イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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イベントマラソンしていたので遅れました。
お陰で素材は3桁程度は溜まったので、次のイベントまでは保つと思います。
ちょうどアニメもやっているので、新規参入にはおすすめですよ。

イズムパラフィリアの今話はなんか凄い低クオリティです。


79話 マッチポンプ

 スリープが街へ入ってくる数時間前。

 

 柊菜と里香、そしてミルミルは、ドームの中を走っていた。

 彼女らを追跡するのは複数の影。そのどれもが茨や蔦等の植物で作られた怪物である。

 既にあらゆる場所に植物の侵食が進んでいるため、どこへ逃げても同じような敵に出くわす状態だった。最初は二人も戦っていたのだが、一向に減る様子を見せない敵を前に、逃亡を選択したのだった。

 

「あーもう! 多すぎるでしょ!」

「樹も従魔も中に入れないみたいだし……私も魔法の使い過ぎでフラフラしてきたかも」

「いざという時は私の従魔の空間に逃げ込めばいけるから、ギリギリまで頑張ろう?」

 

 ミルミルが表に立ち戦ってきた分、それぞれの余力は違う。

 

「っていうか、ミルミルはなんで火の魔法を使わないのよ!?」

「生木って燃えにくいでしょうし、この粉も引火したらまずい気がするんだけど」

「だからそんなに消耗するのよ! 風の魔法使って空間確保してからやるとか機転見せなさいよ……くしゅっ」

「け、喧嘩はやめようよ……。里香ちゃん、さっきからくしゃみ多いけど風邪でも引いちゃった?」

 

 柊菜の質問に、より大きな声で威嚇するように言い返す里香。

 

「花粉症よ! これだから花粉症になったことない人は……」

 

 まともに呼吸もできないだけあって、苛立ちは最高潮だ。

 

「これが噂に聞く花粉症なんだね……」

「家が裕福じゃないから治せなかったのよ。歴史では、国の事業で杉を増やしたんだから公害認定して治療に補助金出しなさいよね……ったく」

「ちょっと前見なさい! 行き止まりよ!」

 

 ミルミルの声で、柊菜達は立ち止まった。道路こそ続いているが、その上に大きな蔦が横たわっている。

 万事休すかと、敵を迎撃すべく振り返るミルミル。

 

「柊菜と里香は逃げ道かなんか探しなさい!」

「大き過ぎる蔦は手をかける場所がないわね」

「横道からも敵が来てるよ!」

 

 ここに来て、柊菜は緑種従魔の優秀さを実感していた。

 緑種はかなり特殊な従魔であり、植物や昆虫。果てには空間そのものが対象となっている。

 基本的に生物としての個体の強さは見られないのだが、従魔特有の他の法則を押し退けるような能力をうまく扱っているのがこれら緑種であるのだ。

 

 空間そのものを支配し、現実を書き変える。緑種の真骨頂はそこにあるのだ。

 

「『コール』! 聖域結界!」

 

 柊菜を中心に睡蓮の花が咲き誇る。まるで景色を上書きして塗り潰すように黒い沼と光源無き、しかし不自然に可視化される世界が広がっていく。

 

 受けた傷も疲労も徐々に回復する。しかし、柊菜が召喚した目的はまた別にある。

 

「道は開いたよ……来て!」

 

 そのまま、柊菜の先導に従ってミルミルと里香が走る。この空間が展開された時、敵は外側にいたらしく姿は見えなくなっていた。

 

「『リコール』」

 

 柊菜が【聖域結界の睡蓮】をリコールすると、また街の中に景色が戻っていた。

 立っていた場所が変わっており、道を塞いでいた巨大な蔦は、敵を阻む壁になっていた。

 

「……さっ、行こっか」

「……ヒイナも便利な使い方するものね」

 

 里香が少しだけ、目を見開いて呟いた。今までの柊菜では想像もできないような方法だと思ったからだ。

 その反応に、照れ臭そうに柊菜が笑って返した。

 

「えっとね、与えられた力であっても、使い方を知らないんじゃ問題だなっていうのと。……人に聞いてばかりだと、型に嵌まった使い方だけになっちゃうんだなって思ったから」

「……それもそうね。別に、先駆者が絶対の正解って訳じゃないものね」

「そうだよね。私、今まではこの世界がゲームだって聞いていて、どこか世界そのものが偽物のように思ってたんだ。凄く極端な事を言えば、死んじゃったらもしかして現実に戻れるんじゃないかって。心の何処かで考えてたくらい」

 

 柊菜が今までそう考えていたのには理由がある。彼女だけが、この世界で暴力を受けたことがないからだ。

 痛みを知らずにきた。というよりは、死を身近に体験して来なかった。というのが正しい。樹少年は最初の街で攫われた経験があるし、スリープも撃ち抜かれたことがある。里香とアヤナは、言ったことは無いが数度死に至る経験をしている。毒を飲んで死んだり、従魔に襲われて死んだことが大半であるが。

 

「もう少し、自分で考えようって思ったんだ。大丈夫、今は従魔が味方になってくれるんだから」

 

 言い聞かせるように呟く柊菜を、里香は見つめた。

 

「…………さ、細かいこと考えるのは後にしましょ」

「あ、うん。ごめんね。こんな時に」

 

 色々な言葉が喉まで登ってきていたが、それを全て飲み込んで、里香は息を深く吸った。花粉が鼻腔に入り、むずむずとした痒みを訴えてくる。

 それら全てをないまぜにして、息を吐き出した。無性に、煙草を吸ってみたいと思っていた。言葉と感情を全て煙にして、吐き出せばどれほど楽になっただろうと考えた。

 里香は一度も煙草を吸ったことは無いが、一番今の気持ちを誤魔化すことに適しているだろうと感じている。

 

『……結局、縋り付く相手が妄想から従魔に変わっただけじゃないの?』

 

 なんて。

 

「言ったって意味無いでしょうね」

「……どうかしたの?」

「なんでもないわよ。私の悪い癖が出ただけ」

 

 元来人はその文字の通り何か支えが無いと生きていけない存在だ。

 それが人であれ従魔であれなんであれ、別にそこから何か生まれるのであれば問題ないはずである。

 

 それでも里香が何か言いたくなるのであれば、それは価値観の違いでしかないだろう。

 極まった情報社会においては、人間のスペックが追い付いていない状況の方が多い。

 行き過ぎた競争社会では、ただの一度の失敗も遅れも許されるものではなくなってくる。

 

 柊菜に余裕が無く、また非現実的な妄想へと逃げ込んでいたのにはそれらが関わってくるのであろう。

 里香は元からドロップアウト組に所属する方である。性格が災いした問題児であるし、そもそも里香の夢は他でもない生きる環境によって破壊されている方だ。

 

 しかし、今まで順風満帆に生きてきていた人だとしたら、どうだろうか? ある日、それまでのもの全てを放り捨てて、こちらへ強制的に連れて来られていたら?

 

 きっと一年もあれば、誰もが諦めはつくだろう。しかし、二、三日であれば、既存の生活を崩さぬようにと大いに焦ることだろう。

 

 柊菜はきっと、その焦る側の人間であったのだ。そして、強制的にドロップアウトさせられる事実に耐えきれなかったか。

 

 ある程度諦めたことで、柊菜はようやく状況を理解し、考えるようになってきたのだろう。

 しかし、それでも独り立ちするという考えでは無いのだと、里香は、感じ取っただけのことだ。

 

 それがどうしようもないことだと自らに言い聞かせて、里香は柊菜達の後を追い掛けた。

 

 そこに、一人の男が声をかけてきた。

 

「おい、こっちだ! 召喚士!」

 

 右手にカンテラを持ち、左手には大きく反った片刃の剣。いわゆるシャムシールというものを抜き身で持っていた。

 彼は、顔の前にカンテラを掲げ、柊菜達へ呼び掛けている。周囲はそんなに暗くもないのだが、よく見ると、彼の周囲には花粉が飛んでいないことから、何かの結界のようなものの気がする。

 

 柊菜と里香とミルミルは、顔を見合わせ、頷くと彼の元へと歩み寄っていった。

 

・・・・・

 

 従魔は基本的に他文明と共に生きることはできない。それ故に召喚士は必然、自らの帰属を社会から従魔へと変えていくことになる。

 

 というのも、従魔というのは実質外来種であるからだ。生存競争の原理により、従魔からにせよ相手からにせよ、どこかで競合点が生じて喰い争うことになる。

 

 まあ、それが自分の寿命までに起きるかどうかという点もあるので、そこまで気にすることでもないのだが、兎にも角にも、万物は流転するし、全てはいずれ崩壊する。

 そういう時こそ従魔は動き出す。表舞台に出てくるのである。

 

 そういう意味では、この世界はわりと終わりを迎えているということになる。

 

「どこにこんな物量があったんだってくらい来たね」

「……少しくらい、手伝ってくれても……良かったんじゃないですか!?」

 

 息も絶え絶えにエンドソーマが言う。彼女の周囲には多くの死骸が積み上げられている。そのほとんどが植物のため、草狩りでもした後のようになっている。

 

 これらは消えないということは、従魔ではないということか。

 草の影から、ひょこりと小さな頭が覗いてくる。目が合うと、一瞬逸らして、虚空をさまよった後にまた合う。

 そして照れ臭そうに、えへへ。とはにかんだ。

 

「デンドロ、役に立った?」

「うん。ありがとうね」

 

 感謝の言葉を伝えると、一層嬉しそうにする少女。

 彼女こそが本来ここで手に入るはずのイベント従魔【花開くデンドロ】である。

 

 見た目は下半身まではっきり作られたエロゲタイプの女の子モンスターである。人外度を上げるとローズバトラー*1とかモルボル*2みたいな感じになる。

 

 彼女は、エンドソーマが泥沼の戦いを繰り広げている最中に現れて、助太刀すると戦いに参加。そしてあっさり敵を枯らしてしまったのである。

 

 まあ、ぶっちゃけ敵は彼女が作り出した存在なので眷属にも等しい。号令一つで消せるようなものだ。

 

 頭を撫でてやると、俺の頭にしがみついていたトラスも手を伸ばして、デンドロに触れた。

 

「あったかい……」

「…………」

 

 俺の手よりもトラスの手に反応する辺り、相性としてはトラスの方がいいのだろう。

 エンドソーマは出自からしてデンドロの下位互換なので、できればそっちが欲しいのだが、トラスの手持ちになるのならそれでいいだろう。

 リミテッド従魔だから欲しいといえば欲しいのだが。

 

 そして、肝心の手持ち従魔であるエンドソーマはというと、凄く複雑そうな目でデンドロを見つめていた。

 そして、無言で俺に訴えかけてくる。

 

「(この子、今町で起きている事件の犯人ですよね? そしてマッチポンプですよね?)」

 

 そうだよ。

 

 どうしてここまで被害が大きくなっているのかはさておき、今現在起きている問題の原因はデンドロにある。

 彼女の作る実はかなり強力な植物なので、生き物が取り込むとあっという間に根を張り宿主を苗床に芽吹くのだ。

 ちなみに、彼女は元は従魔ではないので、その性質を利用して、人間の肉体を生きたまま強化する方向に持っていく研究をされている。

 研究者はエンドロッカスであり、彼が研究の為に植林活動の品物として売られていたアルラウネの身を買い占め、この地に影響を齎したことで、色々問題が発生するのだ。

 

 アルラウネ……デンドロは街に住み着いた外来種とか野生動物の一種とした扱いである。見目麗しくも繁殖力が圧倒的過ぎて、駆除されるモンスターである。

 しかし、近年迷いの森付近を開拓していた人間が、このままだと緑が消え失せて問題が起きることで、モンスター由来の植物に注目。研究や実験として町で飼育して、繁殖力と方向性をある程度操作できる変容性と見た目から来るスケベ根性で植林事業を展開。

 エンドロッカスが横槍入れて植林事業から別産業へと転向。

 

 金と力に目がくらんだ結果、街全体が従魔未満の改造人間になってしまい、滅ぼす流れになる。

 姿形は違えど、街は全滅状態だからまあ良いだろう。問題は研究の暴走から力に思考が傾いた選民思想が全体に行き渡ったのではなく、デンドロが主犯であろうという点だけだ。

 

 デンドロの様子から判断するに、彼女は誰かの従魔にもなっていない。自力で従魔にもなっていないはずだ。

 

「さて、色々あるだろうけどやる事は一つだ」

「……どうするんですか?」

「研究所を探そう。最低限そこを破壊さえしてしまえばどうにかなる」

 

 貴族の街は既に滅びを迎えている。ここを破壊してしまえば、ノーマネーボトムズの主戦力であるローコスだかなんだか分からない人間由来モンスターは作られないはず。

 

 ビクリと身体を震わせたデンドロに笑いかける。

 

「安心してくれ。俺は味方だよ。ただついてきて貰うけどね」

 

 それを聞いて、少しだけ警戒する様子を見せたデンドロ。

 

「……まあ、ご飯でも食べながらゆっくり探そうか」

 

 どうにも好感度が足りないみたいだ。それなら、好感度上げを連打するまで。

 ウィードは肉を与えれば稼げたけど、デンドロは何を与えればいいのだろうか? 栄養剤?

*1
ドラクエのモンスター。

*2
ファイナルファンタジーの有名モンスター。どちらにせよ下半身は触手で顔辺りの部分が口だけの化け物である

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