イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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原神に手を出していましたが、セール中のCODE VEINを買う事でなんとか正気に戻りました。とりあえず中毒性がヤバイのでソシャゲはやめましょう。
Dジェネシスとか幼女戦記とか読むのおすすめします。今までゲームの合間の休憩で一気読みしてました。なんかそれっぽい用語や注釈が並んでいると賢くなったつもりになれて好きなんですよね。ああいう作品。

本編は突貫で書いたので後で手直しするかもしれません。

2/5(金)一部矛盾した文章を修正
エンドロッカスは貴族

エンドロッカスはハーフ


62話 古代の死船オセアン

 船だ。木製の帆船が落ちてきた。全長が百メートルにも及びそうなそれが、樹の前に落ちた。

 轟音。衝撃。トランポリンにでも乗ったような放り投げられるような縦揺れが襲った。

 

 それだけの質量が落下したにも関わらず、帆船は底の部分に亀裂一つついていなかった。エネルギーバブルがクッションにでもなったのだろうか。

 

「……古代の死船、オセアン」

 

 その船もまた、意思ある従魔なのだろう。樹の胸の内にパスが繋がり、情報が流れ込んでくる感覚に眩暈を覚えた。

 今までこんなことは無かったのだが。と樹は疑問に思う。シーちゃんの時も、名を名乗る事すら出来ないエー君を召喚していた柊菜にもそれっぽい様子は無かった。

 まるで自分の事をアピールするかのように情報を押し流してきている。使え、と訴えている。

 

 頭痛を引き起こしつつあるその知識量を無理やりに無視して落ちてきた船を見つめる。

 大きく、立派に見える帆船だったが、その塗装等は剥げかかっており、色褪せている。

 その名の通り死んだ船だったのだろう。乗り手は既におらず、陸地に打ち上げられ晒され、そうして幾年もの時が過ぎた船なのだ。表面にはうっすらとだが砂や埃が堆積している。

 大海を進む夢が樹を襲った。人としての感覚が遠退き、まるで夢を見る時のように意識がそちらに引き寄せられる。

 

 

「ね~、今の内に逃げよ~?」

「っ、そうっすね!」

 

 くい、と袖を軽く引かれる感触で現実に引き戻される。流れてきた情報を断つように頭を振り、樹はシルキュリアと下ろされた錨を伝って船に乗り込んだ。

 船の中は人がいたような痕跡を、遥か昔に遺したままの形で存在していた。

 何処か分からない海図や、羅針盤。そのどれもが埃を被り、眠っている。

 

「こういうのって、イメージでは海賊船なんすけどね。商船かなんかっぽいすね」

 

 映画等による印象の結果なのだろう。机の上に置かれている物を見ただけならば、それらしい煩雑さとは無縁の、整然とした状態であった。

 掃除でもすれば今からすぐに使えそうな印象の船だが、なにが原因で死船となったのか。死んでなんかいない、自分はまだ動ける。そう言外に訴え続けている船は、樹にそこまでの経緯を伝えてはこない。

 

 なお、シルキュリアが負った傷はシーちゃんによって治されている。

 

「……陸に召喚したから、まだ動けないっすよ」

 

 ヴエルノーズを経由しない移動手段を確保した事に喜べばいいのか、樹にはまだ分からなかった。少なくとも、落下の衝撃に耐えたその頑強さは、未だに敵を侵入させていない。

 今の内に他の場所も見て回ろうと、シルキュリアとシーちゃんを連れて歩き出す。

 

「それにしても、妖精に剣に船っすか」

「私たちの事だね! どうかしたの?」

 

 樹が今までに召喚したものを思い浮かべる。それに元気よくシーちゃんが反応した。

 樹は頭を振って苦笑した。

 

「いや、なんでもないっすよ。ただ、まるでRPGの勇者ような入手順だなって思っただけっす」

 

 次に呼び出されるのは空を飛ぶための手段だろうか。冗談めかしてそう考えたが、あながちそれは間違っていないように思えたのだった。

 

「船として使うのはもう少し待ってて欲しいっす」

 

 壁に手を当て、語りかけるように言葉を出す。常識で考えれば、生きているようにも意思があるようにも思えないが、それでも通じるだろうと樹は思っていた。

 

 それに反応したのか、船にある風見鶏がくるくると回転していた。

 

 

 

 船内の確認が一通り終わり、樹達は甲板に上がった。

 十数分前までは、従魔で街が溢れかえっていたので、何体か乗り込んで来ていると思ったのだが、大丈夫だったようだ。

 樹の予想以上にエネルギーバブルは弱かったのだろう。

 

「それで、この後なんすけど、どうするっすかね?」

「籠城したかったけど、食べ物は無かったね~」

 

 シーちゃん曰く、生命活動に必要なエネルギーは、船の外でそこら辺に蠢いている青色物質をぶちのめせば得られるらしいのだが、従魔だけの能力だろうと判断している。

 水も食料も無いので、このまま助けを待つのは危険である。しかし、打って出る訳にもいかない。シルキュリアを守りながら外でやっていけるとは思えなかった。

 

 ただでさえ、エネルギーバブルによって拐われてきた身である。物量で押し流されて分断されてはどうしようもない。

 一応、ゲーム的な設定なのか、オセアンの能力なのかは不明だが、この船に敵が入ってくる事は無かった。たまに激増したエネルギーバブルによって甲板よりも高い位置にまで数が膨れ上がっていたのだが、透明な壁か何かに阻まれて入り込む様子は無かったのだ。

 

 ちなみに、エネルギーバブルが数でオセアンを持ち上げてくれるかと思ったが、それ以前に増えた自分達によって押し潰されては消えているので、頼れそうに無かった。

 

「それなら、私達と手を組む。なんてどう?」

 

 手詰まりの樹達に声が掛けられた。振り替えると、樹達が入ってきた所で、フードを被った女性が佇んでいた。

 

「私はノーマネーボトムズのサクメ。ハラダイツキ。貴方を迎えに来た」

「……どうもっす」

 

 樹は新たに入ってきた女性を見て思った。

 そこが出入口になっていたのか。と。そして、それらしい雰囲気を漂わせた女性が結構ボロボロの状態で現れた所から、多分逃げてきたのだろうな。ということを。

 

「……とりあえずこっち来ませんか? 外にいる敵は今のところ入ってこないので安心出来るっすよ」

「いらっしゃ~い」

「…………恩に着るわ。正直に言うとちょっと敵が多すぎて困ってた」

 

 迎えに来たという少女がいそいそと樹達に近付く。彼らをここから連れ出す術は無いらしい。敵はそこまで強力ではないが、数が多すぎるのだ。

 

 こうして要救助者がまた一人増えたのだった。

 

・・・・・

 

 一方、貴族の街に入り込んだ柊菜は、一人の男と遭遇していた。

 

「……それで? 私に何を求めているんですか?」

 

 対峙する二人。周囲には街中だというのに溢れていた従魔の影は無く、互いの手持ちだけがそれぞれの陣営を示すかのように立っていた。

 

 新田柊菜は、街に入ってしばらくしたときに救助者を見つけた。珍しい神父のような服装に身を包んだ男だった。

 

「共にこの世界を救おう。と誘っているのです」

「キシシシシ!」

 

 その男は救助を求めてはいなかった。むしろ、立場的に言えば柊菜と同じであった。

 彼の守護霊のように背後を飛ぶ、嗤う黒い翼を生やしたゴスロリ服の堕天使。名前も見覚えもないが、柊菜はそれが従魔であり、目の前にいる男が召喚士であることを理解していた。というかそうでなければなんだという話になる。

 

 柊菜が野良従魔に教われている彼を助けようと乱入し、敵を殲滅した後に、この男は柊菜へと声をかけてきたのだ。

 

 曰く、共に行動しないかと。

 

 無論現状が切羽詰まっている事は柊菜だって理解している。しかし、かなりの人間不信。そして男性不信を患う柊菜にはその申し出に素直に応じる事は出来なかった。

 それはもうこちらを騙そうとしている相手だと言わんばかりの勢いで距離を取り警戒心を隠そうともしない。

 

 それくらい柊菜の精神には余裕がないのだ。他者を受け入れる余地はない。

 目の前にいる男は柊菜の庇護を必要としない人間であり、この世界の人間なのだ。今までろくな目に遭っていない柊菜が無条件に信用するというのが無理な話だった。

 その後、彼の話を聞き続けていると、どうにも今だけの話ではないということが分かってきた。

 

 この男は世界の救済を目的に掲げて行動しているらしい。

 

「世界の救済? 街でなく? 今まで一度も貴方のような方を見かけた事も話に聞いたこともありません。昨日今日思い付いた話だとすれば、それこそもっと早くから動いてもいいでしょうし、何より貴方が信用できません」

「信頼は時間をかけて育むものです。その最初のきっかけを貰えなくてはどうしようもありません」

「……世界よりも目の前の事を見つめては? 今この街を自分の力でどうにかしようとは思わないのですか?」

「私一人の力では難しいと悟ったのです。清い心身を持つ貴方とならば、この街の後も共に目的を叶えたいと思い、先走ってしまいました」

 

 申し訳ありません。と頭を下げる男に、僅かながら誠意を感じとる柊菜。今までこの世界に来てからまともな大人というのを目にしてこなかった彼女にとって、彼は比較的まともそうな人間に見えた。

 

 とはいえ、宗教に対してあまり良い考えを持たない日本人としてはどうにも胡散臭く感じる。

 

 胡散臭いといえば、柊菜の好感度をゼロからマイナスの所で反復横飛びするような男を思い出す。

 こういう時にアレ(スリープ)がいれば判断材料やきっかけくらいにはなるのに。と顔をしかめた。信頼は出来ないが、聞いた事くらいなら、真面目に返ってくるので、あの男の言葉は信用出来る。

 

 本音を言えば今すぐここから立ち去りたい。しかし、現状連れ去られた──正確にいえば流された──樹や、この騒動を起こしているであろう召喚士の見当もついていない。

 エネルギーバブルは街から溢れはするものの、互いに押し合って潰れる事から、そこまで無制限に増えている訳ではないようだ。それも街の中限定であり、外に出れば埋め尽くすのには時間がかからないだろう。

 

 と、悩む柊菜の肩に手を置かれた。見ると、エンドロッカスが何かを訴えるように柊菜を見つめていた。

 そして、こくりと頷いた。その様子を見て、柊菜も覚悟を決めた。

 

「…………分かりました。とりあえず街に溢れ返った従魔をどうにかするまでは一緒に行動しましょう」

 

 柊菜は知らなかった。エンドロッカスがこの地から世界を変えるべく動き出す存在だということを。

 ゲームの世界、今いる世界の正史とも言うべき世界線では、貴族の街を滅ぼし、人類を更なる上位者へと導こうとした者であるということを。

 

 貴族の街に人間はいない。いても人と貴族が交わったハーフまでしかいないのだ。

 

 彼らは貴族。人類とはまた違う進化を辿った知的生命体。外部から機械を用いてエネルギーを作り出し、活用する術を持つ人間と違い、彼らは自らの肉体により直接エネルギーを扱うことに長けた存在。

 エンドロッカスもまた、人間と貴族のハーフでありながら、従魔へ至った存在である。

 従魔は召喚士に対して裏切りを行う事はない。そして、召喚士側もまた、裏切る事はないように、事前に召喚条件で定められている。

 

 しかし、従魔側が明確に裏切るという意思が無いままに、ちょっとした価値観の違いで望まぬ現象が起きる可能性はゼロではない。

 

 スリープへの人工呼吸で、ノーソが病魔を吹き込んでしまうような。そんな善意による行動で召喚士を傷付ける事もあり得るのだ。

 

 例えば、同じ街で互いに方向性は違えど世界の改革を目指した友を、個人の視点から信用出来ると進言するような。

 従魔も万能ではない。生前に友だったその存在が何を思っていたのか、全てを把握している訳ではないのだ。

 

「ご主人様……」

 

 チェリーミートが小さく呟く。その音は柊菜の耳へと届くことは無い。

 

 眼には見えなかったが、彼女の耳には、ズルズルという、人間が鳴らしたにはおかしい足音が聞こえていた。

 

「申し遅れました。私の名はドグマ。そしてこちらの従魔が私に神託を下した【堕天使カルミア】です」

「……新田柊菜です。後ろにいるのがチェリーミートで、隣で肩に手を置いている従魔がエンドロッカス」

 

 男はにこやかに。柊菜は嫌そうに言葉を交わす。

 

 擬態した触手が這う。全ては神託の為に。

 

 貴族は人間ではない。召喚士ではない存在と従魔は対等にはなれない。

 堕天使に唆された神職者は謳う。世界の救済を。

 

「……ええ、共に従魔による世界の支配を、救済を執行しましょう。貴女も同じ、従魔に意思を支配されている存在。故に同行を申し出たのですから」

 

 

 




小ネタ
古代の死船オセアン
海をテキトーにもじった従魔。特定フィールドで完全な性能を発揮できるタイプの従魔だぞ! 持っていると海洋フィールド上を自由に移動できるようになるぞ! 分類上はタンクタイプで、火属性に弱いが海で戦うならその弱点を無効化出来る強みがある! なお、物理耐性は高いが魔法にはあまり強くないぞ! イズムパラフィリア本編では海の向こうにはメインクエストはないので、サブクエストも詰めたいプレイヤーにのみおすすめだ!
スリープ「ぶっちゃけ海上で遭遇する従魔の経験値集めくらいにしか使わない従魔だね。ラインクレストが飛翔アビリティを持ってるから移動手段としては下位互換レベルだし。海中にも移動できないしで、まあ一応海を移動できる従魔として数少ない航海アビリティ持ちだからあれば良いかなってところ。戦闘では無用のゴミ」

堕天使カルミア
裏切りの花言葉で選ばれた従魔。天種に相応しい外見を誇る。基礎スペックもそこそこで万能型。近接では大鎌、遠距離攻撃はスキルで戦える従魔だ! 基本的に邪悪な存在で、他者を唆しては破滅させるような奴だぞ! 存在意義が裏切りだからか、野生でも登場し、人間を助けては信者にするといった行為もしているぞ! 今回はそれの真っ最中だ!
スリープ「存在意義から召喚出来ないんじゃね? と思われるんだけど、プレイヤーが所持した場合いたずらっ子の生意気なゴスロリ美少女天使になるんだよね。流石に破滅までは出来ないけど、身の危険が及ばない程度にはいたずらが出来るし。外と内で評価が思いっきり変わる従魔だね。ちなみに堕天使ながら両性具有だよ。好感度イベントで街の少年を誑かしては男の娘だと打ち明けるいたずらイベントがあるんだ」

なお、スリープが貴族の街にいると一部問題が解決したりする。ノーソはエネルギーバブルの天敵であり、出しっぱなしにすれば自然と数が減っていく。

ちょっとした解説
人間以外は召喚士になれない時点でドグマは従魔に騙されている存在。ちなみに、エンドロッカスが従魔に至る事で貴族の地位向上を目指した存在であり、ドグマは貴族のままで人間や貴族全員で手を合わせればいかなる危機にも立ち向かえると考えていた人。今では従魔の元による支配によって統一を目指している

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