信じ難い快挙に作者は白目をむいています。
これも全て読者の皆さんのお陰です。これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!
※今回は、RTA色がかなり濃いです。
絶対にガバを許さないRTAはーじまーるよー!
どーも。勇者でっす。
今回も攻略を頑張っていきましょう。
さて、私は今事件現場から足早に離れていくクリスティーナの背中を追っかけています。これは重要なイベントシーンなので絶対に逃すわけにはいきません。
宰相さんは迷惑そうな目で私をチラチラ見ていますが、彼には後に多大な苦労をしてもらうことになるのでこの程度の視線は甘んじて受け入れましょう。必要経費という奴です。
クリスティーナ嬢の母親がいる辺りまで近づくといよいよ宰相殿によって追い払われそうになりますが、精いっぱい腰を低くして何とかこの場に留まりましょう。
そして、根負けした彼が立ち去ろうとしたところで話題を振り、最後に意味深なことを言ってから彼を追い返します。
これで上手くいっていればクリスティーナ嬢が――
「何か気に掛かることでもありましたか?」
よし! いい具合に食いついてくれましたね。彼女が話題を振ってくれなければ自分から振ることになりますが、その場合にはいまいち信頼度が上昇しにくいので気を付けて慎重に立ち回りましょう。
あくまでも、彼女自身が導き出した考えに沿う形で風呂敷を広げることが重要であり、ちょっとでもこちらが思考を誘導する仕草を見せればすぐに企みを看破され、呆気なく喉元を食い破られることになります。
賢すぎるというのも考えものですね。
しかし、彼女の方から歩み寄ってきたとはいえ、油断は禁物です。ここで彼女を焦らし過ぎない程度に悩んで見せましょう。
すると――
「……ルタ、此方を向いてください」
ふむふむ。良い調子ですね。良い感じに私の事を気にしています。
この調子でいけば――
「これからもあなたが感じたことを私に教えて欲しいと言っているのです。何でもいい。話して下さい。散らばったピースを繋ぎ合わせるのは私の仕事ですから、あなたには遠慮せずに情報をまき散らかしていただきたいのです」
(よし、来たァァァァ!)
この台詞が出ればほぼ勝確と言っていいでしょう。
これは彼女が私の発言をある程度信用するという証なので、これを機に自分の直感を盾にして好き勝手に情報を吹き込みます。
具体的には、「宰相怪しいんご」的な感じです。これが意外に効果的で、普段のクリスティーナであれば一顧だにしないでしょうが、国王暗殺という事件のデカさと犯人の不透明さが彼女の心に僅かな疑念を与えてくれます。
種は撒き終えました。
後は彼女が自分で自分の首を絞めてくれるのを待つのみです。
さらに、ここで母の下へ向かうクリスティーナの配慮によって一時的に自由の身になったので――ここで一気にタイムを縮めるために頑張りましょう。
まず、廊下の角を曲がって彼女の視線が切れたその瞬間に全力でダッシュ! 一気に階段へと近づき、そのまま恐れることなくジャンプします。大丈夫。あの狂人(クリスティーナの母)が閉じ込められているこの建物に近づく人物はいません。安心して階段を飛ばしまくり、一気に一階へと駆け下りましょう。
一階についたら角を右に曲がり、少し速度を落としてクールフェイスを装いながら廊下を淡々と進みます。ここはあまり足音を立てると警備兵たちに怒られるからです。別に足音消しても良いのですが、無音のまま全力ダッシュするのも絵面的にまずいので自重します。
廊下を渡り終えて最初の角を左に曲がったら再び全力でダッシュします。廊下はおよそ50mあるので2秒で駆け抜けましょう。えっ? 無理? じゃあ、RTA向いてないですね(無慈悲)。
冗談はともかく、この廊下を歩き終えて左に曲がったらようやく目的の場所につきます。
はい。医務室ですね。
クリスティーナ的には出来るだけ捜査の役に立つうえでそれなりに時間を稼げる場所を指定したつもりなのでしょう。普通だったら場所も知らない医務室にたどり着くには10分以上を必要としますが、生憎とこの身は走者。ただの一度も敗走はなく、ただの一度も無駄走りはないのです。
およそ15秒で到着したので、かなり時間を稼げたと思います。
この時間を無駄にしないため、この後の作業も高速で進めていきましょう。
コンコンッ
「はい?」
「勇者です。兵士さんは目覚めていますか?」
「いえ? まだですけ「ありがとうございました」ど」
はい、終了。
兵士が目覚めていないのは知っています。そういう風に斬りましたから。
こんな無駄なパートは2秒で済ませましょう。
いやいや、だったら見に来る必要もないだろう? そう思われる方もおられるかもしれません。
しかし、容態を確認しに行ったという事実がなければクリスティーナに疑われる可能性があるので、面倒だとは思いますが一応ここまで来て確認しておくことをお勧めします。
彼女を前にガバは許されないのです。――まぁ、この後の流れ次第ではグッと楽になる可能性もありますが、未来の事は分かりません。今は彼女に疑われている前提で動きましょう。
さて、次です。
このまま上に戻ってクリスティーナ嬢と母親の会話を盗み聞きして自分の発言がどこまで信用されているのか探るのも一つの手ですが、それよりも有意義な時間の使い方があります。
「おや、これはこれは勇者様ではありませんか。このような場所で如何されたのですかな?」
「あなたは、確か召喚の間にいた……」
「あぁ、自己紹介がまだでしたな。私の名はオドルーと申します。しがない神官の一人でございます」
医務室の真上にある王城の図書館。そこに目的に人物はいました。
はい。私の推しキャラ、オドルーおじさんですね。
ぶっちゃけ、この世界で出会った人間の中で一番の聖人だと思います。
優しくて、謙虚で、お茶目で、余裕があって、何より信仰を貫く意志のステータスが尋常ではないです。
戦闘能力は欠片もないですが、ことメンタル面に関していえば私の次くらいに強いでしょうね。
この聖人おじさんの欠点といえば、年齢と例のスーパーチート武器の権限を私に与えてくれないことくらいです。
……まぁ、私の特性的に使いこなせないことは分かっているので、もうこれ以上グチグチ文句を言うつもりはありません。
今回彼を探していたのは、単純に仲良くなるためです。クリスティーナ嬢はこれから先も事件の調査に掛かりきりになるため、なかなか彼と接触できる機会がないんですよね。だったら自分から動いて面識を持っておこうというわけです。
「神官のオドルーさん、ですか。随分とお年を召されているようですが、もしかしてクリスティーナの上司だったりしますか?」
「いえいえ、私の方が部下ですよ。優秀な彼女に抜かれて今では頭を下げる立場でございます。いやぁ、やはり若さとは尊いものですなぁ」
まいった、まいった、と頭を掻きながらへらへら笑うおじさん。
齢17の小娘に立場を抜かされたというのに、全く悔しさや嫉妬を見せる様子はありません。
うーん、ビバ聖人。
これで戦闘能力と生存能力が高ければ躊躇なく仲間にしているのですが、しかし残念ながら彼はもう齢72のおじいちゃん。これから先の厳しい戦いにはついて来られないんですよね……。
内政クリスティーナ、
「それで、勇者様はどうしてここへ?」
「実は今、クリスティーナと一緒に国王暗殺の犯人を捜すために調査をしているのですが、彼女の方に大事な用事が出来たようでして……踏み込むわけにもいかないので一旦別れて手持ち無沙汰にうろついていたらここにたどり着いた次第です」
「クリスティーナ様と一緒に捜査ですか。……痛ましい事件ですが、あのお方であれば正しい結論を導き出して下さることでしょう」
「僕もそう思います。まだ知り合って間もないですが、彼女が優秀なのは痛いほど分かりましたから」
「ははは。私の例もありますからな」
若干自虐ネタを挟みながら納得した様に頷くオドルーおじさん。
「ところで、クリスティーナ様の用事とは何でしょうか? 神官の方に任務は回っていなかったと思うのですが……」
「あぁ、私用らしいですよ。何でも母君とお会いになるとか」
「――なんですと」
その瞬間、オドルーの雰囲気が変わりました。今のところ彼女と接している時間が一番長く、当然の様に事情を全て知っている彼の事です。その組み合わせがまずいことに気が付いたのでしょう。
「クリスティーナ様がアウラ様と……」
「えーと……何かまずいことでもありましたか?」
「……そうですな。残念なことに感動の親子再会とはならないでしょう。これだけは確かです」
険しい表情で思案するオドルー。その意見には私も全面的に同意です。一度、あの親子の関係を修復する善人ルートを試したことがありましたが、一番の救いが母親も首チョンパして父親と同じ場所へ送るという超絶後味の悪いものだったので、二度と関わりたくないです。
本当、エヴァートンファミリーは地雷地獄やでぇ……。
「……事情はよく分からないのですが、何か僕に出来ることはありませんか?」
「クリスティーナ様の為にですか?」
「当然です。彼女とは知り合ったばかりですが、それでも一緒に国王陛下を殺した外道を探し出すと誓い合いました。その約束が果たされるまでは――いえ、その後も彼女の力になりたいのです」
「……どうしてそこまで?」
「どうして、ですか。そう言われると難しいですが……強いて言うなら、彼女の事が気になるから、でしょうね。見ていて痛々しいといいますか、どうしても力になってあげたくなるのです」
「なるほど……」
神官長オドルーは厳かに頷き、年老いてもなお澄み切った瞳で勇者を見据えて言った。
「勇者様はお優しい方ですな。……ますます、私たちの身勝手で呼び出してしまったことが申し訳ないです」
「それに関してはお気になさらず。困ったときはお互い様でしょう? 私も困ったときはあなた方に頼ります。ですから、あなたたちも私を頼って下さい。……まぁ、お力になれるかどうかは分かりませんが」
「おぉ――」
謙虚さを前面に押し出していくと、オドルーが何かに感銘に受けたような表情をしてくれます。
彼、不遇な立場にある人がそれでも健気に生きている姿にとことん弱い筋金入りの聖職者なので、懐柔するのは意外と容易いです。
「流石は勇者様です! その謙虚で真っ直ぐな姿勢、私も見習うべきですな!」
あなたもう十分すぎるほど謙虚だと思うのでいいですよ。ていうか、それ以上聖人度が上がると眩しすぎて直視が難しくなるので止めて頂きたい。
「ありがとうございます。ところで、クリスティーナについてはどうしたら――」
「あぁ、そのことですが、私からアドバイス出来ることはありませんな」
「……というと?」
「簡単なことです。貴方が思うままに彼女と接してください。もしも彼女が落ち込んでいるようでしたら慰めて差し上げれば宜しい。もしも憤っているようでしたら、柔らかく受け止めて差し上げれば宜しい。――なに、あなたのように優しい心の持ち主を拒絶するほど彼女は堕ちていません。思うがままに彼女と接してください」
「……それは、オドルーさんがやった方がいいのでは?」
「いえ……私は、彼女が一番辛い時期に一緒に居過ぎました。彼女の方も私の事を嫌ってはいないと思うのですが、それでも一緒に居れば思い出してしまうのでしょう。自分が絶望に打ちひしがれていた傷だらけの過去の事を。無力だった嘗ての自分を」
「……」
「ですから、これは貴方の仕事です。私のように老いた者はこうして偉そうに言葉を投げかけることしか出来ません。先へ手を取り合って進むのは、若者たちの特権ですから」
自虐と――底知れない愛情に満ちた言葉。
外道に堕ちた私ではありますが、こんなおじいちゃんが欲しかったと心の底から思います。
「……分かりました。この後、彼女のところへ行ってみます」
「そうしてください。私はこれから用事がありますので失礼いたします」
こちらの背筋がピンと伸びるような一礼をしたオドルーは手に幾つかの蔵書を抱えたまま図書館の出口へと向かい、扉をくぐるその寸前にこちらへと振り返って言いました。
「私は大体この王城の裏にある神殿におります。困ったことがあればいつでもいらしてください。私に出来ることがあれば、微力ながらなんでもお力になりますので」
えっ、じゃあ武器下さい。
思わず素で言い掛けましたが、私はガバを許さない走者。ここはニコッと笑ってお気持ちだけ受け取っておきましょう。
「ありがとうございます。またお会いしましょう。オドルーさん」
「えぇ。こちらこそ」
こうして、聖人オドルーおじさんは図書館を後にしました。
ふむ。ファーストコンタクトは成功に終わったとみて間違いないでしょう。
彼は本当に重要なキャラクターなので、丁寧な会話を心掛けた甲斐がありました。
「……さて、逝くか」
もう少し自分の成果に浸りたいところではありますが、走者に休んでいる暇はありません。
直ぐに図書館を後にし、近くのトイレに入りましょう。別に用を足しに来たわけではありません。
個室に入り、周囲に誰もいないことを確認したら喉に指を突っ込んで――
「オえぇ――――」
絵面は汚いことこの上ないですが、朝から何も食べてなかったお陰で胃液と共に盗賊王の指輪を吐き出すことに成功しました。
クリスティーナの観察眼が怖くて今まで身体の内側に仕舞っていましたが、この後に会う彼女は間違いなくメンタルが弱っていて怖さが半減しているので、ズボンのポケットに入れておいても問題ありません。
……それでもやっぱり怖いので、変にポケットへ意識を向けるのだけは避けましょうね。
さて、これで下の階で回収できることはなくなりました。時間も迫っていることですし、急いでクリスティーナの下へと戻りましょう。
はい、到着。
時間的にはピッタリの筈ですが――
「……あぁ、痛いな」
廊下の奥から響く悲痛な声。
どうやら、本当にピッタリみたいでした。
此処から先は、ひたすら彼女の心に寄り添うパートになります。相手は弱っているとは言え、それでもクリスティーナなので油断は禁物です。
自分に暗示をかける勢いで優しくなり、何とかして一気に距離を詰めましょう。
ここが一番のチェックポイントと言っても過言ではありません。彼女を本当の意味で味方に出来るかどうかで攻略に大きな違いが生まれますので。
頑張れ! 私!
中略
はい、何とかなりましたね。
私の誘導が上手くいき、今は彼女とディナーを楽しんでいます。
ここではしっかりと仲良くなりたいアピールをして、こちらからガンガン距離を詰めていきましょう。彼女は押しに弱いので、猛プッシュすれば案外何とかなります。まぁ、引き際を見極めないとやはり喉元食い破られてしまうんですけどね。
聖女怖すぎワロタ。
でも、笑った顔は本当に可愛かったです。
美人で可愛いとか最強でしょう。これでもうちょっとアホでいてくれたら本当に私好みの美少女だったというのに――。
「む、今変なことを考えませんでしたか?」
「いや、なにも? クリスティーナは賢いなーって思ってた」
「……それは、どうも」
おぉ、恥ずかしがってる恥ずかしがってる。
非常に初々しくて愛らしいのですが、変に直感まで活性化されるのは止めて欲しい。
やはり、彼女の相手をする時には極限まで理想の勇者モードにリソースを割いた方が良さそうですね。
「では、お休み。クリスティーナ。良い夢を」
「はい。お休みなさい、ルタ。そちらこそ良い夢を」
食事を終えたら廊下でさっぱりと別れましょう。ここで変に粘ると下心があると思われて好感度が下がるので、当たり障りのない挨拶をして背を向けます。
そのまま自室に帰り、今日はもう疲れたのでゆっくり眠る――とはならないんですよね、これが。
もちろん私の本番はこれからです。
昼はクリスティーナの好感度を上げることに従事し、夜にコソコソと陰謀を張り巡らせる。これこそが王城における基本のRTAムーブです。
これから挑戦してみたいという方も是非参考にしてみてくださいね。
さぁ、まずは夜に動く時に忘れてはならないアリバイ工作から始めましょう。
もちろん、電気消し忘れ戦法はもう使えません。あまりにしつこいと普通にバレますし、何よりこの部屋にはもう監視魔術がないのです。
国王暗殺という大事件によって人員整理や書類仕事が激増し、皆さん忙しいらしいんですよね。だからわざわざ腰の低い勇者に構っている暇はないという訳です。
まったく、これも全て間抜けに暗殺された国王のせいですね(責任転嫁)。
だからという訳でもありませんが、今回のアリバイ工作は割と雑で大丈夫です。まずは図書館から借りて来た分厚い本を布団の下に置き、ベッドの上に膨らみを与えます。
はい、終了―。
えっ? これで良いのかって? 良いんですよ。
気を付けるのは夜の見回りだけなので、本当にこれだけで大丈夫なんです。
ざるな警備に感謝しつつ、今度は手早く盗賊王の指輪の中からマントと曲剣を回収し、身に纏いましょう。
盗賊王ジャリバン復活ッ!
もう死んでいる人に罪を擦り付けることへの罪悪感はありますが、便利なので止められないんですよね~(外道)。
これからも自分が楽するためにじゃんじゃん使用していきたいと思います。
さて、王城の人たちが寝静まるまで待ってから――行動開始です。
【
例の最強隠密スキルを発動させ、十分に辺りを警戒しながら城内を走ります。無音かつ、壁上を走っているのでまず気づかれることはありません。
目的地は、皆さん薄々気が付いているかもしれません。そう。あの人の部屋です。絶対に犯人が見つからないこの事件に収拾をつけてくれるあの人。
「――宰相、ゾルディン」
「ッ! 何者だ! 貴様!」
そう。みんな大好きゾルディン宰相のお部屋にやって参りました。
もう皆寝静まっているというのに、この人はこんな時間までお仕事をされていたみたいですね。お疲れ様です。あと、ご愁傷様。私みたいな奴に眼をつけられて大層迷惑でしょう? あっ、私自分が迷惑な奴っていう自覚はあるんですよね(どうでもいい
取り敢えず、驚いている宰相さんに自己紹介をしておきましょう。初対面ですしね。
「何者か、と問うたな。ならば答えよう。我が名は盗賊王ジャリバン。国王の首を刎ねた闇の使者だ」
「……なるほど。盗賊王が地獄から蘇るなど信じたくはないが、その尋常ならざる覇気、ただ者ではないな。表の兵士たちはどうした?」
「眠っているだけだ。
「……」
「意外そうな顔だな。安心しろ。お前も殺すつもりはない」
これはマジです。これから私の仲間(共犯)になってくれる奴を殺めるわけないじゃないすかー。
宰相は少し考え込んだ後、こんな状況であるにもかかわらず全く揺らぎのない瞳でこちらを見据えて問いを投げかけてきました。
「……目的はなんだ?」
「提案をしに来た」
「提案?」
「あぁ。お前にとっても有意義な話だと思うぞ」
さて、ここからが非常に重要です。
何百回という試行の末にたどり着いた最短ルートへの道筋。
国王暗殺によって生じた混乱に乗じ、自分が絶対的なアドバンテージを得るための策略。
それ即ち――
「
「――――」
「どうだい? そっちにとっても悪い話じゃないだろう? お前は厄介者を排除できるし、俺もこれ以上追いかけまわされることがなくなる。お互いに良いことづくめだ」
宰相ゾルディンは呆気にとられたような表情をしています。そりゃあ、いきなりこんなこと言われたら混乱するに決まっていますが、もう少し頭の回転を早くしてほしいものです。クリスティーナならもう結論出してますよ?
「……分からないな」
こっちがじれったく返答を待っていると、宰相が声を絞り出して言いました。こっちが全く望んでいない言葉を。
全く。早く先に進みたいんですけどねー。
「何が分からないんだ?」
「お前の言っていることがだ。私はこれでも
「……あー、そっか」
「馬鹿馬鹿しいにもほどがある。いいか、よく聞け薄汚い暗殺者よ。お前が私を殺そうが殺さまいが、それはどうでもいい。ただ、
「……なるほど、理解した。そういうことね」
「?」
「悪い、悪い。こっちが忘れていただけだったわ」
いやぁー、すっかり失念してました。このルートは久しぶりなので本当にうっかりしてましたね。
普段はアイツ、内側に沈んでいるんでした。
これは叩き起こしてやらないといけませんね。
「俺はお前と話してなどいない――いいからさっさと起きろ。聞こえているんだろう?
その名を呼んだ瞬間の変化は劇的でした。
元々黒かったゾルディンの瞳がぐるりと反転し、白目を一周してから見るも
さらに外見の変化と同時に部屋の中の空気が急に重圧感を増しました。明らかに、今の私よりもレベルが高いと分かる強者の覇気。
『――なんだ、同業者か』
そして、地獄の底から響いたような威圧感と重厚感に溢れた声が響きます。
やれやれ、やっとお出ましですか。
このラスボス手前の四天王臭が凄い彼こそが、終盤に1位から6位まで束になって一斉に襲い掛かって来るオンスモも真っ青な鬼畜ボスの一人、魔将騎ゾルディンです。
まぁ、もっと簡単に説明すると、魔王直属の部下で1000単位の魔族を従える至高の魔人さんであらせられます。
なんでそんな大物がこんな国で宰相やっているかと言うと、普通にスパイですね。生かさず殺さずの状態で国を内側から滅ぼしつつ、魔王さまからの命令をこなすみたいな、そういう役回りです。
ちなみに、本物の宰相さんも今は表面上生きていますが、それでも無意識のうちに思考を操られる傀儡と化しています。
いやぁー、皮肉ですな(白目
ていうか、相変わらずコイツ強いですね。今の私では絶対に勝てないです。主にステータスと武器的な問題で。ぶっちゃけ初期ステータスでオンスモに挑むようなものですが、この身は走者。
偶には無茶もしなければならないのです。
内心冷や汗でガクブルしていると、愉快そうに笑ったゾルディンが口を開きました。
『いきなり無能の首を斬り飛ばしてくれたもんだから何者かと思ってたが、直ぐに殺さなくてよかったぜ』
「それはこちらも同意見だ。魔王さまから知らされていなければ、ただの人間と判断して斬っていた」
『けけけ、良く言うぜ。――で? 何者だ、テメェ?」
「俺は魔王様から派遣された闇の使者、ルイン。盗賊王の名を借りて国王の首を刎ねてこいと命じられた者だ」
『……へぇ?』
「何か不満でも?」
『いや、ちょっとおかしいなと思ってよ。俺は魔将騎の一人だぜ? そういう重要なことは真っ先に通知されると思ってたんだがなぁ』
うーん、鋭い。やっぱりコイツ嫌いです。
でもこちらはコイツに対して特大の切り札を持っていますので、それをぶつけていきましょう。
「そんなあなたに魔王閣下からお達しだ。『いつまで掛かっている? 早く
『――ッ⁉』
露骨なまでにゾルディンの表情が変わりました。やっぱり、魔王様ラブなだけはありますね。絶対に嫌われたくないのでしょう。真っ青な顔色で黙りこくっています。
……いいなぁ、僕もこういう忠誠心溢れる有能な部下が早く欲しいものです
というか、この魔将騎ゾルディンさんはマジの有能なので、このまま仲間にしたいくらいなんですよねぇ。
まぁ、敵である以上は不可能なんですが。
「というわけで、魔王さまは大変お怒りだ。故に俺が派遣され、この停滞した王国にアクションを起こすべく国王の首を刎ねた。これで、自分の立場は分かってもらえたか?」
『……あぁ、痛いほどな。つまり、あれか? 俺はテメェみたいな薄汚い暗殺者の指示に従ってさっさと聖剣を見つけださなきゃならねー。そういうことか?』
「よく分かっているじゃないか。そういうことだ」
見下すようにして笑いかけると、屈辱に全身を焼かれているゾルディンが凄まじい目力で睨みつけてきます。
うーん、楽じいィィィィィ!
やっぱりこのルートの良いところはこれですよね! はるか序盤で格上の魔将騎を煽れるという、この快感。
これまで蓄積されて来た魔将騎に対するフラストレーションが解消されていくようです。
まぁ、あんまりやり過ぎるとマジで殺されるのでここらへんで留めておきつつ、話を先に進めましょう。
「――で、どうなんだ? 俺の策に乗ってくれるのか?」
『ッチ、業腹だが乗るしかねぇだろ。あの勇者に脅威はあまり感じねぇが、どうにも異様な気配を持っている。早めに処理しようと思っていたから、お前の提案は正直言ってありがたい』
……こちらこそ、提案してよかったです。
真っ向勝負挑まれていたら普通に負けていたので。
「では、俺が言ったように動いてくれ。あなたの立場なら楽な仕事だろう?」
『まーな。面倒なのはクリスティーナの小娘だが、まぁ、少しの間なら押さえておけるだろう。その間に勇者を葬ればいい』
「勇者を殺る仕事は俺に任せてもらってもいいか?」
『なんだと――?』
ゾルディンの機嫌が悪くなりますが、彼も比較的合理的な人間なので理論でゴリ押せば説得は容易いです。
「だって、考えてもみろ。あなたには聖剣を見つけだし破壊するという重要な仕事があるにも関わらず、未だにそれを成し遂げられていない。いっそのこと、国ごと破壊すればいいものを、それすらもたついている始末――」
『うるせぇぞ。部外者は黙ってろ。聖剣はな、ただ壊せばいいってもんじゃねーんだよ。きちんとした手順を踏まなきゃ、アレは何度でも蘇る』
うん、知ってる。
ゴキブリ並みの生命力だよね、アレ。
いいなぁー。欲しいなぁー。
私の全力出しても壊れない武器、欲しいなぁー。(未練たらたら)
『おい、聞いてるか?』
「あぁ、もちろん聞いているさ。そして聞いた上でこう断言させてもらおう。あなたは自分の仕事に集中しろ、とな」
『……』
「雑魚勇者は俺が始末する。だが、俺は別に武勲が欲しいわけじゃないからな。魔王さまにはあんたが始末したと報告すればいい」
『なんだ、随分と虫が良い話じゃねぇか。逆に胡散臭いぜ?』
「疑いたいなら疑えばいい。俺はただ――勇者という架空の存在に自分の刃が届くのかを確かめたいだけなんだ」
『……ふん、身勝手な奴だ。だが、動機としては悪くない。いいぜ、あのクソ雑魚勇者はお前にくれてやる』
「感謝する(うるせぇ)」
まぁ、色々と腹立つこと言われましたが、交渉は成功ですね。
これ以上この部屋に留まってフードを取れと言われても面倒なので、速めに離脱しましょう。
一先ずは、任務完了です。
さて、ここでどうしてこんなに序盤で魔将騎に接触するというリスキーな行為に出たのか説明しておきましょう。
皆さん。RTAにおいて一番大切なものは何だと思いますか? 私は経験と知識だと思っています。
では2番目に大切なものは? そう聞かれた場合、私はこう答えます。「敵を瞬殺できる火力である」と。
今の私は、はっきり言って火力不足です。一応、この初期ステータス状態でも繰り出せる技は持ち合わせているのですが、それでも全体的に足りていない感は否めません。
もちろん序盤だから仕方ないのですが、そんなありふれた言い訳で攻略を諦めるなど愚の骨頂。
ここに絶好のカモがいるじゃないですか。
結構な立場にいる魔人で、しかも私が知る中でもかなり使い勝手のいい武器を所有している敵が。
勝てるか勝てないかではないのです。
勝たなければならない。
この世界に。
そして、魔王に。
そのための一歩として――
魔将騎ゾルディン、ここで倒してしまっても構わんのだろう?
【次回予告】
やめて! 勇者のステータスはマジ雑魚で、このままじゃあ普通に負けて王国ごと滅ぼされちゃう!
勇者が死んだらようやく心を開いて来た聖女や聖人おじさんはどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。だから頑張って勇者! もう瀕死だけど、ここで勝てば終盤まで使える大火力が手に入って攻略が楽になるんだから!
次回、「勇者死す」
デュエルスタンバイ!
次回予告はもちろん嘘っぱちです。
流石の勇者も何の策もなしに魔将騎に挑んだりはしません。
また、具体的なステータス表記がないから今の勇者がどれくらい雑魚なのか分からねーよ! という声があるかもしれないので、一章が終わると同時に人物のステータスや性格を書いた登場人物紹介回を作ろうと思っていますので、それまでは脳内補完でお願いします。