イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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今章前半の山場ですが推敲不足です。とりあえず勢いだけで突っ走ります。

2022/12/16 場面転換時に区切りがついていなかったのを修整。
この修整に対する詫び石の配布はありません。


81話 イベント特攻

 ソシャゲといえば、イベント特攻というものがある。ガチャを回させる為の仕組みであり、基本的に、イベントと同時にピックアップされたキャラクター*1がイベント中のみ特攻という特殊な攻撃倍率がかかるシステムのことだ。

 イズムパラフィリアにはイベント特攻こそ付いていないが、特定の冠名が付く従魔へのバフ、デバフ、特攻が付くことがある。事実上のイベント特攻だが、永続効果なのでシナジーやデッキメタになる。

【地龍ウィード】であれば、他の地に関する低レア従魔からのダメージを減衰する。また、敵の地面に対する環境アビリティを受け付けない【大地の権能】というアビリティが存在する。

 そして【花開くデンドロ】であれば、自身の眷属種である【花開く】に属する存在。もしくは寄生の状態異常の敵に神経・地獄の複合属性のダメージを与え、自身の体力を回復することができる。

 

 回復専用従魔であっても、単騎で敵のボスを倒せるというのは、これが理由になる。レベルが初期であっても負けることはないのだ。

 もちろん、そんな能力を発揮できるのはデンドロのみであり──

 

「そんな……この私が!」

「枯れちゃえ──えへへ……私、役に立てた?」

 

 特に大した戦闘もなく、あっさりとデンドロがボスを倒した。

 そして、困惑した表情で手持ち無沙汰にうろうろするエンドソーマが印象的だった。

 

 

 

 ということで、あっさりとデンドロによって枯らされた男は無事に死に絶えた。そりゃあエンドになっていない、よりアルラウネに近い人外化してしまえばそうなるよ。

 

「えへへ……私、役に立てた? 皆のこと、守れたかな?」

「うん、助かったよ。ありがとう」

 

 はにかむデンドロを撫でれば、彼女は嬉しそうにわさわさと身体を動かし、ピンク色の花粉を撒き散らした。

 エンドソーマを持っているから良いとはいえ、この花粉には寄生の状態異常が付くので遠慮したいところである。

 里香が無事だと良いが、場合によっては王国までとんぼ返りになるかもしれない。

 

「これで、事態は解決ですか?」

「うーん。一応ボスもデンドロも現時点で従魔じゃないからね。生えた植物が一瞬で消え去るってことはないかも」

 

 帰りはショートカットではなく正規の道を辿っていく。ボス部屋の植物はボスを倒した瞬間に枯れていったが、それより外にある植物は未だに元気なままだ。

 ゲームで言えばダンジョンだからオブジェクト扱いなのだろうで済むのだが、ここまで空気中にピンク色の花粉が舞い散っている時点で犯人が生存しているからだろう。

 まあ、マッチポンプを演じているのはある程度理解している。エンカ率とか出会った直後の動きとか、求めているものを見れば多少は察せるものだ。

 

 ……なんで召喚に応じないんだろうな? 絆はこのストーリーには関係無いし、フラグ不足か?

 

 可能性としては、迷いの森である。獣人であるチェリーミート関連のイベントをスルーしているので、花開くの系譜と接触すらしていないのだ。

 その場合、ゲーム主人公が迷いの森で緑種従魔をぶちのめすところを見て召喚に応じたということになるのだが……。

 まあ、眷属の扱いがゴミみたいなデンドロなので、ただ単に目としてしか意識していなかったのだろう。じゃあどこを見て召喚に応じるくらいに想いを寄せることとなったのかは不明だが。

 ちなみにだが、エンドソーマは出会った段階で既に死亡判定である。リミテッド従魔ですらない。形的には共生だと思うのだが、人間としては死んでいるという扱いらしい。そこら辺は肌感覚で分かる。

 いやまあ、この星の存在相手に生死は関係ないかもしれないが。確定とは言い切れない情報だ。

 そもそも、デンドロちゃんはゲーム主人公と知り合いだった説を検証してみよう。

 

「トラス」

「?」

「この街に来たことはあるか?」

 

 肯定。

 

「じゃあ、デンドロのこと知ってた?」

 

 これもまた肯定。

 

 つまり、これはアレだ。俺じゃなくてトラスの手持ちになる従魔ってことだね。

 イズムパラフィリアのゲーム版主人公は誰だったのか。その確定的な情報も出てきた。

 

 ゲームでは主人公は喋らないし、ストーリーに影も形も見えない。終末の洞窟前で倒れており、そこで召喚の力を手に入れて、街に入りわりとすぐにチェリーミートイベントが始まる。

 従魔と召喚士の関係は結構好意的である。チェリーなら、あなたの従魔であり守護者といった風に立ち振る舞う。

 基本的なストーリー進行はチェリーミートを始めとしたストーリー入手の従魔が行う。まるで主人公を先導するように。

 そして、主人公は無垢で平等に近い。悪い奴は普通に倒すし、それでいて敵でも従魔になれば友好的になる。

 

 問題があるとすれば、ゲーム主人公イコールトラス説は、ウィードが自分と同じくらいの幼女を相手に赤ちゃんプレイを所望するヤベーやつになり、ノーソがロリコンのレズになるということだけだ。

 まあ、彼女達はストーリーに登場しない従魔なので、きっと作中で成長した主人公に想いを寄せることになるのだろう。きっと。

 

「後ででいいから召喚してあげなよ」

「…………」

 

 こくりと頷くトラス。まあ、下位互換ではあるが俺にも回復役が手に入っているので良しとしよう。

 どうせ上を目指すならデンドロ以上に優秀な回復役を手に入れる必要があるのだしな。現状は足りないところを緊急で補おうとしてデンドロを狙っただけだ。

 

 さて、とりあえず問題の解決はしたので柊菜達と合流しようと外に出た時に、召喚士と遭遇した。

 その多くは星三程度の、しかも緑種というあまり強くないものだ。しかし、彼らを率いている奴が問題だった。

 手に持つのは緑種星八【冥闇に蠢くイリシウム】である。サブクエストで倒せるこの街のギルドマスターだ。

 イリシウムは花ではなくチョウチンアンコウの誘引突起の方だ。従魔としての奴は、本体が別にあり、ランタン部分には挑発系の攻撃誘導や神経属性の幻惑効果がある。そこを攻撃すると一時的にデバフが撒き散らされることになる。具体的に言うと、次の一撃がダメージ貫通二倍のハイドアタック状態になる。

 ちなみに、擬人化していくと、美少女と触手怪物の姿になる。触手怪物の方が本体になる。ということだな。

 

 それよりも、こいつは生存しているのか。事件解決に動いて、研究所の入口からモンスターが出ていかないように封印したまま物量に飲まれて死ぬはずなんだが。

 早すぎるのか? 解決したタイミングが?

 

「君は……召喚士か。向こう側から来たのかね?」

「さっき奥にいた人を倒して来たばっかりだよ」

「スリープさん!」

 

 声がしたと思えば、どうやら柊菜と里香もいるようだ。柊菜はほっとした様子で、里香は調子が悪そうに鼻をぐずぐずと鳴らしながら涙目になっている。

 多分里香には手持ちに緑種がいなければ肉体的にも丈夫ではないのだろう。状態異常『寄生』って感じだ。

 

 ギルドマスターは、確認ように数名をダンジョンへと向かわせて、一度ギルドへと戻ることにした。俺にも同行が求められ、特に否定する要素も無いので付いていくことにした。

 街ははや夕闇に染まりつつあった。

 

 辿り着いた先は、一部壁を破壊して、隣接する建物とを壁で囲った冒険者ギルドと魔術師ギルドの合体した建物だった。道路を挟んだ先には剣士のギルドもあるのだが、そちらは通路を作られてはいない。

 魔術師は土地に縛られる。しかし、その土地であれば絶対的な支配力を手に入れられる。ギルドの壁を抜いて新しく通路で繋ぐことなど造作もないはずだ。

 まあ、剣士って一部を除いて弱いからな。ストーリーの雑魚敵として登場するくらいの有象無象が大半である。肉体に限界があるからね。

 とはいえ、全滅まではしていないだろう。アレは腐っても人間の上位陣だからだ。鍛錬と修行を積んで真っ当に強くなった部類である。

 問題は、正道を貫いてもスペックでどうあがいても勝てない差が付いていることだ。だからこそ人間をやめることが必要だったんですね。

 

 周囲の安全は確保されているのか、空気中に含まれる花粉が目に見えて少ない。

 花粉症が少し落ち着いたのか、里香が話しかけてくる。柊菜に関しては軽く挨拶して終了だ。あっちもブロックしてたのを知ったのかどこかよそよそしい。

 

「アヤナは無事?」

「肉体的にも精神的にも異常は無いよ」

「アンタってはいかいいえでも答えられる質問に遠回しな表現で答えるから怪しすぎるよね。言ってない部分には何かがありそうというか」

 

 指摘を受けてしまった。まあ、自分でも理解していることだ。

 認知してない範囲で何かあったり、相互理解や認識がズレていたら問題あるからね。小狡い大人のテクってやつだ。

 問題は無いはずなので普通にはいと答えてもいいのだが。

 石を吐き出させる手段を発見したので命令をさせているのだが、彼女はお嬢様なので案外適応が早かったのだ。今現在はなんか歪な主従関係を結んだように見える気がする。ちなみに俺の内なる柊菜はアウトを主張している。

 これを無事と呼ぶのか分からないので言質は取らせないことにした。

 

「それよりも、そっちはどうなんだ?」

「…………肉体的な異常は無いかな」

 

 ──なんか精神的に問題ありそうな言い回しだ!

 

「着いたぞ」

 

 ギルマスの言葉に会話を中断する。扉の無効は結構な人がいた。その多くの表情が暗く、不安を抱えている。

 こりゃ爆発しそうな雰囲気だ。エンドソーマをこっそり移動させて目立たない位置で俺の守護に動けるようにしておく。

 

「皆! この者達がこの度の首謀者を退治してくれた!」

 

 こいつ、調査隊に自分の従魔を入れたな。確定的な情報はまだ無いはずなのに言い切るのはそういうことだ。

 仮にこれが嘘だった場合、避難者はここに留まるのを辞めてしまいそうだから。ただ、それは今すぐに公開せずともあと少しは保てる均衡であった。

 ギルマスの言葉に少しだけざわつく。しかし、一人の男が出てきて外を指さした。

 

「で、でも。外はまだモンスターもうろついていますよ!?」

「ああ、そうだろう。彼は、事を引き起こした人物を処理しただけに過ぎない。犯人を倒しても、道具が残っている」

 

 再びざわめく人達。彼らの視線は一つに向かう。デンドロへと。

 

「彼はその道具を持ってきてくれたというわけだ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 柊菜が割って入った。

 

「犯人は倒したんでしょう? なら、後は皆でモンスターを倒して、街を復興させていけばいいじゃないですか。どうして、この子まで……」

「柊菜くん。彼らはね。家族や友人を殺されているんだよ。この街に住んでいた住人は、ある日突然現れたモンスターに、殺され、植物にされたんだ」

「だからって……」

「彼らは不満を抱えている。首謀者こそ倒したが、やり場の無い怒りや悲しみを振り下ろす先を探しているんだ。見ただろう。ここに来た時の余裕の無さを。世界は物語と同じじゃないんだ。怪物を倒して皆がありがとうでは済まないんだ」

 

 人々がデンドロを見つめる。その瞳は狂気で彩られていた。

 この街はモンスターを利用した産業によって比較的裕福に生活できていた。そして、モンスターの被害が出れば手のひらを返して怒りや、憎しみを抱えている。

 

「でも、こんな小さな見た目の女の子ですよ!? それなのに……」

「柊菜くん。君は召喚士だから、惑わされているだけだ。モンスターはモンスター。知性があってもヒトではない」

 

 デンドロの好感度イベントでは、この街に関する話が出てくる。自分が拾われた話。研究所での実験の日々。

 ゲーム主人公を、きっと彼女は迷いの森で見かけるはずだ。それが可能性として存在したのには、彼女自身がそういう存在だからだ。

 

みんなと一緒にいたかっただけなのに……。褒めて欲しかっただけなのに……

 

 デンドロが俯いたまま小さく呟く。

 

「死んでしまえ!」

 

 民衆の膨れ上がった怒りが噴出して、彼女の願いを消し去った。一度吹き出た怒りは収まらず、人々は次々に言葉を投げ掛ける。

 

「モンスターは、どんな姿であろうと人間ではない。知性の差はあれど、全ては家畜や害獣と同じだ」

 

 小さな石ころが飛んできた。やがて、飛んでくるモノの数と大きさが増していき、顔には大きな岩を。全身に椅子をぶつけられる。

 

 流石に引き際だな。一度休憩したかったが、街を出よう。

 

 エンドソーマに命令して、俺とトラス、そしてデンドロを抱えてギルドを飛び出した。背後からは「追え!」という怒りの民衆の声が聞こえる。

 振り替って見れば、彼らの顔は自らの正義を確信していた。

 彼女は自ら協力していたというのに。

 先に対価を支払わなかったのは、そちらであるというのに。

 

 デンドロが求めるものに応えていけば、これは回避できたことだ。彼女は自らの眷属を使ったマッチポンプを仕掛ける程度には、認められること、褒められることを求めていた。

 植物と化した人間は、それを拒んだのだろう。

 

 怪物は人の心を持っていた。それを利用し、最後に突き放したのは人間の方だ。

 

「…………もういいよ」

 

 デンドロが顔を上げる。彼女の顔は、人間の作りとそう変わらず、両の目からは雫が流れていた。

 

「……友達なんていらない。人間なんて、いらない!!!」

 

 怪物が声を上げる。覆われた植物が怒りに呼応し成長を加速させる。

 

「うぅ!?」

 

 エンドソーマがうめき、地面に倒れた。ロストはしていない。しかし、地に降りたデンドロは、地面へと潜り込んでしまった。

 

 追いかけて来た人達の一部もまた、うめき声をあげている。そして、口や鼻から、芽吹くように植物を生やし始めた。

 その中には、里香の姿もあった。

 怪物が目を覚ます。怒りによって引き起こされた惨劇は、未だ始まったばかりだ。

 

・・・・・

 

「……子供なのに、どうして受け入れなかったの? 争うしかなかったの?」

 

 ギルドに残った柊菜が一人呟く。

 

「願いを叶えることはできたはず。じゃあ、なんで……」

 

 ぐるぐると思考が巡る。思い浮かぶのは、泣きそうなデンドロの小さな呟きと、怒り狂った民衆の声。互いに問題はあった。譲歩し合い、和解の道はあったはずだ。そして、こんな悲劇がそもそも誕生しない道も。

 起きた理由は、考えの違い。互いの行動は、主張は理解できるものだった。社会の幸福、個人の自由。足りないものは、倫理と美徳。互いに持っていた正義が合わなかった。結果起きたのは、正義が実現されなかった報復行為だ。

 

 人は、家畜に情を移してはいけない。耐えきれなくなるから。

 

「人は、全員が一緒に生きていくことはできない。リソースだけじゃない。個人の自由も、幸福の最大化も、やがて相反するものになるから」

 

 柊菜の苦悩の闇に小さな光が見えた気がした。

 

──助け合えないなら、他人は不要?

 

 正義の蕾が花開く。

*1
ガチャ新規キャラクターが大半。イベント入手キャラクターに特攻が付くこともある

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