でもね、そのルートはね、効率が悪いから本チャートではやらないって勇者が決めているんだぁ(無慈悲
番外編で色魔ルートを含め、本編ではやらなかったルートの話をやろうと考えているので、そちらをお楽しみにしていてください!
今は一章を完結させないとネ!(なお、まだアルカディア王国から抜け出せていない模様
人類諸君、おはよう!
世界を絶対救うマンこと勇者でござーる。
さて、現在の私はこれまでの莫大な経験を活かしてRTAに励んでいるわけでございますが……RTAをやっている以上、そこには必ずと言っていいほど無用なトラブルがつき纏うものです。
いざという時に出ないレアドロップ武器。
いつもなら上手くいっているのに、今日に限って敵の行動パターンがおかしい。
前半が上手く行き過ぎたせいで後半にやって来る謎のしわ寄せ。
そして、見落とした細かいガバによる大幅なタイムロス……等々、待ち受けている困難は列挙に事欠きません。
私はこれでもベテランの勇者である自覚があるのですが、こればかりは時の運というほかありません。
運だけは個人技能でどうこうできるものではないので、諦めが肝心となるでしょう。ですが、ただ諦めるというのではなく、プレイヤースキルや直感を磨き上げることでこういった理不尽に対処して見せるのが走者というものです。
徹底したリスク管理とリカバリーを果たしてようやく、ベテラン勇者への道が切り開かれるのです。私のようになりたいという人は、是非今言ったことを脳裏に刻みつけて魔王討伐に励んでくださいね!
……さて、どうして突然当たり前のことを言い始めたのかといいますと。
『流石は勇者様、と言うべきかな? 残念ながらルインは負けちまったらしいな。いやぁ、ホントに悲しいぜ』
「……魔将騎ゾルディン」
『よぉ。勝った方を労ってやろうとここで待っていたが、予想通りテメェが出てきてくれて嬉しい限りだぜ』
うん。現実逃避ですね。
クリスティーナの思考を逆手に取ったいい感じにカオスな殺人現場を工作出来たことですし、後は雲隠れかまして彼女が聖剣に目覚めるまで城下でイベント回収をしつつ、ゾルディンを殺すための武器を作ろうと画策していた時の事です。
もう完全に油断していましたね。外は暗いですし、見張りも潰したので後は楽勝だぜと森を呑気に歩いていたら、辺りを高度な結界が覆い始めたじゃないですか。これはまずいと逃げ始めた時にはもう遅く、いつの間にか目の前に魔将騎ゾルディンがいました。
いやはや、全く。
私は世界を救うために身と心を粉にして働いているというのに、神様というのはつくづく私に優しくないですねぇ。
色々と言いたいことは山ほどありますが、まずは――
な ん で こ こ に い る の?
いや、ホントに。あんた、この時間は執務室で激務に明け暮れているはずでしょう? 聖剣が見つからないせいで無駄に国を維持する必要があって、泣く泣くこの国の経済を回しているはずだったでしょう? なんでこんなところで油売ってんの? なんでここにいるの?
そんな私の疑問が伝わったのか、奴は懇切丁寧に理由を語ってくれました。
『なんでここにいるんだって顔をしているなぁ? いやなに、理由は簡単さ。お前が都合よく聖剣に目覚めてくれれば楽に終わったんだが……お前より
「それはまさか……」
『おぉ、察しが良いじゃねぇか。そうさ。お前が考えている通り、あのクリスティーナの嬢ちゃんの事さ。魂の純度も気高さも、如何にも聖剣が好きそうな娘だからなぁ。俺の探し物は彼女に見つけてもらうことにした。だから――』
魔将騎ゾルディンは残忍な笑みを浮かべて言いました。
『テメェはやっぱりお払い箱だ。此処で死にな』
「……随分と急じゃないか。僕の事が怖くなったのか?」
『話を聞いてなかったのか? ただ単に邪魔になっただけだ。他の連中に俺の正体を知らされても面倒だからな。……あぁ、だがテメェには一応それなりに感謝しているんだぜ? 一度完璧に心をへし折ったあの聖女を復活させてくれた功績に関しては本当にお手柄だ。お陰でようやく資格者を見つけることが出来たからな。その礼として、苦しませずに殺してやる』
残酷な慈悲を見せると同時、ゾルディンの姿が急激に変わり始めました。
50代の人間としてそれなりに老けていた筈の容姿は急激に若返り、さらに肌が不気味な灰色に染まっていきます。
金色の瞳は完全に瞳孔が開き、好戦的な笑みを浮かべた口元には鋭利な牙。
完全に人間としての形態から逸脱した彼の身体には何時の間にか無駄にかっこいい鎧が装着されており、その手元には黒い刀身に紅いラインが入った禍々しい剣が握られていました。
魔王軍の中でも選りすぐりの戦士7名だけが至ることのできる極地、魔将騎が一人。
第六位に位置する彼の二つ名は、灰狼ゾルディン。
相手に噛みついたら最後、その命が絶えるまで絶対にその牙を離さない凶悪で、残忍な性格と戦闘スタイルからそう名付けられたそうです。
絶対にこんな序盤で――それも特別な武器がない状態で出会っていい敵ではありません。
普通に詰みですね。どうしようもありません。はい。
どうしてこうなったのかって? ……どう考えても私の調整ミスですねぇ、これは。
あはははは
あはははは
あはははは
ああああああああ! クリスティーナの好感度上げ過ぎた! 彼女が無駄にゾルディンに噛みついたせいで眼をつけられる羽目になってんじゃん! 何が原因だ⁉ 三日間、ひたすら彼女にポジティブな言葉を浴びせ続けてたのが間違いだったのか⁉ いや、今まではそれでも上手くいっていた。ということはもしかして、あの武器庫でのイベントが原因? ……フフフ、そうか。そういうことですか。おのれゾルディン! テメェが雑な仕事してくれたせいで色々と狂ってんじゃねぇか⁉ お陰でゾルディンがこっちに来る羽目になったんだぞゴラァ! どう責任取ってくれんだゾルディン! ていうか俺、さっきからゾルディンしか言ってない! クソォ、人が積み上げてきた物をこんなにも簡単にぶち壊しやがって!
キレました。
流石に温厚な私でもキレちゃいましたよこれは。
「……なるほど。そういうことか。ならば、こちらも黙って殺されるわけにはいかないな」
『おいおい、止めておけ。無駄に痛い目を見るだけだぜ?』
「それは――やってみなければ分からない」
よぉし、決めた。今決めた。もう決めた。ゾルディンはここで倒します。ここでけちょんけちょんにしてやります。武器もステータスも知ったことか! テメェはここで死ね! 魔将騎ゾルディン!
これが私の、リカバリーだッ‼
【次回予告】
やめて! 勇者のステータスはマジ雑魚で、このままじゃあ普通に負けて王国ごと滅ぼされちゃう!
勇者が死んだら聖騎士として覚醒しかけているクリスティーナや聖人おじさんはどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。だから頑張って勇者! もう瀕死だけど、ここで勝てば終盤まで使える大火力が手に入る上に、最終決戦前で地獄を見ることもなくなるんだから!
次回、「勇者死す」
デュエルスタンバイ!
――うん。無理。
いやぁ、これはホントに無理でしょ(真顔)。
コイツ、マジで強すぎます。私のステータスが最終決戦仕様になれば片手で捻れるレベルなのですが、残念ながら今の雑魚ステータスでは攻撃を避けるので精一杯。
一応、牢獄を出る時に室内にあった剣を一本拝借してきたのですが、こんな鈍らではコイツの鎧はおろか皮膚に傷を入れることすらできません。
私の技量をフル活用すれば致命傷を与えられないこともないのですが、その場合は剣が耐え切れず壊れてしまうので、使いどころに困るんですよねぇ……。
ホント、マジで聖剣が欲しいです。別に能力発動できなくてもいいので壊れない剣として運用したい。
『ハハハッ! 随分と粘るじゃねぇか! しつこい男は嫌われるぜ!』
「別に、あなたに嫌われたところで困ることなど何もない」
『なるほどォ! そいつは正論だァァァァァァァ!』
攻撃のパターンは全て知っているので躱せないわけではないのですが……それでもやはり肉体レベルが仇となって時々被弾してしまいます。
まずいですね。このままでは普通に殺されて終わってしま――
『隙ありィィィィィ!』
「痛ッ“!」
痛ッてぇぇぇぇぇ!
しまった! 思考にリソースを回し過ぎたせいで回避がおろそかになってしまいました。右肩を切り裂かれて無茶苦茶痛いです。
『オラオラ、どうしたァ! 今まで上手いこと避けてたのによォ、もうお仕舞いかァ?』
「――ッ、うるさい」
あぁ、もう! ステータスで圧倒的に負けている雑魚をチート装備でイジメているくせにイキるんじゃありませんよこの馬鹿!
私はねぇ、本当はあなたのような宝の持ち腐れに負けるほど弱くはないのですよ!
えっ? 信じられないって? ……しょうがないですねぇ。
そろそろ敵の攻撃を躱し始めて時間がそれなりに経過しましたし、これを発動しても怪しまれないでしょう。
では行きます。魂に刻まれた不滅の武術、発動。
【
ガチンッ、と頭のギアが切り替わった感覚。
思考は明瞭に澄み渡り、全身が一気に軽くなります。
私の身体は何も知らずに突撃してきてチート級の魔剣を振り回すゾルディンの攻撃を、無意識のうちに難なく躱していました。
『なにッ――⁉』
フフフ、驚いていますね。
これは幾多の戦いの中で獲得した敵の技を全て躱し、或いは受け流す技能です。培った膨大な経験と心眼がこの身体捌きを可能としています。
最高ステータス時には、四方八方から迫る魔王とその愉快な仲間たちの攻撃を三日間避け続けたという実績を持っているくらいですから、並大抵の攻撃は食らいませんよ。
後は適度に煽りながら攻撃を避け続けてこの場を離脱したら万事解決――と言いたいところですが、そうは問屋が卸さないんですよねぇ……。
『ええい! ちょこまかっと鬱陶しい野郎だ! こんな奴相手に使うのは業腹だが……仕方ねぇ。起きろ!
あぁ、やっぱり発動させましたか。魔剣ゾラム。
ゾルディンという名前と言い、どんだけ「ゾ」が好きなんだと突っ込みたくなること必須ですが、侮ることなかれ。
この魔剣、マジで強いです。
剣の銘を叫ぶと同時に自分の掌を自ら切り裂き、刀身に血を吸わせるゾルディン。すると、今までただの紅い紋様に過ぎなかったラインが脈を打ち、魔剣の禍々しいオーラが増大しました。
……あっ、これヤバいやつだ……
『そらァ! ここで微塵切りになって死にな、勇者様よォォォォォォッツ!』
「ま、待て――」
『待つわけねぇだろう馬鹿がッ!』
久々の戦闘による興奮でハイになっているゾルディンが血の付着した魔剣を本来なら刃が届かない中距離で振るいます。虚空を轟音と共に切り裂く黒い刀身。そして――本来なら届かないはずの刃が
「このッ――!」
あぁ、もう! 雑魚に向かってそんな技を使うんじゃありませんよ!
怒り心頭の私ですが、迫りくる刃たちはどれもが触れただけで身体の一部が持っていかれるヤバい威力です。真面目に避けないと、本気で詰みます。
加えて言うと、ゾルディンはこうしている今もこちらの刃が届かない中距離でブンブンと馬鹿みたいに魔剣を振り回して斬撃を飛ばしています。
その数、およそ10。これを全て避けないと行動不能に陥って私は死にます。
絶望的な状況ですが……ここまで来て再走なんて馬鹿なことは出来ません。全て躱し、油断しているアイツに致命傷を与えてやりますよ!
はい、この斬撃は屈んで回避。次の2つは上に飛んで空中で身体をねじりながら回避。次は右でしょ。で、その次は左で、上、下、捻じり、下、――あっ、これは無理。
どうやら自分の身体のスペックを過信し過ぎていたようです。このままでは間に合わないので思わず持っていた剣で受けましたが、案の定その刀身はへし折れてしまいました。幸いにも剣に守られたお陰で斬撃の威力は弱まって軽傷で済みましたが……これ、マジで終わった奴では?
『……魔剣ゾラムの斬撃を前にして生き残るとはな。中々やるじゃねぇか』
感心した様にゾルディンが呟いていますが、こっちはそれどころではありません。
一応、まだ戦う意志はあるアピールとして折れた剣を逆手のナイフ持ちにして構えていますが、全身を浅く切り刻まれている上に疲労が限界でもうこれ以上戦える気がしません。
降参したいのは山々なんですが、相手は中距離の攻撃手段を持っているので背中を見せた瞬間に詰みますし、かと言って接近戦では火力的な意味で勝ち目がありません。
クソォ、いいなぁ、あの魔剣。
早く手に入れたいな――
「魔剣ゾラム」
『へへへ、いいだろこれぇ。俺が魔王さまから授かった唯一無二の武器さ! テメェにもう少しマシな武器があればもう少し楽しめたかもしれねぇが、運がなかったな。ここで魔剣の栄養分となりな。雑魚勇者』
「……」
見せびらかすように魔剣を振り回すゾルディン。
……ふむ。ちょっとどうでもいい話かもしれないですが、聞いてもらえますか?
実はそこでイキっているゾルディンとかいう噛ませ犬さんですが、どや顔晒しているくせして魔剣の使い方を間違えているんですよね。
確かに使用者の血を魔力に変換して撃ち出すあの攻撃手段は便利ですが、その程度があの魔剣の真価と勘違いされては困ります。
いいですか?
あの魔剣の真価は、
以前検証してみたのですが、辿り着いた魔王に向かってもう勝ち目がないからと躍起になって寿命の殆どを捧げてから繰り出した私の斬撃が、一撃で奴の体力を五分の一ほど減らしたと言えばその異常なまでの強さがお分かりいただけるでしょう。
もちろん生命力捧げ過ぎて瀕死だったのでそのルートはあっさりと止めを刺されて終わりましたが、それ以来私の脳裏にはあのふざけた火力がこびりついており、ゾルディンと出会った際には確実に彼からこの剣を奪うことにしています。
命を削れば削るほど強くなる魔剣。
某ダークソウルなゲーム的に言えば、赤い涙石の指輪が一番近い効果かもしれませんね。というか、そのものです。
異なる点があるとすれば、剣が強くなる「瀕死」状態になるために自分から敵の攻撃を受けて血まみれになる必要はなく、ただ単にこの剣に生命力を吸わせるだけでも発動するという点だけです。
――つまり、この魔剣は使用者が傷を負うごとに威力を増す聖剣よりも健気な剣で、特に瀕死状態で繰り出される一撃は火力馬鹿の超性能。
別に傷を負わなくても剣に自分の生命力を捧げるだけで瀕死状態とまではいかなくともそれなりの火力が出せてしまうという怪物武器、なのです。
こんなにも優れた武器であるにもかかわらず、目の前でイキっている魔将騎さんとやらは、ただ血を捧げて斬撃飛ばせるだけの剣だと思い込んでいるようですねぇ……。
うーん、舐めてんの?
その武器はね、本当の意味で死ぬ気になれば自分の格上を抹殺できる最強武器の一角なんだよ? そんな武器をどうしてお前がさも自分の物のように所持して使ってるの? どうして恥ずかしげもなく月牙○衝してんの? そんな使い方するぐらいだったら俺に譲れや。俺に譲って。……ていうかゾルディン君はさぁ、いつまで経ってもその剣の真価に気が付けないから永遠にドべから2番目の第六位に甘んじることになるんだよ。君が自分の武器をもっと上手く使いこなせばさぁ、第三位までは簡単に屠れるんだぜ? 第二位と第一位はちょっと強さが阿呆だから無理だけど、本当だったら君はこんな辺境の地で燻ってる必要ないんだぜ? なんかさっきからアドバイスみたいな感じになってるけどさ、使いこなせないんだったらマジで俺にちょうだ――
自主規制なり
……すいません。優秀な武器の性能に気が付けない無能に思わず腹が立って愚痴をこぼしてしまいました。
こうしている間にも私の身に死が近づいているので、何とかして此処を切り抜けるために現実を見ましょうか。
私の武装はへし折れてしまった剣が一本と、これまで積み上げて来た膨大な知識と卓越したスキルのみ。
対する魔将騎ゾルディン側は、私が欲しくてたまらないチート魔剣に、カッチカチの強度を誇る鎧と皮膚。それから人間に戻った時に使える国家権力。
うーん、勝ち目なさすぎワロタ。
そもそもここでエンカウントすること自体が想定外なのでどうしようもないことではあるのですが……まぁ、文句ばかり言っていても意味がありません。
私はベテラン勇者。この程度の危機など幾らでも乗り越えてきたのです。
幸いにも魔剣について考えていたお陰で良い作戦を思いついたので、それを実施するとしますか。
「……確かに凄まじい性能の魔剣だね。加えて、使用者の技量が見事というほかない。流石は魔将騎と言うべきかな」
『なんだ? 褒めたって見逃してやる気はねぇぞ』
「素直に褒めただけさ。流石は灰狼。魔将騎序列
『――――』
その言葉を発した瞬間のゾルディンの変化は如実でした。
これまで口元に張り付けていた薄ら笑いが消え去り、憤怒に燃える瞳がこちらを睨みつけてきます。
『……おい、テメェ。今の俺の立場を知っていてその戯言を吐くのか?』
「戯言? ……おかしいな。王城の図書館で調べたところ、その容姿と力を持つのは序列第三位の灰狼だと思っていたんだが、違ったのか? それともまさか――」
私は心の底から疑問に思っているような表情を浮かべて言いました。
「お前、第三位から六位まで転落したのか?」
『――殺す』
疑問に対する答えは、ゾルディン自身の態度が示していました。
完全に顔から表情が削げ落ちた彼は、純粋な殺意だけで空気を振動させながら魔剣を構えています。
そう。実は彼、第三位から六位まで転落した敗北者なんですよね。
……大事なことなのでもう一回言いますね。
実は彼、第三位から六位まで転落した敗北者なんですよね。
くふふ、ねぇ、今どんな気持ち? 自分が見下していた新人に抜かされ、挙句の果てに六位まで突き落とされたのはどんな気持ち? し か も 人間界ではまだ第三位だと思われているんですよゾルディンさん。恥ずかしくないんですか? 私だったら恥ずかしすぎて自殺しているでしょうねぇ……。
『もうテメェは生かしておけねぇ。俺の逆鱗に触れたんだ。ここで死体も残さず塵となれ』
ゾルディンは魔剣を構え、先程よりも大量の血を刀身に吸わせ始めました。魔剣がドクンッと波打ち、使用者の血と魔力を喜んでいるように見えます。さらに彼は蓄積された魔力を解放するように魔剣を頭上へと掲げ、天に届かんばかりに膨れ上がった紅い魔力の刀身を見せつけてきました。
「こ、これは……」
見るからに一撃必殺の魔力量ですが……だからこそ私にとって都合がいい。
こちらが恐れているのは武器の破損と相手の中距離攻撃、そして手数です。この際、武器が壊れてしまうのは致し方ありません。ですが、敵が中距離から放ってくる手数だけはどうしても減らしたい。
だから――
相手がこちらを一撃で仕留めるための大技を、逆に利用してやりましょう。
『オラァ! 骨も残さず塵になりなァ! 吼えろ、魔剣ゾラム!』
ゾルディンが頭上に掲げた魔剣を振り下ろし、全力の一撃を放ちます。先程の雑な斬撃飛ばしなど比較にならない程の質量。
この森を丸ごと切り裂かんとするその巨大な刀身は、碌な装備のない私を容易く一刀両断して余りあるでしょう。
まぁ、私が普通の勇者であればの話ですが。
「発動――」
ではお見せいたしましょう。我が魂に刻まれた不滅の武技。
私が持ちうる最強の攻撃手段。
折れた刀身に魔力を通し、私は迫りくる巨大な斬撃に向かってそれを振りました。
【
それは、一つを極めた者だけが至れる武の極致。
全てを見切る心眼と研ぎ澄まされた異常なまでの集中力が織り成せる奇跡の御業。
そこに在る物の原理を紐解き、そして斬る狂気の剣技。
万物には綻びがあると言ったのはどこの魔眼使いだったか。
勇者を名乗るこの男は、気が狂いそうなほどに長い回数を重ねることによってこの世界の弱点が全て見えるようになったのだ。
ともすれば、直死の魔眼並みに厄介な力。
『ば、馬鹿な――』
驚愕に満ちた声を吐き出したのはゾルディンだ。彼の目の前には魔剣による大破壊の爪痕が広がっていた。
自然豊かな森にメスを入れたような残忍極まりない一撃。
本来であればこの斬撃が通った後に生き残っている生命などない筈だった。
「痛てて……ギリギリだったな。流石に武器がこれじゃあ、全部を防ぐのは無理か」
ならば、あそこで平然と突っ立っている勇者は一体何者なのか。
無傷ではない。全身に傷が刻まれているがしかし――あれは、その程度で済む一撃ではなかった。
何故だ? 何をやった? どうやって生き残った? 狙いが甘かったのか?
あまりの衝撃に身動きが取れないゾルディンの目の前で勇者は先程まで握っていた剣の柄を放り投げた。
刀身が跡かたもなく砕け散ったそれは既に剣の形をしているとは言い難く、ここで捨てるのも無理はない――
(まさか⁉)
ここでゾルディンは恐ろしいことに気が付いてしまった。
(あの折れた刀身で魔剣の一撃を防いだというのか⁉)
果たしてそんなことが人間に可能なのか。まず、魔人である己ですら不可能であると認めざるを得ない技術だ。
迫りくる巨大な刀身のうち、自分を殺しうる範囲の攻撃だけを着実に防ぎきる――それも、折れた剣で。
そんな不可能を、目の前の勇者は事もなげにやってのけた。
もしも勇者の装備が万全だった場合、負けていたのは自分かもしれない。――いや、負けていたかもしれないではない。ほぼ確実に負けていた。そしてさらに言うのであれば、まだ勝負はついていないのだ。
『クソッタレ……!』
慌てて魔剣を構え直すゾルディンだが、勇者にとってはそのわずかな隙で十分だった。彼の目的はここで彼を倒すことではなく、この場を切り抜けることなのだから。
「流石に逃げさせてもらうよ。次会った時に決着をつけようか」
『ま、待てッ――!』
慌てて呼びかけるが、勇者がそれに応えるはずもない。
彼の背中は、動揺していたゾルディンの目の前で消えた。
そして、いつの間にやらゾルディンの張った防音と姿隠しの結界をすり抜け、物理的にも魔術的にも追えないところまで逃げられていた。
結界すらすり抜けて見せる謎の技術。それが「
結局、魔将騎ゾルディンは魔剣の性能もこの世界の裏で起きていることも知らず、ただ間抜け面を晒すことしか出来なかったのである。
いやー、余裕でしたね(震え声)
魔剣はともかく、使い手であるゾルディンが雑魚なお陰で何とか逃げ切ることが出来ましたが……全身傷だらけです。
これはマジで困りました。この後は急いで城下に行ってゾルディンを倒すためのイベントを回収しなければならないというのに、全く動ける気がしません。
ゾルディンは彼が魔人であるという証明が出来てないまま殺すと国民たちの納得を得られず、結果的にアルカディアの支援が低下して効率が悪くなってしまいます。
よって、証拠探しはサボってはいけないパートなのですが……。
「参ったなぁ……」
今王城に戻ってもゾルディンが待ち構えているでしょうし、かと言ってこの傷を放置しておくのはまずいです。
あーあ、都合よく助けてくれる知り合いが目の前に現れないかなぁ……なんて、夜が明けてから走者にあるまじき運頼みで王城周りをくるくると回っていますが、誰も見当たりません。
ここから見えるものと言えば、無駄に豪奢な王城の造りと、窓掃除をさせられている哀れなメイドさんだけで――
「うん? あれってもしかして……」
いやいやいやいや。それはないでしょう。幾らなんでもそれはないって。確かに過去の経験から彼女がよく人通りの少ない場所の掃除ばかり押し付けられていたのは知っていましたが、それでもこんなに運が巡ってくることなんてあります? いやいや、ないでしょ。
あの女の子がアルマちゃんなんていう都合の良いことがあるわけ……ありましたねぇ!
「き、きてる! リカバリーきてるわこれ! 世界が俺に味方してるぅぅぅぅぅぅ!」
急いでそこら辺に落ちている石を拾い、彼女が掃除している窓に向かって投げます。こちらに気が付いた彼女が驚いた顔で近づいて来てくれました。
「あぁ……アルマちゃん。君がいてくれてよかった」
ホントに、マジで。
アルマちゃん天使過ぎますわ。
「ゆ、勇者様! そのお怪我はいったい……」
「ごめんね。ちょっと時間がなくてさ、説明している余地はないんだ。ただ、どうしても君に頼みたいことがある」
「な、なんですか?」
ちょっと怯えているアルマちゃんに私は言いました。
「君にクリスティーナへ言伝を頼みたいんだ」
本来なら私がゾルディンの本性を暴いて強引に最終決戦まで持っていく予定だったのですが……この傷ではやむを得ません。クリスティーナ嬢に押し付けることにしましょう。
彼女であれば容易くこちらの意図を読み取って行動してくれるはず。
というわけで、かくかくしかじかをアルマちゃんに説明します。
「な、なるほど……詳しい事情は分かりませんが、クリスティーナ様への言伝は確かにお預かりしました」
「ありがとう。本当に助かるよ、アルマちゃん」
「いえいえ。私に出来ることであれば何でもおっしゃってください。……それよりも、勇者様のお傷は本当に大丈夫なんですか? 早く医務室に行った方が……」
「お気遣いはありがたいけど、残念ながらそれは出来ないんだ」
「どうしてですか?」
「ちょっと事情があってね。今、医務室は頼れない」
「そんな……」
アルマちゃんの心配はありがたいですが、今王城に忍び込むのはマジの自殺行為なので止めておきます。
「大丈夫さ。一応、回復してくれる人の宛はあるからね。それに、俺はこの程度の傷でくたばるほどやわじゃないよ。アルマちゃんはその言伝をクリスティーナのところまで届けることだけに集中してくれ」
「勇者様……」
「頼む! 君だけが頼りなんだ!」
「ッ! わ、分かりました! 私、頑張ります!」
そんなに張り切ることでもないと思うのだが、妙にやる気になったアルマちゃんは素晴らしい回れ右をして王城に戻る――かと思いきや、急に反転してこちらに戻って来ました。どした?
「あ、あの……この薬草、掃除していてあかぎれになった時によく使っている物なんです。勇者様レベルの怪我になるとあんまり意味ないかもしれないですけど……どうぞ使ってみてください」
アルマちゃんがメイド服のポッケから取り出したのは、小さな蓋つきの壺でした。中身は今言ったように傷薬らしいですね。蓋を開けた瞬間、結構強めの香りが漂ってきました。
非常にありがたいのですが、彼女はこれから先の人生もずっと雑用係なのであなたが持っておいた方がいいのでは? ……いや、ここは下手に断らない方がいいとみました。
「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
「はい! 早くお怪我を治して、またお話をしましょう!」
アルマちゃんは元気に手を振ってから王城へと戻っていきました。
よし、ではこちらも怪我を治すために動くとしますか。医務室が使えない以上、この国で身体を回復させるために最適な場所はもちろん神殿です。
そこにいるオドルーに頼み込めばあっさりと治してくれるでしょうし、なんならこっちの味方に引き込むことも出来ます。
そろそろ出血多量でくらくらしてきたので急いで向かいましょう。
いざ神殿へ! 助けてオドルモン~!
なお、神殿で三時間待ってもオドルーは帰ってこなかった模様。
……Why?
なので、ありがたくアルマちゃんの薬草を使わせてもらいました。
うーん、よく効きますね。
ですが、これだけでは傷を治せないのも事実。
仕方がないので王城の医務室に夜中忍び込み、使える薬を盗んできました。
やれやれ。序盤は結構良い感じだったのに、ここにきて急にグダグダになって来ましたね……。
まぁ、RTAとは総じてこういうものでしょう。今回は運がなかったと切り替えて、次のパートで挽回してみせます!
次回に乞うご期待!
それじゃあ、サラダバー!
後書きで申し訳ないのですが、ダストン様より推薦を頂きました。
ありがとうございます! 非常に嬉しいです!
またそれに加え、いつも誤字報告をして下さる皆さま、本当にありがとうございます。
皆さまの応援。これを励みに完走まで頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!