それと、今までの執筆により無くなった裏設定の供養をさせてください。割りとデカイネタバレ(既にネタとして扱えなくなっているが)もありますので、透明にしておきます。
難産かつ短いです。
2/5(金)一部矛盾した文章を修正
エネルギーバブルは召喚士が死んでも分裂した個体は消えない
↓
消える
「それで、迎えに来たってどういうことっすか?」
船の上。周囲に人影が無いか外の様子をたまに伺いながら、樹はサクメへと問い掛けた。
一応、王国で樹はハンチング帽の男と接触をしていた。スリープに関する情報をうっかり漏らしてしまったが為に、縁が生まれて、今のような状況を引き起こしているのだ。
そして、王国で彼と会った時に、樹は直接ノーマネーボトムズと名乗る組織への加入を勧められていた。
その件に関しては、王国から脱出した時点でご破算になったと、樹は思っていたのだが。
「……正直に言えば、私もよく分かってない」
なんでこの人を寄越したんだ。そう樹は心の中で呟いた。
「そもそも、私達ノーマネーボトムズは、王国が呼び出した勇者を中心にして生まれただけの組織。大元の王国への復讐と、今後外部の人間を召還しないように、悲劇を産み出さないようにすることが目的であって、そこまでの過程には特に指定が無い」
「……烏合の衆って感じっすか?」
「端的に言えば」
スイと目を逸らして頷いたサクメを見るに、統率は取れていないらしい。
「それはまた……」
「一応、今のところは同じ事が無いようにと、私達の組織で人類をまとめあげるのが方針」
「今までそういうことはなかったんすか?」
「自分の手が届く範囲までしか、領地を広げないもの。それに──」
そこでサクメは口を閉じた。
「人は必ずしも全員が同じ考えを持っている訳ではないので」
そういうところとは争いになってしまうのだろう。樹もまた、多少ながら街を巡ってきた人間だ。その街ごとに主義も在り方も違うのを見てきている。
ヴエルノーズは上が恐怖で押さえつけているような暴力の街。ミラージュを頂点に、彼の手足が街を支配している。
魔法都市は、頂点に立つ者を生贄とした街。持てるものの義務と言わんばかりに、優秀な魔法使いが土地と契約を結んでは、死ぬまでそこを守護する。
王国は、誰よりも強く、しかし横暴に振る舞えるほど強くはない存在が上に立つ権利の国。ルールに縛られた全体主義の場所であった。
貴族の街を除く三つの場所ですら、それぞれの考えも、在り方も別であった。
「それって統一出来るんすかね?」
「その為の力が、勇者にはある」
樹が首を傾げると、サクメは樹の肩に手を置いて強く言った。
「今までの従魔ではあり得ない強さが勇者の従魔には存在する。ギルドマスターよりも遥かに強い、そんな力が」
だからこそ勇者になったとも言える。
「あの人達なら、きっとこの世界も変えられた。変えることが出来たはずなのに……」
つまり、彼女は悩んでいるのだ。かつて見た勇者である男の姿と、今の復讐に燃える男の姿で。
サクメ自身にどんな想いがあり、過去に何があったのかも、樹は知らない。語られもしていないし、言外に滲むものから大筋を察することくらいしか出来ない。
「……俺はアンタらの復讐にも世界統一にも手を貸す気はないっす」
「……そう」
気落ちしたようにうつむくサクメ。
「だけど、元の世界への戻りかたが分かるなら、その情報が知りたいし、戦争で大きな命を落とさせたくはないっす」
ここが樹の妥協点だ。優柔不断で八方美人とも言われる樹の、提案出来るところ。
甘さだと罵られるだろう。だが、樹は元々ただの学生で、なんの覚悟も信念も持ち合わせてはいない。わざわざ厳しくあるつもりもない。
ハッピーエンドが好きなのだ。かわいそうなのは抜けない。
「どうせ、殺したくなるほど憎い相手なんて数日過ごせば感情も薄れるんすよ。俺だって前歯へし折られてきてるんすから。嫉妬で仲を引き裂かれそうになったことだってあるんすよ」
樹の過去に学んだ事を口にする。この世界にやってきた時は散々な目に遭ってきた彼だが、それらも今ではいい経験になっている。流石に友人を殺された経験はないが、その憎しみを抱き続けるのは、困難だということくらいは理解していた。
「この世界って、大抵は街の支配している奴が上に立ち、まとめ上げているんすよね? なら、エンドだかローコスなんて不要っすよ。少なくとも、他の都市を攻めるのに使う必要はないっすね」
この世界がゲームだというのなら。樹が出す答えは一つだ。
「ボスだけぶっ飛ばして、街を解放してより強い奴が全部束ねればいいだけなんすよ」
この論に問題があるのは樹自身理解していたが、とりあえず自信満々で押していく。その場に必要なのはノリだ。陽キャ人生で学んでいる。
「全員殺さずに、ただ倒して説得してまとめ上げるっす。その手伝いなら俺はやる。だから、協力しないっすか?」
烏合の衆だというのなら、今のうちに乗っ取って方針を決めさせるまでだ。幹部らしい彼女が手を取ってさえくれればいい。大きな悲劇だけは回避出来るだろう。
「…………」
「ダメっすかね……?」
最後の最後で自信が無くなった樹。その様子を見てか、サクメが少し遠い目をして、くすりと笑った。
「いえ、そうですね。あの人も復讐は果たしたし、なんとかして、全員が平和で終われるような道を目指しましょう」
今まで見せた表情でも一番輝いている笑顔で、サクメは樹の手を取った。
「ふーん? 私がいるのにマスター君は他の人の手を取っちゃうんだ~?」
そんな二人の様子がつまらないとでも言うように、不機嫌な声が割って入った。
間延びした声の主はシルキュリア。サクメから引き剥がすようにして樹へと腕を伸ばし、間接を無視した動きで彼を巻き上げた。
「擬態解けてるっすよ?!」
「ふーんだ~」
可愛らしい嫉妬で樹に張り付くシルキュリア。樹の背中がなぜかほんのりと湿っていく。
見た目は違くとも、実態は触手らしい。吸盤は無いのか、それらしい突起が触れることはない。
「まあいいけどさ~。どうせ私達はみんなここから出られないしね~」
「……そうっすね」
すぐににぱっとした笑顔に切り替わるものの、樹から離れることはなかった。
「……とりあえず、今の私達に出来る事をしましょう」
あまり表情を変えることなくサクメが切り出した。シルキュリアと違い、サクメ側にそういった感情は無いのだろう。そして、樹とシルキュリアの関係にも興味がないようだった。
「そもそも、ここは我々が潜伏している間は本拠地でした。王国と敵対してから、すぐにこの街のギルドマスターが動き、それに抵抗するためにこうなっています」
船の外を見つめるサクメ。
街がエネルギーバブルによって壊滅しているのはノーマネーボトムズの所業であったようだ。想定通りの言葉に、樹は頷いて続きを待つ。
「ギルドマスターは現在行方不明。エネルギーバブルの召喚士も所在はわかりません。一応、後者は従魔が残っているので、死んでいないことは判明していますが」
「召喚士の手で止められないんすかね?」
「私達のリーダーである彼の言が正しければ、パッシブスキルだそうです」
無課金といえど、プレイヤーによる情報なら正しいであろうと樹は思った。
「なら、リコールは?」
「呼び出した後のエネルギーバブルは味方の場合中立判定になっているそうです。敵なら敵対したままらしいですが」
「中立判定、ということは味方ではないんすよね?」
増えた従魔は野良と同じ判定になる。リコールで消えず、だが、召喚士の従魔が産み出したものだから、関連物として、召喚士が死ぬと、全て消え去る。
「はい」
つまり、現状の解決方法は無いということだ。
「なので、事を済ませた勇者様に事態の解決を求めることになります」
「まあ……そうするしかないっすよね」
樹はオセアンを召喚した時点で石のストックも尽きており、これ以上はどうしようもなかった。
そもそも、解決する為には対軍クラスの能力をもった従魔であたるしかないように思えていた。それこそエムルスのような広範囲にアビリティで絶え間なく攻撃出来るような従魔が。
実際は広範囲攻撃が出来るスキルさえあればどの従魔でも倒せる雑魚なのだが。
生憎それを知るものはどこにもいなかった。
「結局手詰まりっすよねぇ。どうにか解決手段とか、状況を打破するものがあればいいんすけど……」
閉鎖状況に置かれたストレスもあって、樹は投げ出すように手足を放り出して甲板へと横になった。
引っ付いていたシルキュリアがパッと離れる。
「ねーねーマスター」
「どうしたんすか?」
人と会話をしていると声をかけてこないピクシーが珍しく樹に話しかけてきた。驚きつつも顔をあげると、ピクシーは樹の顔へとへばりついた。
「多分だけど、ヒイナが来たよ?」
「マジっすか!」
状況を打ち砕く手段がやってきた。
希望を見つけた樹はピクシーを張り付かせたまま船の縁へと進む。
確かに周囲に溢れていた従魔がいなくなっている。エネルギーバブルですら船の回りにはいなくなっていた。
しかし、肝心の柊菜が見当たらない。樹は、どこにいるのか探しだそうと身を乗り出して。
「この船は大きい従魔だよね……。エー君、チェリー、本気で行くよ!」
「ま、待つっすよ! 新田さん、ここ! 要救助者三名います!」
「えっ樹君?」
船底をぶち抜こうと従魔へ指示を出していた柊菜に自身の存在を必死にアピールした。
驚いて船を見上げた柊菜と目が合う。柊菜がホッと安堵の息を吐くと同時に、樹の両脇からサクメとシルキュリアがひょこりと顔を覗かせた。
二人とも肩が触れるほどに近い。シルキュリアなど、相手が女性だと知り、樹の腕に組み付いた。
「樹君……いなくなったと思ったら随分良い身分になっていたようで」
「ご、誤解っす……」
「詳しい話は安全な場所で聞きます。船の上や中に従魔は?」
「バリアかなんかで入ってこれないっす。俺達も出入口からしか入れないっぽいっすよ」
「そう……。それじゃあ、案内して欲しいかな」
樹は柊菜と、彼女が協力者だと紹介したドグマを引き入れた。
そして、互いの状況や、立ち位置を話す。
その結果。
「…………樹君、なに、してるの?」
これまでの樹の行動に不満があったのか、柊菜が怒りをあらわにした。
設定供養集
設定資料集を綺麗にするために、執筆中や、プロット段階での変更点をここに供養します。でかすぎるネタバレ部分があるのですが、既にネタではなくなっているので問題ないです。
・主人公の死亡(スリープ君は一話開始前で死んでいました。それこそがイズムパラフィリアのゲーム生命を打ち切った存在【従魔の召喚が出来る従魔】であり、スリープ君がそいつに開始時点でぶち殺されていたのですが、そこを変更し、スリープ君生存になっております。なお、執筆中の変更点なので、スリープ君の所持従魔がゲーム時と違う理由の説明が失われました。ついでに、ミルミルの過去編+イズムパラフィリア開始直前部分の執筆をしていたスピンオフ『海色』の無期限執筆中止状態になりました)
・現在いる第一部の世界の住民変更(ダークファンタジータグを消した時点で無くなっています。貴族とのハーフを作れる彼等は実はゴブリン的な存在だったのですが、今は普通の人間になっています。当時の名残であるスリープ君殴り飛ばしとミルミルちゃんに関しては、スリープ君は設定の追加、ミルミルちゃんはそもそも掘り下げていない事で対応しています。とりあえず、現地住民は遺伝子レベルで違う貴族すらも孕ませられるとんでも人間になっています)
・樹少年の童貞(実はゴブリン設定の時にあったものです。風俗に行こう! のところで真実を知り女性恐怖症を煩い、ピクシーに傾倒していくも入らないというパラフィリアな部分があったのですが、彼は童貞を無くしてしまいました)
・イズムパラフィリアのエンディング(大筋は変わっていないのですが、スリープ君が生きているのと死んでいるのでは中身が完全に違うのでエンディングも変わっています。そこら辺の細かい設定が現在ガバガバになっているので、少しづつ変更しています。執筆遅れますが大事な事なので。大変ご迷惑をおかけいたします)