イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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 今、これが読まれているということは、きっと私の投稿が1月に間に合ったのだと思います。

……はい。遅れてしまい申し訳ありませんでした。一ヶ月間ゆっくり休んだり、職場の人が立て続けに脳出血で倒れてコロナにかかってガンらしきものが見つかってと地獄のようになっていました。3月からはそういった人達が一斉に仕事を辞めるそうなので更に忙しくなりそうです。

 あと、今年の新人賞に向けて新作の設定作ってたりしてます。今のところは魔法少女モノになりそうです。
 前回と違い、著作権が色々怪しそうじゃなければ、先になろうに流してみたいと思います。

 本編は長くなったので途中で区切りました。推敲不足なので大なり小なり修整を後ほど入れると思います。


82話 行動キャンセル

 さて、少しまずい展開になった。

 デンドロが暴れ出してしまい、姿を消してしまった。無差別攻撃かと思ったが、一応俺やトラスには手加減してくれたらしく、エンドソーマが瞬間的に動けなくなった以外に被害はない。

 まあ、あの暴動を放置して見ていた時点で俺も疑わしい相手だとは思うが。稼いだ好感度が保険になっているのだろう。

 それ以上に問題なのが、里香である。

 

「おごっ! おえええ!!!」

 

 喉をほとんど塞ぐような形でズルズルと彼女の口から植物らしき緑色をした、液体によりテラテラと光る物体が伸びていく。えずこうと苦しげに体を動かし、涙が溢れる様をただ眺めていることしかできない。

 状態異常『寄生』の最終段階である。寄生は従魔には通用せず、むしろこちら使う状態異常の一つであり、一定時間後に誕生するだけのギミックだ。寄生の種類は数あれど、大体固定ダメージを与えて、相手のステータスダウンと耐性ダウンを引き起こす。主に緑種従魔が使う技だ。これはエロゲーじゃないので別に相手を支配したりお腹が膨れ上がることはありません。大体口から誕生する。

 ちなみに、エネルギーバブル系の分裂従魔と同じ扱いで、寄生から誕生した従魔は基本的に中立だ。本体倒せば消えるのも同じである。

 

 こういった状態異常の多くは、通常戦闘では用いられず、二部のステージギミックとかで登場する。人間に寄生した存在を素早く倒したりする感じに。

 もちろん、ゲームではクソ雑魚種族たる人間は、救出が間に合わなければ寄生ダメージで死んでしまう。胸糞悪いギミックなのだ。

 

 そんな例に漏れず、この寄生も人の身では耐えきれないダメージを与えるようだ。口から敵を出産した人間達は、げっそりと痩せこけて、目から光を失っている。

 その中でも、里香の姿は分解されるように光へと変換されて消えてしまった。始めてみた光景ではあるが、ゲームでアヤナと共闘した時に、彼女が死亡すると起きるエフェクトに似ている。

 おそらくは、死亡した場合に王国で復活するシステムが発動したのだろう。つまり、ノーマネーボトムズという奴らが襲ったはずの王国は、健在であるということだ。

 

 …………少なくとも、勇者召喚システムは。

 

「消えた!?」

「ここにいる人達とは違って生きているってことだよ。勇者って聞いたことない?」

「これが、かの勇者ですか」

 

 驚いた様子のエンドソーマに、里香の事情を説明する。その証拠に、早速復活した旨がメッセージで伝えられている。

 これが終われば、一度王国を目指して来た道を引き返すことになるだろう。

 それよりも、暴走中のデンドロをどうにかしないといけない。

 

 従魔は育成しないと本来の強さを発揮しないが、従魔ではなければ最初から全盛期の力なら発揮できるようになっている。生物なのだから衰えもあるだろうが。

 星三以上の従魔なら、その実力は三凸レベルマ相当である。

 つまり、ストーリーよりも遥かに強い状態なのが今のデンドロであり、いくら回復系の従魔で単体基礎性能が最弱クラスの緑種といえど、油断はしないほうが良い相手だということだ。

 

「エンドソーマ。借りるよ」

「えっ?」

 

 従魔の操作権を奪い、感覚を同期させる。

 途端に湧き上がる万能感。子供の頃にあった何の根拠も無いなんでもできるという感覚に酔いそうになる。

 従魔の感覚は仕方が無い。子供と同じで時間が味方してくれる存在なのだ。

 時間をかければなんでもできる。それこそが子供の時の無敵感と万能感の正体だ。従魔も様々な万能感があるが、特に不滅の存在である感覚は消えにくいのだろう。一切の食事と老い、衰えの存在しない状態が従魔なのだから。肉体と物理に依存しないのだ。

 

「さて、トラス。一旦お別れだ。デンドロの召喚を間に合わせなよ」

 

 肩車していたトラスをエンドソーマの体を使って引っ剥がす。そして、全力で放り投げた。

 続けざまに俺の身体を抱えて全力で飛び上がる。地面を貫くように枝が生えてくる。

 

 つまるところ、俺が安全だったのはトラスがいたからということだ。トラスが近くにいることで、デンドロが呼び寄せられて、危害を加えなかっただけである。

 好感度稼ぎは失敗に終わったみたいだ。

 

 着地を狙った枝の横薙ぎを、攻撃動作で滞空時間を稼ぎタイミングをずらす。二本目の枝が串刺しにしようと勢いよく飛び出してくる。

 エンドソーマの片足のつま先を無理やり地面に付けて、足の親指に力を入れる。本来の物理やら質量やら法則を無視したような動きでエンドソーマの身体がスライドし、枝を躱す。

 

「うぇぇ! キモい!?」

 

 自分の身体の動作だというのにエンドソーマが悲鳴をあげる。

 情報質量システムは、従魔が無条件に世界を覆う物理法則よりも重いので、こういった本来ありえない動作でも、やろうと思えば無理やりに通すこともできるのだ。

 なお、肉体が物理法則に支配される俺の身体は、無茶な重心移動により悲鳴をあげている。

 

 振り抜いたままのロッドステッキを慣性を無視した動作で天に振り上げてスキルを放つ。

 

「「『マジックアロー・レイン』!」」

 

 低レア従魔が使う範囲魔法攻撃の一つだ。指定範囲に二十一秒間魔法属性の矢が降り注ぐだけである。

 継続攻撃で時間の長さもあり、総合ダメージだけで言えばかなり優秀なスキルである。問題点は範囲がレインというわりに狭いことと、行動妨害効果は無いので移動速度が遅くない限りは簡単に範囲外に逃げられることだ。

 発動後は自由に動けるので回復役従魔のダメージソースになる。

 

 しかし、相手はただの従魔ではない。特攻は普通にこちらの従魔にも通用するのだ。

 与えたダメージが、エンドソーマの脳髄に根を張る魔の花により、HPを吸い上げ回復されていく。

 目減りする体力をヒール連打で回復していく。

 

 エンドソーマは分類上緑種従魔となる。緑種従魔は基本的に個々の戦闘力は低いものの、非常に優れたHPと、自動回復力を持っている。それに加えて、エンドソーマはアビリティによる優秀な耐久力を兼ね備えているのだ。

 

 回復役でもありながら、耐久力もある。なんというか、元人間の低い基礎ステータスをアビリティで補うような補正のかかり具合である。

 そんなエンドソーマを相手にするデンドロは、環境型緑種の先駆けに近い存在だ。時間経過で自身の効果範囲を広げていき、回復、状態異常、枝という短時間の存在しかできない攻撃用トークンを生み出す能力を使ってくる。器用貧乏みたいな存在なのだ。

 

 これでステータスが優秀なら万能型なのだが、そこは低レアストーリー入手緑種。それぞれの役割に上位互換が存在する。

 運用するには愛が必要なタイプだ。一応無課金内では優秀な性能なので使えないわけじゃないのだが。

 

 打ち上げた魔法が細かく分裂して降り注ぐ。トークンによる攻撃を躱しながら回復を重ねる。

 まるで千日手のように硬直した状態であるが、問題はエンドソーマのMP総量と回復量だ。このまま続けていても持久力で負ける。

 

 アビリティによる必中攻撃は本当に厄介だ。プレイヤースキルを無視するこれは誰が使おうと差が出ない優秀さを持っているのだから。

 

「サ終してからのブランクがきついな。勘も腕も鈍ってる」

 

 ステータスそのものに大きな差が無いのにこんなに苦戦している。確かに無課金の今、ストーリーのボス相手に苦戦するのは分からなくもない。

 従魔のステータスが不足している。レアリティも何もかも欲しい基準には至っていない。自分自身の腕も未熟だ。今なお攻撃を回避し続けられているのは、培ってきた基礎の残骸と、従魔との同調により引き上げられた感覚によるものだ。

 

 従魔の動きは物理を完全に無視できる。そもそもそれに囚われることはないのだ。ただ、完全に無視してしまえば面倒だから、一部を敢えて受けている。そういう存在なのだ。

 だからこそ、入力次第で速度設定上の限界値までは攻撃を重ねられるはずなのだ。

 

 回避に攻撃を重ねて移動を挟むことで全部の行動をキャンセルする。

 形容し難い姿に一瞬エンドソーマが歪む。自分もまた巻き込まれて内蔵が悲鳴を上げた。

 

「ッ!?」

 

 まぐれ当たりのような技の成功。怯んだデンドロに追撃を入れようとして失敗する。

 

「????????」

 

 エンドソーマは理外の動きに脳が追い付かずに放心してしまった。まあ、元は人間だからね。関節とか無理な方向に動いただろうし。

 

 例えるなら、数値を弄ってバグったスケボーゲームの挙動とか、バカゲーのキャラクターみたいな軟体具合である。

 

「手応えはあった」

 

 ゲームとは操作性が大違いだから手間取ったが、基本の動きは把握できた。この重ね技はほとんどの近接攻撃型従魔で使うことになる。

 ここで覚えられて良かった。

 

 従魔によって引き上げられた感覚は、一度成功した動作の正確性を上げていく。僅かなズレを修正していくような精密な機械の如く。

 エンドソーマの動きに人らしさが消え失せていく。交差するたびに一方的に攻撃を加えていく。

 

 ダメージレースは圧倒的優位だった。

 

 しかし、この作戦の致命的なミスを忘れていた。

 

「え……。あれ? マスター、どうしました?」

「…………酔った」

 

 積載物は従魔ではない。この優れた感覚によって忘れがちになるが、召喚士そのものはただの貧弱な人間なのだ。

 一応ラインクレストの召喚による対G耐性は付いているはずだ。そうじゃなければ今頃酔っただけでは済まないことになっている。

 ミンチとまではいかないだろうけど、骨くらいは折れてただろう。

 

「俺を手放せば続行できるけど……」

「召喚士なんですし、狙いうちされますよ」

 

 そもそもデンドロを相手に戦っているのが自分だけしかいない状況だ。他はぼうっと突っ立っていたり、死んでいない人間の救助をしたり、周辺の敵を追い払っている。

 

「総員、退避するぞ!」

 

 俺が戦闘不能になったのを目敏く察したのか、ギルマスが号令を出す。

 すると、手早く魔術師達が陣形を組み、地面に手を当てた。襲いかかる従魔や触手トークンを剣士や召喚士達が遠ざけていく。

 

 瞬く間に石の塔のような建物が早送りで再生されるような速度で組み上がっていく。俺もその天辺に飛び上がり離脱する。

 トラスを放置していたが、今のところ問題は起きていないようなので放っておいても問題無いだろう。

 

 魔術師は空間を支配する。そう長くは保たなくとも、一時的な要塞や避難を可能とする魔術師は便利だな。

 従魔ではスキルを使うかアビリティがあるか、はたまた緑種従魔でもなければできない芸当だ。

 

 デンドロが根を伸ばしてくるが、あっという間に塔は完成し、外界と隔離されることとなった。

 

 

 

「このままでは結界がもたないぞ」

 

 塔の中では魔術師達が息を切らしながらも深刻そうな顔をして言い争っていた。

 

「助けを求めるべきでは?」

「この大事な時期に街を破壊した挙げ句に助けを? 馬鹿も休み休み言え!」

「しかしこのままでは皆あの植物に変えられておしまいだ!」

「──そもそも、誰が彼女を追いやるような事を言ったんだ? アレのせいでこんな自体になったんじゃないのか?」

「お、俺は受け入れようと思っていた! 誰かが石まで投げたんだ。あれはやり過ぎだっただろ!?」

 

 民衆も混じり口々に言い争い、責任を押し付ける先を探している。

 彼らの矛先はいずれ過去へ過去へと向かい、丁度いい位置を見つけるまで進んでいくだろう。

 

 それこそ、連れてきた奴がその時点で殺せば。とか、そもそも街にモンスターを。だとかだ。

 

「醜い……」

 

 集団から離れて自体を遠巻きに眺めていた柊菜が呟く。

 

「いえ、それでも生き残るべき人間、ですよね……」

 

 その言葉は自らに言い聞かせているようだった。

 

「あんたってまあ随分と自分を抑圧するよね」

 

 呆れたように返すミルミル。

 

「別に心に感じたことは素直に感じていいと思うわ。この偉大な魔術師候補の私だって、これは救いようがないと思うわけだし」

「いえ……多くの人はただ無知なだけで、怖がっているだけなんだと思います。どんな選択であれ、それが選んだ道なら、それは一つの答えですから。私は、それを否定してはいけないと思います」

 

 それだけの事が言えてどうして俺に対する当たりだけは強いんだ?

 

「スリープさんは独りよがりが過ぎる上に、ちょっと言葉足らずで迷惑を掛け過ぎるから別です。受け入れ難い価値観を持っていて、それを理解しているのに、他人に言葉を尽くさない時点で相互理解を放棄してますよね」

「端的に言い表して死こそ救済とか言ったら絶対に誤解されるでしょ? 時には言葉よりも体験こそが勝る時もあるってことさ」

 

 そうやって軽口を叩きあっていると、ギルマスから声がかかった。

 

「諸君、我々は今絶望の中にいる! 結界により孤立し、急増の拠点には食料も何もなく、このままでは一方的に士気も体力も削られるままだ! 我々は、この状況を打開する為に、今一度かの敵へと打って出る必要がある! 次に備えて休んでくれ!」

 

 今までも、ああして人を率いて来たのだろう。背を伸ばし堂々とした態度で話すからこそ、多くの人はそれに従い、争うことをやめていった。

 

「そ、それでは、私達も戦いにおもむくのですか!?」

 

 非戦闘員である一般市民は、それでも不安があるのか、自分たちの思いを口にしていた。

 

「いや。戦えない者はここで休んでいてくれ。君達の仕事は、我々の勝利の先にある。その時、大いに活躍してもらうよ」

 

 絶対的な自信を滲ませて言えば、市民達にポジティブな未来を思わせたようで、彼らも引き下がっていく。

 そして、ギルマスはこちらへ顔を向けた。

 

「お三方、少し、話がある」

 

 そんな物言いに、柊菜が警戒したように身を引いた。

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