短めです。
71話 西へ
長かった。ここまで来るのにどれくらいの時が流れたか。
具体的にいえば一年くらいは洞窟の中に閉じ込められていたような気がする。
実際は三日から四日程度だとは思うが。
「や……っと出れたのね」
洞窟の中に閉じ込められて、俺や従魔の茶番。トラスの教育など以外は全く文化的なことはできなかった。その反動からか、アヤナは暫く外に出られた感動を引き摺っては反芻している。
数日とはいえ、昼も夜も無い空間で文明的生活を送れないというのは現代人には厳しかったようだ。
どうせ、あと数日もすれば慣れただろうが。
「旦那さま旦那さま、この後はどうするんで?」
水色の髪が視界に入る。野種星五【ヘドニズムのリリィ】だ。
彼女が控えていた背後を見る。
緑種星二【迷いの森のシルク】
死種星四【死病の生贄ノーソ】
機種星十三【人造天使ラインクレスト】
天種星零【滅亡聖女罪罰】
そして、傍らに龍種星十【地龍ウィード】
全員を召還した状態にしてある。そう、召還枠が足りなかったのにだ。
解決方法は既に出ていた。そこに気付いたのは生活が切羽詰まってきた時だが。
それと引き換えに、アヤナのメンタルが少し不安定になった。それもまあ、仕方ない犠牲である。
アヤナは元々NPCなので、依頼の形にすれば石が得られるとは思っていたのだ。人権も俺がいた頃の管理体制ほどではないので、これから先、この召還石生成装置は手放すつもりはない。
おはようからおやすみまで全て俺が管理して、依頼という形で指示出させてやる……!
まあ、そんな事をしていたからアヤナが洞窟から出られることに喜んでいるのだ。特に、洞窟から出るためには石が欲しかったので、やらざるを得なかったのだ。
これから先もやめるつもりはないが。
人間の管理で石が得られるなら、デイリー契約で石を吐き出すようなシステムにしたいものだ。こうして管理社会はできていくんだな。
ちなみに、トラスは声が出ないので、アヤナのような仕打ちは受けていない。それが一層アヤナにストレスを与えたようだ。
もう少し石の余裕があったらアヤナのメンタルにも影響を与えないようにもできたのだが、やはり、低レベルの従魔だけでは倒せなかった。
罪罰ちゃんと、石を割るコンティニュー連打で無理やり突破するしかなかった。
一応、俺が予定していた技術の獲得には成功したが、やはりステータスの差を補えるだけのものではなかった。精々石の消費量を抑えただけだ。
そうじゃないとゲームにならないからね。しょうがないね。
新技やら新戦力を得たのはいいが、改めて自分の従魔を見る。
初動が死んでいるタンクに、くそざこ魔法火力。生物にしか使えない上に無制限に撒き散らすデバフと、死んだら発動する蘇生のお守り。そして、ポテンシャルだけの全く育ってない大器晩成型の遠距離物理に重ね掛けできるスキルを自力で覚えないのでまだほとんど使えないサポート。
初期とはいえ、高難易度ダンジョンでレベルは上がっているが、それでも限界突破できたのはウィードだけである。他はレベルではなく、条件が足りていないだけだが。
「……復刻版に挑むのはまだだね。ヴエルノーズは避けて、西へ行くよ」
戦えなくも無いが、勝つのは困難だろう。
アヤナの願い『洞窟から脱出する』に加えてダンジョンの初回クリア報酬と踏破報酬で石を三つ拾い上げる。当面はこれが俺の手持ちになる。
「アヤナ」
「……はいはい」
声をかければ、仕方がないといった様子で、ポーズを取る。
別にポーズまでは頼んでいないのだが。
「依頼よ『私を安全な街へと連れていきなさい!』」
「承知した」
これが今の俺とアヤナの関係だ。
発見したのは、アヤナの飢えが限界になった時に、リリィへと食料の用意を頼んだ時に。彼女の飢えが満たされたところで石を手に入れたのだ。
それ以降は、アヤナが依頼を出す形で、俺に石を供給させるようにしている。
「向かう場所は西【カラサッサ平原】だ」
イズムパラフィリア、ストーリーの第一部後半にようやく入る事になる。
移動ついでにヴエルノーズを覗くことにした。北のキリタツ崖をウィードの能力で整形して足場を作りながら、関所のように南北を塞ぐ資源都市を見る。
「なによ、アレ……」
「わーお、相手は本気か。世界を相手にやっていくつもりなんだね」
恐らく、王国側であった出来事を切っ掛けに戦争にでもなっているのだろう。ヴエルノーズの街の門や、壁には多くの異形のヒトガタであるエンドがいた。
そんなものに挑もうと進む、装備もバラバラな人間達。後方には整った装備ながらも数があまりにも少ない集団がいる。あれは王国の人間だろうか。
ヴエルノーズはノーマネーボトムズ側のギルドマスターがいるからな。勝ち目は無い。
それに、エンドを作り出す薬品の素材は西側にある。敵の戦力を削るには西側に行く必要があるのだ。そこまでの道を塞ぐ要塞となっているのがヴエルノーズということだ。
元々、この世界の人間はかなり守勢に強い。自分や同族がそもそも食物連鎖の頂点じゃないからな。
時折従魔らしき存在が門やエンドを貫く攻撃を放つが、即座に壁が出来上がっていく。
魔術師の強味ということだ。彼らは自分のフィールドにて無類の強さを発揮する。足場どころか空間を支配できるのだ。
「うーん。こりゃ急いだ方がいいかもね」
「私達、これをどうにかするっていうの?」
「……別に敵対する理由は無いと思うよ?」
これだけの事をやらかしているとはいえ、相手は同じ地球出身だ。異世界へと飛ばされた経緯を考えれば不憫ではあるだろうに。
それに、あの男がこの世界の破壊を目的にしているのか、死んだ仲間を蘇らせるのか、それとも地球へ帰るのかは不明だが、それらはあまりこちらとは関係の無い話だ。
俺達はともかく、里香や樹、柊菜なら一緒に行動できるだろう。
こっちは無理だな。俺はあの男に先を行かれるわけにはいかないし、アヤナはそもそもゲームのキャラクター。トラスは現地住民だ。
あの男の目的は恐らくリミテッド従魔の召還だ。どの従魔を喚ぶのかまではわからないが、地球へ帰るにしても死者の蘇生にしても、世界を破壊するにしても、かなりの高位従魔を喚ぶことになる。
リミテッド従魔は一体のみの召還が決められている。俺は罪罰とラインクレストを召還している。この二人は俺が所有している限り、他の召喚士は喚べないのだ。
ゲームではプレイヤーごとに召還できたが、それでもギルドマスター達のリミテッド従魔などは、一度倒してロストさせないとガチャのラインナップに加わらない。そこから考えれば、プレイヤーが同時に存在するこの世界ではリミテッド従魔の同時存在は無理だろう。
もし、仮に星十六を召還された場合とんでもないことになる。従魔は基本的に既存情報の集積と再構成で構築されているが、その枠組みを越えた存在が星十六達だ。
あいつらは自分で世界や法則を産み出せる。『世界』というものに対して絶対的な権限と重要性を持っているのだ。
「私は、こんな世界でも望んで来ているの。めちゃくちゃにされるなら戦うわ」
「……まあ、そうじゃなくても星十以上のリミテッド従魔は全部欲しいね」
まあ、アヤナの設定はそうだろうね。
これ以上は見ていても情報は得られないだろうと判断して、先を急ぐことにした。
・・・・・
カラサッサ平原は、元は海であったとされる、枯れた地面がどこまでも続くエリアだ。
平原というよりはサバンナに近い気候と土地ではあるが、なぜか平原とされている。
特徴としては、野種が圧倒的に多いこと。魚の従魔から、レアボスは恐竜であったりと、過去の生物を思い起こさせるものが現れる。
基本的に野種は物理攻撃力が高く、それでいて速度が高いステータスをしている。前衛物理アタッカーが多い。
そして、魔法系の補助スキルを使う従魔も、ここから徐々に現れるようになる。
実のところ、今の俺達とは相性が悪い場所だったりする。
「主さまーっ! 早くぅー!」
ノーソの悲鳴が轟く。
そこそこ早く、それでいて攻撃力の高い敵が数多く出現するとあって、打たれ弱い従魔が揃っている今の段階だと厳しいものがあるのだ。
ウィードはタンクでも龍種覚醒で動けないので、ただのかかしでしかない。
現状最もレベルが高く、それなり動けて、ウィードほどではないがHPもそこそこあって、特別な役割を持っていないのがノーソだ。
「主様! 困ります! あーっ! 困ります! 主様! あーっ!」
「うるさいよ」
どう足掻いても、ウィードは通常フィールドでの戦闘だと初動が遅い。アビリティ【龍種覚醒】による、最大HPの一割以上のダメージを負うか、一定時間の経過をしないと戦闘行動を取る事ができない。
フレーバー的に言うのなら、強大なエネルギーを有する龍という個体は、そのエネルギー効率と身体への負担軽減の為に、生命の危機を感じない限り、自発的に長い時間をかけて戦闘準備に入るようになっている。というのが龍種覚醒の設定だ。
一応戦わずとも幾らかの行動を取ることはできる。戦闘と言わない程度のじゃれあいや、小規模のスキル発動。それらは扱う事ができる。
だが、有効打にはならず。更には準備している訳じゃないので龍種覚醒も進まない。そこら辺の設定には抜け道も見つからなかった。
動くが戦えず。タンク役として結構致命的な弱点を持つウィードをタンクとして採用するのは無理な話だった。できて遊撃だろう。
そこで、現状時点で打たれ強い奴を利用した。
ノーソである。
アビリティ【疫病感染源】は敵を病魔状態にする能力だ。病魔はHPにドットダメージ弱とステータスに弱体化を与える複合型デバフだ。
生物系でも動物や人間にしか効果が無く、上位互換もあるものの、受けに強い能力である。
そして、ノーソの第二アビリティがある。
彼女があまり強い従魔として扱われない理由の一つであるが【死への抗い】という、自己回復と防御のアビリティを持つのだ。
病魔ダメージよりも少ない回復量。病気系統の状態異常に自分は罹らないというニッチな体制。
そこまで強力でもないが、生存能力を高めるものだ。
総合的なレベルとステータスも合わせて考えれば、ノーソがサブタンクをやるのは必然的なことだった。
「くそどらごんもろぼっともどわーふもさっさと助けて下さいよ!」
「ぐるる……まだ動けないな」
「救援要請を確認。指示がありません」
「いやぁ、じつに大変そうで。同情しますよ」
アタッカーをこなせるメンバーにことごとく断られ、魚にタックルをくらい「あーっ!」とノーソが叫ぶ。
「……良いの? 放っておいて」
「まだ余裕あるし」
「……ああもうっ! 助けに行くわよ!」
アヤナが痺れを切らし、文房具を巨大化して突貫する。
「クレスト。援護しろ」
「受理されました。ラインクレスト、出撃します」
「リリィ、バフを」
「かしこまりました。旦那様」
クレストにリリィがバフを与えて、敵を蹴散らしていく。
レベル的にも相性的にも厳しいが、少なくともレアリティと戦術面では勝っている。戦えないわけじゃない。
戦闘時間もそこそこに、敵を全滅させたのだった。
「……お、石発見」
アヤナが動いたのに合わせて援護をしたのが上手くいったのだろう。クエスト完了ということで石が手に入った。
「……ちょっと、流石に外道過ぎない?」
「石のためには必要なことだよ」
ポケットに石を突っ込む。見上げた先はカラサッサ平原の終わり。そして、錆びたトタンのような壁などの建物群。
密集したスラムとでも言わんばかりのそこは、腐臭と性臭に満ちていた。
「さあ、後半の第一都市だ。ここから戦いは厳しくなっていくぞ」
【淫蕩と遊びの国レイデン】ここは、ストーリー上ではなんの関係もない経由地でしかない場所だ。
そして、サブクエストで従魔使いのアイドル(36)と戦える。それだけの街である。
ここから、召喚士との戦いがストーリーに出てくる。それだけの街である。