イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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お待たせしてすみませんでした! MF文庫Jの新人賞に新作を応募しておりました。
落ちたらここにも投稿します。
短めです。


72話 アイドルオンステージ

 野生従魔と召喚士の従魔には、大きな隔たりがある。

 最大の特徴は、野生従魔は限界突破がステージ解放まで。つまり三段階までしか上昇できない。この時点で、召喚士が野良と同じ従魔を持っている場合、そのレベルが遥かに上である可能性が高くなる。

 また、同時に複数体の従魔が現れて、連携を取ってくる。分かりやすいものとしては、龍種を相手にした場合、確定でバフを積んでデバフを打ってくるようになる。スキルやアビリティがあればだが。

 ゲームのフレーバーテキストでは、召喚士と従魔には相性が存在し、召喚できる従魔できない従魔が決まっている。という設定がある。

 実際に、ゲームで召喚士と戦うと、偏った従魔しか持っていない敵が登場したりする。龍種だけの召喚士とか、妖怪系従魔だけを喚び出す奴とか。

 つまり、召喚士と戦う場合は、大抵コンセプトデッキを組まれているので、初見で勝つには対応力が必要になるのだ。幅広い手持ち、強化度合い、メタや対策。それらを整えていなかった場合、負ける。

 

 レイデンは、無課金プレイヤーの第一の壁である。今までの敵のボスは一体で登場する。それに、基本的に野種が多く火力勝負みたいなところがあった。より強い方が勝つし、タンク役、火力役、回復役がいれば大抵切り抜けられる。

 本来のプレイヤーは、ここまでの道のりで、チェリーミートとミルミルという火力役を揃える事ができているはずだ。そして、初回の召喚枠の星三以上の従魔。これがどんなクソザコ従魔であっても勝てるように作られている。

 

 昔はその三体のままでもここをクリアすることはできた。しかし、今は不可能となっている。

 

「従魔のステータスって、敵も味方も自分も全部同じステータスなんだよね。強化されると敵も自分も強くなっちゃう」

 

 レイデンに登場する従魔は、サキュバスみたいな奴や、ゴーストみたいな奴が多い。召喚士の手持ちが、街の雰囲気に引き摺られているという設定らしい。

 そして、この現れる従魔全てが、後になって上方修正されている。

 地獄属性による回復強化。魅力系状態異常の獲得。元々、ゴーストによるデバフでかなり苦戦する場所であったのが、サブクエしないで石を貯めないようなエンジョイ勢を皆殺しにするようになったのだ。

 

「はぁ……はぁ……。終わりましたよ……」

「ご苦労」

 

 戦力は全て見せる訳にはいかない。街の中では、ソロで戦えて死種に強い、同種であるノーソと、シルクだけを出している。

 というか、ノーソを限界突破させるのに、この場所は都合が良いので戦わせている。本来ならミルミルの育成場所にもなるのだ。

 

「というか、ここ本当に凄いわね……」

「アンアンうるさいですよね、あるじ様。ここら辺全部吹き飛ばしませんか?」

 

 顔を赤くしているアヤナと、あっさりしているノーソ。同じ未経験者だというのに反応が違うらしい。

 

「私はあるじ様以外では特に意識する必要無いですからね。物理的に入れられないというのもありますが」

「ん……? ああ、そうか。物理ダメージ判定じゃないんだ」

 

 情報質量システムだ。人間相手に従魔は情報質量システムで勝っているので、従魔の行動の方が優先されるのである。

 つまり、従魔が受け入れないのであればどうあがいても入らないということらしい。

 

「下ネタ禁止!」

「あーあ、母乳臭い小娘は耳と知識だけは年増なんですから。お顔真っ赤にしてカワイイデスネー」

 

 アヤナがノーソに突っかかるも、適当に煽りで返される。ノーソは人間(召喚士以外)相手にも友好的な従魔に分類される方だ。

 他はそもそも会話が成立しなかったり無視されたりする。ウィードと罪罰、シルクは無視に近い会話の不成立だ。リリィが話が通じないタイプで、ラインクレストとノーソはやや友好的である。

 

 生身の人間でありながら、従魔に臆することなく会話をするアヤナは凄いのだ。

 

「まあ、苦戦するようなら追加で召喚しようか『コール』リリィ」

「いつ喚ぶのかとひやひやしてましたよ。旦那様」

 

 三番目に強い従魔であるリリィを喚ぶ。基本的な性能はバフ必須な程度に抑えられてはいるが、野種なだけあって、悪くはない。バフを積めば戦える強さはあるのだ。

 

「覚えています? こういう街で、私達が出会ったのを」

「あ、やっぱそっち系の宿だったんだね」

 

 全年齢対象ゲームを名乗るだけあって(実際は課金などの都合上、推奨年齢は15歳だが)大幅にぼかされていたが、リリィとは宿の経営のミニゲームで出会うのだ。

 恐らくは娼館であろう経営ゲームである。

 

「は? なに勝手に記憶捏造してるんですか? リミテッドだからって調子に乗らないでください」

「今度はレストランでもやりたいですねー。特別メニューも用意して」

 

 今度はノーソが青筋立てて、リリィにキレる。リリィは特に相手をすること無く無視していた。

 

「……っていうか、この世界は創作なんでしょ? こんな表現良いの?」

「まあ、詳細はボカされていたからね。それに、大事なのはそこじゃないから」

 

 イズムパラフィリアは、その名の通り、主義と偏愛の物語だ。

 メインストーリーで語られるのは主義の部分だ。サブクエストも主義が多いけど。

 この世界は、はっきり言えば極限状態で安定したディストピアだ。力ある存在が土地に根付き、そこを中心に人々が生活している。

 力ある存在の思想や主義によって街の形が変わり、そうして彼らは生きているのだ。

 地球や日本の考え方が絶対でも正しい訳でもない。条件や前提が違えば、答えなどいくらでも変わるから。

 そういった事を、メインストーリーで語っていくようになっている。

 

「今まで見たよね。ヴエルノーズは暴力の街だった。弱者は切り捨てられて死に、そうやって数を保っている。あの街は壁が大きいでしょ? あれ以上拡張できないから壁で囲って、住民を保護した。そうして安全を作って循環させて、余分を削っているんだよ」

「姥捨て山みたいなものですね、主様」

「魔法都市は、数こそ少ないものの、力ある人が多く集まっている。そして、一番強い奴が犠牲になることで、他の存在を限界まで減らさないようにしているんだ」

「……そんな裏側があったのね」

「王国は、団結することを選んだ道だった。絶対の権力を作り、上には逆らわない、逆らえないようにすることで集団の力を持った国にした。だからこそ国王は自身の間違いも非も認めないし、認められない」

「上が頭を下げたらそれより下はどうなるんだってことになっちゃうんですよね。民衆政治ってそういうことですよ。嗤えますよね」

 

 そういう意味で言えば、この街はリリィが好むような街に限りなく近いだろう。

 

「今までのコミュニティは、全て存続することに特化したような場所だった。この街は外壁がない。権力も秩序もルールもない」

 

 いつ死ぬのかわからないからこそ、好き勝手に生きる。全力で人生を輝かせる。

 

 そう思ったアイドルに惹かれて、集まった人達と、いつ死ぬかわからないからこそ享楽を貪る人が集う街だ。

 

「ほら、見なよ。アレがこの街のリーダーだ」

 

 錆びた薄い金属の壁が終わった、街の中央。ぽっかりと切り抜かれたような空間を、多くの人が囲んでいる。彼らは熱心に一人の人間を見つめて、声援を送っていた。

 

『みんなー! ありがとー! 今日もこうして無事にステージができて嬉しかったよー!』

「「「うおおーーー!!!」」」

「なに……あれ?」

 

 機種星三、従魔【アイドルステージ】の上に立つその女性はきらびやかな衣装を身に纏い、輝いていた。

 効果は、ステージ周囲にいる存在へ【熱狂】のバフ及び状態異常を与えること。

 

『それじゃあ、本日の最後の曲プリズム・ミラーで締めたいと思いまーす! ミュージック、スタート!』

 

 ステージ脇に置かれた機種星一、従魔【スピーカーマイク】は音属性の攻撃を行う弱い従魔である。

 人間、正しくは召喚士の声を大きくさせるだけでは、ダメージを与えられるほどのものではないのだろう。

 スピーカーマイクから音楽が鳴り響く。マイクを握ったアイドルが、歌いだすと、スピーカーの音楽と合さって曲が流れた。

 

「こんなの、有りなの!?」

「従魔にはいるからね」

 

 むしろ、第二部開始後の大型アップデートに伴い強化すらされた部類なのだ。優遇されている方だぞ。

 

 観客は皆感動したように一体になってアイドルの振り付けに合わせて手を振っている。

 地球にいた頃と比べると、あまりにもお粗末なライブであったが、一度始まればなんだかんだいって静かに聴いていた。

 

『応援、ありがとー! それじゃあねー!』

 

 行かないで、やら、待ってくれ、といった声が出ている中、そのアイドルは静かに両手を振り続けた。

 そして、アイドルステージが、彼女の手持ちの従魔が浮いていく。機種として、アイドルを動かす訳にはいかないので、ああいった機能もセットで付いているのだ。

 

「えぇ……」

「分かった? 従魔は召喚士と相性が良いものが出てくるんだ」

「だからって、これは……」

「それだけ従魔の影響力が広いんだよ」

 

 ゲームの中だけでも地球にまでやってくるからな。

 情報とかが溢れる地球ではむしろ従魔は相性が良すぎるのだが。

 

「……まあ、いいわ。それで? この街は素通りしても良いんじゃない?」

「お? 柊菜とかとは違う意見が出るとは思わなかった」

 

 そう言うと、アヤナは呆れた顔をした。

 

「あのねぇ、私はあの理想家の子とは違って、最低限の人の上に立つ意味を理解しているつもりよ。これでも北条院財閥の令嬢なの」

 

 アヤナは第二部の地球編に登場する財閥の令嬢であるとされている。明確になっていないのは、アヤナが第二部には登場しないからだ。

 ただ、財閥から出るサブクエストを進めれば、北条院財閥には一人娘がいて、政略結婚を控えていたことを知ることができる。

 

 そして、彼女はそれが嫌で失踪したということも。

 

「持つものの責務だなんていうつもりはないわ。そんなの知らないし。私は、北条院の看板を背負う意味と、その重さを理解しているつもりなの。だからこそ、私はそれを捨ててここにいる。私は自由でありたいから。私は、私の人生を歩みたいのだから」

 

 胸に手を当てて、宣言するようにアヤナが言う。

 だからこそ、彼女は精神的に不安定にならずにここにいるのか。

 一人の大人と相対できる人として、彼女はここにいる。

 樹少年や、柊菜とは違う覚悟を持って、この世界を生きていた。

 

「それでいて、どんな形であれ、私は上に立つ存在を否定するつもりはないの。暴力だろうが、なんだろうが、それを一人で築き上げた奴が正しいんだから」

 

 彼女の意思を見て、心の内で舌舐りをしてしまう。

 この輝きこそ、俺の知る勇者であり、プレイアブル化を求めたアヤナの姿だ。

 欲しい、と意識してしまう。

 その心の内を押さえ付けて、俺は努めて無表情を貫いた。

 

「王国の指示や、里香がやろうとしていることに合わせて、悪を裁くのは別に気にしないわ。だって悪は悪だもの。でもね、私はその悪ですら必要ならば見ないふりをしてもいいと思っている」

 

 清すぎる水に魚は住まない。

 

「それを知ってもらった上で、聞きたいの。私は、別にここはこの世界をめちゃくちゃにしている敵がいる様子も無いし、そのまま放置して素通りしてもいいと思っている」

 

 今度は、俺が試される番になっていた。

 

「きっと、この世界を知っているあなたなら別のものが見えていたり、知っていたりするのでしょう? そうじゃなきゃここに立ち寄る理由が無いわ」

 

 アヤナが俺の目を見詰める。バチリと火花が飛んだ気がした。

 それくらい、彼女は強い意思を籠めて俺を見据えている。

 

「教えてちょうだい。ここにはあなたが意識する召喚士(同業者)はいないわ。ここに、何があるの?」

 

 そこまで悟られているとは思わなかった。アヤナは俺がプレイヤーを意識していることを知っているとは。

 適当な言葉を吐くこともできる。だが、この先アヤナとやっていくのならば、俺は彼女に答える必要があるだろう。

 

「……そうだね。全部話そうか」

 

 俺が持つ情報と、計画の全てを。

 召喚士と従魔、そしてイズムパラフィリアを。




なお、ネタバレになるので次話で語られない模様
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