私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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106話です。

今回の章は幕間の茶番が多くなりそうな感じがします。


正気じゃないね

 けたたましいサイレンの音が聞こえてから程なくして、水平線が黒く染まり始めた。間違いなく数えるのも馬鹿らしくなる程の深海棲艦の軍勢だろう。

 

「うげぇ……」

 

 ただでさえハワイに近くなったら深海棲艦の数が増えたというのに、その比ではない数の深海棲艦を見て摩耶様が嫌そうに顔を歪めた。

 

「完全に気付かれてるわよね……?」

 

 叢雲も半分くらいビビりながら訊いてくる。

 そりゃあもう、言うまでもないだろう。

 

「撤退しますか?」

 

「あぁん? 馬鹿言うな。飛行場姫とやらの(ツラ)拝むまでは帰れねぇだろうが」

 

「……だ、そうですよ」

 

 摩耶様から実に漢らしい言葉を貰ったから、諦めろと言い聞かせるように叢雲に言葉をかけて他の面子を見る。

 自然体のまま腕をプラプラさせる曙、精神を統一するかのような深呼吸をする満潮が見えた。口元に手を当てて薄っすらと顔を赤らめている荒潮はスルーだ。

 

「ハァ……バカなんじゃないの? 深海棲艦の大群(あんなの)に突っ込むなんて正気じゃないわよ」

 

 俺も流石におかしいとは思うけど、あんまり言ってやるなよ。

 血の気が多いような面子だし、四日もまともに戦闘が無かったから不完全燃焼なんでしょ。

 

「まぁ、偵察が目的ですし……摩耶様の言う通り飛行場姫の顔だけでも見てから帰りましょう」

 

「……アンタも馬鹿みたいね」

 

 無理そうなら帰るって事前に周知してた筈なんだけどな……

 でも、摩耶様なら引き際も間違えないだろう。だから俺も魚雷をポンポン撃ちたい!

 

「私はいつだって馬鹿ですよ? それより……付いてこないならここで食べられちゃいますよ?」

 

「……分かったわよ!

 

 分かってくれたようで何より。

 

 

 

 意気込んで夥しい数の深海棲艦に突っ込んだは良いものの結局やることは変わらず、適当にボコって怯ませて逃げるだけ。

 全員が孤立しないように固まって移動しているが、他の人達の活躍ぶりが凄い。

 特に先頭に居る摩耶様と荒潮が顕著で、沢山寄ってくる駆逐イロハ級を近寄らせない。

 ……そんな雑魚モンスみたいに軽く追い払わないで? 俺の攻撃力が足りないからそう思うだけ?

 

 最後尾の叢雲と満潮は後方と側面からくる追い抜いたヤツが後ろから突進してきた時に牽制や妨害をする役割。

 一匹でも処理を怠ったら全員纏めて吹き飛ばされるっていうプレッシャーの中、撃ち漏らしが無い射撃精度には舌を巻く。

 

 中央……俺の隣に居る曙は所謂補欠で、飛行場姫の発見の為に攻撃をしていないが、誰かが疲れた時や何かあった時に交代する役割があるからそのまま温存させていきたい。

 

 残った俺はと言うと……こういった役割分担や陣形? の形成を殆ど言葉を発することなくやってのけた五人は流石、大戦時代の知識とかいろいろ持ってるんだなぁ~なんて呑気な感想を持っていた。

 そんな高度なやり取りは出来なかったので、適当に飛行場姫が飛ばしてくるであろう艦載機に備えている。

 だからと言って何もしない訳にないかないから、少しずつ進路が変わったりしたからその矯正とか、味方に当たらないように牽制の射撃をしてたりした。

 

 

 

 ……深海棲艦の群れに突っ込んでからどのくらい経っただろうか?

 隣に居た曙が満潮になって、俺が摩耶様と代わって、隣に居た荒潮が摩耶様になったから……? ええい、集中してたから時間の感覚なんて無い。

 

 

 

 

 

 まだ飛行場姫の元に辿り着かないのか!?

 

 そんな具合で俺の我慢が限界になってきた頃、疲れるどころか不思議と体が軽くなったような気がしてきた。

 

「ん、あれ?」

 

 今も、駆逐ロ級の動きが若干遅く感じる。

 が、それだけではない。魚雷を投げようとしてる俺の腕の動きも遅い……?

 さっきまでは「疲れた」とか「まだかまだか」ってしか考えられなかったのに、どうして今はこんなに余裕があるんだろう? 謎だ。

 

「スチュワート、どうしたぁ!?」

 

 何かを感じ取ったのか、摩耶様が呼びかけてくるのは分かったけどそこまで離れてないのにやけに聴き取り辛い。水飛沫とか銃声を考慮しても絶対に音量が小さい。良く聞こえない。

 

「ああ……」

 

 これはアレだ。一種のトランス状態? ってヤツ?

 自分の視界の形をした窓から目の前の風景を見てるような……一歩引いた視点から、落ち着いて状況判断出来るというか…

 

 

 魚雷が鼻っ先? に当たったロ級が怯むが、沈んでくれないと邪魔で進めない。

 あとは目の辺りに三発くらい弾をくれてやれば良いんじゃないかな?

 

バーン……ってね

 

 予想通り、三発撃ち込んだらロ級から力が抜けた。

 恐らく死体になったロ級が横に倒れたから、そのままどかすようにもっと力を加えて進路を作る。

 あ〜……これ絶対疲れと緊張のせいでアドレナリンがヤバい感じにキマっちゃってるヤツだ。ロ級を押し除けるとかどう考えても普通じゃない。

 摩耶様に向かっていくイ級二体に牽制の射撃を、もう片方には魚雷を発射しておいたが、いつまでも残弾が減ってきたからそろそろ飛行場姫に辿り着かないと拙い。

 

「いつまでもこんなところに居られません! 突き抜けますよ!

 

 適当な前方に焼夷手榴弾を投げる。恐らくこんなに沢山居るなら不発にはならず何かに当たってくれるだろう。

 あとは投げた方向に居た駆逐イ級の顔面に両手で持てる分だけの魚雷をブチ込んで、速攻で沈めた。

 

 すると視界が開けた(・・・)

 

 

 

「……ワーオ

 

 遂に乗り越えたかと思ったがどうやら違ったみたいで、深海棲艦の外皮だか甲殻だか分からない破片が燃えて浮かんでいて、その破片がある場所を深海棲艦が避けた感じらしい。

 

「深海棲艦は火に弱い……?」

 

 まぁ、軍艦だろうが燃えたら爆発するし、生物なら火を恐れるのは道理か? 悪霊の類ならどうかは分かんないけど、実際に火を避けてるのは間違いない。

 

―――バンバン

 

「ええい! 考え事してる時に無粋な奴らめ」

 

 近寄りたくないからって撃ってくるのは違うでしょ……雑魚的扱いされたんだからさ、大人しく攻撃方法は噛みつきと突進だけにして欲しいね。まぁ、当たっても痛いだけだし、噛みつき(即死攻撃)に比べたら全然マシだ。

 

 

 

「っ! 見えた!

 

「本当か!? でかした曙!」

 

 後ろの方から、そんな言葉が聞こえてきた。と同時に謎のトランス状態が解けて視界と感覚が元に戻った。クッッソ疲れてるから今すぐ倒れたいが、どうやら曙が飛行場姫を見つけたらしいからしっかり見届けないと怒鳴られてしまう。それにここは寝るには深海棲艦(危険)が多過ぎる。

 振り返って曙が指さした方向を見ると、かなり離れてるが確かに、白くて目立つ色合いの深海棲艦が……

 

「って陸上に居る……」

 

 本当に深海棲艦かぁ? アレじゃあまともに魚雷当てられる気しないんだけど……。ドッジボールの天才だったら話は違うと思うけど。

 

 なんて考えていたら、またしてもサイレンが……さっきよりも近い分五月蠅さも倍増していた。

 そして、今までは単なる前哨戦だと言わんばかりに艦載機が飛んできた。

 

 佐世保に演習しに行った時に回収した高角砲を久しぶりに使ったけど、錆び付いてなくて良かった。

 案外撃ち落とせるじゃん。

 

よし、戻るぞ!

 

 飛行場姫の顔が見れたからか、摩耶様もご満悦だ。

 撤退の号令を受けて、全員が方向転換する。

 

絶対に振り返らないでください!

 

 黄色の缶(スタングレネード)紫の缶(スモークグレネード)をそれぞれ投げる。

 久しぶりに投げたそれらも劣化してるなんてことはなくて、大きな音を響かせてくれた。

 ヤバめな攻撃をしたと勘違いしたのか、俺たちの方に目もくれず、飛行場姫の方にそれなりの数の深海棲艦が向かっていったのは嬉しい誤算だった。

 

 そこからは、来た時と同じ……ではなく、俺の放った得体のしれない攻撃を警戒したのか、積極的に攻撃して来なかったお陰で撃たれたりはしたものの、駆逐イロハ級のアニメ張りのクソエイムに助けられて、誰も大破にならずに切り抜けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 行きに四日掛かったということは、帰りにも当然同じくらいの時間が掛かるという訳で……

 

 キュルルル……

 

「「「……」」」

 

 飛行場姫を見て、ハワイから引き返すこと三日目。

 俺たちは空腹に苦しんでいた(・・)

 

 荷物になるからと途中に寄った島に缶詰を置いておいたのだが、昨日立ち寄った二か所の島で何者かに缶詰が盗られていたのが原因(誤算)で、二日間何も食べていない。

 一刻も早く警備府に帰って間宮さんの料理を沢山食べたいというのは、最早六人全員の共通認識だった。

 

 二日程度なら佐世保で経験済みだわ~なんて余裕ぶっていた俺だが、あの時とは違って今回はジッとしていないから普通に腹が減った。

 

 そして分かり切ったことだが、空腹によって一種の極限状態まで追い込まれつつある者は常識や人間性をゴリゴリ削られていって、とんでもない手段を取ったりするのは歴史が証明している。

 

 つまりなんだ……「あと一日で着く」とゴールを見てしまったが故にあと一日が耐えられなくなったのは俺だけではなかったというだけだ。

 

「「「……」」」

 

 全員が無言だ。

 

 俺の音響手榴弾を海中にブッ込んで魚を殺し、摩耶様の魚雷から火薬を取り出しては、来るときに置いておいた木材を燃やし、艤装の中に居た妖精さんに精密ドライバーを借りては砲のカバーを外して海水を沸かした。

 馬鹿正直に釣りなんて言葉を出した叢雲は口を開けたまま固まってたけど、俺はそんな良い子ちゃんじゃないんでね。どうせこの世界だったら海で爆発があってもニュースにはならないだろうし。

 

 文明的なんだかよく分からない粗末な焼き魚を提供する。多分鯖だから食える筈だ。……洗う用の真水なんて無いから絶対に腹壊しそうだけど「それでも!」って頼まれたし……。

 艦娘が頑丈なことを祈ろう。一応内蔵は取ったし火も通ってるから寄生虫の類は無いだろう。やっぱり貧しくて余裕がなくなるとまともじゃいられないってことか……。

 

「……これからは作戦で遠方に行く場合は、補給地点を設営することを検討するように提督に言っておきます」

 

 全員が激しく頷いた。

 

 佐世保くらい余裕があるなら、補給艦を複数の艦隊で護衛しながら進むなんてことも出来そうだが、ウチには居ないからなぁ。

 提督が補給艦……神威と速吸だったっけ? その二人を建造してくれることを切に願うばかりだ。

 




補給もナシにこんなに活動するなんて……共食い(意味深)でもしてたんじゃないの?

主人公はゾーンに入っていたようです。
私は多分コレじゃないかな~? って感じになったことは何回かあったので、その感覚の通り描写してみました。

飛行場姫「見つけたと思ったら煙幕で逃げた。コイツ絶対ニンジャだろ……」

海の塩は美味しくない上にあまり安全とは言えないソウデスネ……。

次は8/5予定です。
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