意図しない形で自由になれてしまった。
まあ、後々ギルドで合流とか言ってたから問題無いだろう。学生服は非常に目立つし、探せば見つかるさ。
さて、自由になったのだから行動を起こさないといけない。二人に続くように店を出た。一応確認したが、本当にイケメン君が支払いを全部したらしい。
イケメンってのは気遣いが上手なんだな。
「早速だけど、まずは検証から始めようか。どこまでがゲームと同じで、どこから現実になっているのか確かめないといけないからね」
その為にもウィードには手伝って貰わねばならない。
「行くよ」
「嫌だ」
ウィードの手を引っ張って移動しようとしたら、すぐに腕を引き抜かれた。
こいつ最初ってこんなに拒絶してたっけかなぁ? 龍種は基本使わなかったのでいまいち分からない。
こちとらプレイヤーなので言う事を聞かせるのは可能だろうが、嫌われているままというのも面倒くさい。
やっぱ風龍ブリーズが欲しかったわ。同じ龍種でもあっちは可愛いからな。
「うーん……じゃあ別のアプローチをするか」
ウィードに示すのは肉料理専門店。
「色々知っている事を話してもらうよ」
その為にも、まずは餌付けである。
検証という程のものでは無かったが、幾つか得た情報があった。
まず確認した事は、フレーバーテキストの現実化である。
これは最初から懸念していた事で、かなり面倒くさい事になったと感じている。
例えば、ゲームでは地龍ウィードのステータス構成とアビリティはタンク向けである。龍種特有の高ステータスでも、特にHPと防御に割振が多い。そして、彼女が持つ固有アビリティの一つ『雑草魂』は、現在HP減少割合に合わせ防御力の増加というこれまたタンク向けの能力を持つ。
その分魔法系のステータスは伸びず、スキル習得も適性では無いとされている。
それが、この世界での地龍ウィードはタンクに加えて、地属性の魔法系能力には才能があるのだ。
詳しく言えば、魔法では無い。大地を司る龍とされるウィードがその力を行使した結果の魔法系効果というわけだ。ダメージ判定は恐らく物理だが。理外の法則という意味では魔法だ。
ゲームでは魔力が低いので碌な魔法スキルを使えない。遠距離攻撃は苦手なのだ。
それがこの世界では地面の隆起などの方法で遠くからでも攻撃が出来るのだ。
ウィードの言い分では、同じレベルの力を持つ奴には通用しないとのことなので、戦闘では使ってもあまり効果は見受けられないということなのだろう。
そして、フレーバーテキストとゲーム上の数値などの矛盾はどんな処理が入るか。
例えば、ステータスは強いが、実際は肉体が脆いゾンビ系の従魔とかだ。
そこら辺はフレーバーテキストが基本的に優先されるらしい。ウィードは物理ダメージの魔法が使えた。発動でMPを消費することも確認済みだ。
つまりは、レア度よりもフレーバーテキストの内容を重視しておいた方がいいという事だ。状況と相性ではレア度を超える強さを持つだろう。
まあ、実際に殴り合わせればほぼレア度が上の方が強いのだろうが。
ついでに、召喚された従魔がゲーム世界と同じキャラなのかどうかの確認をしたのだが、これも同じと見てよさそうだ。
ゲームの時は同じ従魔の同時使用は禁止されていた。ここも特に設定は無かったが、同様に出来ないと考えていいだろう。
気になるのは、別パーティーでの従魔同時使用だが、そこまでは確認出来なかった。
リミテッドクラスは召喚したもの勝ちだとは思うのだが……。それも召喚しなければ分からないだろう。
これ以上はガチャを回してゆっくり調べていけばいい。当面の俺の目標である。
出来れば死種の魔女系列を召喚したいものだ。彼女達が持つ知識は非常に有用なものばかりなのだから。
と、時間がかかり過ぎたな。既に日が傾きかけている。ギルドへ向かうとしよう。
俺は、頭にしがみついたウィードを連れて召喚士ギルドへ向かった。
「連れて行かれた?」
「ああ、目撃者が言うには変わった服装をしたピクシーの従魔を連れた男が東大通りの路地裏にある廃ビルへ運ばれていくのを見たらしい」
ギルドに到着した俺に待っていたのは、受付をしていたおっさんだった。
どうやらさっき入ったばかりの新人がトラブルに巻き込まれるのを見ていた人がいて、それの通報を行ったようだ。
それにしては誰も助けに行っていないように見えるが、それは仕方がない事だろう。
この世界に警察と呼べる組織はほとんどいない。治安維持をするにしても金がかかる。
割とこのゲームの世界観は弱肉強食なのだ。強けりゃそれで許される。
それがまかり通るのがこの世界だ。地球との違いは、個人が保有する力の差があまりにも大きいからだろう。
地球で強いのは人間だ。動物を自在に操り命令させられる人はいないし、単純に人間の持つ文明武器の方が強い。銃等は力の上限が低く、個々に圧倒的な差が無い地球人だからこそ作られた、平均化された安定した兵器なのだろう。
対し、この世界は違う。弱い奴は弱く、強い奴は山をも切り裂く。生身の人間でだ。
だからこそ、この世界は全員が平等に生きられるようなルールは無い。強者が上に立ち、それに庇護を求めた人々が集まる。そうして自然と生きやすいように暗黙の了解は生まれる。同時に強者はそこで何をしても止められはしない。
収容所が作られ、そこで強制労働されられていないだけまだマシな世界観である。弱者が集まった所で下克上が一切成立しないのに。
と言っても最低限は守られるはずなのだが。健全なRPGゲームとして登録されているので。過度な暴力表現は無いはずなのだ。表向きは。
俺の視線に気付いた受付のおっさんが頭を掻く。
「…………今回は同じギルドメンバーの問題だとわかった。個人の問題は個人で済ましてくれ」
まあ、そんなもんだろう。組織のメンツがかかっている訳でもない。俺達が組織に貢献した訳でもない。
知らないピクシー召喚士よりも、知っている強い召喚士の方が大事なのだろう。
初従魔がピクシーは無いわ。緑種星三とか最弱スタートと言ってもいいレベルだよ。同じピクシー系でももうちょいレアなのを狙うべきだ。妖精女王なら星五だし攻略も楽になるだろうに。
「いいよ。そんなもん。とりあえずそのイケメン君が連れて行かれた場所を教えて貰おうかな。後はこっちで済ましておくから」
要はこっちが強ければ何も問題は無いのだ。
東大通りなら、この街のサブクエストにも関係しないので、脅威にはなり得ないだろう
ゲーム設定が続いているなら、この世界の敵は星五以下で攻略可能なのだから。
とはいえ、星五がいればゴリ押しで攻略出来るゲームでもないがな。星十のウィードを持っていようが、進化まで鍛えなければこの街のサブクエストで負ける。
必要なのは、強力な従魔を複数用意出来る財力か自分のやりたい戦法を用意出来る財力だ。
まあ、この世界では課金出来ないのでひたすら石を割るしかないだろう。
・・・・・
「おい、起きろ」
拉致されたイケメン、原田樹は腹部への激痛によって目が覚めた。
周囲は硬質だが弾性を感じる謎の素材で出来た床と壁で覆われている。薄暗い蛍光灯のようなものの明かりに照らされて、少なくとも十人は下らない人数がこの場にいた。
「ここは…………俺」
「大して金も持ってねぇじゃねえか。使えねぇな。慰謝料として、このアーティファクトは貰っておくぜ」
樹を起こしたのは彼の目の前に座る男だった。ニヤニヤと笑いながら、彼のスマホやら財布やらを見せびらかしてくる。
そこで、樹は自分が何故気絶していたかを思い出した。
店から飛び出した新田柊菜を追いかけていた。人混みの向こうに彼女を見付けた樹は、存在に気付いて貰えるように大声を出して駆け寄ったのだ。
その時、今目の前にいる男にぶつかってしまった。
声を出して走る目立つ人間に対し、その存在に気付かないでぶつかるというのは有り得ないだろう。これは意図的に起こされたものだった。
ぶつかり、怒鳴られ、殴られてここに連れてこられたようだ。服こそ無事であったが、彼の持ち物であるスマホと財布は奪われてしまっている。
見ると、彼等は全員が召喚士では無いようだ。樹を拉致した男はトゲ付きの棒を持っているようだけの、従魔を持たないチンピラである。
とはいえ、それは何の意味も持たない。むしろ、従魔よりも目の前の男を危険に思っていた。
彼の従魔であるピクシーならば、レベル1でも人外相手の戦闘に慣れていない人間が数人集まった所で勝てはしない。
しかし、その事実を樹は知らなかった。襲撃を受けた瞬間に、意地だけでピクシーを懐に隠し、待機させていた。
彼の手のひらに収まるサイズの小さな少女を守ろうとしての事だった。
主人の命令を受けて、シーちゃんは奇襲に備えて魔力を溜めている。いつでも飛び出して縦横無尽に暴れるつもりである。
惜しむらくは、主人の知識不足だろう。夢で一度彼女の強さを見たにも関わらず、女の子は守る対象だと思っていた。
「な、何が目的だよ! こ、こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」
樹の口から出たのは平和呆けした日本人の言葉。現状を理解していない危機感の薄さの表れであった。
彼の知る最大の脅威たる銃器が見当たらないのも、それに拍車をかけていたのだろう。不良の集まりに見えたのかもしれない。
「うるせぇ口だな。少しくらい黙ってろや」
ガツンと、こん棒を一振り。樹の目の前に振り下ろされたそれは、床を抉った。
破片が額にぶつかる。皮膚を傷付け、血が流れ始めた。
ここにきてようやく樹は事を理解した。
どことも知れない場所。味方などいない恐怖。理不尽な暴力。ここは日本ではない。警察に頼れるかどうかすら不明なのだ。
ギルド証こそあるが、彼等を守っていた戸籍や日本国民であるという国籍に比べればあまりにも薄い。五分程度で入手出来た小さなタグ。税金すら払ってない自分は、福利厚生を得る権利はないのだと。
彼を守るものは何も無い。それを叩きつけられたのだ。
「待って! 黙る! 黙ります! だから、殺さないでくれ!」
「うるせえって言っただろ!」
自然に自分で身を守ろうと行動し始める。口から出た言葉は命乞いだった。
その返事は蹴りだった。つま先に鉄板を入れているのだろう。皮で覆われていても鈍器で殴られたような衝撃が彼を襲った。
唇が切れて血が滲む。前歯は折れ口内が叫びたくなるような痛みが彼を襲う。
それでも叫ばなかったのは一重に殴られたくないが為だろう。
樹の脳内では恐怖や理不尽に対する怒りがあった。
なんで自分がこんな目に遭うのだろうか。どうして自分だったのか。そもそもなぜこんな世界に連れてこられたのか。
自分が弱い悔しさやら何やらで涙が止まらない。理不尽な暴力や人の悪意が嫌で、しかしそれを跳ね返す勇気も力も無かった。
丸くなって耐えるだけ。情けなさでいっぱいだった。
不意に、彼の口の痛みが消えた。折れた歯も治っている。
「だいじょうぶ! 私はマスターの味方だよ!」
樹にだけ聞こえるような小さな声で、励ましている。この世界で出会った小さな友達。
自分よりも小さく、しかし力いっぱいに楽しそうに生きている愛らしい妖精。
彼女の存在が、彼を奮い立たせた。
今、周囲のゴロツキは情けなく丸まっている彼を嗤っている。
「なっさけねぇなぁ! かっこ悪いと思わないのかよ! まあ、所詮大声出して大通りを走るような田舎者だ。世の中の厳しさって奴を教えて貰えたな」
「やり返したきゃ、やり返していいぜ? 俺ら氷炎の人形団によ!」
ダサいグループ名だった。どう足掻いても人形団は劇団にしか思えない。ましてやこんなチンピラとは、誰が思うのだろうか。
気の抜けるような名前を聞いて、樹は自分の恐怖が和らいだ。脳内では必死に自分が勝てる方法をシュミレートしている。
妄想の中では最強だ。間合いを詰めれば武器など恐れるものではない。
やってやる。殴られた痛みを怒りに変え、彼は勢いよく飛びかかった。
「うおおおおお!」
「ハッ、ヒョロガリのガキがイキリやがった!」
彼の動きは読み切られていた。武器は使わず、走り寄ってきた樹へ膝蹴りが入る。
折れた上体を起こさせるように胸ぐらを掴まれる。樹の視線の先には、こちらへ大きく振りかぶった拳が見えていた。
「ファイアー!」
その拳が振るわれることは無かった。
胸ぐらを掴まれる事で開いた服の襟口からピクシーが飛び出す。
そのまま主を攻撃しようとしていた男へ魔法を一発撃ち込んだ。
至近距離での魔法を顔面に受け、一瞬で男の顔は黒焦げになった。熱で男の眼球は一瞬で白くなった。タンパク質が白くなる現象が人間で発生したのだ。
男はもう生きてはいないだろう。
「ヘボイ!」
「ちくしょう、ヘボイがやられたぞ!」
「ガキがぶっ殺してやる!」
一瞬で周囲が騒がしくなる。ナイフを構えたりと男達は樹から距離をとった。
「そこまでです! 原田君を返して下さい!」
「に、新田さん!? なんでここに……」
「原田君、無事!? 今助けるからね!」
彼等の背後、部屋の両開きの扉から学生服に身を包んだ少女が現れる。彼女を守るように悪魔のような金色の捻れた角を持つ人型の従魔が、紅の剣を構えている。
「仲間が居たか」
「お、おい! 相手は召喚士だぞっ!」
「怯むんじゃねぇ! ヘボイが殺されてんのにここで引けるか! こっちだって召喚士には伝があんだ。俺達に楯突いた事を後悔させてやれ!」
「召喚士は本体が弱点だ。数で囲んで叩き潰せ!」
ゴロツキ達が半々に別れて二人へ襲いかかった。大乱闘の開始である。
スリープとウィードに、樹少年が拉致された事を報告した時の話である。