イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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大変遅れて申し訳ありません。本来はウィード達の促販イベントをエイプリルフールイベントにしようと先々月から書き始めていたのですが、現在五万文字を超えて尚終わらないまま4月1日を迎えたので、急遽この話を書き上げてから嘘じゃないじゃーんとなってしまったのでこのような形になっております。

本編の方は現在モチベーションが下がりまくっていて書き上がっていないのでもうしばらくお待ちください。本章分はプロット修正が終わっているので書き上げ次第突き進むと思います。モチベ次第ですが。


エイプリルフール特別編【ノーマネーボトムズ】

 気付くと、そこは見たこともない荘厳な雰囲気を纏う一室にいた。

 

「──成功、か」

 

 声のした方を向く。そこには、部屋同様に見覚えの無い、初老の威厳が無さそうな、優しい目をした気弱な男が立っていた。

 憐れみと葛藤を孕んだ視線を向けてきている。吐き出した言葉はまるで、成功してほしくなかったかのように苦々しいものだった。

 

「勇者殿、この世界を救っては下さらぬか」

 

 しかし、それとは別に、男はゆっくりと俺達に頭を下げたのだった。丁寧で真摯に。この時、弱みを俺達に見せ付けて来たのだ。

 

 思えば、これが全ての始まりであり、俺達の終わりを示唆するものであったのだろう。

 

 

 

 この世界は、かつて俺達が遊んでいたソーシャルゲーム【イズムパラフィリア】の世界らしい。

 どうしていきなり、しかも無課金でちょっとランキング上位に食い込んだ程度の実績しか無いような。サービス終了より前にリタイアしたゲームの世界にいるのだろうか? そこだけは分からなかった。

 

 ただ、俺達は勇者として召喚され、この世界を救うことになったらしい。現在は、そのゲームでも聞いたことの無い災厄によって世界が危機に陥っており、それらをどうにかするために、運用コストの低い──つまり、無課金での最強クラスである──俺達が選ばれたということだ。

 

 召喚された勇者。俺達は大学のサークルで意気投合してからずっと、社会人になってからも一緒に同じゲームで遊び続けた仲だ。グループの信条は『無課金』法整備が入ってなお、集金体制を貫く旧来のゲームに対する抵抗の意を示すプレイングを行う者が集まったグループだ。

 そんな貧乏性が染み付いた俺達は、当たり前のように無料のサービスというものを好んでおり、その中にはネット小説なるものも存在していた。

 だからこそ、最初は混乱したものの、物語の主人公にでもなったつもりで、俺達は王国での頼みを聞き入れたのだ。

 

 勇者としての力は、最初から持っていた。

 

「……これって、やっぱり俺の持ってたアカウントデータだよなぁ」

 

 物言わぬ。いや、定型文しか言わぬ疑似生命体のような従魔を見る。

 彼らは、ゲームが現実になった時にありがちな現象、いわゆるNPCが本物の人間のように振る舞う。そういった出来事は起こらなかったようで、常にゲームで見た時と同じ表情で同じ台詞を吐いている。なまじ、王国にいる他の人間達がそれっぽい動きをしている分、これらが作り物のような動きなのが解せない。

 

 そもそも、これは従魔ではないのだろう。確かに自分が持っていたアカウントのデータではある。所有していたかつての従魔達の強さも手持ちも見覚えがあるから。しかし、それはただのアカウントデータの再現であり、従魔ではないのだろう。

 

 この世界にも召喚士は数が少ないが存在する。それらの持つ従魔は、自分達がもつソレとは別物のように振る舞うのだから。

 ではこれはなんだ。と聞かれると、ゲームの再現以外には何も言えないのだが。

 

 ……いや、まあ。俺達の直近のアカウントデータではなく、最盛期のアカウントデータだったのは嬉しい事だ。もし、やめた当時のデータがそのまま引き継がれていたら、悲惨な事になっていただろうし。

 多くのプレイヤーがそのまま辞める事になった原因であるイベント。星十五の全種一斉ピックアップ。それらの初期先行イベントのクリア報酬は、分体ではなく完全体。イベント登場と同じ性能の従魔をプレゼントというものであった。

 つまり、ガチャで引けるキャラよりも、イベントクリア報酬の方が強いのだ。だからこそプレイヤーのほとんどは参加したと思う。

 

 そして、全部ロストした。

 

 だからこそ、俺達は、この意思を発さない従魔達の方が良かったのかもしれない。生きて、記憶を持っていれば、何を言われるか分からないから。

 

 共に召喚された友人達など、既に人形のようなこれらを気味悪がって、チート道具としてしか扱っていない。それも仕方の無いことだと思った。アカウントデータが引き継がれたというのなら、従魔だけではなく、召喚石も同様に引き継がれている。ゲーム時代のチートデータが本物になれないのなら、現実で一から育て直せば良いと思い、石を割って召喚したこともあった。

 それによって喚び出された従魔もまた、ゲームNPCが如き振る舞いをしたのだ。まるで、俺達には本物の召喚士としての才能が無いとでも言わんばかりに。偽物しか喚び出せなかったのだ。

 

 今では友人達も従魔と関わるのをやめて、この世界の人と接触する方針で行くことにしたようだ。この間はスラムで拾ったという少女が、同じ召喚士の才能があるということで、自分の育成理論を押し付けあっては師匠面している。

 まあ、星八という本来なら召喚出来ないような従魔を喚び出した才能ある女の子なので、今のうちに青田買いしておきたくなる気持ちは分かる。

 

「あの……」

「ん? どうしたのかい」

 

 最近になって勇者チームとして名が広まってきた時に拾い上げた少女がちょこちょこと寄ってくる。こういう姿を見ると、まるで自分に娘が出来たようで可愛く見えてしまう。

 

 少女の頭に手を置くと、少し嬉そうにはにかんだ後に、不服そうな顔で膨れっ面を見せた。

 それがまるで背伸びしたい年頃の女の子みたいで、自分も思わず顔が綻ぶ。

 

「どうかしましたか?」

「いんや。ただ、表情がころころ変わって面白いなーって」

「もうっ! 子供扱いしないでください!」

 

 拗ねる女の子にゴメンゴメンと返す。

 

「……私だって、もう立派な女性なんですから。召喚士ギルドでだって、ギルドマスターにならないかって話が来ているんですから」

 

 本当に、女の子の成長は早いものである。

 

 成長。といえば、イズムパラフィリアにも、従魔の内部データには戦闘用にAIが組み込まれている。会話やモーションデータにAIが組み込まれていたのは、確かサービス終了後に有名なプログラマーが作っていた二次創作だったはずだ。

 

「いつか、話せるようになるといいな」

 

 俺の横に従者のように立つ、中学生位の少女を見やる。彼女は俺がゲームを始めた時にリセマラ無しで引いた最高レアにして最強種族の従魔だった。

 同種では攻撃型の風属性の方が人気があったのだが、気が強そうでグイグイ引っ張っていく感じの女性が好みな俺としては、この少し気が強そうな顔立ちのこの子の方が好きで、愛着を持って育てていた。

 

 召喚士に、マスターに相応しくない俺かもしれないが、いつか本物に会えたら言いたいことがあった。伝えたい気持ちがあった。

 

 一緒に遊んでくれてありがとう。相棒。

 

 

 

 どうやら、この世界には自分達と同じような転生者とか、転移者の存在があるようだ。

 

 元々、自分達だけが特別だとは思っていなかった。何せ、ゲームとは違い、何故か王国に召喚されて勇者となっているし、従魔は現地の召喚士とは違い、プログラムされた動作を真似ることしか出来ないし、要所要所が主人公っぽくないのだから。

 転生者複数だし、かといって争わないし、互いに仲良く好き勝手してるサークルみたいなものになっている。だが、世界観的にはダークなファンタジー。路地裏では当たり前のように毎日レ○プが発生しているし、なんなら王国、王城の地下施設では、国民の人口維持という名目で、人間牧場が経営されている。

 

 言うなれば、モブとしてそこそこやっていけている引き立て役なパーティーといったところ。実情は災厄が王国へ襲撃に来た時用の国防装置であるが。

 

 そう、国防である。勇者として召喚されたからには、資金援助でもされつつ、災厄と呼ばれる何かを倒すための旅に出るのかと思いきや、襲撃に備えた防衛組織でしかなかった。

 少しの距離を離れる程度ならいい。勇者の持つ従魔には、高速で移動できる者も存在しているので、往復で六時間程度の範囲なら外出は許可されているのだ。

 しかし、一日たりとも国外にで続ける事は許されなかった。ゲームでは知ることもなかったのだが、どうやらこの王国は特に力を持たない集団らしく、野生の従魔すらも脅威になっているようだった。

 

 今は災厄により地にエネルギーが満ち溢れており、野良の従魔達が活性化している状況。自然や従魔達からしてみれば、今の状態の方が良いのかもしれないが、それでは人間が生きていけないので、こうして余所から戦力を引っ張って来てでもどうにかしないといけない時代だ。

 俺達も、このまま手を拱いている訳にもいかないが、自分達は王国に首輪を付けられた状態だ。その王国から命じられてしまえば、自分達も逆らう事は出来なかった。

 

 そういった事情もあって、最近は仲間達もストレスを溜めがちだ。そこで、往復可能な範囲にあったはずの魔法都市を探すことにしたのだ。

 もしかしたら、ゲームで仲間になった魔術師ミルミルを生で見ることが出来るかもしれないと、友人達も喜んでいた。

 

 そこには、時期が違うのか、主人公が連れていってしまったのかは不明だが、ミルミルに会うことは出来なかった。しかし、かつてのボス、ガイストの子孫っぽそうな子供を見ることも出来たし、何より、災厄に関する情報と、俺達以外の転生者がいるような情報を入手出来たのだ。

 

 まあ、結果からすれば、俺達転生者。もしくは転移者はその時代時代でひょっこり現れては消えるといった感じの情報しか得られなかったのだが。

 しかし、文献からすれば、かなり大昔から災厄は存在しており、また俺達のような人間も現れているようだった。中には、イズムパラフィリアで見たことのある名前を名乗っている者すら見受けられた。

 

 ……例えばの話だが、もしこれが全てイズムパラフィリアのプレイヤーだとしたら、恐らく生き残っているのはもうほとんどいないかもしれない。

 ソシャゲは過去に悪質な詐欺紛いのゲームが横行したことにより、法の規制が入っている。ガチャの天井を設けること、運営期間は半年以上で、その間に六回以上の更新を行うこと。その他様々な法律が作られたはずだ。

 

 それからは金銭回収効率が下がったからか、多くの会社がソシャゲを作り運営することをやめてしまい、ソシャゲというゲームの規模そのものが縮小した。

 広告すら無い悪名高きソシャゲであるイズムパラフィリアは、総ダウンロード数こそ一万を越えていたと記憶しているが、実際のプレイヤーは数百以上存在すれば良い方だろう。

 それらが順次喚び出されていったとしたら、恐らく既に地球に元プレイヤーはほぼ存在しない。それくらい歴史の中で転移者らしき姿が確認されていたのだ。

 

 まあ、そのどれもが才能ある召喚士として名を馳せているのだから当たり前だ。

 

 そして、現在、俺達のいる時代に、勇者以外の転移者は確認されていないようだ。

 

 嬉しいような、悲しいような、そんな情報を手に入れた俺達だったが、こうして情報として、同胞を発見したのは、良い刺激になった。今まで半分夢見心地な気分で生きていた俺達だが、ようやくこの世界に生きているという実感が湧いてきていた。

 この世界を苦しめる災厄をきっと倒そうと、珍しくこの世界の不味い酒を飲み合って、語り合った。

 それまで知らないような、地球に、日本にいたときならばきっと聞かないまま終わったような事も話し合った。将来の夢とか、人間関係だとか、ゲームの話だとか、決戦までに残された時間がどれくらいあるか分からないから、とにかく集まっては飲んで語り合った。

 

 この世界に来て、友人達とはより一層仲良くなれた気がする。親友以上に、強く固い絆で結ばれた。そんな気がしていた。仲間達の中で、一組のカップルすら誕生したんだからな。

 

 しかし、魔法都市に向かった時に言われた言葉が今でも少し気になっている。「もっと早く、ここに来てくれていれば」だなんて、まるで他の転移者でもいたのかも。と期待してしまったではないか。

 彼らの恩人であり師匠らしいけど、地球人ではないようだった。一体誰のことなんだろうか。

 

 

 

 災厄は、思ったよりも簡単に倒せた。これで、俺達も肩の荷が下りたし、世界的な英雄だ。

 

 まあ、名声は王国内部でしか知られていなさそうなレベルだけどな。国防組織だったし。

 これで帰れると思うと、この世界も少し恋しくなるな。この国でも、国王含め色んな人と仲良くなったし、お別れするのは少し辛い。

 

 しかし、戦いが終わったら結婚しようだとか、今思い返すとあいつらガッツリフラグ立ててやがったな。まあ、生きているけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆死んだ。王国に騙された。

 最後に残された俺に危機を伝えるためだけにやってきた副レギオンリーダーも死んだ。皆殺された。

 

 この国での名声が高まり過ぎたから? 王国の頂点は一つでないといけないから? 元の世界に帰す方法を知らなかったから?

 

 ふざけんな。そんな理由で俺の仲間を、親友達を殺したのか? 確かに俺達はもっと安全で平和で自由な国からやって来ていたから、この国のやり方は理解出来なかった。国王にだってノリで絡んだし、割りと好き勝手やってた。

 だけど、権威回復の為に殺害までこなすのか? 救世の英雄を、ただ不要になったからと背後から騙して突き刺して。そんなことが許されていいのか?

 他に方法はなかったのか? 王国から解放して別の土地に移動させれば良かったじゃないか。そもそも俺達は逆らった事はなかったはずだ。何故、今になって殺す? 信用出来なかったのか? 俺達を。

 

 あの気弱で優しかったただの男だった国王は、唯一心が許せると言っていた俺達を、信じてなかったのか?

 

 あいつらは帰ったら結婚すると言っていた。今時少し珍しく、結婚届けを出してしっかりと手順を踏むんだと笑い合っていた。

 

 あいつは帰ったら経験を活かした本を書くなんて言っていた。元いた世界に一番帰りたがっていたやつが、それでもこの世界は良い思い出だって言ってたんだ。

 

 お調子者だったあいつは、真面目に就職すると言っていた。家族に会えない日々を見つめ直して、親孝行をするって決めていたんだ。

 

 そのどれもを踏みにじった。俺はそんな王国が許せない。国も、その在り方を強要する民も。何もかもが許せない。

 

 今から怒りのままに従魔達を王国に攻めさせることは可能だ。きっと、一日と経たずに王国は滅亡するだろう。

 

 だが、それではあいつらが報われない。こんな国に命をかけて戦ってきたあいつらが、浮かばれない。

 

 王国の権威を貶めて、在り方を否定するべきだろう。俺達は、あんな国とその在り方のせいで死ぬことになったのだ。

 

 それを世界に周知させる必要がある。もう二度と、こんな事を起こさせないように。

 

「あー……そうだったな。イズムパラフィリアじゃ、レギオンの文字数が足りないってんで名乗る事が出来なかったか」

 

 俺は、今から復讐の為だけに生きると誓おう。残った俺が、あいつらの全てを背負おう。

 

「【ノーマネーボトムズ】いつも他のゲームで遊ぶ時はこの名前でメンバー組んでたよな」

 

 個人の名を捨て、今から俺はノーマネーボトムズを名乗ろう。全ては、王国に、あいつらの復讐をするために。

 

 今この時、誓おう。魂も肉体も、全てを殺意に塗り替えて、世界を穿ち、破壊しよう。

 

「『召喚』」

 

 衝動に突き動かされて、手を掲げた。

 

「…………ハハッなんだ。出来るじゃないか」

 

 その手には、ちっぽけな一つの銃が収まっていた。

 

「【ピースメーカー】……俺の最初で最後の従魔だ」

 

 ────よろしくな、相棒。




小ネタ
王国の人間牧場はダークファンタジーの名残(初期案は女王が蜂みたいな感じに出産して国民が女王を守る国だったけど、何度か設定を崩しては再建して現在の王国の形になっております)

星五機種ピースメーカー
実は設定資料を開いた時にピースメーカーの設定部分に燦然と輝く星5の文字を見て吹き出しかけました。スリープ君土手っ腹に穴どころかミンチになってるやん……。
ボトムズ君が持っているピースメーカーは低レベル未凸なので使用可能アビリティは【魔弾】(通常攻撃が魔法属性になる)のみです。物理貫通でやっぱりスリープ君死ぬと思うんですけど……。
まあ、幸運だったということで。トラスちゃんから幸せを貰ってますし。
この銃は史実のピースメーカー同様というかほぼそのままの外見をしている(はず)従魔です。設定も大体似たような感じで、量産型(星五)の銃により互いに武器を持つことで抑止力的平和を作り上げた事になっています。
本来はボトムズ君に喚び出されるような従魔ではないのですが、彼の覚悟やらイメージによって現れた。ということになっております。そして、唯一彼が喚び出せたゲーム産従魔ではない通常従魔として、長らく相棒としてやってきております。


ちなみにですが、ボトムズ君とアヤナ達召喚には少なくとも数年の月日があり、更にスリープ君とアヤナ達は数ヶ月分の差があるんですが、時系列的にはあり得ないような気がするんですよね……。またガバを見つけてしまった。
(一応、チームボトムズ召喚→数年後→ボトムズ君以外死亡→二、三年後→アヤナ達召喚→数ヶ月後→スリープ達登場となっております。その間に魔術師が二世代交代するのも変な話ですし王国は国内を治めていたとすれば良いんでしょうけどその間ボトムズ君の復讐を怖れなかったんだろうかと考えると不自然なんですよねぇ……)
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