「……従業員に従魔は使わないからね」
「分かってますよ。そりゃあ全員旦那様のパートナーですからね。良心の痛まないそこら辺の女の子を買って使っていくのが楽しいんじゃないですか!」
珍しいにっこりとした普通の笑顔で俺の手を引く少女と一緒に、階段を登っていった。
日が昇り始める前に、樹少年は出てきた。
俺とリリィの宿探索は普通に部屋を眺めて建物の作りを見てあっさりと終わった。お腹がすいたので後は二人で食事をしたが、それだけである。
「…………スリープさん」
「なに?」
「俺って、小さいんすかね……?」
どうやら勘違いは解けたみたいだ。樹少年は期待外れだったみたいで、だからこそわりと早めに終わったんだろうな。
鼻から深く息を吸う。夜明け前の冷たい空気が眠気を覚ました。
「知らないよ」
久しぶりの安全な場所だというのに眠る事が出来なかった俺は、樹少年を突き放すように言った。小さいなら小さいでピクシーに入るだろうと喜べよ。
泣き崩れた樹少年が本当に情けなかったので、リリィの販売による妖精用のゴム綿棒を樹少年へプレゼントした。
ちょっとした小ネタ
ウィードのキャラコンセプトは中身ロリ