イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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遅れました。推敲不足ですので、後々読み返して修正します。
ハッピー工場に関する話が出ていますが、現在収容者が少ないので、向かうのはしばらく後になります。
BLタグ詐偽になっておりますが、今しばらくお待ち下さい。


閑話 なぜなに従魔講座3〜ハッピー工場篇〜

「犯罪者の逮捕、通報に感謝する」

 

 警察署長を名乗る、肩幅があまりにも大きい男が、呆然自失のネイリィを紐で繋いで立っていた。屈強そうに見えても、脱獄させまくりの駄目男の彼は、ヴエルノーズで警察署長を勤めていたゴレムである。

 

「…………」

「意外かね? 私はヴエルノーズの支部にある署長なだけで、所属自体はハッピー工場だよ」

 

 ゲームで倒したボスがどのようにしてハッピー工場送りになったのかは描写されていない。だから別に彼が警察として工場送りにしているのは分からなくもない。

 とはいえ、警察署の収容施設では脱走されまくりな事を考えると信用はできないが。

 

 いや、そもそも警察ってなんだ。この世界変に日本語使うし警察とかいるけどマジで何の説明もされないからな。ストーリーはともかくそれ以外の設定ふわふわ過ぎるだろ。

 

 イズムパラフィリアの設定や考察を思い返している間に、ゴレム署長はネイリィを連れていなくなってしまっていた。

 

「……ねえ」

「ん? なに」

 

 アヤナがくいくいと袖を引っ張ってきた。視線を向けると、アヤナは色々分かっていなさそうなまま頷いている人間特有の表情をしていた。

 右から左へ聞き流しているアホ面ってことだ。

 

「ハッピー工場って、なんなの?」

「そうだね。思い返せば色々あやふやなまま進んでいるし、一度俺も頭の整理を付けておこうかな」

 

 つまり、なぜなに従魔講座の時間である。

 

・・・・・

 

 廃材がゴミのように積まれたレイデンの中でも外側の区域。放棄されたブルーシートのようなモノを敷いて、少女達が体育座りをしていた。罪罰とトラス、そしてアヤナが今回の参加者である。

 彼女達の視線が向かう先は、ボロい板の前に立つノーソ、そしてその後ろに立つラインクレストだ。ノーソは髪型をツインテールにして、半眼のフリをした嘲りの目をしている。

 

「「3、2、1…………どっかーん」」

 

 これ以上寄せていいのかわからない。

 

「皆様、集まってください。なぜなに従魔講座の時間です」

 

 淡々とした口調でクレストが言った。ノーソも後手を組んで目線を横にずらして喋りだす。

 

「今日ははっぴー工場について教えてあげちゃいます」

 

 どっちもキャラクター的にはお姉さんの方だ。パッション系がいない。

 

「そもそも、本体との交信ができていないからわからないのですが、この世界はどうなっているのですか? メモリーにあるのは祖国に関する地形情報のみで、今どこにいるのかすらも把握しておりません」

「箱入り娘だった私も外の世界なんて基本知りませんよ」

 

 所有知識量はうさぎさんである。

 

「説明しよう!」

 

 スリープが早速割って入ってきた。

 

「まず、この世界の大雑把な形だけど、竜のような形をしているとされているんだ。ゲームではファーストスタートとか、偶にファーストステップとかで表記揺れが発生している程度に曖昧な世界の名称もあるけれど、ぶっちゃけ誰も使わないんだよね」

「終末の洞窟辺りが心臓部になり、腹というか中央部が、ヴエルノーズ。首の付け根辺りに魔法都市。頭と首を分ける部分に王国。頭、というより鼻先に貴族の街があるのですね」

「人間の徒歩で移動できる程度には狭い形してますよね。キリタツ崖を東西に伸ばした部分が、龍の背骨だか地龍の背だかってこれまた使わない名前があったはずです」

 

 かなりふわふわな知識を互いに出していく。それを見て、アヤナは正しい情報を後ほど別の街でも確認してみることに決めた。

 

「ヴエルノーズを中心。もしくは南として、東側が海と魔術。西側は陸、というか獣と錬金術とか化学とか剣術のある場所になるね。山脈の向こう側である北には人類は住んでいないよ。というのも、気候的な話もあるけど、元より人間に向いていない土地扱いだね」

「従魔としては、山脈の北側の方が多く地脈が通っていることが分かっています。同時に、星とは別に滞留したエネルギーもあるようですが」

「わかりやすく表現するなら瘴気溢れるって感じですね! あるじ様は私がいますから問題ないですよ!」

 

 薄い胸を張るノーソを見て、アヤナはやはり何かがあることを察した。

 以前から不可思議なところはあった。

 体幹が良いというか、地面から受ける影響を無視したような動きをすることがあるのだ。最初に気付いたのは里香*1であり、彼女から相談を受けて観察したところでそうなのではないか? という感じの違和感を覚えたわけだ。

 アヤナの感覚は日に日に人間から離れている。能力が覚醒したのか、それとも世界による何かが働いたのか。原因は不明だが、その通常の人間を超えた感覚からすれば、スリープはただの人間。むしろ才能やら何やらは色々足りていない方の人間であると示している。

 

 暴力主義を掲げるにしては薄い筋肉は、元々肉が付きにくい身体を鍛え上げた末にたどり着いたものに見えて、それ以上が無いとアヤナの目に訴えている。

 身のこなしには幾らかの訓練と慣れがあるが、それでも補いきれない脳との繋がりの悪さ。

 

 とうてい荒事に向いた身体をしていないのだ。それこそ、遺伝子レベルで。女であればドジっ子と言われていたかもしれないような存在なのだ。

 

 そんな男が、まだ人としての才覚がある他の育ち盛りの子供達よりも動けているのがおかしいというものだ。

 

 そこに、アヤナは従魔がなにか関係しているのだろうとあたりをつけていた。予想としては、ウィードが関係している。しかし、ノーソの発言から、もしかしたらウィード以外の従魔も関係している可能性が出てきた。

 

「この大陸の外にも陸地があったりするんだけど、そこに関しては、第一部終了後に、ギルドイベントとして開放されるんだよね」

「人が生息できる場所ではなく、高難易度コンテンツとしてダンジョン等が幾つか開放されます」

「低レア従魔ががちゃらいんなっぷに並ぶということで、ハズレとか詐偽だって言われたこともありますよ」

 

 ラインクレストとノーソが、スリープの発言に補足するように情報を出した事で、アヤナは首を傾げた。

 

「二人とも、知らないんじゃなかったの?」

「……マスターでないあなたに質問権限。及び情報開示義務はありません」

「女は謎があってこそですよ」

 

 機械的対応とふざけた誤魔化しで流される。他に誰か話せないのかと見渡しても、罪罰はこちらを認識しないし、ウィードは我関せずと丸まって寝ている。シルクには口がなく、リリィはわざわざ目を合わせて嘲り笑ってくる。

 

「……?」

「あんただけが私の癒やしよ」

 

 こちらを見てきょとんとした顔のトラスの頭を撫でる。特に遠ざけたりもせずになすがままのトラス。

 両者の関係は悪くないようだ。

 

「見ての通り、従魔は召喚士以外とのコミュニケーションは成立しない。ピクシー、ノーソ、チェリーミートみたいな友好タイプでようやく召喚士以外でも会話が可能になるんだ。無関心ならまだいい方で、敵対的だと、逆に騙してきたりするから気を付けてね。従魔に好まれる。好意的に接触されるなら召喚士になれるよ」

「よーく理解できたわ」

「好感度というか、従魔によっては好意的だと従魔使いみたいな、人間やめさせにくるやつもいるから気を付けてね」

「……人間よりも優れているから?」

「召喚士としてはマイナスだけど、大体の面で人を上回るからね。保護とか善意でやってくる分面倒くさいんだ」

 

 死種か機種、天種だと特に引き摺り込まれやすい。とノーソを示すスリープ。確かに死種は上手いこと同族にすれば死を乗り越えられるのかもしれない。とアヤナは思った。

 

「低レアのゾンビ娘を召喚して好感度を上げた結果嫁にして自分もゾンビになった男が作中でも登場するよ。後好感度イベントでこっちの事を同族にしようとする従魔は数多くいる。不死になった死種だとよくあるシチュエーションだしね」

「あー、吸血鬼とか?」

「そんな感じ」

 

 ふと、人を作り変える従魔はスリープばかりだろうか。とアヤナは気になった。一応、ギルドマスターは全員が従魔使いになっている打ち止め勢らしい。つまり、思ったよりも人を作り変えることができる従魔は数多くいるということなのだ。

 里香や樹、柊菜の手持ちではどうなのだろうか。

 

「樹少年は天種のサキュバスとかでも召喚しなければ多分大丈夫。そもそも、俺達といた頃は作り変えられる従魔がいなかったからね。里香は正直手持ちを全て把握している訳じゃないからなんとも。緑色のテリリと鋼鉄のゴーレムだけなら問題無しかな」

 

 そこで一度区切ったスリープは、少しだけ思い返すように空を仰ぎ見た後、首を横に振った。

 

「柊菜は多分手遅れだ。そもそも俺の話を聞きはしないだろうし、あいつの手持ちは最初がエンドロッカス。既に十分な好感度を稼いでいるだろうさ。それこそ、イベントの時点でエンドロッカスは動いているよ」

 

 まだ人間を辞めてはいないだろうけど、きっかけと時間があれば彼女は人間を辞めるだろう。とスリープは言い切った。

 

 それが良いことなのか悪い事なのか、アヤナにはまだ結論を下すことはできない。しかし、少しだけ気を付けておくことに決めた。

 

「さて、話を戻そうか。第一部は、聖女が広めた魔法と、人間と、従魔と貴族がいる。メインクエストだけならば、人間と貴族が従魔という力で争いを起こす物語だよ。基本的にプレイヤーは人間側に立って、エンドロッカスが作った従魔になる薬やエンドロッカスが人間を殺すのを阻止するストーリーだ。サブクエストで、貴族というか現地住民と移民たる人間の争いを知ることができるよ。まあ、それ以外にも色々魔法とかを使ったネタみたいなモノもある。世界観についてのお話とだけ考えておけばいいさ」

 

 そこで、スリープはアヤナの目を見つめた。

 

「えっと……なんだっけ?『あなたに幸運を』」

「──うぐっ!?」

 

 かなり雑で弱々しいが、魔法、いやおまじないを使われた。アヤナは自分を害する魔法ではないからか、あっさりとそれを受け入れて、なぜか少しだけスリープにときめいた。

 

「このように、聖女が広めたとされる魔法には色々ある。基本的には争いの魔法よりも、世界を幸せにするような平和なモノが多いはずだ。幸せの魔法もその一つ。フレーバーテキストだけど、相手に自身の幸運を分け与える効果があるよ。副次効果として、少しだけ好感度が上がる。そして、発動者以外の周囲も若干幸運になる。これは人以外にも使えるんだ」

「へ、へえー? それで?」

「その前に俺の幸運を返してよ」

「…………凄く嫌だけど『あなたに幸運を』」

 

 発動後、少しの間だけ二人は見つめ合った。互いにどこか視線が熱っぽくなる。

 ハッとして、アヤナは顔を背けた。スリープを、ノーソに頬を引っ張られる。

 

「これ、結構危険な魔法じゃない?」

「その通り。互いに使えば好感度が上がる。しかも、明らかにロスが発生している癖に、互いが使うと、総量が増えるんだ」

「……これ、もし幸運を使い切ったら?」

「『運の悪い事に』死ぬよ。少なくとも、この世界の住人はね。従魔はちょっと別枠だ。だけど、従魔使いも召喚士も災厄も聖女も、従魔じゃなければこの魔法で殺せるんだ」

 

 つまり、実質死刑みたいなものであるということか。

 

「でも、それなら使わなければいいんじゃない?」

「だからこそ、犯罪者というか、強者の多くは一度無力化されないと捕まえられないんだよね。ところで、幸運薬って知ってる? ハッピー工場に集めた犯罪者が作る生産物で、バフアイテムなんだ」

「一応。静脈注射でしかもハッピーになれるとか言うからヤバい薬だと思ってたわ……ああ、だからハッピー工場なのね」

「脱獄しようにも、工場は幸運の魔法により周囲が幸運で、運良く破壊されない。囚人同士助け合わないと不幸で死ぬ。罪を洗い流すには幸運を薬に籠める必要がある。そして、互いに愛し合うことになった囚人は工場から離れない。少なくとも好きな人の刑期が終わるまでは」

 

 ちなみに、風紀の都合上男女はキチンと分かれて工場で働かされる。

 時代に配慮した濃厚な平等愛の世界である。囚人は魔法でハッピー。幸運薬で市民もハッピー。工場も売り上げと稼働率向上でハッピー。素晴らしい仕組みが作られた工場。それがハッピー工場なのだ。

 

「意外としっかりした収容施設があるのね」

「…………まあ、実態はともかく能力差をどうにかする処刑場でもあるからね」

 

 全年齢向けゲームなので、描写はされないが皆愛し合って幸せになるのだ。

 

 なお、そんなハッピー工場の工場長は、死神ちゃんという愛称で親しまれる従魔であったりする。正式名称は別にあるし、ハッピー工場では仲間にできないが。

*1
52話参照




どこからどこまでを説明してどこからどこまでが温めていたり書き換えた設定なのかかなりあやふやになっております。もし、どこかおかしい箇所がこれまでにあったのなら指摘していただけると幸いです。
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