私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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12話です。

誤字脱字報告ありがとうございます。
「ここおかしいぞ」って時にはガンガン送ってください。

一章「漂流船」の終わり。


座礁

 妖精さんからの支援とは一体なんだろう? 前に聞いた話だと深海棲艦に与えるダメージが上がるなどといった艤装の効果上昇が主な内容だった筈だ。

 でも妖精さんは支援するって言ってるし……あっそうか。

 

「今から更に強くなる……ってこと?」

 

「大体合ってますぅ。今よりも強くなれますよぉ」

 

 それは良い事を聞いた。つまりアレだな、妖精さんの更なる支援という名のバフだな。

 だからイロハ級との戦闘ではやらなかったのね。強敵との戦いでそういうのに目覚めてこそ熱くなるからな。絶対にこの妖精さんはロボットアニメ好きだろ。

 

「具体的な効果は?」

 

 俺としては何処かの吸血鬼みたいに時を止める……までは行かなくても、相手の砲弾の軌道がわかるとか資材を一切消費しないとかが良いなぁ。

 

 魚雷で大きな水柱を上げて陰に隠れて横に跳ねる。駆逐棲姫の方から発砲音がしたけど衝撃がないから回避に成功したんだろう、妖精さんからの答えが返ってくる。

 

「私が、深海棲艦の攻撃によるダメージを軽減しますぅ」

 

「ちょっと地味!」

 

 でも実際にこういった砲弾の飛び交う戦場ではかなり嬉しい効果ではある。ゲームとかでも攻撃力が高くても紙装甲のキャラに長期戦はさせちゃいけないって俺も良く知ってる。毎ターン体力を回復させる手段がない『艦これ』に於いて、受けるダメージの軽減は全提督の垂涎物だろう。

 

「確かに多少は軽減出来ますけどあまり過信しないでくださいよ? 妖精にだって限界はあるんですから多く被弾するとダメージを受け流せなくなりますぅ」

 

「するとどうなる? 妖精さんは死ぬのか?」

 

「よっぽどダメージが多くない限りは死にはしませんよぉ。ただ、ダメージが増えると小破、中破、大破状態になってそこまでが私達の限界ですぅ。そこから先は貴女自身がその身と命を削っての戦いになりますぅ。その状態でも被弾が続くと轟沈……艤装が効果を失って、貴女は服と鉄の塊を背負って水中に行く事になりますぅ」

 

 言い方は悪いけど魚の餌か海の藻屑のどちらかですぅ。なんて言う妖精さんが非常に恐ろしい。

 今までの戦闘はなんだったのか。遊びじゃないって言われた気がするんだけど……妖精さんも痛いのが嫌なのか?

 

「ギリギリまで言わないつもりだった?」

 

 駆逐棲姫を中心として円を描くように動いて攻撃を避ける。相変わらず攻撃を外す度に「?」って顔をしている。俺の方を向いても不思議そうな顔をしている、俺の顔に何か?

 

「ち、違いますよ! 妖精の支援を受けた艦娘は敵に察知されやすくなりますぅ。長距離を気付かれずに移動するっていうのと、貴女の練習になればと思って……」

 

 なるほどね、だからあれだけ移動したのに思ってたよりは深海棲艦に遭遇しなかったのか。深海棲艦には妖精さん特攻のレーダーが搭載されているということか。だから駆逐棲姫も不思議そうな顔をしてたんだな。

 でも俺の練習っていうのはちょっと分からない。確かにピンチは人を育てるって言われてるけどそれで死んだら全部パァじゃん。俺を選んでこうやって移動し始めた以上引き返せないって分かってただろうに……もうちょっと慎重になるべきだったんじゃない?

 

『そこ……沈んで!』

 

 不思議そうな顔から一転、駆逐棲姫が獲物を見つけたようなお預けされてた玩具を与えられたような嬉しそうな顔を向けて砲を撃ってきた。

 

「おっと! ……あ? やだ怖い……」

 

 あの顔はアレだ。アニメとかに居るトリガーハッピー枠がするヤベー顔だ。マジ怖い。笑顔とは本来――ってヤツだ。

 っていうか明らかに妖精さん支援始めたよね? せめて始まるって一言欲しかったなぁ! いきなり体がフワってなるもんだから被弾しちゃったじゃん。

 

「確かにあんまり痛くない」

 

 そう、痛くない。

 精々雪玉に当たったくらいの痛みと衝撃。小さいとはいえ砲弾が当たったとは到底思えない。当たった所からも血は出てないし服すら破れてない。何故『艦これ』の艦娘が被弾しても痛みで気絶したりしないのかといった謎が解けた。ゲームだから(大人の事情)というのもあるだろうけどこういうことだったのか!

 

(油断大敵ですぅ! 貴女は良くてもこっちは大変ですぅ!)

 

「ごめん。……さぁこれからどうしましょうかね」

 

 防御力が上がったところで駆逐棲姫には勝てるとは思えない。体力が限界を迎えるまでの時間が伸びたくらいじゃなかろうか。でも妖精さんだって頑張ってるんだし、俺も頑張らないとな!

 

 

 

 

 

「駄目かぁ……」

 

 しばらく撃ち合ったけど攻撃はまるで通用せず、煩わしそうに腕を振るわれるばかり。一方で俺はというと、艤装も服もボロボロで手に持っていたの砲も曲がって使えなくなった。

 

 ハッキリ言って心が折れた。圧倒的な戦力差は妖精さんの支援があっても覆らなかった。妖精さんの声もさっきから聞こえてこないから限界なんだろう。

 

「妖精さん……ごめんよ、日本の地に辿り着かなかったよ……」

 

(さっきから逃げてるばっかりでしたけど、日本の海に辿り着いただけでも十分です。こちらこそありがとうですぅ)

 

 いつの間にか日本の領海に入ってたらしい。

 行かせはしない? 日本に行かせちゃったねと、恨みと嘲りを込めて駆逐棲姫を見る。

 

 首を捻ると避けられる程度に狙いが定まっていない砲弾を避ける。

 

 やはり舐められている。

 そう思うってもどうにかする手段はなく、俺がまともに砲も撃てなくなった辺りからわざと外してるとしか思えないような避けやすい弾を撃ってくる駆逐棲姫。

 

 キレそう。いや、もうキレたね。

 俺は、俺は……ッ!

 

 

 舐められるのが大っ嫌いなんだよ!

 

 窮鼠猫を噛む、鼬の最後っ屁、火事場の馬鹿力、何でもいいから駆逐棲姫に一矢報いる。この俺、スチュワートは簡単にはくたばらんぞ……

 

「ぁぁああああああッ!!」

 

 気合いの入った叫び声を上げて駆逐棲姫に突進する。近づいていく無表情にはどこか侮りの色が見える。タダでは転ばん! 道ずれにしてやる!

 

 駆逐棲姫に体当たりし素早く後ろに回って組みつく。何をされるか分かった様で振りほどこうと藻掻く駆逐棲姫だが、海上にプロレス技なんてあるまい!

 

「やめろぉおおおおっ!」

 

 五月蠅いぞ! 残りの魚雷、全部くれてやるぜ!

 丸ごと自爆してやるぜぇーーっ!

 俺のキルマークは誰にも渡さねぇ!

 

 

 

 最後に感じたものは今までで一番大きな音と衝撃。閉じた瞼を紅く染める太陽の光、そして大きな悔しさと小さな達成感だった。

 

(本当にごめんなさい。そしてありがとうございます)

 

 そして妖精さんの言葉。

 

「良いよ良いよ。俺も楽しかったし」

 

 そう言おうとしたけど口からはゴポリという最後に聴きたくない生々しい音しか出なかった。

 

 

 

▼―――――――――――――――

 

 前方で見知らぬ(ふね)が深海棲艦と戦っている。……単騎で深海棲艦に挑むなんて余程のバカか命知らずだけだろう。

 私がそう呆れながら目の前のそれを認識したときには相手の深海棲艦、駆逐棲姫に雄叫びを上げて突っ込み始めていた。

 

「なっ!?」

 

 何をするか天龍達も分かっているのだろう、同じように驚きの声を上げている。

 あの艦は……自爆する気だ。あまりにも自分を省みない凶行に顔が歪む。

 

「おいっ! やめろぉおおおおっ!

 

 天龍の怒号も空しく、大きな爆発が起こった。

 

 

 

 爆発による水飛沫が治まった頃には私たちは爆発地点の近くまで来ていた。そこに居たのは

 

『うぅ、痛い……』

 

「…………」

 

 傷だらけの駆逐棲姫と、満身創痍で今にも沈んでしまいそうな艦が居た。

 

「血が……。」

 

「龍田ぁ! 弥生と一緒にあの艦を保護しろぉ!」

 

「わかったわ~。さ、行くわよ弥生ちゃん」

 

「は、はい……。」

 

 あの艦の保護に龍田と弥生が行ったなら大丈夫だろう。あとは私たちが駆逐棲姫にしっかりと止めを刺せば大丈夫だろう。

 

「他の艦は駆逐棲姫(コイツ)の撃破! ビビってんじゃねぇぞぉ!」

 

 私たちが返事を返してないのに一人で攻撃を開始した。こういったときの天龍の勇ましさは本当に素晴らしいな。

 

「二人も私に続け! 遅れるなよ!」

 

「言われなくても!」

「ぴょんっ!」

 

 四人から放たれた大量の砲弾と魚雷は、もともと傷だらけだった駆逐棲姫に反撃も撤退も許さずただひたすらダメージを与え続け――

 

 

 

まだ……まだ、先に……』

 

 無事に倒すことが出来た。

 一息ついて周りを見渡すと離れたところに弥生と龍田が居た。……あの艦は大丈夫なのだろうか? ここから鎮守府まで半日以上掛かるが……

 

「天龍ちゃんお上手~。この子はまだ大丈夫そうよ~。……でも鎮守府まで間に合うかというとちょ~っと不安かも~」

 

「じゃあコイツは貰っていくぜ。反論は受け付けねぇぞ」

 

「その子を担いで何処へ行くつもり~?」

 

「ハプニングはあったが遠征は完了してる。帰投するぜ」

 

 龍田が言うには間に合うかはギリギリらしい。だからと言って見捨てる訳もないし天龍にも反論は無い。

 

「それと、コイツの艤装は皆で手分けして運んでくれ。頼むっ!」

 

「もぅ~~。天龍ちゃんに頼まれたなら仕方ないわね~♪」

 

 ……反論は無かったんだが、流石にこの鉄の塊は私たち睦月型には辛い。

 一言物申したかったが、天龍に担がれた艦の容態も気になるから我慢した。

 

 こうして、私たちの遠征任務はいつもより速いペースで引き上げられ、鎮守府に戻ることになった。

 




駆逐棲姫かわいいよね……

 次章「鎮守府」

 引き続きよろしくお願いします。
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