イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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遅くなってすみません。推敲もしてないです。


66話 カウント・ゼロ

 戦闘前にダラダラと会話することを、樹は戦術の一つであると思っている。

 

 とはいえ、こうして争いに身を置くことにならなければ、アニメの尺稼ぎのような立ち回りは好きではないと思っていただろう。何をそんなに初対面であったり、会話する必要の無い相手にしているのだろうか。と。

 実際バトルアニメの尺稼ぎを樹は毛嫌いしていた。

 

 しかし、今はその嫌っていたアニメを意識して台詞を吐いていく。悟らせないようにゆっくりと深呼吸をし、口を開く。

 

「思ってたんすけど、ノーマネーボトムズの皆って、勇者を止めたり、または王国のやり方に疑問を持って勇者を生存させたりってはしなかったんすか?」

「……前提が違う。勇者が用済みとなり、殺されてからノーマネーボトムズは発足した。勇者を止めるような人は加入しないし、勇者は強かったから、あっさり王国に裏切られるだけで死ぬとも思ってなかった」

 

 実際、今の会話も戦闘に必要かと言えば、そうでもないだろう。全ては理由付けだ。それらしい理由を付けて、そこに価値と戦術を見出だせば、全部必要な事に成り代わる。

 この会話は何が出来る? 情報の入手? 違うだろう。確かに会話を続ければ情報が得られるかもしれない。しかし、行動の本質はそこにない。

 戦闘の遅延。会話により隙を作り、あらかじめ伏線を張り巡らせ、戦いの流れをコントロールする。主導権を握れば、それこそ戦闘をいつ開始するかまで選べる。そこに樹は戦闘における会話の価値があると判断した。

 

(…………スリープさんほど有利なら、会話も必要とせずにさっさと押し潰していくんすけどね)

 

 この場にいない、今までなにかと頼りにしてきた男を思い浮かべ苦笑する。

 

 ──樹は知らないが、スリープは自分が不利な状況だと判断すれば、会話を絡めて相手の行動を制限させたりする。暴力主義を主張しているが、そこに至るまでの道筋もまた、スリープは意識してコントロールしている。

 

 ウィードを突撃させ、従魔の攻撃の雨に晒した時も、会話により次の手を誘導していた。ただ殺せと叫べば、従魔による無数の蹂躙により、塵すら残らない可能性があったから。

 だからこそウィードを殺し、次の一手を、ピースメーカーによる銃撃に絞らせたのだ。上手くいくかは賭けでしかないが。それでも、やらないよりかはマシである。

 

(相手の従魔の強みは何だ? ミラージュや、王国のギルドマスターと同等クラスなら、ただ一撃が強いだけじゃないはずだ。そこが分かれば対策も取れたはずなんだけどな……)

 

「……従魔は自分の願いや望みに対して応じる事もあるんすよね。俺のリビングエッジは、俺自身が戦う力を求めたからやってきてくれたんすよ」

「そう、私は、最初にこの子が来てくれた」

 

 そう言ってサクメは、振り子のような刃を持つ従魔を撫でる。

 

「……全部死んでしまえばいい。勇者に助けられた後も、私は復讐の念が途切れることはなかった」

「復讐……受けた攻撃でも倍返しにするんすか?」

 

 拙い会話で主導権を握りに行く樹。サクメは、自分に優位があると思っているのか、特に怪しむ事も、会話の主導権を握りに行くこともせずに答えていく。

 

「冗談。わざわざ受けに行く必要は無い」

 

 そこで、樹は自分の行動の失敗を悟った。

 いや、初めてにしては上出来の部類だっただろう。少なくとも、相手の従魔の強みと、戦闘の開始を悟る事が出来たのだから、コントロールこそ出来なくとも、把握は出来ていた。

 

「ただの一度も攻撃を受けること無く、ただ安全な場所から相手をボコボコにして殺してやりたい。誰もが思うような、卑怯で普通の力でしょう?」

 

 従魔が水平に円運動をする。グルリと身体を振り回すと同時に、樹はその従魔の身体から一気に伸びる空間のような物を見た。

 

「伏せろっ!」

 

 樹の掛け声に瞬時にサクメを除く全員が伏せる。彼等の頭上をザンッと、金属が硬い物にぶつかりながらも断ち切った音が響いた。

 

「何これ……斬撃を飛ばしてるの?」

「いや、違うっす」

 

 不可視の斬撃を遠距離からの攻撃かと考えた柊菜へ、樹が否定する。

 樹にはクオリアから与えられた眼がある。彼の視界の半分では、不可視と思われた斬撃の正体が見えていた。

 

「あの従魔は見た目以上に射程が長いっす。攻撃の時だけ物質的に干渉してくる巨大な刃が見えるっすよ」

 

 実態は飛ぶ斬撃よりも厄介であった。取り回しは見た目と同じだが、攻撃範囲が単純に広い。攻撃した場所から最大射程まで一瞬で届くということになるのだから。

 そして、防ぐ場所は前ではなく横からとなる。樹の眼が無ければ、確実に無防備な横から一撃は喰らっていただろう。

 

「ネタが割れたところでこちらの優位は変わらない」

 

 サクメは樹に、従魔の秘密が看破されたところで、何一つ表情を変える事はなかった。

 

「この程度の事で揺らぐような、やわなギルドマスターはいない」

「……そうかもしれないっすね。だけど、俺、一つ出来ることがあるんすよ」

 

 横から振るわれた巨大な刃を、樹はリビングエッジを構えて迎えた。

 巨大な火花を上げてぶつかり合う。しかし、樹は吹き飛ぶ事もなく、攻撃は振り抜かれた。

 

 柊菜達の頭上を超えて。

 

「樹くんっ!」

「いってぇ……だけど、出来ない事でもないんすね」

 

 両手を振って痺れをどうにかしようとする樹が、してやったと嗤う。

 

「従魔の剣、俺でも受け流すくらいなら出来るようで」

「っ! これなら勝てるよ! ヒイナ、反撃よ!」

 

 樹一人とリビングエッジ一体で攻撃を押さえることに成功したからか、里香が勝機を見出して声を上げた。

 しかし、今の里香の手持ちは瞬発力にこそ長けるものの、継戦能力が低い従魔ばかりである。そこは彼女も理解しているのだろう、こうして声を上げることで指示を送っている。

 そこで柊菜が取った行動は、有利をなるべく広げようとするものだった。

 

「『コール』! 開いて!」

 

 瞬間、世界が沈められた。光は閉じて黒と白の二つの色で構成される湖畔と、そこに浮かぶ蓮の花へと切り替わる。

 柊菜は、まず相手の退路を防ぎにかかった。聖域結界の睡蓮で街から自己従魔の空間へと引き摺り込む。

 

 緑種は単体では最弱の部類に入るが、こういったフィールドの構築を可能にする強みがある。世界を切り替えれば、相手にあった地の利は失われるし、従魔故に味方へと有利な効果を及ぼす事が出来る。

 

 常時HPの回復効果が適用されて、強力な一撃を受け流したリビングエッジに活力が戻ってくる。樹の手も痺れが取れ、今まで走り回った疲れすらも癒えてくる。

 

「エー君、チェリー!」

 

 柊菜の指示で傍に控えていた二人が飛び出す。つい最近限界突破をしたエンドロッカスが剣の柄を顔の横につけ、剣先を相手に向けた構えをする。

 迎え撃つように振るわれた薙ぎ払いは、誰も受け止めなかった。柊菜の睡蓮には一回だけ攻撃を無効化する能力がある。振るわれた一撃は全員をまるで水面に触れるがごとく姿を揺らすだけに終わった。

 

 そうして、一手分の完全な隙が生まれた。そこを見逃す柊菜ではない。素早くチェリーとエンドロッカスを詰め寄らせ、暴れるサクメを取り押さえたのだった。

 

 攻撃は、しなかった。完全に無防備になったところを、従魔の力で強制的に確保した。

 柊菜の争いを好まない性質が現れた結果だ。

 

 勝敗は一瞬だった。

 どうあがいても従魔同士の戦闘では、召喚師は弱点になる。幾ら一体の従魔が強力であろうと、数と戦い方によっては如何様にも崩せる。そこを狙えば一撃で終わってしまうのだから。

 

「…………動けば殺す。従魔をリコールさせなさい」

 

 地面に押さえ付けられたサクメへと、里香が冷たく命令する。

 しばらくの間、サクメは樹達を睨み付けていたが、それでもどうすることも出来ないと知ると、暴れるのをやめて顔を伏せた。

 

「……私、リコールしろって言ったつもりなんだけど?」

「してもしなくても変わらない。私の従魔はそこまで素早く動けはしないから」

「それでもやりようはあると思うけど? 不意打ちの一つや二つくらいは出来るだろうし」

 

 押し問答。樹達は幾つか情報が欲しい上に、明確な殺人行為そのものにリスクがある。全体意思がバラバラになってしまう可能性があるのだ。

 そこら辺を理解しているのかしていないのかは不明だが、サクメは一切従魔をリコールしようとはしない。

 まだ勝機がある。と、そう言っている訳だ。

 

「…………私にとっての勇者はあの人だけ。それは今でも同じ」

 

 彼女はそう宣言すると同時に、樹達へ顔を向けた。里香だけではなく、三人を見つめている。

 

「今代の勇者。あなた達も帰る手段は一切無いでしょ? あの人は、自分と同じ故郷の人はなるべく帰したいと思っている」

 

 確かに樹はノーマネーボトムズを名乗るハンチング帽の男に、帰還方法があるという話を持ち込まれていた。

 柊菜も、里香も、王国の大会にてその話は聞いていた。

 

「でも、その方法は確実じゃないってスリープさんが言っていたよね……?」

「……そいつが何なのかは知らない。だけど、多分あの人と同じ事を知っているんだと思う。あの人は言っていた『ゲームと同じ方法では今でも可能だけど、確実性がない。エネルギーでもって空間に穴を開けるような荒業じゃ駄目なんだ。そこに指向性を持たせるにはどうすれば良いか……』」

 

 嫌な予感がする。樹は漠然とそう考えていた。

 幾つか見えていない所はあるものの、ピースは全て出揃ったような、後は組み合わせるだけのような、時間が追い詰めてきている焦燥感だけをただ胸に燻らせていた。

 

「……ミルミル師匠。街に魔術師が必要な理由ってなんでしたっけ?」

「……何よ。そんな事も知らないの?今もこうして邪魔されていないのって私がいるからなんだからねっ」

 

 答えを探す為に、樹はこの場にいるなかで一番知識がありそうなミルミルを頼った。

 あれだけ溢れ返っていたエネルギーバブル。従魔達がより集まってくる存在。魔術師が街にいる理由。

 

「人は、地脈っていうのに合わせて街を建てるの。そこがエネルギーの集まる所だからね。そこを押さえることで従魔の大量発生を防ぐのが目的でもあるの。それと同時に、街中で従魔が発生しない為に、魔術師が契約を結んでエネルギーを変換したりしてるのよ。今は私がいるいるからどうにか野良従魔の自然発生を防げているけど、ここにいた魔術師もいないし、私が離れればエネルギーが多すぎて暫くは人の住めない土地になるでしょうね。これはもう手遅れよ。地脈を押さえても全体にエネルギーがあったらどうしようもないし……。街は三日もあれば再建できるけど、このエネルギーを扱いきるのが無理ね。早めに出ていくべきよ。押さえていた反動で少し強めの従魔がやってくると思うから」

「そうっすか。それだけのエネルギーがあれば、空間に穴を開けるくらいは出来るっすか?」

「消費方法の模索でもするの? これだけエネルギーがあれば空間に無理やり穴を開けるくらい私でも出来るわよ。でも、そういった穴って、ある種ゲートと似たものだから、何が起きるか分かんないし危険なの」

 

 今からでも『ゲームで行われた手法による地球への転移は可能』である。樹は、そのゲームを詳しく知らないが、ある程度想像出来ることはある。

 ゲームでも地球に移動する事は可能だった。そして、恐らくそれは、ゲームでも中盤以降とか、終盤とか。一番あり得るのはラスボス戦後辺りであろう。

 つまり、それだけの敵を相手にした後のエネルギーがここには溜まっているとのこと。スリープが言っていた本来この場で召喚出来る従魔は星五クラスが最高。

 

「……ああ、そこの男の子は気付いたみたい」

 

 サクメが樹の様子を見て、笑う。

 

 戦闘において、会話は戦術の一つだ。目的は情報収集、ブラフ、意識の誘導。

 

「私、味方がいるんだよね。その人、貴族でありながら、自分達を存続させたり、発展とかを願ってる人なんだけど、作戦途中で協力者を得たんだって」

 

 そして、戦闘の遅延。

 

「最初はノーマネーボトムズの標的にしないだけのつもりで、敵のスパイを任せようと思ってたんだけどね。協力者が特殊でね」

 

 子供が自慢するかのように、作戦をひけらかす。

 それは、既に作戦が知られても止めようが無い段階まで来た証拠だ。

 

「選んだ従魔を、依り代に取り憑かせる事で、協力を得ようって言うんだ。そうして現れる従魔っていうのが

 

──この世界では存在することすら出来ない程に強力なんだって」

 

 世界が悲鳴をあげた。

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