私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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130話です。

お待たせしました。



それはとてもグダグダな

 艤装を吹っ飛ばされて脱落した俺と、艤装を吹き飛ばした張本人のヒューストンさんとダメ押しに来るにはちょっと遅かったヘレナさんも一緒に基地に戻っていた。

 

 久しぶりに艤装が大破まで持ってかれたことにちょっとショックを受けている。

 最近は大湊の第五航空戦隊(翔鶴 瑞鶴 白露 漣)と演習した時は盾を持ってたことに加えて味方が加賀さんだったとは言え中破で粘ったのに、今回は実質ヒューストンさん一人から良いようにやられてしまった。

 正直かなり悔しい。

 

 そして、基地に戻ると最初に伝えられた演習の結果が俺たちの負け。

 撃破したのがジョンストンとアトランタさんの二人で、撃破されたのが長門さん以外の全員。海外の初演習で黒星を喫することになった。

 

 演習前にアイオワさんたちがゆっくりしてた所には機材に繋がれたスクリーンが用意されていて、その前には長門さんとコロラドさん以外の全員が居た。これから記録用の艦載機で撮影した映像を見ながら反省会を始めるらしい。

 

 因みに演習に出てない人はさっき生中継されてた映像のリプレイを見ながら茶々を入れるのが恒例なんだとか。アメリカの人達娯楽に飢え過ぎでしょ……

 

 長門さんとコロラドさんがまだ来てないことを指摘すると、なんと砲撃戦ではなくお喋りをしているらしい。「放っておいてもその内戻ってくるでしょ」と呆れた半分に言ったホーネットさんがそのまま機材を弄り始めて、スクリーンに映像が流れ始めた。

 

 

 

 

「ヘレナさんのペースに飲まれないように一意専心攻撃を続けるべきでした。反省です……」

 

 最初は神通さんとヘレナさんが映され、すぐに神通さんが呟いた。

 

 最初に見せられた神通さんとヘレナさんの演習風景は、神通さんがどれだけ攻撃をしても一向にヘレナさんが減速しないという異常な光景が映されている。

 

「あの苛烈な攻撃を……いったいどういったトリックなんですか?」

 

 俺の疑問に日本の皆が注目する。

 

「ヘレナはシールドとブースターを使ってるの。砲戦なら負け無しよ」

 

「わざわざその為に長期休暇取って明石に会いにニホンまで行ったんだよ、笑えるだろ? しかもヘレナはああ言ってたけど、「高耐久、高火力、高速、三つ揃えば最強よ」なんて言って、まるでゴリラみた痛ぁ!

 

 ヘレナさんの言葉に茶々を入れたサウスダコタさんが椅子から転げ落ちた。

 

「失礼ね。武器は愛銃一つで充分なのよ」

 

「ヒュ~♪ 凄い早撃ち。ヘレナ、カッコいいじゃない!」

 

「ありがと」

 

 誰だよヘレナさんのこと紙耐久だなんて言ったヤツ! 神通さんの攻撃を凌ぎ切る能力あるじゃん! 

 通常攻撃以外使えないけど基礎ステータスが高すぎて強敵になっちゃう感じのシンプルに厄介なパターンじゃねぇか!

 

「実際のところ初見殺しだし、どれだけ煽っても自分のペースを曲げない……神通みたいな人には二回勝つのは難しいのよ。ま、深海棲艦相手には二回目は無いから良いんだけどね」

 

 初見殺し特化ねぇ……確かにこんなの想定外だよ。

 でも、別に初見じゃなかったら初っ端から撃ちまくってくると思うと、それはそれで滅茶苦茶強いと思う。ヘレナさんの攻撃で殆どダメージを受けないような人しか安定して勝てないんじゃないの?

 

 

 

 初風と陽炎がジョンストンを撃破して、その後に重い腰を上げたアトランタさんと相討ち。そして舐めプを止めたサラトガさんと加賀さんが空母同士の一騎打ちになってこっちも引き分け。

 こうして見ると序盤は完全にアメリカペースだったのに、陽炎と初風の一転攻勢から一気に盛り返したなぁ。すごいナイスプレーだ。

 

「こうして見ると勝ちの目は幾らでもありましたね。ごめんなさい」

 

「いやいや! 加賀さんが謝らないでよ! むしろ艦載機の数にあれだけ差があってあそこまで巻き返したのは凄すぎだって!」

 

「そーそー、アンタはあたし相手によくやったよ。素直に感心した。まぁ、副砲とかあると万が一の時に活躍出来ないってことは無くなるかもね」

 

「……どうも」

 

 陽炎と初風の活躍に埋もれてしまった加賀さんが不機嫌そうにアトランタさんに答えた。

 まぁ、自分にメタ張ってきた相手(勝者)に声を掛けられてイラっと来る気持ちは解るけど…… 加賀さんから不快そうな雰囲気を通り越して殺気が漏れたのは流石にヤバそうだ。

 

「にしてもホント、日本の駆逐艦は怖いね。二人以上になった時の爆発力はマジヤバい。サラの艦載機怖くなかったの?」

 

「あの時はね。今の映像だと相当無茶してる、よく無事だったなぁ」

 

「アトランタさんを何とかすれば後は加賀さんがなんとかしてくれるって思ってたから! それに」

 

 陽炎がジョンストンと俺を見る。俺が何かしたか?

 

「舐められたままでは終われないしね。次は一人でも勝つわ!」

 

「別に舐めてた訳じゃないのよ。ごめんなさい」

 

 ジョンストンが陽炎に謝る。なんか陽炎って少年漫画の主人公みたいだよなぁと思う。負けても腐らずに上昇志向なところとか。

 そして俺は陽炎に舐めてるって思われてたのはかなり意外だった。そんなつもりは無かったのに……ちょっと悲しい。でも陽炎の得意なこととかは知ってるからまだ一対一で負けるつもりはない。

 

「そもそも、あれだけ有利なのに辛勝しか出来なかったサラはさぁ……最初から全力で潰しに掛かってたらもっと楽に勝てたと思うんだけど?」

 

「うぅ……」

 

「サラは優し過ぎるんだって。相手だって全力なんだから全力で相手しないと失礼でしょ」

 

 アトランタさんがサラトガさんも小言を言い始めた。

 サラトガさんはシュンとして言われるがままだけど、ホーネットさんが言うにはサラトガさんは相当強いらしい。深海棲艦には加減無しなのに演習ではああなるらしい。

 アレか? 本気出して間違いが起こると悪いから手を抜きますってヤツ? サラトガさん自身は優しいのに艤装の殺意が高いなんて苦労してそうだと思った。

 

 

 

 次に俺の勝負が映された。必死こいて戦ってるのが映されて凄く恥ずかしいんだけど……この後普通に負けるんだよね。これなんて罰ゲーム?

 深海棲艦の重巡ですらなかなか厳しいのに……艦娘の重巡は普通の深海棲艦とは比べ物にならない賢く立ち回るから勝ち目なんて無いに決まってるだろ! チワワが熊に威嚇するようなモンだぞオイ。

 

「有効な攻撃が無いと判断したら直ぐに模索に入る切り替えの早さ、流石ね」

 

 慰めが心に痛い。砲弾の的になって弾け飛び(消え)たい気分だ。

 

「手を変え品を変え、とは言うけど距離、武装種、狙いを少しずつ変えてくるから一瞬も気を抜けなかったわ」

 

 ヒューストンさんはこう言ってるけど、経験や技術的なアレコレとか艦種によるパワーの差とかの前に、戦い方が上手なんだよね。試合の運び方というか、気が付いたら勝てなくなってた感じ。

 

 せめて投擲物があれば不意を突いて一矢報いるくらいは出来たんだろうけど、やるとしたら次の出向からになるだろうな。それでも勝てるビジョンが見えないのは流石としか言いようがない。

 

 

 

「ねぇスチュワート、お昼の後に私と演習しない?」

 

「良いですけど、ヘレナさんが先です」

 

「ジョンストンごめんね~」

 

 陽炎と初風の二人掛かりで撃破したジョンストンも神通さんで倒せなかったヘレナさんも俺を演習に誘うなんて一体何を考えているんだ。俺では完全に役不足だろうに。

 でも挑まれた演習は予定が無い限りは受けるようにするのが今までのスタンスだったし、今更ビビって棄権なんてしない。それに俺はバカだから考えるよりも身体で覚える方がやり易い。

 

 そんな感じでグダグダな反省会が終わり、戻って来ない戦艦の二人が待ちきれない俺たちはアレックスさんの準備していた調理器具が開かれたことで昼食を始めた。

 

 イントレピッドさん自慢だと言う肉の塊が中から出てきた。アメリカに来てからもはや見慣れたと言って良いけど、やっぱり色々とサイズがおかしい。

 日本の焼肉って感じのバーベキューとは随分違うけど、ステーキ(厚切りの肉)だから良いんだろう。

 

 肉は美味しかったんだけど……米が欲しい。

 




・サラトガ
ひかえめな性格。 辛い物が苦手、物音に敏感。
アメリカの生活力の低い一部を支えているお姉さん。
演習では本気が出せない。対深海棲艦能力は随一。

「沈んだ敵も助けたいなんて子が日本に居るの? 仲良くなれそう」

・アイオワ
チェーンソーを見るとウキウキし始める。
ホラーゲームや映画が必要な人が彼女の部屋を訪れる。
一人の時はゴミ箱にジャンクフードのゴミが溜まる。
戦艦二人より燃費が悪いが、性能は正に暴力の権化。

「日本のサメは電子の海を泳がないの? 拍子抜けね」

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