ついでにイズムパラフィリア一周年です。
去年のまとめ的に活動報告書いてます
60話 分裂パニック都市
召喚士達が怪物と暴虐に包まれた王国を背にして東へと進む。
巨大な龍の背に乗る彼らの数は二十を超える程度。その誰もが疲弊し憔悴していた。
戦いがあったからというのもあるが、その後に起きたテロが大きな原因だった。彼らは王国を脱出する時に見てしまった。見つけてしまったのだ。
膨れ上がる肉体に包まれた人と同じ形をした怪物を。それらが地を埋め付くし、土煙を上げながら王国へと殺到する光景を。
あれを見てしまえば、王国が影も形も残らないのは確実だろう。この世界に生きる人間達は知っている。世界には、自分たちよりも遥かに強い存在達がいることを。
まるで、数年前にあった災厄のようだと。
遠くから未だに阿鼻叫喚の様相がうかがえる気がしてならない。見捨てた人達の叫び声と風を切る音が重なって聞こえた気がした。
腕に水晶を巻き付けたショートボブの少女がため息をつく。
「……スリープさんにメッセージ送っても反応がない。無事だといいんだけど」
「策があるから転移したと思うけど? とりあえず生きてるんじゃない?」
「悪い事ばかり考えても仕方ないっすよ新田さん」
水晶を見て肩を落とす柊菜を慰める里香と樹。
彼らには、あのスリープが死んだとは考えにくかった。しかし、スリープは自称元最強プレイヤーでしかない。従魔を隠して持っている様子も樹と里香は知っていたが、それだけで無事に切り抜けられたかは不明である。
スリープもすでに王国にはいないと思うが、ヴエルノーズを襲った怪物の群れの比にならない光景を見ては、軽く絶望に包まれるのも無理はなかった。置いてきてしまったかもしれないという感情がどこかで罪悪感を生み出す。
「皆さん。もう少しで貴族の街に着くはずです。万一に備えて、戦闘の準備をしてください」
龍使いのギルドマスターが全員に届くような声で話す。樹がそれを聞き龍が向かっている方向を見つめたが、そこには街のようなものは見えなかった。
「……この速度からして地平線の向こう位には見えても言いと思うんすけど?」
「ほんとだ。っていうか、青い海が見えない?」
「えっ? ……確かに、水に沈んでるっぽい? 水没都市、なのかな」
樹達の見つめる先には、微かにだが青い水の中から生えるように建造物があるのが確認できた。
そして、それはギルドマスターの目にも写ったようだった。
「なんですって? 水没……? いえ、これは」
ぐんぐん近付いてくる青。龍が加速したのだろうか、猛スピードでそれは近付いてくる。
「総員戦闘準備!! これは水なんかじゃありません、従魔ですっ!」
驚愕に悲鳴が混じったような声で命令を出すギルドマスター。それに応じたのは僅かな召喚士だけだった。
青の群れは巨大な魔方陣を作り出したかと思うと、そこから一回り小さい光の柱が飛んでくる。
すかさず防御を選択する召喚士達。従魔にスキルを撃たせて攻撃を減衰させ、続くアビリティかスキルでシールドを張り、威力の衰えた攻撃を受け止める。
そうして一連の行動を終えた後には、迫っていた青色が霧散していく様子だけがうかがえた。
「は? ……なんすかあれ?」
「あ、エネルギーバブルだっ! 良いなぁー」
次々光の玉になって消えていく青色を見て、樹はそれが無数に集まった従魔だと気付いた。それと同時に、彼の従魔であるピクシーのシーちゃんが呟いた。
「知ってるんすかシーちゃん?」
「うん! あれはね【エネルギーバブル】っていう私達とかのご飯なんだ! たしかね、機種だったはず!」
「ごはんっすか……」
シーちゃんからもたらされた情報によれば、それは大した驚異でもなさそうだった。
蠢く青色が微かに光を纏う。
「でも、あんなにいっぱいいたら女王様とかに頼んで駆除して貰わないとだね」
「なんでっすか? 地道に一匹ずつ倒していけばいいじゃないっすか。シーちゃん達って仲間いっぱいいそうじゃないすか」
「あー……えっとね、マスター」
従魔と人間では常識も感覚も違う。それらを擦り合わせるのには、正しく言葉を使い認識を合わせる必要がある。
無邪気で言葉を使うのは得意ではないピクシーがゆっくりと言葉を
「エネルギーバブルって、数が凄い勢いで増えるんだよ。具体的には一匹いたら、一分で六十四体になっちゃうの」
青色の津波が召喚士達へと襲いかかった。
「きゃあ!? エー君、チェリー、大丈夫?」
「な、なんとか無事ですよご主人様……」
「──ヒイナ、イツキはどこに行ったの?」
「あれ? そうだ。樹君がいない」
エネルギーバブルの津波は一度ぶつかった後すぐさま消えていった。数こそ驚異だが、耐久はほぼ皆無なのだろう。
僅かながら龍の背中にエネルギーバブルが残っている。透き通った薄い青色の液体がもぞもぞと蠢いている。スライムのような粘液生物というよりかは、かなり薄く柔らかい水風船みたいな従魔だ。
眺めていると、それは瞬く間に分裂し、数が二倍になった。
「……分裂、したよね」
「十秒で二倍ってことね。とっととこいつらをぶちのめしてイツキがどこに行ったか探すよ!」
里香が右手を頭上に掲げ、手のひらを天に向ける。左足の膝から下を地面と水平になるように折った。
「『コール』!」
いつぞや見た里香の召喚ポーズである。柊菜は少しだけジトッとした目を里香に向けた。
「……あざとくないですか?」
「可愛いでしょ?」
里香と柊菜は実はそこまで仲良くない。単純に相性の問題で生活環境が違いすぎたからか、思想が大きく違うのだ。
例えるならば、柊菜は男子を寄せ付けない少数の大人しい女子と行動するタイプの女子で、里香は男子に混ざって何気ない仕草とかで輪を掻き乱すタイプ。
複数人で行動するのならば特に問題はない。だが、こうして二人きりになれば、若干気まずい空気が漂い始めるのだ。
そんな空気に呼応してか、里香の召喚ゲートからも水色の煙のような物が垂れ流されている。
瞬く間にそれは周囲を包み込むと、エネルギーバブルのみをグズグズに溶かしてしまった。
煙が晴れ、その光景を驚愕と共に見つめる柊菜。里香は腰に手を当てては胸を反らしてドヤ顔をする。
煙は触れると若干濡れて冷たい事から、霧である事を柊菜は悟った。
霧は形を蛇のように長いものにすると、その先端から骨となったアギトを晒した。
「【濃霧の死龍ネクロミスト】私のゴルに変わる新しい従魔だよ!」
すっごい強いの。と誇らしげに語る里香を見て、柊菜は確かに自分たちに足りない部分が埋められている事を自覚した。
今までは回復と遠距離攻撃の不足が深刻であったが、今回里香が引いた従魔は、遠距離攻撃と言って良いのかは不明だが、周囲を邪魔しないように攻撃する方法を取得しているようだ。
それでいて、広範囲の攻撃。
今回の敵には相性が良いかも、と柊菜も青い津波のような塊に対する絶望感が薄れていった。
「……でも、それって龍種、だよね? 龍種覚醒はどうしたの?」
見た目は霧と骨のよく分からない存在だが、龍と名が付いているならば龍種であろう。ウィードがたまに動かない理由をスリープから聞いて最近知った柊菜が小首を傾げる。
「え? これ、死種だよ? ネクロって付いてるんだから死種に決まってるじゃん」
「え、えぇ……?」
外観は蛇に近い骨。名前に龍。しかし死種。
柊菜はイズムパラフィリアというゲームに対する理不尽な感覚を覚えた。属性を詰め込みすぎじゃないか。と。
ここからゲームの特徴として擬人化まで出来るのがイズムパラフィリアである事を柊菜は知らない。
「しっかし、思った以上に弱い敵だね。私のネトはまだ召喚したばっかりなのにもういない」
「……えっと、従魔同士にも強さの幅があるだろうし、厄介さは今までの比じゃないと思うな」
その手応えの無さに里香は首を傾げた。あまりにも弱い。数こそひたすらに多いが、それだけでしかないのだ。
まるでHPが一にでもされているかのようなレベルの弱さだった。撫でるだけで死ぬ。人でも殺せる。そんな敵だ。
そんなものでも、数が集まれば脅威になるのだと思い知らされたが。
「皆さん、これより私達は貴族の街の状況を確認する為に潜入、及び侵攻を開始します」
従魔による脅威が去った後、蠢きながら増えたり減ったりする青色を前に、龍人の少女が話し始めた。
「現在見えている敵は従魔【エネルギーバブル】記録では機種にして星二の従魔です」
星二の従魔が比喩ではないレベルで山程居るのか。と絶望に包まれかける召喚士達。彼らの絶望を晴らすように少女は続ける。
「敵の能力は分裂。そして、かの従魔はその能力を前提とした強さしか持っていません。単体ならば街の子供でも倒せなくはない。といった程度です」
確かに敵は弱かった。しかし、問題はその分裂が街全体を埋めつくして尚も膨れ上がり続けていることだ。
つまりは、相手方の準備は万端だということ。僅か三十すらに満たない召喚士達が戦ったところで、敵を削りきる前に物量で潰されるだろう。
質を圧倒する量がそこにはあった。
「とはいえ、敵の数は我々の力だけではどうにもならないでしょう。その為、チームを二つに分けます。一つは、エネルギーバブルの増殖を抑え、削り続ける部隊。そしてもう一つが、街に潜入し、エネルギーバブルの召喚士を直接倒す部隊」
そこで使われるのが、少数精鋭による本体への強襲だ。
どれだけ従魔が強かろうとも、それを使役する人間は弱い。召喚士の弱点は召喚士そのものの弱さにある。
ましてや今回の敵は数だけは優秀な分裂増殖をする従魔。自陣の防衛には向いていない。隠し持っている従魔がいるのかは不明だが、街への襲撃に物量のみを使っている時点で、恐らくそれほど強力な従魔でもない。
そう判断して、少女は二つに召喚士のチームを分けたのだ。
「別れちゃった。まあ、そうなるとは思ってたけどさ」
頑張ってね。と従魔を削る側になった里香が柊菜の肩を叩く。
直接的な攻撃力、局所的な突破力が極めて高い柊菜と、全体への強力な攻撃が出来る里香では、部隊が別々になるのは仕方のないことであった。
「私……一人で、かぁ」
「こっちはミルミルがいるけど、担当する場所的にはほとんど一人ぼっちかもね」
「いなくなった馬鹿弟子をさっさと見つけて来なさいよね! ……別に、アンタの実力なら一人ででも問題なくやれるからっ」
一応他の召喚士もいたのだが、気心の知れた、そして実力を信用できる相手ともなれば、誰もいなかった。
潜入でも、殲滅側でも、最初以外は、まとまって動くことはないだろう。
「……ありがとうございます。師匠、里香ちゃん」
「一人じゃ無理そうなら呼びなさい。内部から削ればより多く消せるだろうし、私なら出来るから」
「……退路くらいなら取っといてあげる。死なないでよね。普通の人は命が一つしかないんだから」
どことなく似た雰囲気を漂わせる二人から激励を貰い、柊菜はクスリと笑う。
「準備は良いですか? それでは、作戦を開始します! ダスト、砂塵砲!」
街の外で召喚士達が溢れたエネルギーバブルを削り始める。
砂漠龍ダストが口腔から黒い砂嵐を横倒しにしたような砲撃を放つ。
街の外壁を削り崩して、内部へと侵入できる道を作り上げた。しかし、それも数秒後には埋まるだろう。
「『コール』それじゃあ……いってきます」
チェリーミートとエンドロッカスを召喚し、柊菜は手を振って街へと消えていった。
「うぅ……ここはどこっすか?」
青色のスライムみたいな奴に飲み込まれ、流された樹が目を覚ました。周囲を見渡しても、光源が無いのか暗闇に包まれていて、何も見えない。
湿った空気と、冷たく固い地面の感触から、地下か牢等の奥まった場所にでもあるのだろうと、現状を把握する。
敵に捕まったのかとも思ったが、身柄を拘束される事もなく、こうして床に転がされているだけ。というのもあり、恐らくは何処か別の場所に運良く流されたのだろう。
そんな樹の元に、誰かがコツコツと歩いてくる音が聞こえる。
「あっ! 良かった。目覚めたんだね~」
「マスターおはよう!」
「……何者なんですか?」
燐光を纏いながら飛ぶピクシーのシーちゃんが、一緒に入ってきた人物から離れて樹の肩に乗る。比較的人間へ友好的なピクシーであるが、自分の傍を離れて行動する姿を見たことが無かった樹はそれに内心で酷く驚いていた。
そんな警戒心とは裏腹に、ランタンを持って部屋に入ってきた人物は、のんびりした様子でゆっくりと近くにあった椅子へと腰かけた。
「こんにちは~。私はシルキュリア! 貴族の街に住む生粋の貴族様なんだぞ~」
ランタンに照らされた顔は、金髪ロングに碧眼で白い肌。まさしく貴族の令嬢といった。所作や仕草に礼儀正しさこそないものの、本物の高貴さを感じさせる少女であった。
「…………タコ?」
樹のクオリアから貰った目による半分の視界では、少女とは程遠い赤く複数の触手が生えた、軟体生物の姿が映っている。
小ネタ
濃霧の死龍ネクロミストは星七死種である。龍種覚醒を所持しない上に一部が龍種並のステータスを持つ強キャラだ! 召喚時に地獄属性の全体即死攻撃を放つアビリティを持っているぞ! 更にはクリティカル以外の物理攻撃無効まである凄い従魔だ!
弱点は命中時確定クリティカルになる頭部の骨で、物理攻撃魔法攻撃関係無しにクリティカルになるぞ! 属性耐性が貧弱で、HPもそこまで高くないから後衛に回そう! ステータス構成も物理攻撃力が貧弱なので後衛魔法火力要員だぞ!
スリープ「雑魚狩り特化のアビリティを持つ従魔だよ。序盤に出して雑多な雑魚を減らして戦える。無課金殺しだね。従魔としては序盤に強くて長期戦になればなるほど弱い従魔かな。アビリティが速攻型だからね。強味と弱味がはっきりしたコンセプトデッキ向け従魔かな」
スリープ総評
使い道のあるゴミ
柊菜がスリープへ連絡を取れない理由はバックナンバー40話。本編なら34話の時にブロックリスト行きを明言されているからです。樹少年が送ればすぐに解決しています。