私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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114話です。

エアコンを作った人は神だと思うこの頃。


不完全燃焼 ~気分の緩みを添えて~

 砂浜目掛けて全力移動。

 

 まさか俺たちがそっち側(陸上)に向かうとは思ってなかったのか深海棲艦の不意を突いた形になり、スタートの時点でワンテンポ早く、有利になることが出来た。

 しかも嬉しい事に戦艦ルが結構遅い。これは実にグッドな想定外。

 

 追ってこられるのは少ない駆逐級と軽巡、そして戦艦タ級だけ。その殆どを後ろに置き去りにした俺は遂に敵の射程外に逃げることに成功。後ろを振り向くくらいの余裕が出来た。

 少し遅れてるけど榛名さんもタ級の射程外に移動できたみたいで明らかにホッとしていた。軽巡と駆逐艦から撃たれまくってるけど全然気にした様子が無い。

 

 ……やっぱり戦艦ってすごいなぁ!

 

 感心している場合じゃない。

 

「榛名さん次です!」

 

「はいっ!」

 

 次が勝負所! 沈黙してるらしい飛行場姫に止めを刺す。その為には俺の貧弱な攻撃力ではなく、戦艦様(榛名さん)の超火力が必要だ。

 

 発射しては効果が無いからと手に持った魚雷に力が(こも)る。頼むから汗で滑ったとかはナシで頼むよ〜。

 

 大きく振りかぶって〜……掛け声はそうだなぁ

 

おはようございまぁす!

 

 そう言って魚雷を投擲。それなりに離れてるとは言え的が的だし、そう外れることは……微妙にズレたけど、艤装に命中したからヨシ! どう? 良い目覚ましになった?

 

『キャア!』

 

 あ、起きてたんじゃ~ん。死んだフリでもしてた?

 

バカめ……

 

 動かなければ死んだと勘違いしてくれると思った? しっかり止めを刺すのは戦場での常識だろう? 近年は小学生だって履修してる必修項目(死体に銃弾を放つん)だぞ。

 

 それに俺の攻撃なんてこれから攻撃する人に比べたら蚊が刺したようなモンだ! この程度で痛がって貰っては困るぜェ~ッ!

 さぁ榛名さん! やっちまってくだせぇ!

 

はぁっ!

 

 榛名さんが再び飛行場姫目掛けて斉射した。

 榛名さんのデカい艤装を以てして大きな反動を受ける程の砲撃。そんなのを二度も喰らえば流石の飛行場姫と言えど無事では居られない。

 急いで僅かな艦載機を眼前に展開したのがチラッと見えたけど焼け石に水。艦載機を無駄にしただけでダメージを減らせた様子は無いようだった。ざまぁねぇぜ。

 

 

 

 そうしてる間にもどんどん飛行場姫は近づいている。

 そしてぇ~……三、二、一、今ッ!

 

上陸ッ!

 

 跳ねるように、スキーでジャンプするみたいに体を動かして海から陸にエントリー! ……したのは良いんだけど、かなりスピード出てたから綺麗に着地なんて出来る筈もなく……盛大にぶっ倒れた。 

 が、直ぐに起き上がって飛行場姫の方に駆ける。口の中と体中がジャリジャリするぅ……

 

 何故かは知らないけど飛行場姫はさっきから殆ど艦載機を飛ばしてこない。

 俺が爆発を起こしてから引き揚げた艦載機は最初に比べたら相当減ったとは言ってもまだそれなりには残ってた筈だ。

 だからこそ分からない。

 

『ウウッ……壊れちゃう……』

 

 すっげぇダメージ受けてるっぽいのに、どうして艦載機を飛ばしてこない? さっき俺が転んだときなんて絶好の攻撃チャンスだっただろう。撃てば当たるような状態だったんだぞ?

 

 まさかとは思うけど……さっきの防御で全部使い切った?

 

 うや、それだと残りの艦載機は何処へ消えた?

 ここ以外の戦闘地点に送り込んだか、まだ隠し持ってるってこともあるか? 死んだフリするようなヤツだからなぁ……

 

分からん……

 

 ここまで歩数にして十歩足らず。

 鈍色の脳細胞を活性化させて導き出した俺の答えは……

 

「攻撃すれば分かるだろう」

 

 実に脳筋的なものだった。シンプルでいいじゃない。

 距離が縮まってきたから盾を構える。多少前進の速度は落ちるけどこれで正面からいきなり艦載機が飛んできても致命傷にはならないだろう。

 

「ホイ!」

 

 魚雷を投擲。

 艦載機で防御は……しない!? 本当に艦載機が残ってないとでも言うつもりか?

 

 それはそれで俺たちにとってはいいニュースでしかないんだけど。

 艦載機(飛ばすもの)のない飛行場姫など、ただの案山子ですなぁ!?

 

榛名さん! 斉射ァ!

 

 そうなったら案山子(おやつ)と化した飛行場姫には反撃を恐れず、思う存分攻撃出来るというもの。でも俺じゃあ火力不足が著しいから榛名さんに任せる。

 別に面倒だから攻撃しない訳じゃない。適材適所ってヤツだ。

 

はいっ! 避けてくださーい!

 

 言われて進路を右へ。

 飛行場姫は名前の通り飛行場だからかその場から動いていない。動く様子も無い。一人でそのクソデカい艤装の持ち運びは流石に無理だろう……憐れ飛行場姫。

 

 後方を見ると、榛名さんの艤装の主砲? がキラリを光ったかと思うと、僅かに遅れて砲を撃った爆発音。そして飛行場姫の居た場所からやってくる衝撃波。

 

『沢山の鉄が沈む……この海で。ワタシもその一つ……」

 

 そんな言葉が飛行場姫の方から聞こえて来た。

 見て見ると、ボロボロになった飛行場姫はまだ艤装に腰を下ろしていた。

 随分余裕そうだな。と思ったら再び砲弾が突き刺さった。榛名さんマジ容赦ねぇ……

 

 それからしばらく飛行場姫に砲弾が撃ち込まれて、その煙が晴れた時艤装の上に腰かけてる飛行場姫の姿はなく、代わりに艤装の前に投げ出されるように倒れ伏している飛行場姫の姿があった。

 

「……やりましたか?」

 

 海から揚がった榛名さんがやってきた。

 

「……恐らくは」

 

 俺はピクリとも動かない飛行場姫を爪先で突いて、反応を示さないことを確認して榛名さんに答える。

 

 その時だ。

 

 ザザーッ……

 

 不自然なくらい高い波がやって来て、飛行場姫を攫って行ってしまった。

 

「「……」」

 

 突然の事に対する困惑、超常的な現象(突然の高波)によって意識に空白を作られた俺たちはただ茫然としていた。波に攫われて溶けるように綺麗サッパリ消えた飛行場姫と、対照的にその場に残ったボロボロの艤装。

 間違いなく強敵だった筈なのに最後が締まらないと言うか、あっけないと言うか……。達成感なんて殆ど無く、無性に淋しく感じた。

 

 

 

 

 

『―――スト……。あっ! 繫がりました!?』

 

 呆然としたまま艤装を眺めていた俺と榛名さんの元に、傍受と言う言葉を思い出した通信機が大淀さんの声を届けてくれた。

 

「繋がってます……」

 

 そう言ってから無事を伝えると、怒られてしまった。

 ……罠に嵌ったってノイズ混じりの通信が来たと思ったら音信不通とかそりゃあ心配で胃がねじ切れるね。本当に申し訳ない。

 

 味方の艦載機で俺たちの居るであろう場所を偵察しようにも、飛行場姫の艦載機が邪魔で難航していたらしいが、突如として殆どの艦載機が制御を失って墜落したらしい。その連絡を受けてる間に、味方の緑に日の丸が描かれた艦載機が空に見えた。

 

 今は深海棲艦が逃走を開始した為、ここぞとばかりに張っていた包囲網から逃がさないようにしつつ掃討してる最中らしい。

 

「……二人ともお疲れでしょうけど、掃討に協力していただけませんか?」

 

「はいっ! まだやれます!」

 

「是非もないです」

 

 せっかく深海棲艦が逃げる為に背中とケツを向けてるんだ。多少の疲れはあったとしても、楽に深海棲艦を倒せるならそのチャンスを逃さないに越したことはないだろう。

 

 でも……

 

「折角陸に上がったんだからあの森でゲリラ戦とかやりたかったなぁ……」

 

 機動力とかを活かして各個撃破。楽しそうじゃない?

 

「えっ!?」

 

 俺の呟きに対して榛名さんが「そんなこと考えてたんですか!?」みたいな反応をするが、俺なんかがそんな軍人めいた動きが出来る訳がない。“やりたい(願望)”と“やれる(可能)”の違いだ。

 

「冗談ですから忘れてください。……さぁ、背中を向けてる深海棲艦に思う存分攻撃するチャンスですよ?」

 

 俺は飛行場姫の最期がなんか味気なく感じたからスッキリするまで魚雷をブチ込むつもりだけど……。

 

「榛名さんはかなり主砲酷使しましたし(撃ちまくったし)、大丈夫ですか?」

 

「はい! 榛名は大丈夫です!」

 

 かぁ~っ! 頼りになるねぇ。

 

 

 

 再び海に出る。

 

 他の人の砲撃に当たらないようにしながら逃げる駆逐イ級に魚雷を二発投げたら、艤装から偉そうな妖精さん(ホモ)が現れて首を振った。

 

「……補給しろってこと?」

 

 供給されない魚雷を不審に思い、確認するように問うと何度も頷かれた。

 

「マジか……。あ、大淀さん? 補給しに戻りたいので、榛名さんを一人にしないように誰か寄越してください」

 

『分かりました。あら、そう? ……近くに荒潮さんが居るみたいなので向かわせますね。直ぐに着くと思いますよ』

 

 警備府ではない場所での指揮はすっかり大淀さんの役目になってるなぁ……なんて思ってたら深海棲艦の隙間にチラリと茶色が見えた。多分荒潮だろうが……来るの早すぎない?

 

「ありがとうございます。……あ、榛名さん? スッキリしたので戻りますね。代わりに荒潮が来るみたいなのでお願いします」

 

「分かりました。……それと、まだスチュワートさんに訊きたいことがいくつか残ってますので、警備府に戻ったらしっかりお話して貰いますよ?」

 

「お、お手柔らかに……ではお気をつけて!

 

 返信の代わりに砲の音が聞こえて来たから、置き土産とばかりに音響手榴弾をポイ。

 

「ふぅ~……」

 

 手札は使い切ったし、後は噛みつかれないように避けながら戻るだけか……

 

「あ~眠……」

 

 終わりが見えてきたことで緊張は完全に緩み、最後のやる気を振り絞って移動を開始した。

 





ゲームのイベントボスが結構弱かったときの不完全燃焼感。

でも強すぎてもイライラするのよね……
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