イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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難産かつ短めです。


61話 破滅へのカウントダウン

 樹は少々特殊な環境に自分が置かれている事を自覚していた。とはいえ、彼の仲間は全員が特殊な立ち位置であったりするのだが、そこに埋もれない程度には色々持っていると自負できる。

 恐らく。確信は持てない事なのだが、イズムパラフィリアというスリープが言うソシャゲでは、ある程度従魔と人間の関わり方に複数の方法があるのだと思う。対等である召喚士に始まり、彼らに歩み寄る形になる従魔使い。望んだ方向へと、ある程度願望を叶えてくれるのが従魔であると樹は思っていた。

 

 樹は仲間達の中では一番自分自身が持てる力というものを渇望していた。従魔であり、現在は彼女でもあるピクシーのシーちゃんと、対等に背中を預けて戦えるような。従魔にただ守られるだけじゃない関係になりたがっていた。

 そうした道を選ぶ事で、樹はリビングエッジという武器型の従魔や、イベント世界で、他の誰もが持っていないクオリアの眼を預けられたりと、少しずつ自分に力が増えている事を自覚していたのだ。

 

 それゆえに、ゲームではどうだったかは不明だが、現実となった今では、多少意思の有り様で、召喚士にもたらされる力の性質は変わっていくのではないかと思っている。

 

 そんな樹が貰ったクオリアの眼に映る半分の視界では、目の前に立つ少女が普通の姿をしていないように見えていた。

 これまでも多少見えない物が見えていたりするくらいのことはあったのだが、ここまで元の視界と大きな差異を感じさせる存在は初めてだった。

 

 樹の本来の視界では、所謂ファンタジー作品の貴族令嬢キャラといった金髪碧眼の美少女がそこにいる。しかし、もう一つには、似ても似つかない真っ赤な肌の軟体触手生物が立っているだけだ。

 

「……今なんて言ったの~?」

「え? タコっぽく見えるって言ったっすけど……」

 

 少女の間延びした口調が何処か真剣なものになる。元々警戒心が湧かない相手だったこともあり、樹は何も考えずに彼女の正体と思われる外観を口にしてしまった。

 途端にボンッと赤くなる金髪の美少女。まさにタコの姿と同じような赤みを帯びている。

 

「やだっ!? えっち~!」

「なんでっすか!?」

「だってだって、私の姿が見えちゃってるんでしょ~? 本当の姿は好きな人以外に見せちゃダメって言われてるのに~」

 

 貴族の少女の言葉に、樹はなんとも言えない気持ちになった。シチュエーション的には高貴な女の子の普段見せてはいけない姿を見ちゃったような感じ。しかし実態はタコを目撃しただけ。

 

「も~。見たからには責任取ってよね~?」

 

 恐るべし異文化コミュニケーション。樹は震え上がった。

 彼は美少女が好きだが、本当の姿が別だとあまり喜べないタイプだ。ネカマのあざといムーヴは大好きだし、ゲーム内部で結婚するのも問題ないのだが、オフ会で顔を見たり、そこから恋愛に発展するとなると話は違うだろ。と思うタイプなのだ。

 ましてや、まだ出会って五分もしない。爆速で展開が進む様子はドタバタラブコメディの如く。これが本当の美少女なら嬉しくも困惑するだろうが、タコに好かれても困惑だけが前に出る。人を外見で判断するな? 外見以外でまずどうやって人を判断するのだろうか。人間はまず見た目で判断し、そこから付き合いによって印象を修正する者だ。

 これがまだ変身によってこうなるパターンもある。とかならば許容出来ただろう。しかし、樹の視界に映るものは、可能性ではなくて今あるものの形である。つまり、樹の本来の視界に映る姿は虚像であり、本体はタコなのである。

 裸とか見ちゃって責任取って婚約者~はギャグ系ラブコメでも王道。軟体触手生物という真の姿を見て結婚とか鶴の恩返しの逆パターンかな? 樹の脳裏には鶴とタコが絡み合う姿が浮かんでいる。

 無理だ。断ろう。そう思い、少女と視線を合わせ、口を開く。

 

「……まずはお友達から、互いに知り合っていきませんか? ほら、その。前向きに……ね?」

 

 男子校であり告白まで進んだ経験の薄い樹は、少女の申し出を袖にすることは出来なかった。

 性格的にちょっと傷付けないように甘く隙を見せた態度から、樹は自身が触手に捕らわれる未来が見えて止まなかった。

 

 

 

「それで、ここはどこなんすかね?」

 

 気を取り直して、正しく言うのならば、問題は全て先送りにすると決めて、樹は訊ねた。何せ周囲はほとんど暗闇にあり、場所も状況も把握できない。

 記憶では、青い従魔のプリンみたいな奴らに飲み込まれたところまでしか残っていない。柊菜達が見当たらないということは、恐らく龍の背中から流されたのだろうと想像できた。

 

「ここはね~。私の家だよ!」

「家っすか? 窓も無いのに?」

「まあね~。私って暗い場所とか狭い場所好きだから……」

 

 性格に合わない好みだと樹は思った。

 ならばそれは生来の物に由来した形質なのだろうな。と。タコが壺に入り込むように、暗く狭い場所を本能で好むのではないのだろうか。

 

「俺はどうしてここにいるんすか?」

「それはね~……」

「私が助けを求めたからだよマスター!」

 

 二人に割って入る影。少し不機嫌そうな様子を隠しもせずに表情を彩っている。樹の従魔であるピクシーだ。

 

「そうだったんすか。助けてくれてありがとうございます」

「気にしなくていいよ~」

 

 本当に気に負っていない態度のシルキュリア。それを見て樹はホッと息を吐いた。

 そして、自分が持つ警戒心が既に失われつつある事に気付いた。

 

 奇妙な少女であった。貴族という役職かなにかの名前こそあるが、彼女は外見以外に現状貴族らしいものが一切なかった。高貴さは口調で台無しであり、所作には上の身分の人間が持つような礼儀ただしさというものは感じられない。

 

 しかし、それでも貴族と言われて納得する何かがそこにあった。マナーの良し悪しとはまた別次元のもの。全体の雰囲気とも言える何かが、彼女を貴族だと言わしめるのだ。

 

 そもそもマナーというのが暗黙のルールみたいなものなのであり、それが無いというのはおかしな話でもないが。

 不快にさせなければ良いのが本来のマナーだろう。

 

 それはさておき、シルキュリアのそれは『相手に好感を持たせやすい』所作とでもいうのか。触手がするりと隙間に入り込むように、対象に不快感を与えないものであるようだ。

 樹も、シルキュリアの触手姿が認識出来なければ気付かぬ内に完全に気を許していただろう。

 

「助けを求めるかどうかは置いといて……安否確認くらいやっておくべきっすかね」

 

 自覚をしても嫌悪感が湧かない事に感情が混乱を起こしそうになった樹は、とりあえず現状から目を逸らしてはぐれた仲間にメッセージだけでも送って安否を伝えておくことにした。

 

「うーん……マスター君さ~。よろしければでいいんだけどね? ちょっとだけ頼みがあるんだ~」

「あ、俺は原田樹っていいます。……で、頼みってなんすか?」

 

 今さらながら自己紹介をしていない事に気付く樹。

 言いにくそうに腕を組んだシルキュリアがさっと樹少年へ身を寄せる。

 

「今ね? 街がちょーっとめちゃくちゃになってて、野良の従魔が街中にも発生しちゃってるんだ~。だからね、守って欲しいかな~って」

 

 その言葉を証明するかのように、暗い部屋にバチリと空気を叩くような音を鳴らして、ゲートが開いた。

 

「っ!?『コール』」

 

 リビングエッジを手元に喚び出して切りかかる。ゲートから姿を現しきっていない従魔へと不意の一撃を入れるも、ガチンという金属でも叩いたような硬質な感触と共に弾き返された。

 

「──逃げるっすよ!」

 

 シルキュリアの手を掴んで敵の姿も確認せずに逃げ出す。シーちゃんは何も言わずに樹達の後に続いた。

 

「オォォォ……」

 

 背後から敵の声が聞こえる。会話は出来ないタイプの従魔なのか、怨嗟の声がただ地下に反響するだけだった。

 

「こっちだよ!」

 

 シーちゃんが樹達の前に出て先導をする。少し長めの階段を昇りきり、木製の扉を押し開けた。

 

「──やっべぇ……」

 

 目の前に広がる光景を見て、思わず足が止まった。

街全体を多い尽くすように広がる青いスライムのような半固形生物。それだけでも異様だが、それに加えて、次々とゲートが街中で開いている。

 この世界に生まれ落ちた怪物達が産声をあげる。その多くは死体のような化け物だったり、禍々しい雰囲気を漂わせる、この間戦った悪魔のような従魔達だった。

 

 樹は知らない事だが、街は従魔が集まれる地脈の力が強い部分に作られる傾向にある。そこを人間達が集まり場所を確保し、魔術師が地脈を操作することで、街の中に野良の従魔が現れないように制御しているのだ。

 地脈と契約を結ぶことで、土地の力を得て、豊かさを保ち、同時に従魔の発生量を削る。外壁への襲撃こそ多くなるが、そうすることで人類はなんとか従魔の大量発生による滅亡を防いでいるのだ。

 

 街を守れなかった場合に待ち受けるものは地獄だ。安心出来る場所は全て失われ、力を求めて従魔達が溢れ返る。そうして集まった従魔達が、その場の力を奪い合い、数を減らしていくが、そこに人間の居場所はない。

 

 ましてやここには、弱小従魔達がご飯と呼ぶエネルギーバブルで溢れ返っている。豊富な食料に新しく誕生した力場。

 

 ここがエネルギーバブル以外の従魔によって埋め尽くされるのも時間の問題であった。

 

「逃げ場……? 街からの脱出をすべきか? 街中でもどこでゲートが開くか分からない状態だったら……」

 

 必死に思考を巡らせる樹。周囲の足場だけでも確保しようと剣を無造作に振り回す。これだけいれば、適当に振ったところで必ず何かに当たるのだ。

 

「キャア!!!」

 

 そうして意識が逸れたところに、背後から悲鳴があがった。

 振り替えると、樹達が出てきた家から、全身を黒い鎧に身を包んだ騎士のような従魔に槍で肩を貫かれていた。

 

 鮮やかな青色の血が撒き散らされる。

 

「──チッ! 離れろよ!」

 

 目の前の脅威に対して樹は剣で脳天に切りかかりながら鍔迫り合いに移行するように構え、腰で押し飛ばした。

 

 同じ人型を相手にしたとは思えない。壁にぶつかったように衝撃が返される。

 たたらを踏んだ樹だが、目論見通りに敵は離れてくれた。

 槍だからだろうか、近すぎる間合いは嫌がるらしい。

 

「クソッ……どうすればいいんだよ!?」

 

 どんどんと積み上げられていく問題事項に脳がパニックを起こしつつある。

 

 シーちゃんも近寄る従魔を蹴散らす為に魔法を使っている。正面には、実力はまだ不明だが楽に勝てる相手ではないだろう黒騎士。背後にはエネルギーバブルを筆頭にした従魔達。

 肩から流れ出る血の量は多くないのだが、かなりの早さで色を失っていくシルキュリア。回復にシーちゃんを回せば、物量で押し潰される状況。

 

 逃げるにも場所がない。焦りで思考は空回る。

 

「何か……手段は……」

 

 この状況を変えられる一手が欲しかった。

 握りしめたリビングエッジを見て、樹はその方法を思い出した。

 

「……緊急事態っす! ごめん!」

 

 今行えば今後のミスは許されなくなるだろう。少なくともここを乗り越えるまでは完全に余裕を失うことになる。

 背水の陣だった。ここで間違えれば死ぬしかない。助けを求めるだけの時間稼ぎすら出来なくなる手段だ。

 

 そして、樹は手を掲げた。

 

「『召喚』!!!」

 

 今ある石の数はちょうど八個。シーちゃんが死んでも、これで助けることが出来なくなる。

 それでも、ここを切り抜ける為には躊躇っている場合ではなかった。

 

 

 

 ──樹が伸ばした手を掴むものは少ない。意思ある従魔達は、自らを拒んだ樹に、危機が迫ったからといって助けに入るような存在ではなかった。

 彼が求めていたのは自らの力。それは多くの従魔達の要望には応えられない条件だ。

 しかし、だからこそ、彼は使い手としては好まれる。道具として使われる物達は彼の呼び声に手を貸してくれる。

 

 安全な場所と移動手段を。

 

 そう願った樹の元へ、光の奔流が周囲一帯を埋め尽くす。

 光が収まると、辺りが暗くなった。

 

 そして、樹少年の眼前へと、ゴーレムより遥かに大きな質量が落ちてきた。

 





小ネタ
貴族というのは、具体的にはチェリーミートやシルキュリアのような、この世界に住んでいる人間以外の知的種族の事を言うぞ! その中でも、青い血を持ち、人間よりも生物的に上等な存在が貴族と呼ばれているんだ! 彼らは人間よりも先に誕生した知的種族だったというのもあるぞ! そんな貴族は、命の数が複数あり、身体全体に脳と同じような神経細胞を持っているぞ! お陰でより魔術を上手く使う事が出来るんだ! そんな彼らと交配をして誕生したより魔術に適応したハーフが、魔術師ミルミルだ!(魔法都市編で削った内容の一つ)

ちなみに、貴族はリアルに青い血を持っており、科学的な側面から酸素運搬能力が赤い血よりも低い為に病弱なんだ! 赤い血は鉄で青い血は銅だぞ*1! だが異世界だと考えた場合地球と同じ構成で良いのかな? と疑問に思った結果詳しい説明は省かれることになったんだ!


スリープ「シルキュリア? ゲームだと四章ボスだよそいつ」

*1
血が赤い理由は赤血球だとかヘモグロビンだとか言われるが、細かく分けていくと金属イオンとポルフィリン環の光の反射具合による。だが、血が青い場合は銅イオンが青いからというめっちゃ簡単な説明だけで済む。酸素運搬能力はイオン式見れば大体察する事が出来ると思う。酸素運べなければ機能不全に陥るから病弱になる。ちなみに地球にも青い血の生物がいる。タコとか

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