ベテラン勇者がRTAする話   作:赤坂緑

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タイトルが全てです。以上。

日間ランキング1位、ありがとうございました!


迅速を尊ぶ勇者

 

 今度こそ本当にガバを許さないRTA始まるよー。

 

 どうも。勇者でござんす。

 

 いやー、アルマちゃんのガバは本当にびっくりしましたね。まさか、あんなに初歩的なミスを犯しているとは思いもしませんでした。

 危うくクリスティーナ嬢に全てを見破られて殺されるところでしたが、今回はリカバリーも上手くいっていたので良しとしましょう! ……えっ? そうでもなかった? そんなぁ……。

 

 

 閑話休題。

 

 

 さて、現在私は牢屋に居ます。身に覚えがあり過ぎる殺人罪によって拘束されている感じですね。私以外に収容者がいないこの牢獄はかなり特別な場所らしく、捕まえたはいいけどあまりにも大物過ぎてちょっと衆目の眼から隔離したい時に使われる牢らしいです。

 鉄格子の向こう側には見張りの兵士が二人立っていて、チラチラと殺気混じりの視線をこちらに向けてきています。きっと殺された兵士の同僚か何かだったのでしょう。

 

 やれやれ。殺気も隠せないとは二流ですね。

 

 ちなみに、あの兵士が襲い掛かって来た時に驚いていたのはマジです。 魔将騎ゾルディンに勇者を陥れようぜ! と提案すると確定で何かアクションを起こしてくることは分かっていたのですが、残念ながらその手順は毎回ランダムで予測不可能だからです。

 

 今回はかなり悪質な手を使ってきましたね。

 

 まぁ、咄嗟のアドリブにも即座に対処して見せるのが走者というもの。

 殺してしまったあの兵士さんには申し訳なく思っていますが、恨むなら君を遠隔操作で操っていた魔将騎ゾルディンを恨んでくださいね。私、悪くない。

 

 コツコツ

 

 うん? この革靴の足音は……宰相ですか。

 

 私の予想通り、悠々とした足取りで地下の牢獄に現れたのは宰相ゾルディンでした。見た感じ、魔将騎ではない普通の宰相モードっぽいですね。

 

 彼は私が閉じ込められている牢の前までやって来ると「二人で話がしたい」と言って見張りの兵士たちを上に行かせてから嫌悪感も露に口を開きました。

 

「久しぶりだな、勇者殿。まさかこんな形で再会することになるとは思わなかったよ。その牢屋、気高き勇者殿には狭かろうと危惧していたのだが……安心した。驚くほど貴様に似合っている」

「お久しぶりです、宰相さん。僕の方も意外でしたよ。あなたがこんな小細工を弄するような方だとは思いませんでした。人の命を使った卑劣な手段……恥には思われないんですか?」

「? 一体何の事だか分からないが、貴様が犯した殺人の罪を私に押し付けるのは止めろ。……まったく。大人しいだけの犬だと思っていたが、まさか薄汚いハイエナの部類だったとはな。心底失望したよ」

「もともと期待もしていなかったでしょう?」

「そうだとも。よく分かったな」

 

 ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべる宰相ゾルディン。

 滅茶苦茶腹立ちますが、ここは必死に我慢です。首チョンしたいのは山々ですが、中身は魔将騎なので普通に返り討ちにされて終わりです。

 

「……それで? 宰相ともあろう方が、わざわざこんなところへ何の用ですか?」

「何の用だと? そんなもの、決まっている。……決まっている? いや、違う。決まっていない。私はお前に用事などない。お、お前に用事など……」

「宰相殿?」

 

「あgじょあgjぽえjぎおjどぎひうがへ」

 

 あー、この感じは()()()ですか。

 

 咄嗟に驚いた顔を作った私の眼の前では宰相が自前の黒目をぐるりと反転させ、裏から黄金の瞳を出すという誰にも自慢できない高等技術を披露していました。

 変わる気配。浮かぶ酷薄な笑み。此方を圧倒する覇気。

 

 

『……用事があるのは俺の方だ』

 

 

 はい。皆大嫌い、魔将騎ゾルディンさんですね。

 もうその顔は(殺すとき以外)見たくないのですが、向こうから接触してきた以上は仕方ありません。初対面のふりをしてお決まりの台詞で尋ねましょう。

 

「……何者だ、貴様?」

『魔将騎ゾルディン。テメェが殺そうと息巻いている魔王さまが臣下にして、この国の宰相も兼任で務めている男だ』

 

 うん、知ってる。

 

「……卑劣な。間者か」

『ふん。間者は戦争の基本だろうが。俺はただ、敬愛する魔王さまの為に動くのみ……だが、今はそんなことどうでもいい。今回はテメェに()()()()()()()()()()()()

「忠告、だと? 魔王軍の敵将が勇者に塩を送るというのか?」

『然り。俺には俺なりの理由があるのさ』

「……」

『どうだ? 知りたいか?』

 

 ニヤリ、と先程の宰相と似ているようで全然違う不敵な笑みを浮かべる魔将騎ゾルディン。視線で先を促すと、彼は喜々として語ってくれました。

 

『勇者さんは素直で良いこった。さて、忠告の内容だが――今から後に闇の使者ルインとかいう奴がテメェを殺しに来る。そいつは国王をぶっ殺した張本人で、伝説の勇者であらせられるテメェに自分の刃が届くのかを確かめたいんだとさ。青臭い話だよなぁ~』

「……それで?」

『それだけだ。そいつが来るから用心しろ。本当にそれだけだ』

「……その闇の使者ルインとかいう奴は、あんたの仲間じゃないのか?」

『仲間? ハハッ、んなわけねーだろ。向こうが勝手にやって来ただけだ。魔王さまの命令だか何だか知らないが、あんなに図々しい奴を信用するわけがねぇだろ』

 

 ……そーですか。

 

「つまり、お前はそのルインを僕に倒して欲しいのか?」

『まぁ、そんなところだわな。体面上はあいつの指示に従ったが、別に勇者にアドバイスをするなという約束は交わしていない。俺が勝手にここで独り言を話しているだけで、あいつには何の迷惑もかけちゃいないのさ』

「……」

 

 うーん、流石魔族。汚い。さすまぞ汚い。

 まったく、私のように高潔な精神を見習ってほしいものですね。

 

「だが、僕は今手元に武器がない。徒手空拳で闇の使者に張り合えと言うのか?」

『あぁん? それくらいは自分で何とかしろや。勇者様なんだろ? 最悪素手で戦いな』

「……」

 

 まぁ、素手でも勝てるんですけどね。

 自分が相手なんで。

 

『じゃあ、俺はこれで失礼するぜ。精々、雑魚同士で潰し合ってくれや。勝った方の相手をしてやるからよ』

「……全てがお前の掌の上ということか。さぞかし楽しいだろうな?」

『あぁ。本当に楽しいぜぇ。馬鹿な連中が躍っている様を眺めるのはなぁ!』

 

 分かるぅ。本当に楽しいよね!

 

「外道め……」

『ふん、なんとでも言え。とにかく忠告はしたからな? 簡単にくたばってくれるなよ、勇者。テメェには期待しているんだ。()()を扱える人材として、な』

「聖剣?」

『――資格ある者にのみ応える光の剣。大層な肩書だが、ようはどこかに引き籠ったままの腰抜けさ。だが……お前が呼べば応えてくれるかもしれんぞ?』

「……」

『じゃあな。また会えたら会おうや』

 

 ひらひらと手を振り、意味深なことを言ってから牢屋を去った魔将騎ゾルディン。

 

 ふむふむ。なるほど、なるほど。

 急にこちらに接触してきた時はびっくりしましたが――どうやらアイツ、聖剣が見つからなさ過ぎて本気で焦っているみたいですね。

 

 で、焦った末に資格がありそうな勇者を焚きつけ、あわよくば聖剣を携えてやって来たカモ勇者ごと破壊することを目論んでいる、と。

 

 

 なるほど、なるほど……。

 

 

 いやー、天下の魔将騎さんも落ちたもんですなぁ! 自分じゃ見つけられないから他人任せですか! ご立派、ご立派!(凄まじい煽り)

 

 でもね、ゾルディンさんや。あなたの作戦にはちょっとした大穴があってですねぇ……ヒヒッ、その明らかに勇者の専用武器っぽい肩書と性能を持つ聖剣はねぇ……私には使えないんですよぉ! ヒヒッ、びっくりでしょう? 私もびっくりなんだなこれが!

 

 ……もう一回言いますね。

 

 明らかに勇者専用武器の聖剣なのに、肝心の私が出禁にされているんですよぉ(怒り

 

 

 はーい、クソ。

 

 なんで? 聖なる剣なんでしょう? 邪悪なる魔王を殺すための武器なんでしょう? じゃあ俺に応えてよ。俺に応えろや。君を一番使いこなせるのは俺なんだぜ? いや、ホントマジで。この世界で一番技量が高い戦士って俺なんだよ。冗談抜きで。少しでもいいから力を貸してくれたら魔王なんて瞬殺なんだけどなぁ(チラッ)。あっ、もしかして聖剣ちゃんってツンデレだったりする? なかなか素直になれない女の子だったりする? もうなんだぁ、だったら早く言ってくれたら――

 

 

 

 じしゅきせいちゅう

 

 

 

 ……ホント、すいません。でもね、皆さんもあの剣の力を見たら私と同じことを言いたくなると思うんです。それくらいに出鱈目なんです。

 

 ただまぁ、文句ばかり言っていても始まりません。

 宰相の足音が建物を出たのは感じ取れましたし、牢屋の見張り番たちも帰って来ました。

 

 そろそろ動くとしますか。

 

「あの……すいません」

「……なんだ?」

 

 こちらが呼びかけると不機嫌そうな表情で振り返る見張り番の兵士さん。ですが振り返るだけで中々こちらまで距離を詰めてくれません。

 流石に警戒されていますか。これは……仕方ありませんね。

 

「僕が殺した兵士って、もしかしてあなたの同僚だったりしますか?」

「ッ、だったらなんだ!」

「いえ、何も? ただ……弱いというのは、悲しいことだと思っただけです」

「――ッ、貴様ァアア‼ あいつが真に善良な人間だったと知っての侮辱か!」

「止せ!」

 

 もう一人の方が静止しようとしていますが、もう遅いです。私は既にポケットに忍ばせていた盗賊王の指輪から曲刀を取り出し、まんまと近づいて来た彼の喉を刺していましたから。

 

「な、なっ――」

「やっぱり、弱いというのは罪ですね。ただ生きているだけじゃあ、何も成し遂げられやしない。誰も守れない。何も救えない。善良な心に従いたいなんて……そんなの、ただ戦うことを止めた()()()()()()()()()

 

 目の前で同僚が刺されるところを目撃した兵士さんは急いで逃げようとしますが、絶対に逃がしません。曲刀を投擲して一撃で脳髄かち割ってしまいましょう。

 はい。これでお掃除完了。この犯罪も全て盗賊王さんのせいになりますから、死体の後処理とかに気を配る必要はありません。

 

 さて、勇者さんは忙しいのでのんびりしている暇はありません。

 直ぐに指輪から盗賊王のフードも取り出して羽織り、全力で牢屋を蹴り破って外に出たらいつものように「夜影音脚(シャドウアーツ)」を発動させて移動開始です。

 

 向かう先はもちろん宰相ゾルディンの部屋。

 こういう辻褄を合わせに奔走することになるのが本チャートの面倒なところですが、トータルで見れば一番効率的だと思うので弱音を吐かずにやっていきましょう。

 

 今回は先日みたいにゾルディンさんに驚かれても面倒なので、扉の前まで来たら「夜影音脚(シャドウアーツ)」を解除しておきましょうか。そうすればあっちも勝手に感づいて魔将騎モードに切り替わってくれるでしょう。

 

 こういった気配りも大事なところなんですよ。

 おっ、そんな事を言っていたら宰相の部屋が近づいてきましたね。それじゃあ、早速「夜影音脚(シャドウアーツ)」を解除して――

 

「だから! あなたのそれは言い掛かりだと言っているではありませんか! 彼は私を庇ってくれたのです!」

「残念ながら、あなたの証言だけでは説得力に欠けますな。クリスティーナ様」

 

 げっ! クリスティーナ⁉ な、なんでゾルディンの部屋にいるのさ! もう深夜ですよ! 良い子はちゃんと眠らないとお胸に栄養が――いや、そんなことを言っている場合じゃない!

 

 秘技、天井に張り付く術と同時に「夜影音脚(シャドウアーツ)」を再発動。

 さらに聞き耳を立てて内部の様子を伺ってみますが、間一髪でバレた様子はありませんね……。

 

 あ、あっぶねー! もうちょっとで本当に詰むところでした。とんでもないところに地雷が転がってるものですね……。

 

 にしても、こんな夜遅くに二人は何をしているのでしょう? 聞き耳を強化して会話を盗み聞きしますか。

 

「ならば! せめて牢に入れられた彼に会わせてください! まだ助けてもらったお礼も言っていないのです!」

「却下です。今は誰も彼と接触をさせるつもりはありません。それが貴方となればなおさら。勇者と一番近くにいた貴方には共犯の疑いが掛かっておりますので、暫くの間は自室で謹慎を願いたい」

「――ッ、国王暗殺の犯人捜査は……」

「こちらで引き継ぎましょう。元々、貴方が国王陛下の親族ということで大目に見ていたくらいです。本来は王城内で解決すべきこの事件に、貴方の様な神官が関与する余地はありません」

「……言ってくれますね」

「言いますとも。今まで皆が貴方を怖がって言いませんでしたが、この際だからはっきりさせましょう。貴方は左遷された元第三王女であり、今では国王陛下暗殺犯の容疑者候補その一です。これ以上余計な口を挟まれるようでしたら、こちらも強硬手段に出るしかなくなりますが……いかがなさいますか? 聡明な貴方なら分かると思うのですが」

「……失礼します」

 

 こんなこと言われたら引き下がるしかないですよねぇ。

 部屋の扉が開き、クリスティーナ嬢が外に出てきます。

 これでやっと地上に降りられると思ったのですが、彼女は扉を開いたまま不意に振り返って切り出しました。

 

「あぁ、そうだ。ゾルディン殿に一つだけ忠告を」

「……なんですかな?」

 

 普段と違う彼女の雰囲気に呑まれつつ、ゾルディンが聞き返します。

 冷血鉄仮面聖女と呼ばれるクリスティーナは、こちらが肌で感じられるほどの強い威圧感を放ちながら言いました。

 

「――あまり、()()()()()()()()()()()()。後々、小娘にしてやられたと恥をかくのは嫌でしょう?」

「……」

「では、これで失礼します。夜分遅くに時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 こうしてようやっと立ち去ったクリスティーナ嬢。

 これでこっちも「夜影音脚(シャドウアーツ)」を解除できるってもんなんですが……うん。

 

 

 こ、怖えぇぇぇ……。

 

 私、あの声音を知っています。あれは、彼女が本気でぶち切れている時の声音。絶対に相手の弱点を見つけて徹底的に潰すウーマンと化している時のアレです。

 絶対に相手をしたくない状態なんですが、救いがあるとすればその怒りがゾルディン殿に向いていることですね。

 

 いやぁ、ほんとお疲れ様ですゾルディン殿!

 

 私は人柱に感謝しつつ、意気揚々と彼の部屋に入室します。

 

「だ、誰だ! 貴様!」

 

 あっ、「夜影音脚(シャドウアーツ)」解除するの忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

『――で、何の用だ? 勇者を殺った結果報告か?』

「そんなわけがないだろう。寧ろその逆だ。これから殺しに行くという報告をしに来た」

『……おいおい、折角俺がアイツを捕まえてやったってのに、まだ出向いてなかったのか。何をしてたんだ、テメェ?』

「少し、()()()()()

 

 そう言って兵士を斬った血で濡れた曲刀を指輪から取り出して見せれば、魔将騎に切り替わったゾルディンは納得したような笑みを浮かべました。

 

『なんだ、城下で人間を殺ってたのか。そういうことなら早く言え。俺も参加したかったのによ』

「あんたには立場があるから無理だろう。……だが、些か遊びに熱中してしまい、勇者の捕縛に気が付くのが遅れたのも事実。これに関しては素直に謝罪しよう。申し訳なかった」

『あー、気にすんな。魔人の本性を抑えるのは難しいからな、今日のところは見逃してやる。それよりも早く勇者を殺りにいきな。クリスティーナの嬢ちゃんに本気を出されたらアイツを拘束しておける時間も短くなる。気づかれる前に殺っちまえ』

「あぁ。お気遣い、感謝する」

 

 勇者に塩を送っておいてこの態度。

 流石に面の皮が厚過ぎません? とは思いましたが、特大ブーメランが返ってくるような気がしたのでここはスルー。

 

 ともかく、これで闇の使者ルインとして彼に会うのも最後です。

 礼儀正しくお礼を言ってからこの場を後にしましょう。

 

「それではな、魔将騎ゾルディン。誇り高き魔人の頂点に出会うことができ、俺としては非常に嬉しかった」

『……フン。さっさと行きな。それで玉砕してこい』

「ハハハ。俺は負けないよ」

 

 良い感じの雰囲気で締めくくって部屋を出たらすぐに「夜影音脚(シャドウアーツ)」を発動。今来た道を引き返して牢屋に戻りましょう。

 

 さて。魔将騎ゾルディンの前で啖呵を切って始まることになった勇者vs闇の使者ルインの一戦ですが――勝敗は当然、勇者の勝ちにしておきましょう。

 まぁ、暗殺者風情に負ける勇者ではなかったということですね。ゾルディンから塩を送られていたこともありますし、そういう意味においてもここで負けるのは些か不自然です。

 

 というわけで、まずは大きな戦闘があったように思わせるために()()()()()()()()()()()()()

 

 手当たり次第に曲刀を振り回して辺りの物を壊しまくって下さい。ただ、この時注意しなければならないのは、絶対に傷がつかないような場所にまで刀傷を残さないようにすることです。

 じゃないと、例によってクリスティーナ嬢にバレて全てが破綻します。

 ほどほどにリアリティーを持たせる立ち回りで――なんなら、仮想敵を想定しながら鍛錬も兼ねて暴れ回りましょう。

 

 当然の様に音を立て過ぎたら上から兵士たちが様子を見に来ますが、その時は「()()()()()()()()()()()!」と勇者ボイスで警告をしつつ、盗賊王の格好で彼らに斬りかかり、手傷を負わせながら頭を殴って気絶させていきましょう。

 殺してはいけません。彼らには「勇者が盗賊王と死闘を繰り広げていた」という報告をしてもらう必要があるからです。

 

 さらにこの時大事なのは、彼らが状況を完全に把握しきる前に意識を奪うことです。

 

 今の光景、実際には盗賊王のマントを羽織った男が一人で暴れているだけなので、その現実を認識される前に斬りかかり、痛みで視覚と思考が麻痺している間に気絶させてあげます。

 

「ぐわぁ!」「ギャー!」「痛てぇ!」「ガッ!」「ぐぅ!」

 

 はいはい、雑魚乙。

 

 上に待機している兵士は五人なので、これで全員ですね。

 

 良し。ほどほどに暴れたお陰で出来たリアルな戦闘跡に、そこら中に転がっている血だらけの兵士たち。

 

 あとこの場に足りないのは――私の血ですね。

 

「よいしょっと」

 

 手首を曲刀で斬りつけ、溢れ出して来た血をそこら中にばら撒いていきます。もちろん、これもリアルに見えるように気を使いながら。難しいと感じる人は、さっきと同じ動きを再現しながらまき散らせばいい感じに配置できると思います。

 

「こんなもんかな……」

 

 我ながら中々いい仕事が出来たといえるでしょう。

 

 さて、いよいよ最後の締めです。

 

 今まで愛用してきた盗賊王の曲刀に別れを告げる日が遂にやってまいりました。雨の日も風の日も、初期からずっと私の汚れ仕事を引き受けてくれた彼に敬礼ー!

 

 今まで……クソお世話になりましたァァァァァァァ!

 

 はい。敬意を示したので、これはもう折っちゃいます。

 

 ポキッとな。元々耐久値が高い武器ではないので、床に転がっている剣を全力でぶつければ割と簡単に折れてくれます。

 

 これを適当に床に転がし、ついでにフードも脱いでから私が最初に殺した兵士さんに被せて、指輪も嵌めてあげれば――良し! 君が今日から盗賊王ジャリバンだ!

 

 クリスティーナさん、お父さんの仇は此処に居ましたよー。

 

 さて、これでこの現場には「謎に争った跡」と「盗賊王の衣装を身に纏った兵士」と「勇者の血痕」だけが残されます。

 

 うーむ。我ながら完璧な工作。

 見事過ぎて溜息すら出ます。

 

 というわけで、今回はここまで。傷を負った勇者はどこかに消えたことにする予定なので、暫くの間私は雲隠れをします。

 

 キリが良いので今日のところはこれにて退散。

 

 

 サラダバー!

 




外道すぎワロタ。
次回はクリスティーナ回です。

それから感想欄であった各々の視点についてですが、これからももしかしたら話の都合で前の話と同じような感じになるかもしれません。極力分かりやすくなるように努力はしますが、もし分かりにくかったら感想で教えてくださいね!


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