私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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125話です。

夜間が寒くなってきました。
赤い蜻蛉も増えて、秋を感じます。


ファーストコンタクト

「そろそろ到着だ」

 

 そう言われたけど……建物的に殆ど隣だし、なんならコンテナ船から降りる前から既に丸見えだったからアッハイくらいの感想しか出てこない。

 

 アメリカの基地と言う名の鎮守府の入り口には当然、日本では見たことが無い艦娘が並んでいた。その数は十人ちょっと。

 緊張を一回落ち着かせたいから人目の無いところに行って休んで良い? なんて言いたいけど、先導するアレックスさんが止まらないから俺たちも止まる訳にはいかない訳で。

 そのままスタスタと並んでいた艦娘の列の前まで移動したアレックスさんがクルリと振り返った。

 

「改めて、ようこそ大湊警備府の皆さん」

 

 その一言の後に、後ろに控えていた艦娘達が頭を下げた。

 アメリカって頭を下げずに握手とかハグのイメージあったんだけど、そんなことはなかったのかな。

 どうでもいいところにトリップした思考を一瞬で引き戻しつつ、今回も演習と同じようなもんだからお客様だから挨拶をしようと決める。

 

「ご挨拶ありがとうございます。私達は大湊警備府より派遣されました」

 

 一言だけ言って脇にズレる。

 

「こちらから長門、加賀、神通、陽炎、初風。そして私がスチュワートです。これから一月の間、よろしくお願いします」

 

 そう言って俺たちも頭を下げる。

 ……おお! 引っかかることなく挨拶出来たぞ! 海外でもそこまで酷い失敗をせずに挨拶が出来るようになるなんて、俺って相当成長したのでは? 偉い!

 

「こちらも自己紹介をしないといけないみたいだ。だけど長距離の移動で疲れてるよね? 中に入って一休みしようか」

 

「こっちよ。付いてきて。『サムは飲み物の準備をお願い』

 

 アレックスさんの提案で建物内へ行くことが決定した。隣に居る空母の人が案内してくれるらしい。隣に居た俺には聞こえたけど簡単にパシられたサムって人は可哀想だなぁ。

 

「皆さんも行きましょうか」

 

 

 

 

 

「―――よろしくね!」

 

 アメリカの艦娘計13人の自己紹介、駆逐艦最後のジョンストンが紹介を終えた。

 本当に自分の名前を名乗るだけの簡素なものじゃなくて、好きな物とかも交えながらの自己紹介だったから俺たちもすんなりと覚えることが出来た。人数が少ないってことと、やはり艦娘。特徴的で覚えやすいってこともあって人の顔と名前を覚えるのが苦手な俺でも覚えることができた。

 俺たちも再び名前を言ってから好きなこととかその他諸々を互いに言い合っていた。

 

『随分流暢な日本語ですね。お陰でこちらも緊張せずに会話が出来てます』

 

 正面に座っていたアレックスさんに英語で話しかける。

 

『そりゃあ一年を通して日本から出向してもらってるからな。慣れるってこった』

 

 日本語のときと随分口調が違うように聞こえるんだけど!? 日本語で相当まろやか(?)な雰囲気になってたんだね!?

 それに慣れるって言ってもなぁ。 俺みたいに相当特殊なことになって無ければ母国語ともう一つの言語を習得するなんて相当な努力が必要になるか、相当頭が良いかのどっちかだと思うんだけど。

 

『それにしても助かるぜ。実にグッドだ。やっぱり日本語って難しくてよ~。やってられなくなるよな!』

 

『? 私は日本育ちですのでなんとも……』

 

 まぁ、身体(ガワ)は置いといて、精神は完全に日本男児よ。

 そんな俺でも“日本語”は平仮名、片仮名、漢字の三つに音読みだの活用法だの……完全に暗号だよねコレって考えた回数は数えきれないんだから外国人は尚更だろう。倒置法なんて英語に存在するのか?

 

『マジか……あ! 君のことは叔父さんから聞いてるぞ』

 

『おじさん?』

 

 急に話題が変わって付いていかないぞ? おじさんってなんだ? ゲーム(RPG)に出てくる情報収集のキャラじゃないよね? ちゃんとした人間だよね?

 

『あれ? 君じゃないの? アランって人知ってる?』

 

『? ……! アラン!?

 

 え? 嘘だろオイ。

 談笑をしてた全員が驚いて大声を出した俺の方を見るけど気にならない。気にしてられない。

 

 アラン

 その名前はよ~く知ってる。忘れてもすぐに思い出せる。

 スラバヤから日本へ移動するときに釣り竿をくれた優しい人だ。頭の中で恰幅の良いおじさんがチャーミングなウインクを飛ばしてくる。

 まさかこんなところに過去との繋がりがあったなんて。

 

『ええ知ってます。それと、アランさんに頂いた釣り竿を持ってきてるんですよ』

 

『こりゃ間違いないな。そう、今回スチュワートが此処に来たのは偶然じゃない。俺が指名したのさ』

 

『……だからかぁ!』

 

 凄く納得した。俺が出向のメンバーに組み込まれてたのは不思議に思ってたんだよね。まさか海を越えたこんなところにその原因があるとは思わなかったわ。

 

『電話でもするか?』

 

『いいえ。今は遠慮しておきます』

 

 スマホを出して見せてくるアレックスさんにきっぱりと断りを入れる。理由は、話したくないというよりは話す内容が纏まっていないから。

 アランさんが居なければ俺は日本への旅路の途中で力尽きていただろう。つまりアランさんは恩人で、故に電話をするときはしっかりとしていたい。こんないきなり振られて、滅茶苦茶な会話はしたくなかった。

 電話をするなら自分から、言いたいことをしっかりと纏めてからだ。

 

『そうか。じゃあそのうちここに呼ぶから、その時は思い出話の一つや二つを聞かせてくれよ』

 

『!?』

 

 マンツーマンでの会話じゃないの? 他の人も聞く感じなの!?

 

 

 

 

 

 アメリカの歓迎は非常に丁寧だった。

 

「サンドイッチを用意しています。少し待っていてくださいね」

 

 昼に近付いてきた頃そう言ったのはフレッチャーだったかな? 底の見えない懐の広さを感じる……ついつい頼ってしまいそうで、包容力があって……でも、手に持ってる皿には最早殺意すら滲ませているようなものが乗っていた。

 

 それはフードファイターが裸足で逃げだすレベルの大きさのサンドイッチ。目の錯覚とかじゃなくてマジなの? どう考えても顎外しても食べられないよね? 

 

「ソレ、どうやって食べるんですか?」

 

「ナイフで切り取って食べるんです」

 

 手を汚さずに簡単に食べられるサンドイッチは何処へ行ってしまったんだ?

 

 

 

「「「……」」」

 

 食事中、食堂内は不気味なほどに静かだった。

 

 嘘だろ? 滅茶苦茶フランクな正に“陽の者(キャ)”の集う自由の国では無かったのか!? 全然そんな事無いじゃないか。身構えに身構えまくった挙句、トチ狂って「壁の染みになってれば問題ない」って考えに辿り着いて損したぜ。

 正直なところ俺は普通に緊張してるだけなのは分かるんだけどさ。スタートラインで躓いた感じがある。流石に無言でただサンドウィッチを食すだけなのは寂し過ぎるしな!

 

『プッ……もう我慢の限界よ。アイオワ、貴女似合って無さ過ぎ!』

 

『しょうがないじゃない! 今までやったこと無かったんだから!』

 

『やっぱりアイオワに猫かぶりは無理だったわね』

 

『ちょっと! 私語は謹んで! 大湊(オオミナト)の人達の前よ!』

 

 突然前方が騒がしくなった。

 耳を澄ますと互いに煽り煽られのことばの応酬。あ、想像通りのフリーダムさだ。これこそアメリカって感じするよな。

 

『化けの皮剥がれるの早いっスね……』

 

 そうツッコミを入れるのを堪えた。見てるだけで面白いアメリカの人達のやり取りに水は刺さない方が楽しめるだろう。

 

「緊張してられないですよ、長門さん。適当に戦艦の人呼んできますから、場を盛り上げてくださいね?」

 

「なんだとっ!? いきなり無茶を言うな!」

 

最初の挨拶

 

「クッ……」

 

 そんなやりとりを長門さんとしていたら、後ろの方から誰かが歩いてきていた。

 

「私はコロラド。貴女が大湊の長門? ビッグセブン同士、仲良くしましょう?」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 長門さんは同じく「ビッグセブン」を名乗るコロラドさんに声を掛けられて、俺は二人の時間を邪魔するまいと席を外した、

 加賀さんは空母のホーネットさん、サラトガさん、イントレピッドさんに連れてかれて、神通さんはヘレナさんと談笑している。

 陽炎型の二人はいつも近くに居る提督以外の提督が、それもアメリカの提督が珍しいのかアレックスさんに絡みに行った。

 

 さっきまで静かだったのに……君達コミュ力お化けかよぉ!?

 

 恐るべき仲間たちのコミュニケーション能力に戦慄していると、アメリカの駆逐艦が二人、俺のところに来た。

 

『貴女がスチュワート? 大先輩よね? よろしく!』

 

『こちらこそ』

 

『色々と質問しても良い?』

 

『勿論いいですよ。応えられる範囲に限りはありますけど』

 

 そりゃあ“駆逐艦スチュワート”については調べたさ。少しでもロールプレイの役に立てればと思ったんだ。

 

 

 

 ファーストコンタクトは良い感触に感じた。

 




1話から細々と手直しを始めました……が、そちらは投稿以上に亀ペースです。
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