イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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遅れました。特に何かをしていたというわけではありません。強いていうなら、最近眠れないのでふらふらしていました。

短めです。


77話 決着

 以前にも語ったことはあるが、ゲームっていうのは、始める前が一番面白いと思う。

 ワクワクするムービー。何時間も悩むキャラクターメイク。最初の手探りで進むあの感覚。

 

 慣れれば薄れてしまうが、世界へと引き込む瞬間こそが最も心躍るときであろう。

 

 では、次に面白い事は何か?

 

 それは、自分の力でやり込んだデータでストレスなく無双することだ。

 

「やあ」

 

 特に何かしたわけじゃないが、俺がライブ会場へと近付くにつれて、徐々に人が避けるように空間ができていた。

 通らせて貰えば、そこは見事レイデンのボスであるネイリィがいる。ここまでの移動で撃ち漏らしは無かったのだが、それでも俺を狙って攻撃しようとしてくるやつはいないようだ。

 

「アア、マッテイマシタヨ」

「そのわりには随分楽しそうにしてたけど?」

「エンターテイナーデスカラ」

 

 随分と外見が変わっているようだ。ゲームで見たときは、確かに二十代にしては厳しいものがあるといった立ち絵だったのが、大きく崩れている。

 ぶっちゃけホラーゲームの敵キャラみたいだ。

 そんな化け物みたくなったネイリィがマイクを手に取る。

 

 通して聞こえる声は、澄んで綺麗だった。

 

『この世界は間違っています。悪が蔓延り、自己保身に走り聖女を売った人間達が、のうのうと暮らしているのです』

 

 サブクエストを進めないと、出てこない情報だ。

 イズムパラフィリアの第一部は、夢から始まる。終末の洞窟の遥か奥。聖女が眠る水晶の場所から、ゲームが始まるのだ。

 そこから、聖女の記録とこの世界の裏側を知っていくサブクエストと、聖女の後の物語であるメインクエストの二つのシナリオがあるのだ。

 

 主人公が行く場所は、最初の街ヴエルノーズ。本来は、極まった世界での安楽死たる手段である終末の洞窟にある水晶を掘り出して売っていた街。

 今は、聖女や奥地に辿り着いた眠る人々を起こし、ゴーレムの核として利用している場所だ。

 聖女はあの地から誕生している。星の中心地点であり、最も地脈の力が集う心臓部なのだから。

 

 次に行くのは、聖女が魔術を教えた場所。魔法都市。あの地は、貴族と関わりを持った人間が集まる場所だった。希望の地でもあり、追放の場所でもある。

 あそこは複数の地脈が集う異質な土地だった。災厄等の外から怪物がやってくるような次元が不安定で危険な場所だった。

 当時は星の原住民たる貴族と、人間が争っているような時代だ。少なくとも仲は悪く、東の貴族、西の人間とでもいう状況だった。

 そんな中で、貴族と人が、手を取り合って生きようとした結果、追放された。隠れ里みたいなものだ。

 

 そんな場所で生きる人達が、次代を担うようにと、聖女は星の地脈を使い、安定させるように使命を与えた。そもそも、ここが災厄の現れた場所だったのだから。対応するのは必要なことだった。

 

 王国は元は最前線の拠点であり要塞だった。災厄が発生する以前から、不安定な場所を監視する為に作られた拠点だ。

 これは聖女よりも前から存在していた。ここに加わって、聖女は戦ったのだ。

 

 滅びの地は、貴族の街だ。聖女が仲良くなったのは貴族の方だ。人間はそもそも、新しい場所を目指してこの世界に来たのだし、彼等のせいで災厄が現れる魔法都市が誕生したのだ。

 

 ネイリィは、この世界で生まれた子供だ。三十代では、聖女と災厄の戦いも末期だっただろう。

 西の人間は、聖女を売った。彼らがやったことといえば、それだけだ。

 

 そして、災厄は聖女を倒し、人に手を貸したが、最終的には、人を裏切った。

 貴族は滅びの地まで押し込まれ、災厄の発生した土地を見張る場所であった要塞は、人の集う王国として、貴族を監視する目になった。

 

『これこそが、人の歴史です! 彼らは間違えた! 災厄を呼び、聖女を捨てて、貴族を滅した! そして災厄は人へと牙を剥き、召喚などという手を使ったのです』

 

 その結果、勇者が世界をめちゃくちゃにーって感じか。まあほとんど当たりである。

 

 ネイリィは、内面はほとんど子供である。災厄が牙を剥いたときに西の拠点が破壊され、捨てられた人類なのだから。アイドルに憧れて、大した教養も無いままに、ここに来て、従魔の手を借りて生きてきた。

 だからこそ、彼女は西の味方のような立ち位置でありながら、直接的な原因となった聖女を捨てた人間側を嫌っているのだ。

 

 本編でネイリィの事の多くは語られないものの、推察できる事はある。例えば、ゲームでボスと戦うステージのタイトルは『子供の戦い』である。

 

 アイドルの文字は一切出てこない。

 

 イズムパラフィリアの主人公は、姿もゲームで確認することはできない。特に言葉を発することもないのだ。

 それでいて、色んな考えや主張をする人物、従魔と関わりを持っていくことになる。

 それらの従魔もまた、主人公を嫌うことはない。多くは、自分達なりの手段によって、召喚士を守っていくようになる。

 

 第一部のチュートリアルが終わると、本編が始まる。目覚める場所は、終末の洞窟の入口。そこから、新しく従魔を引き連れて、ヴエルノーズへと向かう。

 街に入ると、チェリーミートのイベントが始まる。

 俺達の場合は、少し遅れてイベントが始まった。まるで、正規のタイミングとはズレているかのように。

 

 肩に乗ったトラスを持ち上げ、腕に抱きかかえる。キョトンとした目で、彼女はこちらを見上げた。

 

「『子供の戦い』ね……」

 

 主人公の運命力を信じるつもりはない。だが、きっとどこかに、ゲームでの主人公を務める人物はいたのだろう。

 それが誰かなんて、知りもしないけど。

 

「それで? 災厄は消えた。貴族は滅びた。召喚のせいで星がめちゃくちゃになっているのは確かだけど。その上で人を罰するの?」

『ええ、かつての諸悪の根源を断ち切るべきです。そして、革命者の手には新たな世界へ移動する方法があります。方舟に新たな人を集めて、一度リセットするべきです』

「歴史繰り返してるじゃん」

『…………いいえ。災厄から逃げるわけではありません。また、染まってしまった者を連れ出せば悲劇を繰り返します。それを避ける為に、人類を選別します。もちろん、私はこうして人を辞めたのですから、この世界で朽ち果てましょう。それまでに、私の手で選別を進めるまでです!』

 

 どうにも思考が人外側に寄っている気がする。しばらくすれば今度は自分達のような人間が異世界へと行くべきだと主張しそうだ。

 

『聞きなさい! 世界の悲鳴を! 私達の産声を! 今この時こそが革命の日となる! ファーストライブです!』

「ハンッ。古い時代を見てきた人間が。口先だけの奴っていうのは老害っていうんだよ。新しい時代は新しい奴の手で切り開くものだろう?」

 

 ネイリィが息を吸い、歌い始める。俺はリリィに抱えられて距離を取る。

 歌声は空間を走るように広がり、空間を、空気を作り変えた。

 

 歌姫系の従魔はアビリティに初動クールタイムがついている。発動すればその場から動けなくなり、永続的にフィールド全体にアビリティ効果を与える。

 

 バンシーならば、耐性やステータスの減少であった。サブボーカルとして、ネイリィの歌に合わせて歌っている。発動しているのはそっちだ。

 

 歌っている間は動けないのだが、足元にいるアイドルステージは動けるので、距離を取っても付いてくる。

 

「さて、戦闘の時間だ。ノーソ! 前に出ろ。クレストは距離を取りながら削っていけ!」

 

 今回の敵との相性が良いので、ノーソを前に出す。クレストが敵への削り役だ。

 これだけならば、相手との耐久戦になるのだが、生憎、俺はエース戦法が使える。

 

「『コール』ウィード!」

「ぐるる────!!!」

 

 僅かに喉を鳴らし、大地を揺らすほどの咆哮が飛び出す。幼女から成長途中の少女となった彼女の人間態が、シェイプシフトで龍へとなる。かつては少し大きい程度の龍であったが、一段階凸を進めたので、身体も大きくなっている。

 身を寝かせた姿だけでも俺三人分くらいは優に超えていた。

 

 ネイリィの顔が驚愕に歪み、焦り出した。

 

 龍種は低レアであろうが、単純なステータスだけで言えばほぼ全てがバランスブレイカーだ。動き出せばレアリティの二つ三つの差は覆せるほどに。

 

 その分デメリットのアビリティがあるわけだが、それを補ってでも龍種はエース級の地位にいることが多い。

 

 龍種を持たず、使えないネイリィは、その驚異を知っているのだろう。行動からも焦りが伺える。

 耐久戦だと思っていたのが、制限時間以内で勝てなければ、蹴散らされる戦いへと移行したのだから。

 

 龍種を使う問題は、初動の悪さである。

 しかも、それはただ一定時間待てば良いというものではない。基本的に、龍種覚醒はその従魔のステータスを参照して待機時間が決まるのだから。

 つまり、育てば育つほど、序盤の待機時間が伸びるのだ。

 

 今回は、ネイリィの歌姫効果の発動確認をしてから召喚しているので、その減少分は早く行動できる。

 

 まあ、数値として最も大きいのはHPなので、今回短くなった時間は数秒程度でしかないけど。

 

「コンセプトデッキっていうのはロマンギミックみたいなもんだよなぁ? 決まれば強いが、万能じゃない」

 

 止まれば巻き返しにくいのがコンセプトデッキの弱みだ。対策を組まれると圧倒的に不利となる。

 そうしない為にコンセプトを維持しつつ従魔デッキを組んでいくべきなのだが、そこは所詮元NPCだ。

 コンセプトのくせにデッキパワーが負けている時点でこいつに勝ち目はない。

 

 なんだかんだで俺の手持ちはバランスが良いのだから。

 タンクのステータスだが、基礎が違うので全体的に強い前衛物理エースのウィード。HP減衰を主体とした地味に打たれ強いデバフのノーソ。最大の弱点である魔法封じ対策がある程度できている魔法アタッカーのシルク。基礎ステがいまいちだが、バフ回しがしやすく、自己強化維持ができるリリィ。育てばだが、高機動高火力の物理遠距離アタッカーのラインクレスト。強制使い切りコンティニューの罪罰。

 

 かなり偏りがあるものの、攻撃役とバフデバフ、ヒーラーに兼用タンクがいる。

 悪いけどバランスは取れているのだ。

 

「残念だったね。君に足りないものが何だったのか。それを反省しながらハッピー工場で働いてくるといいよ」

 

 この世界の生物で最も不思議なステータスというのが幸運である。おまじないを利用した幸運の循環と付与をし続けるハッピー工場は、運良く誰も脱獄されたことはないし、運悪く従魔に襲われることもない。

 あそこならば、ネイリィも当分の間はハッピー工場で働き続けることになるだろう。もしかしたら、運良く従魔化も解除されるだろう。

 それでも召喚士には戻れないだろうが。まあ、元から大した実力はないのだ。それは彼女の従魔からも予想が付くことだ。

 

 現状に不満があっても、それを動かそうとする意志がない。揺るぎない信念が存在しない。それでは従魔は喚び出せない。

 

 総合力で差が付いているのだ。結局、耐久型で削ろうとする相手の戦法は、じわじわとなぶり殺しにされることになったのだった。

 

 




本作の主人公。ようやくボス級の敵に勝つ。
思い返すと勝率悪過ぎですね。

ダクファン時代の小ネタ
この世界の人間はほとんどゴブリンみたいなものであった。そして、災厄と共に現れた魔王の子分そのものであったりする。
今現在は、移民であり彼らのせいで災厄がこの世界にやってくるようになってしまった。

なぜなにイズムパラフィリア(小)
ここまでで語られているストーリーは聖女と災厄と人間と貴族の物語である。
従魔はどこにいった? 召喚は何を喚び出したのか?
今、人類を追い詰めているのは人間なのか?
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