それから、誤字報告をしてくださった方、本当にありがとうございました。
どーも、勇者ですぅ。
私は今、部屋の電気をつけたまま眠って(いるふりをして)いるわけですが……これはもちろんわざとです。
本当は国王を暗殺したくてうずうずしているのですが、ここで焦ってアリバイ作りに手を抜くと後で非常に痛い目に合います。
面白みのないパートですが、じっとこらえましょう。
「……」
とは言え、私自身もう狸寝入りを始めて二時間ぐらい経つので、本気で眠くなってきました……。早く来てくれないと私本当に眠ってしまいます。仮にここで眠ってしまった場合、国王暗殺も難しくなるので、その時にはスパッと諦めてこの城の連中を皆殺しにしてから旅に出ますわ(サイコ)。
コンコンッ
おっ、この控えめのノック音は……やっと来てくれましたか。
いやぁ、割とここは運の要素が大きくて、早く来てくれることもあれば遅いこともありの辛いパートです。まぁ、来てくれることには変わりないので別に構わないのですが。
あっ、ノックに関しては眠っている(ふりをしている)ので完全無視で。
「……失礼します……」
無視すること2分。
躊躇いがちに扉が開かれ、消え入りそうなほど小さな声で挨拶をしながら人が入って来ました。
この王城でメイドをしているアルマちゃんです。栗色の髪をした普通の女子で、これといってフラグも何もない無害な少女です。
彼女が私の部屋にやって来た理由はもちろん、つけっぱになっている電気を消すためです。この世界でも電気は大事――というか、神がもたらしたという謎の宝物から絶えず供給してもらっている貴重なエネルギー源なので、無駄にすることは文字通り罰当たりなのです。
よって、じゃんけんで負けた彼女がこうして渋々夜遅くに謎の男性の部屋に入り込み、こっそりと電気を消しに来たという訳です。
ちなみに、どのルートにおいても必ず彼女が電気を消しに来ます。
私のキャラ選択でさえ確率変動があるというのに、この子だけはずっと変わらないんですよねぇ。
……どんだけじゃんけん弱いんだろう。
「すいません……お部屋の電気、消させていただきますね……」
本当に耳を澄まさなければ聞こえないくらいの小声で話しながら忍び足で電気を消しに来るアルマちゃん。
じゃんけんに負けて嫌々来たはずなのに、この気遣い。
本当にいい子やでぇ~
看護師さんとか向いてるんじゃないかな?
ちなみにこの子、わざとかけ布団を雑に重ねていた場合、わざわざ直してくれます。
控えめに言って天使かな?
今回も是非直してもらいたいところではあるのですが、残念ながら今の私はRTAとして現世に降臨しています。
無駄なアクションは省いていくと宣言した以上、それは守って行きたいと思います。
「……おやすみなさい。勇者様」
パチッ、という音と共に部屋の電気が落ちました。
さて、そろそろ動き始めますか。
アルマちゃんの到着時間が遅かった分、それなりに急いで動いた方が良さそうです。
まずはアルマちゃんが背中を見せた瞬間に飛び掛かり、思わず見逃しちゃうような手刀を首筋に一発。
良し、今回も綺麗に決まりましたね。意識を失ったアルマちゃんを私の代わりにベッドの中に入れます。
これでアリバイは完成しました。
夜中のうちに何度か見回りが来ますが、これでそちらは回避できるでしょう。
彼らは私の事をそれなりに恐れているため、ベッドに膨らみさえあればそれだけで寝ていると判断します。
アルマちゃんも国王の首をチョンした後に自室のベッドに戻してあげれば何の疑問も抱かずに次の日を迎えてくれます。
さらに部屋の中に仕掛けられている監視魔術に関してですが、これはアルマちゃんが電気を消しに来た時点で既に無力化したも同然です。
何故なら、彼女こそが別室からこの部屋を監視していた人物の一人であり、さらに彼女と一緒に見張っているはずの同僚はアルマちゃんに部屋の消灯を押し付けた段階で眠りについているからです。ガバすぎやしませんかねぇ……。
まぁ、どれもこれもベテラン勇者である私を相手にした時点で詰んでいたと考えた方がいいでしょう。経験の差ですよ。経験の差。だいたい、周回一周目の奴が走者に楯突こうなど片腹痛い。こちらが何回ここの脱出で詰んだと思ってんだ(半ギレ)。
おっといけない。気を抜くとこれまでの愚痴をこぼしそうになってしまいますね。今は取り敢えず、国王を殺しに行くことだけを考えましょう。あの屑を殺せば多少は気が晴れるというものです。
「じゃあ、行きますか」
では早速国王の首をへし折りに――は行きません。
この城の人たちは意外と馬鹿ではありません。指紋を残そうものなら即座に逮捕されて打ち首にされます。アリバイ(アルマちゃん)があるとはいえ、やはり犯罪をするなら誰かに擦り付けるのが一番効率的でしょう。
というわけで、今から殺人に使用する凶器を取りに行きます。
部屋の窓を開けて、壁に張り付きながら横に高速移動で目的地までGO!
……多分、今の私は相当気持ちが悪い動きをしていると思いますが、タイムの為です。見栄えの事は後回しにしましょう。
そうこうしているうちに城の一番東の塔にやって来ました。ここまで来たら後は楽です。パッと手を放して下に落下し、重力を味方に付けながら真下にいる警備兵にダイレクトアタック!
バタンキューした彼の懐からこの塔の鍵を入手し、扉を開けます。
はい、着きました。此処が武器庫ですね。
中には驚くほどたくさんの武具たちが眠っていますが、今回必要としているのはとある3つのアイテムだけです。
周回初心者の人なんかはここで強そうな武器を片っ端から奪う愚行に走りがちですが、武器を仕舞う場所がない上に本当に強い武器は中盤以降に密集しているので大した意味はありません。直ぐに盗みがバレてあの聖女に八つ裂きにされるのがオチです(経験談)。
必要最低限の武装で乗り切るのも、走者の腕の見せ所です。
「おっ、あった、あった」
武器庫に侵入してからおよそ5秒。場所も覚えているので当然ですが、我ながら良いペースです。先程までの遅れを取り戻したといえるでしょう。
流れるような動きで真っ暗な武器庫の中から「盗賊王の剣」と「盗賊王の指輪」を装備します。そして最後に「盗賊王のフード」を被ってから外に出て扉の鍵を閉め直し、警備兵の懐に鍵を戻したら第一フェーズ終了。
さて、これでようやっと国王を殺すための準備が整いました。
では早速――暗殺開始。
ステータス自体は初期も初期ですが、私にはこれまでの蓄積があります。
魂まで刻まれた不滅の技術。
そのうちの一つを使わせていただきたいと思います。
【
気合いを入れて小さな声で呟くと同時、私の足元を闇色の何かが覆い隠し、この身のうちが溢れ出るキラキラなオーラも包み隠してくれました。
暗殺キャラなら習得必須のスキル、「
カッコいい名前に負けず、このスキルはかなり有能です。
後々仲間にする予定の暗殺者の少女が教えてくれる隠密系のスキルなのですが、本当にマジで強いのでオススメです。足音もしないし、気配もしない。自分の「存在」そのものを隠すので、この王城レベルの敵であればぶっちゃけ誰にも気づかれません。
流石に目の前でスクワットしたら気づかれますが(経験談)
余程の事がない限りはバレません。みんなも楽したかったら取ろうね!
さて、実家のように隅々まで知り尽くしている王城の中はステルスで走っている間、簡潔にですがどうして国王を暗殺する必要があるのかを説明しましょう。
まず、この巨大な城壁で囲まれた都市国家アルカディアの国王であらせられるクリス陛下は――大変お馬鹿であらせられます。
はっきりと言ってしまえば愚王。無駄にプライドだけが高く、非効率的極まりない思い付き政策で日々国民を困窮に追い込んでいるマジの無能であり、誰からも好かれていません。
この時点でアルカディア王国は詰んでいるも同然ですが、困ったことに今の時代は魔王が放つ瘴気によって徐々に人が住める場所が削られている人類存亡の危機状態であります。
普通の常識ある王様だったら自分たちの民を全力で守るために城の門を閉じるか、人類のためにと軍隊を整備して攻勢に出るかの二択だと思うのですが、この無能王と来たら自分の城で愛人たちと日夜腰を振ることに精進しているという、実にうらやま――げふんげふん。けしからん奴です。
ぶっちゃけ、子供が多すぎて後継者争いが地獄絵図と化しているそうですが、攻略に関係なさそうなので全部を把握しているわけではありません。
あぁ、そういえば私を召還した冷血鉄仮面聖女クリスティーナも彼の娘でしたね。
しかも序列の低い愛人とかではなく、普通に正妃から生まれたガチの王女だったはずです。
流石に第一ではありませんでしたが、第三王女くらいの生まれだったとは思います。そんな人がどうして神官とかいう左遷も同然の古臭い職場で働いているのかと言いますと…………うーん、忘れちゃいましたね。
まぁ、攻略に差支えはないので一旦保留にしておきましょう。
閑話休題。
さて、国王を暗殺する理由について改めてお話しすると、彼がマジで邪魔だからです。
別に無能なだけなら無視して良いのですが、彼の場合、勇者を自分の支配下に置きたいという欲求が強く、こちらをもてなすためのパーティーを事あるごとに開いて来ます。男なんて皆酒と女に弱いんだとばかりに大量の税金をつぎ込んで事あるごとに此方を懐柔しようとしてくるのです。
これははっきり言って邪魔です。これ以上ないほど明確なタイムロスですし、こちらが得られるメリットは美味しい料理と美人とのワンナイトのみ。一見すると悪くない。どころかかなり良い。……というか実は一回だけこの堕落ルートを走ってみましたが、案外悪くありませんでした。
国王が働きたがらないのも分かります。
できればあのパラダイスをもう一度――
………………
…………
……
いやいや! いかんいかん!
今回の私はひと味違います! 美人の誘惑なんぞなんのその! こちとら(ホモ的な意味ではなく)魔王一筋ルートと決めているのです!
攻略中も無能な政策を繰り返してこちらへの支援を滞らせるおっさんに興味はありません。有能で、強くて、躊躇なく盾となってくれる人だけ放課後私の下に集いなさい。
閑話休題。
さて、国王暗殺の意味を解説し終えた辺りで丁度彼の自室前に到着しました。流石はベテランの私。時間配分も完璧です。
やはり腐っても王様。扉の前には普通に護衛たちが立っていますが、特に問題はありません。フードで姿は隠れているので「
「ん? ……おい、何者だ貴様! そこで止まれ! ここは国王陛下の寝室であるぞ!」
「……」
「ッツ、答えろ! 何者だ貴様!」
問われたからには答えなければなりませんね。
しっかりと声を低めのしゃがれた感じに調整してから名乗りましょう。
「……盗賊王、ジャリバン。この名に聞き覚えはねぇか?」
「なん、だと……?」
大きな槍を持った二人の兵士さんが良いリアクションをしてくれます。
「ば、馬鹿な……奴は死んだはずだ! 一か月前に処刑されて、間違いなく死んだ!」
「そ、そうだ! 生きているはずがない! 何者かは知らんが、そのフードを取れ!」
職務に忠実な二人がこちらに近づいて来たので武器庫から盗んだ剣を突きつけて動きを止めます。
「……この剣に見覚えはねぇか?」
「そ、それは! ジャリバンが使っていた曲刀⁉」
「武器庫に保管されているはずのそれを、どうして貴様が……」
「……まだ分からねぇのか? 蘇ったんだよ、俺様は」
実際にジャリバンがこんな露骨に悪い奴アピールする話し方をしていたのかは知りませんが、ここで重要なのは雰囲気です。
さて、時間短縮の為にもここはちょっと気合い入れて喋りましょう。
「――盗賊王、ジャリバン。冥府の底より恨みを返上するため此処に帰還した。俺を捕まえた奴。俺を裏切った奴。そして、俺を殺した奴。その全員に報いを受けさせ、この世界を血で染め上げてやるよ」
我ながら寒いことこの上ない台詞ですが、兵士二人はこんなんでもビビってくれます。
「ッ! ならば、ここでもう一度死ね! ジャリバン!」
「覚悟!」
あー、はいはい。雑魚乙。
此処の戦闘描写はぶっちゃけ要らないでしょう。突き攻撃を躱して一撃当てたらお仕舞いです。
ただし、殺すのは一人だけにしておきましょう。
もう一人はギリギリ死なないくらいの塩梅で生かしておきます。
後で盗賊王ジャリバンが復活した証人になってもらわなければなりませんからね。
アリバイ、大事。
「ぐわぁ!」
「ぎゃあ!」
はい、料理完了。
時間がないのでサクサク進めていきます。
ノックもせずに扉を思いっきり蹴り破り、寝起きドッキリを仕掛けます。そして慌てて跳ね起きた国王の首をチョッパし、これにて第二フェーズ終了。
国王暗殺完了! やったね!
でも先生は言いました。「家に帰るまでが遠足である」と。
私もその意見には賛成です。
取り敢えず、復活した盗賊王の犯行に見せるために国王の部屋中を荒らし、金目の物を貰っていきます。
ちなみに、ベッドの上には国王といたしていた全裸の女性が顔面蒼白で震えていますが、無視して構いません。彼女にも生き証人となってもらう予定ですので。
さて、一通り荒らし終わったので退散しましょう。
来た道を戻り、再び外壁から自室に帰ります。
はい、帰宅。
アルマちゃんは……変わらずぐっすり眠っていますね。良い子です。
帰って来たはいいですが、ここで面倒になるのが血だらけの曲刀とフードと国王陛下から頂いた金品です。
普通だったら始末に困るところですが……もちろん、その点も抜かりはありません。
このために併せて盗んでおいたのが「盗賊王の指輪」です。この指輪、実はかなり優秀でして、俗に言うアイテムボックスの役割を果たしてくれるんですよね。
と言っても、小型な分収納できる物のサイズや個数には限度がありますが、今身に着けている邪魔なものを仕舞えるくらいの余裕はあります。
殺人に使った凶器を全てこの中に仕舞え終えたらこの指輪とは暫くお別れです。思い切って呑み込みましょう。
自分の胃の中が一番安全って安西先生も言ってたしね!(大嘘)
ここまでの手順を終えたら、後はアルマちゃんを自室に返してあげて第三フェーズ完了と同時に任務完了となります。初日なので体力的には結構きついですが、そこは気合いで我慢してもう一度「
以前、どうしても耐えられなくなって送り狼になったことがありますが、純粋に罪悪感がヤバくて自殺したのでここでは紳士でありましょう。
良し、無事に送迎完了。
残りの時間は自室で睡眠に充てましょう。
休憩もRTAにおいては重要な要素です。
ここで失った体力を回復させ、明日に備えましょう。
では、今日のところは一旦おやすみなさーい。
ダクソのRTAを視聴していて、何だか自分もできる気になって挑戦したら初手で詰んだとさ(白目)