ベテラン勇者がRTAする話   作:赤坂緑語

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勇者回です。時系列的には少し遡ることになります。
前回との温度差があまりにも酷すぎ、書いている自分が頭おかしくなって風邪をひきそうになりましたが、気合いで耐えきりました。

読者の皆さんも風邪とコロナウイルスには十分気を付けてネ!


聖なる祈りの剣(下)

 

 いい湯だな~♪ いい湯だな~♪

 

 あっ、どーも。天然の露天風呂から全裸でお送りいたしております。

 勇者で~す。

 

 前回、クソ雑魚ナメクジのゾルディン相手に逃亡を選択するという走者にあるまじき失態を見せ、さらには傷を手早く治したいばかりに神殿で三時間も無駄にし、挙句の果てに傷を治し切れなかったというガバを行いました。

 

 もう再走まったなしのやらかしっぷりですが、私はまだへこたれていません。というか、いつもより徹底的にチャートが壊れたせいで逆に結末を見届けたくなったといいますか。もしかしたら新しいルートを開拓出来るかもしれないという一縷の望みに掛け、今こうして温泉につかっています。

 

 なんで温泉なのかって?

 

 フフフ、それはもちろん趣味……ではなく、効率よく傷を治すためです。

 

 この温泉はアルカディア山脈の頂上にある天然の露天風呂でありまして、下に霊脈が通っているので湯船につかっているだけで傷が治っていくという優れものなのです。

 滅多に人の来ない秘境ですし一息つきたい時にもってこいなのですが……欠点があるとすれば、王城からかなり離れてしまうことですかね。

 

 瀕死の身体に鞭打った大ジャンプと偶然にも空を飛んでいたワイバーンの背中を拝借することで何とかたどり着きました。

 

 標高が高い場所にあるだけあってかなりの絶景で心が癒されるのですが、こうしている間にも時計の針は進んでいます。

 走者として焦る気持ちはあるのですが……まぁ、私が抜けた分の穴埋めはクリスティーナがやってくれるでしょう。

 いつもの流れであれば今頃城下でゾルディンの証拠集めをしているはずなのに、おかしなことになったものです。

 

 今回のチャートがどれほど乱れているかを説明するため、一応これまでやっていた流れを説明しておきますね。

 

 ①私がゾルディンの正体を暴く。

      ↓

 ②クリスティーナと一緒に彼が魔人であるという証拠を握っているエリナという少女を保護して証言をさせる。

      ↓

 ③焦ったゾルディン、公衆の面前で怒りの大変身。

      ↓

 ④変身したゾルディンがごちゃごちゃ喋っている間、クリスティーナに父を殺した犯人がゾルディンだと吹き込む。

      ↓

 ⑤クリスティーナ怒りの覚醒。ついでに聖剣も覚醒してどこからともなく飛来し、勝手に彼女の手に収まる。

      ↓

 ⑥勇者私と聖騎士クリスティーナの二人でゾルディン蹂躙。

      ↓

 ⑦ハッピーエンド。

 

 

 まぁ、こんな感じでしたね。ちなみにクリスティーナの好感度を上手い具合に上げていればこの後魔王討伐に付いて来てくれたり、女王になってこちらの支援を全力でしてくれるわけです。

 聖剣はデメリットもありますが、クリスティーナのメンタルを鍛え上げればその支配から抜け出すのも可能なので、是非とも覚醒させて仲間にしたいところではあります。

 

 さて、これまでの前例と今回のイレギュラーな状況を加味した上で私は今後どのように立ち回るべきか――

 

「……あ~、癒されるんじゃぁ……」

 

 すいません。あともうちょっと露天風呂堪能してから考えますわ。

 

 

 

 

 はい。

 

 最後まで見守るといいつつ、若干諦めムードの漂っている本チャートですが、一応最低限の努力はするつもりです。

 今からゾルディンに仕掛けても勝ち目がないので、一先ずは元のチャートでもやっていた武器調達に乗り出すとしましょうか。

 本来であればゾルディンの証拠探しと並行してやるものなんですが、そっちをクリスティーナに丸投げした以上、こっちに注力するしかありません。

 

 というわけでやって参りました城下の鍛冶屋さん。

 

 もちろんバレてはいけないので変装はしています。そこら辺で盗んだローブを羽織っただけの雑な変装ですが、この地域はゾルディンの証拠探しルートから外れているので誰かと出くわすようなこともないでしょう。

 

 私がここでするのは先程も言ったように武器の調達です。ゾルディンの魔剣に対抗できるだけの装備がないと流石に厳しいので、この鍛冶屋さんのところにやって来ました。

 

「ごめんくださーい」

 

 カン、カン、カン、

 

「……なんじゃ、お前さん」

 

 一心不乱に金槌を振り下ろしていた白髪で筋骨隆々のおじさんがこちらに振り向きます。

 彼の名はアンドリュー。

 このアルカディア王国で一番の鍛冶屋と言われており、事実彼によって鍛えられた武器は終盤まで安定して使えることに定評のある割とすごいお人です。

 

 というわけで――

 

「武器貰いますね。もちろんタダで」

「なんだと?」

 

 はい、相手が戦闘態勢に入る前に首チョンパ。このおじさん、分厚い筋肉が物語っているようにかなり強いので勝負を長引かせたら最悪こちらが死んじゃいます。素早く先制攻撃で首を落としましょう。

 

 死体を地下に手早く葬ったら早速物色開始です。

 

 なんと! 今ならアルカディア一の鍛冶職人の武器が無償でもらえるチャンス! これを見逃す手はないでしょう。

 

 剣、槍、弓、そして彼が使っていたハンマー。どれも非常に魅力的ですが、やはりここは私の戦闘スタイル的に剣を選んでおくべきでしょう。

 火力が高くとも下手に重い武器を選んでしまうと回避に支障が出てしまうので軽くて固い直剣を一本頂きました。

 

固い決意の剣(デュランダル)

 

 アンドリューが鍛え上げた中でも最上級の剣であり、聖剣や魔剣と打ち合っても折れないという頭の可笑しい耐久度を誇っています。

 伝説の騎士が使用していた剣をモデルに作られたとかなんとか、色んな逸話がありますが……まぁ、私は性能重視なのでそこら辺の歴史はどうでもいいことです。

 

 さて、武器は手に入れたので早速ゾルディンを殺しに行きたいのですが、その前に奴の取り巻きを始末しておかないと面倒なことになります。

 

 ゾルディンはこのアルカディア王国内にたくさんの部下を潜入させておりまして、そいつらを放置しておくと奴との決戦最中にちょっかいを掛けてきて面倒なことになるんですよねぇ。

 

 敵の潜伏先はすべて把握しているので今からそちらを潰しに行きたいと思います。

 

 ちなみに、この雑魚処理はクリスティーナの聖剣が覚醒すればまとめて焼き払えるので本来は必要ないのですが、クリスティーナの現状を把握できない今、聖剣を頼りにしたチャートを組むのも危険です。

 最悪私一人でゾルディンと戦うことになった際、魔族の大軍も同時に相手できるほど火力に自信がないので、地道に不確定要素を潰しておくことにしましょう。

 

 まったく。どうしてこんなことになったのやら。どのミスからこうなったんですかね? クリスティーナの好感度調整をミスった時? もっと遡ってアルマちゃんでガバをやらかした時? ……はぁ、それくらいのガバは見逃して欲しいものですけどねぇ。

 

 閑話休題。

 

 はい。ではこれより気を取り直して魔族狩りを開始したいと思います。

 目標撃破個体数は35体。

 連中は城の衛兵や酒場の店員、果ては娼婦などありとあらゆる職業の人間に擬態しているため、的確な個別撃破が必要となります。

 目標タイムは三日です。魔族狩りだけではなく、王城をクリアした後通ることになる道の整備もついでこなす予定です。

 

 迅速に、手早く。決して一般人を間違えて殺さないように気を付けながら一撃必殺で仕留めていく。

 

 それではこれまでのガバを帳消しにするための魔族撲滅RTAはーじまーるよー!

 

 

 

「やぁ、魔族さん。人間のふりは楽しいかい?」

「……何だテメェ?」

 

 酒場でいつも飲んだくれている(ふりをしている)魔族に話しかけ、その顔の特徴が記憶のものと一致した瞬間に首チョンパ。

 我ながら鮮やかな手口で仕留められました。

 死体は放置しておけば勝手に魔族に戻るので大丈夫です。暇があれば神殿近くに置いておくといいでしょう。聖域の力で浄化され、骨一本も残らなくなるので。

 

「こんにちは」

「なによ、アンタ」

 

 路地裏でたむろしていた情報屋(のふりをしている)気の強そうな女性の心臓をブスリ。ゾルディンの情報網の一つなので、早めに処分しておくことをお勧めします。

 

「ちーす」

「あぁ?」

 

 ガラの悪そうな男に話しかけ、ハートキャッチプリキ○ア。魔族は人間と同じで首と心臓が弱点なのでそのどちらかを潰すと良いでしょう(今更)。

 

「お勤めご苦労様です」

「うん? ……あぁ、どうも」

 

 ごく普通の衛兵っぽい兄ちゃんの首をチョンパ。仲間が来る前に死体を神殿の裏に破棄しておきます。いやー、ほんとにお勤めご苦労さん。

 

「雑魚処理とチャートの再構築。両方しなければならないってのが、走者の辛いところだな」

「何言ってんだお前?」

 

 山賊としてアルカディア王国を狙う予定だった集団をまとめて討伐。人間も混じっていましたが、山賊は一般人ではないのでセーフでしょう。

 というか、この連中は次のエリアに移動するときに襲い掛かって来るモブなので、いまのうちに始末しておいて悪いことはないです。

 

 

「ていうか、今にして思えば」

 

 首チョンパ。

 

「ゾルディンって意外と優秀な奴なんですよね」

 

 心臓ズブリ。

 

「きちんと王城を内部から掌握しているし」

 

 首チョンパ。

 

「自分の部下も抜かりなく配置している」

 

 心臓ズブリ。

 

「魔剣の能力に気づけないのも、裏返せばこれまで殆ど致命傷を負ったことがないということだし」

 

 首チョンパ。

 

「聖剣の破壊という大事な任務も任されている」

 

 心臓ズブリ。

 

「総合的に見ればそこそこ優秀なんですよね。まぁ、私からすれば雑魚ですが」

 

 首チョンパ。

 

 さて、アルカディア王国の至る所に潜んでいるので移動が大変です。もう一日が終わろうとしています。

 とは言え、魔族討伐だけでは芸がないので、ついでにアルカディア王国の浄化も済ませておくことにします。

 貧困街で流行っている麻薬の撲滅や、元凶の討伐。悪徳業者を肉体言語で調教し、王国の癌を排除していきます。

 これをやることによってアルカディア王国から受けられるバックアップが強化されるので決して無駄な作業ではありません。

 

 では、この調子で魔族討伐と城下の掃除をこなしていくことにします。

 三日後にお会いしましょう。サラダバー!

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ………………

 

 

 ……

 

 疲 れ た

 

 けど、何とか作業は終了しました。潜伏していた魔族は全員討伐。王国を腐らせていた元凶共も大方駆逐しておいたので、後は頭のいい人が王座に着けばそこそこいい国に生まれ変わるでしょう。

 

 さて、ではやることもなくなったのでクリスティーナの進捗状況を確認しておくことにしますか。と言っても、直接彼女に聞きに行くような野暮な真似はしません。何故かって? 

 

 ……ギリギリになって到着した方が好感度上がるからですよ(ゲス顔)。

 

 というわけで、やってまいりました城下第四地区の南通り。アルカディアの掃き溜めと言われている素敵な場所ですね。相変わらず陰鬱な空気で満ちていますが、元凶は殺しておいたので後は国の支援が入れば普通の地区に生まれ変わるでしょう。

 

 ここで確認したいのは先程も言ったようにクリスティーナがゾルディンにどれほど迫れているかという進捗の確認です。

 ゾルディンが魔人であるという証拠を握ったエリナという少女がいるのですが、その子にたどり着くことさえできていればこちらの勝ち確です。

 

 さて、エリナちゃんは(死んだ瞳で)元気にしてるかな―――――って、あれ?

 

『いいか? 俺の事を尋ねて来た奴がきたら直ぐにこのベルをこっそりと鳴らせ。そうすりゃあ、直ぐに駆け付けてやる。分かったか?』

「……はい」

 

 ゾ、ゾゾゾゾゾルディン⁉

 

 あ、あっぶねぇ……あと少しで見つかるところでした。急いで「夜影音脚(シャドウアーツ)」を発動させ、近くの茂みに身体を隠します。

 最悪、戦闘もやむを得ないと覚悟していたのですが、ゾルディンはエリナ嬢とコソコソ何かを話し合ってからどこかへ飛んで行きました。

 

 ……うーん、会話の内容は分かりませんでしたが、何やらマズイ事態になって来たのは理解できます。

 これは、いまのうちにエリナ嬢を始末しておくべきですかね……?

 

 いや、そうするとゾルディンの化けの皮を剥ぐ証拠がなくなります。ここは慎重に立ち回るべきでしょう。暫くここを見張って全体の流れを把握する必要が――

 

 

 

 

 

 

『そこで何をしているの?』

「――ッ⁉」

 

 

 

 

 

 

 私の隠密が暴かれた⁉ それに、この中性的な声は――

 

 直感に身を任せてその場から跳躍し、背後から声を掛けて来た奴の後ろに着地します。顔を上げた私の目の前にいたのは、予想通り途轍もなく厄介なアイツでした。

 

『いい反応だね。ゾルディンが手こずっているだけある』

「……何者だ?」

『あれ? ボクのこと知らないんだ。じゃあ、一応自己紹介しておくね。ボクの名前はユリウス。皆からは幻郷のユリウスって言われている。一応、魔将騎序列()()()をやらせてもらってるんだ。結構凄いでしょ?』

「……」

 

 白色の髪と眠たそうな瞳が特徴的なこのショタは、本人が名乗った通り、ゾルディンを負かして第三位まで上り詰めたマジの実力者です。

 

 幻郷のユリウス。

 

 厄介なのはその能力なのですが、本人も冗談抜きで強いです。正直、終盤の武器でようやっと倒せるレベルのヤバ敵です。

 確実に倒せる攻略法があるのですが、それをするために必要な肉壁(仲間)はいないし、今の状態では絶対に勝てません。

 

 

 

 はーい、詰んだ。

 

 ねぇ、なんでここにいるの? 君、今頃は果ての森でエルフ狩りしている最中だよね? 金髪巨乳のエルフたちを殺しまくってる最中の筈だよね! さっきも言いましたがゾルディンよりも強いんですよコイツ! なんで! そんな実力者が! 超序盤にいるんすか⁉ 初心者狩りか? まだ右も左も分からない初心者を狩りに来たのか⁉ 外道か貴様! ぶち殺すぞテメェ! いや勝てないんだった!

 

『……ふーん、ボクとの実力差を悟れるくらいにはやるみたいだね。表情に変化はないけど、焦りを感じるよ。力は抑えているつもりだけど、中々どうして鋭いじゃないか』

「……」

『まぁ、そう警戒しないでよ。今日は殺し合いをしに来たわけじゃないからさ』

「……なに?」

 

 えっ、マジで? なんだぁ、びっくりさせないでくださいよ。マジで心臓を吐きそうだっ――

 

『ただし、君が目的なのは間違いない。……まったく、元三位だからって調子に乗り過ぎだよね、あのおっさん。今の三位は僕なのに、魔王さまへの報告は任せただとさ。怒られるのが怖いからって、後輩に頼むなっての。全く』

「……話が、見えないんだが」

『うん? 今言った通りさ。ボクは君の事を調査し、レポートに纏めて報告するためにやって来た。だから、その能力を正確に把握したいのさ』

「……つまり」

『そう。つまりだよ。これから君と()()()()()()。ちょうどエルフ狩りにも飽きていたところだし、楽しませてくれると嬉しいな』

「……」

 

 あっ、死んだやつだこれ。

 

 いやー、想定外にもほどがありますわ。私、一人でコイツと戦ったこと数えるくらいにしかないんですよね。大抵は仲間に任せていたので。

 苦手なんですよ。攻撃手段厭らしいし、強いし、面倒だし、もう嫌だ。

 

 あーあ、良いところまで行ったと思ったんだけどなぁ……今回は此処までの様です。また次回のRTAにご期待ください!

 

 では、サラダバー!

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 ………………

 

 

 

 ……

 

 

『なかなかやるね。今日のところはこれくらいで勘弁しておいてあげるよ。もっと強くなってからボクに挑むことだね。楽しみにしているよ』

「……」

『これからゾルディンと戦うことになると思うから、傷も治しておいてあげる。精々、この後も気合い入れて頑張ることだね。それじゃあ、さようなら』

「……」

 

 

 生 き て た

 

 ユリウスが手加減していたこともありますが、私生きていました。たまげたなぁ……絶対死んだと思っていたのですが。

 ま、まぁ、これが走者の実力ってことですよ(震え声)。

 あの調子に乗ったショタの出現条件はいまいちわかりづらかったですが、私のガバが原因であることは何となく分かりました。

 

 もうほんと、あれですね。ガバったら駄目ですね(当たり前)。

 

 文字通り、痛い目に合ったのでこれから先は絶対にガバをしないことを此処に誓います! ワタシヤクソクハマモルヨ。

 

 さて、あの無駄に強い三位のせいで大幅に時間を取られてしまったので、直ぐに動き出しましょう。あいつの作った異空間の中で移動しながら戦っていたので一瞬ここがどこだか分からなくなりましたが、王城付近であることは直ぐに分かりました。それと同時、ゾルディンの魔力と何かがぶつかり合っていることも。

 

 この気配は……聖剣、ですかね。これまで色々とありましたが、一先ずは第一目標を達成できて良かったといいますか。

 

 崩壊しかけていたモチベーションも少しばかり回復しました。ゾルディン程度に手間取る聖剣とクリスティーナではないと思いますが、念のため援護に向かいましょう。

 方角的には神殿の方ですね。聖なる神殿で何をしているんだとは思いましたが、恐らく聖剣を覚醒させたところを襲撃されたのでしょう。うーん、ゾルディンさんやけに鋭くない? 第六位の癖に良いムーブをしています。

 

 何だか無性に腹が立ちますが、そんな事を言っている間に神殿に到着しました。

 だけど、中にはオドルーおじさんがいるだけで、目当てのゾルディンと聖剣はおらず。

 なんで?

 

 

「お、おぉ! 勇者殿ではありませんか! ご無事で何よりです!」

「オドルー殿、再会の挨拶はまた後で。それよりもここで魔力の波動を感じて駆け付けた次第なのですが、争っていた者たちはどこへ?」

「逃げたゾルディンを追ってクリスティーナ殿が神殿を飛び出していったのです! それに、先程アルマ殿までも……」

「アルマ殿? ……まぁ、事情は分かりました。僕も直ぐに追います」

 

 どうしてそこでアルマちゃんの名前が出るんだとは思いましたが、色々とぐちゃぐちゃなチャートですし、クリスティーナとの関係に変化があったのかもしれません。深く考えている暇もないのですぐにゾルディンたちの後を追うことにします。幸いにも血痕が地面に残っていたので足取りを追うのは難しくなかったのですが――

 

「で、でも……最後にお役に立てたなら……本望です」

 

 アルマちゃん、なんで魔剣に貫かれているんですかねぇ……。

 

 今までこんな場面を見たことがなかったのでマジで困惑してしまいます。個人的にはクリスティーナを守ってくれただけでも特大のファインプレーだと褒め称えたいところではあるのですが、肝心のクリスティーナの表情を見る限り、そういうわけでもなさそうです。

 

 暗く、淀んだ瞳。

 

 私はあの瞳を知っています。あれは確か、恋人になるまで好感度を上げた状態で彼女に全てがバレてしまった時のこと。

 最愛の男の正体が、己の父を殺し自分を誑かした道化だったと知った時の彼女の顔といったら……本当に最高の一言でしたね。

 

 ただ、その後聖剣を私物化した彼女によって心身諸共ボコボコにされたのは割と洒落にならない記憶です。いやー、達磨にされてからの監禁ルートはもう勘弁願いたいですねぇ。マジで性癖が歪みそうでした。

 

 今の彼女からはその時と似たような雰囲気を感じます。もう何もかもが嫌になり、自暴自棄になってしまっている状態。走りながらよくよく辺りを観察すれば、彼女の母上であるアウラの塔が無惨に破壊されているではありませんか。

 あー、これは闇落ち案件ですわ。折角聖剣が覚醒したのにこんなところで何の役にも立たない闇落ちルートはマジで勘弁願いたいのですが、もう手遅れっぽいですねぇ。

 

 だるっ

 

 もうあれじゃあ、立ち直れないでしょう。この時期のクリスティーナはメンタル激弱なので、自力ではほとんど何もできません。まぁ、思春期の多感な時期をずっと神殿や自室にこもっていれば仕方がないことだとは思うのですが、私と旅に出て色んな経験を積み、仲間と出会ってメンタルを鍛えられるまでは本当に聖剣による防御カウンターくらいしか取り柄がないのです。

 

 だというのに、それすらできなくなるとは――

 

 はーつっかえ。

 

 あれだけ頑張ったのに闇落ちかよぉ。クリスティーナはかなり好きなキャラですが、流石にそれはガン萎えです。今までの努力を全てパーにされた気持ち、分かりますか? 別に彼女抜きでも攻略は出来なくもないのですが、それでもこの一週間が水の泡と消えた徒労感だけは拭い去れません。

 

 駄目だ。何か、凄い腹立ってきた。

 

 この怒りは全ての元凶である(ブーメラン)ゾルディン君にぶつけるしかないですねぇ。

 

 よっしゃ! 今度こそ死ねやゾルディン! 

 

『テメェは……⁉』

「再会を喜びたいところだけど……悪いね。今は機嫌が悪いんだ」

 

 ゾルディンを森に蹴り飛ばし、新しく手に入れた剣を構えながらチラリとクリスティーナを見ます。

 うーん、見た感じアルマちゃんはもう助からないですね。私は敵を効率的に葬り去るための脳筋ステ振りですし、クリスティーナは頭脳全振りです。というか、信仰奇跡全振りのオドルーでもこの傷は治せないでしょう。

 

 私の登場で一瞬クリスティーナの瞳に光が戻りますが、治せないと告げた瞬間にまた闇落ちの目になりました。

 

 うん、ドンマイケル。

 

 アルマちゃんは尊い犠牲でしたねぇ。あんまり関わりがなかったうえに有用性を見いだせないので全く悲しめないのですが。

 

 まぁ、クリスティーナのことはもう諦めるしかないでしょう。最低限のフォローをしてからゾルディンを追って森に凸ります。

 

『よぉ……前会った時よりも強くなったんじゃねぇか、テメェ。さっきの蹴りは中々痛かったぜぇ』

「あなたが弱くなっただけじゃないのか? 前会った時よりも小物感が増したように感じる」

『言ってくれるじゃねぇか……!』

 

 ゾルディンが怒り散らしていますが、実は彼の言葉もあながち間違いではありません。

 確かに私はこの三日間で大分強くなりました。

 それも当然という話で、三日間殆ど休まずに人に擬態した魔族を殺し、山賊や裏社会の連中を皆殺しにしてきたのです。自然と闘いの直感が研ぎ澄まされますし、筋力もそれなりに上昇しました。

 

 加えて、昨日の昼頃から先程まで戦っていた第三位。

 業腹ですが、アレとの戦闘で大分全盛期に近い身体捌きが出来るようになりました。

 武器も新調したことですし、もう負ける要素はありませんね。

 

 その証拠に――

 

『クッ、テメェ! マジで何をしてやがった⁉ 前と比べものにならねぇじゃねぇか!』

「四六時中修行をしていた、と言ったら信じるかい?」

『クソが! 信じるしかねぇだろうが!』

 

 滅茶苦茶ゾルディン相手にゴリ押せています。うーん、第三位を練習相手として呼び出すこのルート、意外に良いかもしれませんね(掌返し)。

 結果的に強くなれたので効率よくボス戦を進められる可能性があります。

 細かい出現条件がよく分かりませんが、それは後で自分の行動を振り返って調べるとしましょう。

 

「この間は散々にやられたからね。今度はこっちの番だ」

『クソッタレがァァァァァァァ!』

 

 ゾルディンが吼えていますが、所詮は負け犬の遠吠え。このまま一気に畳み掛けましょう――って、あれ?

 

 何か急にゾルディンの攻撃力が上昇したような……いや、気のせいですね。この異常に固い剣が軋むくらいの斬撃を放って来たような気もしますが、気にせずに止めを刺しましょう。これ以上長引かせて良いことはありません。早く止めを……止めを……止めを……止めを……

 

『ハァ、ハァ、ハァ、俺は死なねぇ。俺は死なねぇぞぉォォォォォォォォ!』

「……」

 

 あー、忘れてましたわ。

 

 この世界でも最上位に食い込む優秀武器、魔剣ゾラム君の事を。

 持ち主がピンチになればなるほど力を発揮してくれる健気な魔剣君の事を。

 

 アアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 クソが! ゾルディン、お前の事は信じていたのに! 気軽に倒せる噛ませ犬だと信じていたのに! 無駄に優秀な魔剣なんか使いやがって! クソ! 羨ましいじゃねぇかこの野郎! これ、一撃でも掠ったら死ぬ奴じゃん! もー、倒すの面倒になったよぉ……。

 

 はいはいはいはい。分かりました分かりました。

 

 もう私は誰も信じません。私が信じるのは私だけです! 聖剣も魔剣も知ったことか! 私はただ自分だけを信じて突き進む! 今までもそうして進んできたじゃないか! これから先もそうするだけのことです。

 

 さぁ、掛かって来いゾルディン! お前は私が一人で倒してやる! 

 あっ、でもその斬撃はちょっとまずいので止め――

 

 

 

 

 

 

聖なる祈りの剣(ラスト・サンクチュアル)

 

 ピンチだった私を救う光。

 それは倍以上の威力になったゾルディンの斬撃を容易く受け止めました。

 こ、この頭がおかしい防御力はもしかして――!

 

「その戦い、私も混ぜてもらいましょうか」

 

 私の背後から聞こえる凛とした声。振り向いた先には、神官騎士の鎧を身に纏い、光り輝く剣を手に持った美しい少女がいました。

 

「友の弔い合戦です。聖剣の真なる力、ここで思い知るがいいゾルディン」

 

 彼女は――絶望の淵に居たクリスティーナ・エヴァートンは自力で立ちあがった。そして、己の自我で聖剣を支配し、堂々と二本の脚で大地を踏みしめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クリスティーナ。君の事を信じていたよ」(熱い掌返し)。

 

 

 

 いやー、私は最初から信じていましたよ? クリスティーナが自力で這い上がってくるって。

 なんたって聖騎士ですからね。そんじょそこらのヒロインとは格が違います。私が何かを施すまでもなく、メンタルが出来上がっているんですよ。

 

 ゾルディンの斬撃で死んだと思った皆々様。あれもね、計算ずくだったんですよ。これが私のリカバリーだ! フハハハハハ! 勝ったな!

 

 最強の盾も手に入れたことですし、ここから一気に逆転と行きますか! 

 

 

 私たちの戦いはここからだ!

 

 




掌くるくるし過ぎて千切れないか心配……。

というわけで(?)現在の進捗具合を報告しておきますね。

真・聖騎士ルート:解放
闇落ちクリスティーナルート:60%
色魔クリスティーナルート:9%


勇者「理論値やん」
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