イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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6話 レアリティ格差

 ゴロツキのアジトから原田樹や新田柊菜が逃げ出した頃。一つの廃墟のシャッターの前に、スリープは立っていた。

 

「複数ある廃墟でもここなのか?」

「そうだ。ここにあの花妖精と嫌な剣士がいる」

 

 ウィードが言う分には、この廃墟に二人がいるらしい。イケメン君が連れ去られた時点で少女の方もいるとは思っていたが、二人とも拿捕されていたとは思うまい。

 何をされているにせよ、十五歳以下規制のゲームで済む範囲だといいけどなぁ。

 

 地下へと連れ去られていない事を祈りつつ、廃ビルになっている建物へ近付いた。

 

「急いで! 外まで出れば助けを呼べるはず!」

「お、おう!」

「…………やあ、楽しそうにしてるね」

「スリープさん!」

 

 シャッター脇の錆びた扉から探していた二人が飛び出してきた。開いたドアの向こうから怒鳴り声が近付いてきている。

 どうやら上手く逃げ出したらしい。思った以上に優秀だった。

 てっきり無茶でもして従魔をロストさせていると思ったぜ。

 

「お、落ち着いている場合じゃないですよ! 今原田君が捕まっていたのを救出したばっかりで、追われているんです!」

「さ、三人なら勝てるかもだし、勝てなくても外だから助けを呼ばないと!」

「召喚士ギルドから樹少年が連れて行かれたっていう通報を受けてね。ギルドは静観を決め込んでいるよ」

 

 それを伝えると、二人が裏切られたかのような傷付いた表情をして立ち止まった。

 まあ、法治国家に生きる日本人としてはショックだろう。この街には警察も一応いるが、現行犯逮捕か犯人を直接連れて行きでもしないと逮捕しない。

 そしてあっさり脱走される。

 

 頼れるのは召喚士ギルドだが、相手も同じ召喚士だ。ギルド内部ならともかく、外での乱闘には手を出し辛いだろう。

 ついでに戦力差的にも保護されにくい。

 

「そこで俺が来たわけだよ。哀れなニュービー相手にちゃんとした情報を与える為にね」

 

 地下送りだった場合は見捨てていたけどね。助けに行って自分も死んでいるようじゃ訳ないから。

 

「チッ、仲間を呼びやがったか」

 

 そうこうしている内に、廃ビルからも男がやってきた。背後には半身が炎、半身が氷の小さな人形が付き従っている。

 星三機種『氷炎のマリオネット』である。

 見れば、ステージ解放を一段階進めているらしく、氷側の顔部分が尖っている。無解放ではのっぺりとした感じだったはずだ。

 

 一解放しているなら、まあ相性的にも不利だろう。初期ピクシーはスキル枠が炎魔法と回復魔法だけだったはずだ。エンドロッカスは近接かつ炎にも氷にも耐性が無いので接近スリップダメージが入るはずだし。

 

 そもそもレベル1でよく生還したものだ。

 

「二人とも下がってなよ」

「すみません。回復だけでもします」

「あの従魔は見たとおり近くで戦うと火傷します! あと、室内だと霧が酷くなってました」

 

 柊菜の助言を受けて、相手の所持スキルの一つが判明した。

『ミストフィールド』である。視界制限や奇襲攻撃成功率上昇など、様々な効果がある。

 フィールド系スキルを聞いて、非常に嫌な気分になる。

 ここのサブクエストのボスが使う従魔もまた、フィールド系だ。厄介さはこれの比ではない。

 この調子だと、サブクエスト関連かもしれない。とっとと倒してこの場から離れよう。

 

「ウィード」

「グルルッ!」

 

 ウィードへと声をかけると、素早く前に出てくる。腕を組み相手を見上げながら見下している。

 

「操り人形如き私の相手じゃない。先手を譲ろうじゃないか」

 

 早速『龍種覚醒』のアビリティが発動する。幾ら好感度を上げようともこれは外れないのだ。

 

「ガキみたいな従魔が舐めやがって! 殺せ、マリオネット!」

 

 マリオネットが氷パンチを繰り出す。ウィードはそれを躱しもせずに受け止める。

 腹パンが決まる。くの字に体が折れ曲がるも、ニヤニヤと余裕の表情だ。

 

「ハンッ効きやしないな。所詮は人形か」

 

 どうやら一割もダメージを与えていないらしい。動く気配すらない。

 

「…………次は私の番だ!」

 

 接近スリップダメージで丁度一割削れたらしい。熱い物を離すように軽くマリオネットを突き飛ばす。

 よろけながら離れたマリオネットへウィードが飛びかかる。上空から接近し体重と重力を合わせた拳を放つ。

 地龍ウィードの初期スキル『跳躍撃』である。

 サイズ比ダメージが入る技なので序盤はあまり役に立たない技だ。

 とはいえ上位レアの従魔が持つ技の一つなのでダメージは大きかった。地面を割りながらマリオネットの頭部分を凹ませる。

 続いて真上に飛び上がり、落下に合わせて縦に回転し尻尾の一撃を叩き付けた。

 衝撃に耐えきれず、マリオネットが一瞬膨らんで弾け飛んだ。光の玉が空へと登っていく。

 

「マリオネットォ!!」

 

 男の口からは悲鳴のような声が溢れる。

 幾らステージ解放をしていようとも、星三と星十は格が違う。

 僅か数十秒をもって、戦闘は終了した。

 

 

 

 

「犯罪者の逮捕、通報に感謝する」

 

 警察へと通報し、廃ビル内部にいるゴロツキと、召喚士の男は逮捕された。

 ゴロツキこそこちらを睨みつけていたが、肝心の彼らのボスである召喚士の意志が沈みきっていた。項垂れて背も丸くなり、絶望に染まりきっている。

 これなら脱獄の心配も無さそうだ。

 

 警察署と収容所が合体した施設の中に俺達三人はいた。

 目の前には警察署長を名乗る肩幅があまりにも大きい男が立っていた。これだけ屈強そうに見えても、脱獄させまくりの駄目男である。

 

「この街は地下に裏組織が住み着いていてな。そこまで警察の力が及ばないんだ。だからこそ、こうやって無力化した奴しか捕まえられない事を申し訳なく思う」

「い、いえ。再犯防止するだけでも有難いです!」

「そう言ってくれると、助かる」

 

 見た目に気圧されたのか、体を後ろへ逸らしながら樹少年が両手を断るように振る。

 柊菜少女はやや下を向きながら、不満気な表情だ。

 

「もし、何かまたあった場合は、私ゴレム署長まで連絡を入れてくれ。君達の助けになろう」

「あ、ありがとうございます……」

 

 署長に見送られて、警察署を後にした。

 

「ふいー。助かったぁ。あの人絶対ボスじゃね? 見た目がもう警察よりも裏社会のボスじゃんか」

「……警察署、小さかったね」

「へっ? あ、まあ。某ゾンビゲームとか、現実で偶に見かけるよりは小さかったな。警察署っていうよりは駐在所って感じだったな」

「…………スリープさん、何か知ってます?」

 

 二人の会話を聞いていたら、柊菜少女が俺に視線を向けてきた。

 

「知っているというか、この世界は警察なんか役に立たないよ」

 

 そもそも警察ってなんだ。ファンタジーどこ行ったよ。

 騎士団ともまた別の組織であり、ここにしか存在しない謎の組織だったりする。

 樹少年の感覚の方が正しいと思うぞこれは。

 

「理由とか、分かりますか?」

「個人単位の力の差じゃないかな」

 

 上に立つ人間は下の人間に合わせる気なんてないのは日本でもわかりきっている事だ。それは権力であったが、それが暴力になっても変わりはしないだろう。

 

「そもそも収容出来る施設があるかどうかが問題になるよね。従魔は人型以外にもいるし、それを拘束出来るだけの手段や、そもそも彼らを留められる力を持った存在がいるかどうかって話だよ」

「で、でも、強い人はいっぱいいると思うんですけど」

「そんな人がわざわざ仕事をしてくれるかっていう話にもなるんだよ。地球じゃあ人間が使えて人間より強力な兵器があった。だけどこの世界では兵器よりも強い存在はゴロゴロいる。召喚士は選ばれた人間しかなれない。剣士や魔法使いも才能の道だ。上と下の力の差が大きすぎるんだ」

 

 人間と像が一緒に生活していけるかって感じだ。皆像にビビって道を開けるだろ。それが同族になればさらに悪化するだろう。

 ステータスっていうのはそういうものだ。そいつの強さを示すと同時に、同じ社会では生きられないって事を説明する道具になる。

 ステータスとは、違いを生み出す為に存在するものなのだから。

 

「この世界で生きていくなら、自衛する力が必要だ。それができなければ、組織に所属すればある程度保護はされるはずだよ」

 

 その為に召喚士ギルドへ入ったようなものだ。フリークエストを受けやすいのもあるが、それ以前に組織の庇護を得られるという点が大きい。

 その分縛られるだろうけど、それは属するものの仕事であり義務だ。

 

「召喚士ギルドは規模こそ小さくても、人を圧倒出来るくらいに強い。剣士や魔術師ギルドよりかは下のレベルが高い分群れれば敵は少なくなるよ」

 

 このゲームは召喚士が主人公なので、強いのも召喚士である。地龍ウィードを召喚した時点で素の従魔の強さはこっちが最終的に上になるけど、それでも一応世界最強は召喚士ギルドのギルド長である。なお、プレイヤーやエンドコンテンツは除く。

 

 第一部終了後に挑めるコンテンツで星八を持っている彼らへ挑めるからな。勝利すれば同じキャラが召喚可能になる。ちなみに、当時は星が五だったのだが、更に上の星が出た時に上方修正が入り星八まで上り詰めたのだ。

 

 そう、このゲームは一部リミテッドキャラという従魔がゲームを進めないと召喚出来ない仕様になっている。よって、リセマラで出てくる最高レアは星十であり、最強最高峰たる星十六はエンドコンテンツをクリアしないと入手不可能だった。

 というのは、リミテッドキャラを召喚するにはその存在を知っていないといけないというルール、設定があるのだ。同時にリミテッドキャラは世界に一体しかいない上にプレイヤーが存在そのものを召喚するという設定になっている。

 他従魔は、その存在が別世界に本体があったり、そもそも複数匹存在していたりする。だからこそ他召喚士が使ってきたり、敵として出てくることもある。それが、リミテッドキャラは少し違う条件で登場することになるのだ。

 簡単に言えば、伝説〇ケモンみたいなものだ。ストーリー上で一体しか出てこない。敵が持つこともあるが、条件満たせば仲間にも出来る。

 

 地龍ウィードも複数存在する従魔である。ウィードという名前なのかどうかは不明だが、少なくとも龍の巣等のフィールドで地龍が出現する。

 同時に、彼女の同類である四元龍と呼ばれる従魔。風龍ブリーズや火龍アッシュ、水龍プールも龍の巣等で同種が現れるからリミテッドキャラクターではないのだ。

 

 リミテッドキャラで現在召喚不可なのは、恐らくギルド長が持つ従魔だけだろう。既にゲームキャラクターが所持しているので、設定が生きているのならば、入手不可能だ。

 割と良い性能を持つ星八なので欲しかったといえば欲しかったが、いらないと言えばいらない。リスキーな設定があるからな。

 

 既に日は暮れて辺りは街頭でポツポツと道が照らされている程度だ。田舎以上都会未満程度の明るさである。

 

「とりあえず、宿も同じにして部屋の位置も把握しておこうか。明日の朝どのように過ごすか決めよう」

「うぃっす」

「…………なんで、そんな親切なんですか?」

 

 柊菜がとんでもなく失礼なことを言ってくる。まあ、嫌われているし容赦が無いのも個人的に好きだが、どことなく俺と同じ人間の匂いがするぜ。

 善意よりも悪意を信じて動く人間だ。こういった人は、親切に理由があって、不親切には理由が無いと考えている。俺がその通りである。

 

「一週間は面倒見るって決めたからね。流石に同郷の人間が初日から危険な目に遭っていれば、そりゃあ少しくらい面倒見るさ」

 

 一割位はそれが理由だ。残りは検証と後々のコンテンツの為の投資である。

 ソシャゲなだけあって、複数人じゃないと参加出来ないコンテンツもあるのだ。最低でも死なない程度の知識を付けて貰わなきゃ困る。

 

 特にイケメン君。ピクシー連れた新人がいの一番に問題を起こしやがった。最低限自分の従魔を鍛えて貰わなきゃこの先生きのこれないぜ。

 

「しかし、まだ一日しか経ってないとは思えないくらい濃厚な時間を過ごしたぜぇ。俺もう寝たいや」

「もう……。原田君は明日病院に行って怪我がないか見てもらわなきゃだからね」

 

 学生組は、窮地を二人で乗り切ったからか、距離が大きく近付いているようだ。

 その調子で二人三脚で頑張って貰いたいところだ。いつまでも面倒を見る気はないのでね。初心者同士切磋琢磨し合って強くなって欲しい。

 

 夕闇の向こう。街頭の光にも負けず強く光る星が、今後の行く先を示すように瞬いていた。先はまだまだ遠い。光に照らされた二人の後ろを歩く。二人は向き合いながら前を行く。俺は、先を見据えて歩いていった。

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