イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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展開があまりにもゆっくりなのでサクサク行きます。

前回に引き続き、一部文章にフォントを使用しております。この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。


68話 従魔になるには

 従魔になる。という明確な表現はされた事がなかったが、スリープがミルミルに対して一貫して主張していた事がある。

 

『殺したら?』

 

 彼女が、魔術師の中でも人柱のような役割を担う事になりかけた時、スリープは常にそう言い続けていたのだ。そうして、最終的に彼が一度ミルミルを殺すことで、問題は解決される事になった。

 

 しかし、それが上手く行ったのは、アヤナや里香が割り込んで、里香のゴーレムが術の対象へとなったからだ。そうでなければ、どうなっていたかわからない。術は成功したかもしれないし、その結果どうなるかもまた、不明だった。

 

 スリープが知っているのはゲーム世界でのイズムパラフィリアだ。それは召喚師の物語であり、そこにいるのは従魔となる。

 

 ならば、スリープがミルミルを殺して、従魔にしないまま生存したのは何故だろうか。それは彼が思い描く正しい未来だったのか?

 きっとそれは違うだろう。召喚師は従魔を扱うものだ。そこにいるのは魔術師ではなく、従魔になるべきだろう。

 つまり、スリープはミルミルを殺すことで、従魔にさせるのを想定していたのではないだろうか。

 

 樹は、ドグマが言った言葉に対し、そう思い返していた。ドグマが言った従魔になる方法。柊菜の従魔にして、現地にいる獣人チェリーミート。そして貴族。魔術師ミルミル。

 

 人間は従魔にはならない。死ぬ事で、幽霊という枠組みに入れば従魔へと至れる。

 

 ならば、産み落とす存在であろう従魔の母リリトゥライラを前に死ぬことは従魔にはなれないだろう。

 アレは死種だと樹は思っていた。死者の頂点に立つ存在ならば、死者を管理し蘇生させる事も可能だから。

 天種はもっと清浄な存在だろう。王国で相手にした悪魔みたいな奴? 樹の記憶にはない。

 

 チェリーミートは死なずとも従魔になった。ミルミルはスリープの提案では死なないと従魔にはなれなかった。

 ドグマの主張はどこまでが信じられるだろうか。

 

「くだらない事を。そのような考えは逃げであり、弱者のままです」

 

 竜の少女(王国のギルドマスター)が言う。

 

「結局は外部の存在に手を借りねば強者にすらなれない。そこに強者の資格はありません」

「貴女が恐れるのは弱者がいなくなる事でしょう? サクメ様(ノーマネーボトムズ)と手を組まないのも、それが理由だからだ。強者同士が争い力を失えば下克上が起きる。それに、現状の安定を壊したくないし、争いによって自身を評価する弱者もまた減るのが嫌だからだ」

 

 厳しく追及してきたドグマへと、あっさりと頷く竜の少女。

 

「ええ、その通りです。強者というものは弱者が存在しない限り成り立たないものなので」

「っ!」

「だからこそ、我々召喚師ギルドというのは存在しているのです。強者として存在する限り弱者を守る義務がある。ギルドマスターの目的は事実上の街の支配と管理。そして、同時に強い召喚師同士での争いを避けること。人類全体の管理者たる魔術師や、街単位の民間の守護者たる剣士もまた似たようなものでしょう?」

「…………人類は傲慢だ。そうして力を得て守るのが同胞だけなのですから」

「我々が守れる範囲だけを守っているまでのことです」

「そうして貴族に宛がうのは新入りで力も弱いギルドマスターですか?」

「義理は果たした。そう認識しています」

「ま……魔術師は貴族へ優先的に優秀な人材を送っているわよ!」

 

 二人の言い争いに言葉を挟むミルミル。樹達の視線が集うと、申し訳なさげに口を開いた。

 

「…………魔術師っていうのは、人間と貴族の混血なのよ。元々貴族が人類よりも先に大陸に住んでいてね? 後から人間も住むようになったんだけど、その、貴族って従魔と似通った性質を持っていたから、それを取り込むのは、魔術へのアプローチとしての一つだったのよ」

 

 エーテル式だとか系統は別れているのだが、魔術というのは元々従魔が使うスキルを模倣するために人間が得た技術である。

 樹の目で見ればよく解るが、確かにドグマやシルキュリアの擬態の裏にある姿と、サクメの従魔や、街にいる女性の従魔の表向きの姿とは別の形というのは、同じような物なのだろう。つまり、シルキュリア達の触手で樹を触れば、樹は認識する事なく触られることになるのだ。

 

 そういった別の空間上に存在するもう一つの身体を使えることがスキルを使う上で必要なことなのかもしれない。

 

 …………従魔のスキルはどの従魔でも使える技術である。魔術もまた才能次第で使えるものだ。だが、樹や柊菜が魔術を使えるように、別空間上にある肉体の有無は現在の魔術とは関係があまりない。それよりも関係があるのは『人間よりも遠い肉体の作り』になる。

 

 ミルミルの命が三つあれば、魔術が三度使えるように、魔術というより、従魔のアビリティやスキルに関係あるのは人間の肉体構造とは別のところにある。

 

 そういった意味では別空間上にある肉体は魔術、ひいてはスキルに関係はある。魔術という人間にも使える形に落とし込むまでは大いに関わってきていた。

 

「人間とは生活様式とか色々違うし価値観とかもあるんだけど、人間と比べて貴族って肉体的に弱くて、繁殖力も低くてね……。まあ、こうやって最終的に貴族として保護管理するまで色々あったのよ」

 

 私もそういった出来事で産まれた存在だし。とミルミルは締めくくった。

 

「……彼女の言う通り、貴族は最終的に街一つに収まるほど数と住む場所を減らしていった。だからこそ、私と友はそれぞれの方法で貴族の発展を目指したのです」

 

 強制的な繁殖やら、希少価値ゆえにといったあれこれがあったのだろう。そういった経緯を含めて、貴族の現状と思想があるのだろう。

 人間よりも強者になり、管理者へ回る。そういった感じの目的が。

 

「……だが、今や悠長にしていられる時期は終わってしまった。貴族の街はノーマネーボトムズの隠れ家であり、その情報は幾つかの都市に知れ渡っている。そこで情報の隠蔽の為だけに、私達は殺され尽くすことになった!」

 

 サクメが顔を上げた。ノーマネーボトムズが最初のきっかけを作ったのならば、ドグマはそれに手を貸していること自体がおかしいことになる。

 

「今更気付きましたか? あの存在は野良の従魔であり、私達は皆全滅するでしょう。しかし、彼女は死を与えると同時に生命の輪廻を司る存在です」

 

 そっと、カルミアを抱きすくめる。カルミアもまたドグマを愛おしそうな表情で翼に包む。

 

「人間は従魔にならない。だが、死ねば従魔になる。その境目はどこにあるのでしょうね? 魂を管理する彼女の手により殺された場合、その魂は従魔へと至れるのでしょうか? まあ、私は貴族なので関係はありませんが。ああ、従魔と人の間にいる中途半端な存在は従魔になるのは難しいでしょうね。召喚師の従魔というのはいないそうですし。私の復讐は済みそうです」

 

 翼で姿が隠れきる直前で、ドグマは樹達人間を見た。

 

「死が世界を覆い尽くした後で、私は貴族という従魔として、新しい秩序の元、世界を再編することでしょう」

 

 カルミアが大鎌をドグマの首筋に添え、一息に振るう。鮮やかな真っ青な血が噴き出す。

 血を口端から吹き出しながら、悪意をぶちまける。

 

地獄に墜ちろ。人間共

 

 ドグマの目から青い血涙が流れる。狂いきった存在は復讐対象へ向けて呪詛を吐いた。

 

 龍の背から真っ逆さまに落ちていく。ドグマの肉体が地面に叩きつけられる直前、リリトゥライラに抱き留められた。

 

お疲れ様でした。貴方の命もまた私の胎内へ還るでしょう。それまでおやすみなさい

 

 ズブズブとリリトゥライラの肉体へと沈んでいく。血の一滴も遺さずに、ドグマはリリトゥライラに飲まれた。

 

「まあ、あの貴族は従魔になるには不十分だろうけどね。少なくとも、一つのれっきとした従魔にはならないよ」

 

 今まで嗤っていただけのカルミアが言葉を発した。

 

「従魔にも成るのには条件があるってのに。ほんとバカだよねぇ? あんな意思も主張も振れまくりで思考も定まらないような存在が従魔になんてなれっこないよ。成した事も、ひとつの終わりも出来てないってのにさ」

「黙りなさい」

「アハッ! なぁに、怒ってるの? あの貴族の夢も主張も意思も何もかもが無駄に終わったってことを? 強者で、人間だけの守護者のキミがぁ? 龍にもなれない出来損ないは小さなコミュニティだけ守ってれば良いじゃんか。どうせ、魔術が出来た時点で貴族なんて不必要だったもんねぇ? いなくなってちょうど良かったんじゃないの?」

「外道が! 黙りなさいと言っているのです!」

「口を塞がせたいのなら、ご自慢の力でやってみなよ! ダストを使えば一瞬でしょ? まあ、その為には他の人を振り落とすことになるだろうけどね!」

 

 煽りまくるカルミアへ剣閃が走る。エンドロッカスの手でズルリとカルミアの肉体がズレ落ちる。

 柊菜がカルミアをゴミを見るような目で見下す。

 

「……すみません、助かりました」

「…………いいえ、誰がやらなくても私がやってましたから。気にしなくていいです」

 

 竜の少女の感謝に頭を振って固辞する柊菜。彼女の感性からすれば、カルミアはスリープ以上の敵に見えた事だろう。

 

「アハッ……。一時の感情を慰めていればいいよ。どうせ殺しても従魔は死なないし」

 

 最期の一瞬まで煽る事を止めないカルミア。柊菜が完全に息の根を止めようとした時に、彼は空を見上げて呟いた。

 

「──ああ、どうせなら戻った後にアイツに会いに行ってやろうかな。ネタバラシもやってなかったし……」

 

 エンドロッカスが剣を振り下ろす。

 

「最後の楽しみを回収しなきゃ……ぷぎゅ」

 

 光の玉が天へと昇っていき、消えた。

 

 後味の悪さだけがそこに残った。

 

「……従魔になるっていうのは、認識上の自己の生命が続いていくって事なのかな。自分達が滅びを迎える時に、僅かにでも存在を残そうとするのは、間違ったことだったのかな」

 

 柊菜が呟く。

 

「これも、救いになるのかな。なれば、いいな……」

 

 黙祷を捧げている彼女はそっとして置くとして、里香が空気を切り替えるように手を叩き、注目を集めた。

 

「……で、現状は何も変わってないよ! あの従魔をどうにかしないと私達は元より世界すらマズイことになるらしいし!」

「スリープさんが居たらどうにかなったんすかね。せめてあの従魔がどんな存在なのか知れたら良かったんすけど」

「何言ってるのマスター?」

 

 絶望だけが残っていた所に、ピクシーが不思議そうに樹へと尋ねた。

 

「アレはシルキュリアだよ。従魔として混ざっている部分は一パーセントにも満たないくらいだもん。そうしないと素体がもたないからね!」

 

 無邪気に、なんてことない様子で情報を出した。

 その姿はまさしく人外を思わせるようなもので、樹達人間とはまた違う意思を持った存在だと示していた。

 とはいえ、そんなこと前からわかっていたことだ。樹は、クオリアと対峙した時に感じた恐怖を心の奥底にしまいこんだ。

 

「えっと、弱体化してる……ってことっすか?」

「周囲の雰囲気ほど強くはないよ! シルキュリアが大元で、従魔が憑依しているって感じだから、力はシルキュリアのものだし、アビリティも一部しか使えない状態だよ!」

 

 つまり、見掛け倒しだと、ピクシーは言いたいらしい。

 実際に当たってみないと真実はわからないものなのだが、ドグマとカルミアのような召喚による結ばれた関係を持たない状態ではないのだし、主人に害を与える情報は与えないと信じたい。

 樹とピクシーの会話を聞いていた竜の少女がしびれを切らしたように声をかけてくる。

 

「……結論は出ましたか? このまま待っているだけでは状況は悪化するのみです。私は一人でもあの怪物に挑みますので、降りるという方は早く申し出てください」

「……俺は、行くっすよ」

「ふーん、じゃあ私も。一応勇者だしね。誰かがやらないといけないっていうのなら、私だってやるよ」

「逃げても、ダメなんだよね……。大丈夫、私も、やれる!」

「そうですか。私としては、優秀で将来有望なあなた達には生きて欲しかったのですが、戦力が充実するのは嬉しいことです。感謝します。サクメ、あなたはこの事態を引き起こした責任もありますので、あなたは絶対についてきてもらいます」

 

 そして、ダストの足にくくりつけられるサクメ。

 

「容易に勝てる相手では無いでしょう。犬死に終わると判断される場合は全力で生き延び、逃げることにしてください」

 

 召喚士達が龍の背に立ち並ぶ。

 

「世界を救いましょう。道は私が切り開きます」




ちょっとした小ネタ
カルミアくんちゃんは裏切りを冠する従魔ですが、結構面倒見が良いです。裏ではドグマくんへとネタばらし兼煽りをするためにも会いに行っております。

そこら辺はもう少し作中で死者数が増えたら書く予定です。
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