私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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136話です。

お待たせしました。
これも全部(ゲームの)イベントってヤツの仕業なんだ!


エンターテインメント至上主義達の騒ぎ

「よく来たな。怖気づいたのかと思ってたぞ」

 

「抜かせ。ルールはなんだ?」

 

 挑発するように薄く笑うサウスダコタさんと、キレ気味の長門さんがリングの上で対峙している。

 その後に続く言葉の応酬も凄い凄い。やっぱり他の鎮守府の“長門”を知ってるんだろうな。怒らせて戦うように仕向けるまでの煽り方の上手いのなんの。

 

「ああ、スポーツマンシップに則ってりゃ特に反則は無いぞ。SUMOUだろうがカラテだろうが捩じ伏せてきたんだ」

 

「ほう? 私は並の艦娘とは訳が違うぞ」

 

「面白い」

 

 やだ……サウスダコタさん男らしい。

 実況と解説のフレッチャー曰く、戦艦サウスダコタの愛称【ブラックプリンス】に因んで黒の特攻服なんだとか。

 愛称が格好良過ぎるけどやってることは王子(プリンス)ってよりかチンピラなんだよなぁ。いつもは適切に気を配ることも出来るらしいのに、日本から出向して人が増えるとと闘争を求めて理性が蒸発することが偶にあるらしいのは残念過ぎる……折角の美人がどうしてこんなことに。

 

 サウスダコタの猛烈なラッシュが長門さんを襲っている。風切り音が聞こえてきそうなソレは上手く表現できないけど……ビッグバンを彷彿とさせる圧倒的な破壊力を持つパンチは正に流星の如し。流石の長門さんもそろそろ限界なのでは?

 

「その程度か?」

 

 まだまだ余裕そうだって!?

 驚いたのは俺だけではないようで、アメリカの面々も唖然としている。

 確かに長門さんは拳をまともに受けないように立ち回ってたけど、それでもここまで長時間粘るのは凄くない? コロラドさんが一撃でダウンするレベルだぞ?

 

「まだまだぁ! ギアを上げるぜ!」

 

「なに? ぐっ!?」

 

 サウスダコタさんは今までは手加減をしていたらしい。ジャブとストレートとフックだけだった攻撃にアッパーが追加された。

 今までは左右を守っていれば致命傷は防げていた長門さんもいきなり下から攻撃が来るようになったから危機感を覚えたのか今まで以上に距離を取って警戒し始めた。

 

 それからは本当に濃密な時間だった。

 誰もが一瞬で勝敗が決まるだろうと思って呼吸と瞬きをするのを忘れたように見入り、それが数分と続く内に騒がしかったギャラリーも解説のフレッチャーも一言も話さなくなった。

 

 そして、声を上げたのはサラトガさんだった。

 

タイムオーバーです!

 

 

 

 

 

『スチュワート。次のラウンドはお前がやれよ』

 

『はい?』

 

『ラウンド始まったら早々にリタイアするからさ』

 

はい!?

 

 リングの上からにししと笑うサウスダコタさんの言葉にビックリした。

 完全に観客気分だったんだけどぉ!? 折角の良い試合なんだからやるなら最後までやってくれよ勿体ない。

 

『久々に満足しちゃってさ、偶にはギャラリーに回ろうかなって。長門もきっと消耗してるだろうから良い試合出来るんじゃないか?』

 

 殴り合いガチ勢のサウスダコタさんが言うならきっとワンチャンあるんだろう。

 俺がアレコレしても勝てないんじゃないかと思って断ろうとしたけど、やってみることにした。

 

 予定通りにサウスダコタさんがリタイアして、リングの上から降りてくる。

 俺の出番が来た。緊張する。

 

『無理に勝とうとしなくてもいいぜ』

 

 ハイタッチの瞬間にそう言われた。どうせ遊び半分だからガチにやらなくても良いって解釈で良いのかな?

 リングの反対側には神通さんと陽炎の驚いた顔が見える。

 そしてリングの上には滅茶苦茶悲しそうで不安そうな顔をしてる長門さん。

 

「サウスダコタさんとの殴り合いの続行がお望みでしたか?」

 

「そんな訳あるか。……お前は、私たちと争ってまで日本に戻りたくないのか?」

 

「はっ?」

 

 何言ってんのこの人ぉ!? 演技か? 演技なのか!? でも長門さんは大根役者っぽいからもしかすると一連のバカ騒ぎをガチだと認識してる可能性が?

 

「長門さん本気でそう思ってます?」

 

「何? まさか……」

 

嘘だろオイ……日本には戻りますよ。出向は一応仕事なので最後まではやりますよ」

 

 報告とかもありますしと言うと、長門さんのさっきまでの悲しそうな顔が思案、驚きと移り変わって最後に怒りを表現した。

 

「一発殴らせろ」

 

「へぇっ!?」

 

 和解! 和解を求める! アメリカの皆と悪ふざけし過ぎたのは謝るから命だけはお許しください……タスケテ…タスケテ……

 

「あの~、そろそろ始めても?」

 

「いや、ちょっと待っ「勿論だ」ああ、終わった……!

 

 

 

 

 

「いつまでも逃げてちゃ面白くないぞ~」

 

「ちゃんと戦え臆病者(チキン)!」

 

「長門も早く倒しちゃえ~!」

 

 俺に向けてブーイングが、長門さんに向けて激励が飛んでいる。

 神州丸(師匠)さんに格闘術の触りの部分は教えて貰ったけど、サウスダコタさんの攻撃でもノックダウンしない長門さんには通用しないだろう。

 だからリングの中で猛威を振るう長門さんの腕を躱しながら時間切れを狙ってるんだけど……良い感じに時間が無くなってるじゃん。待望のタイムアップまであと少し。心の中でガッツポーズをする。

 

「そうだ。ウチでは消極的な試合は時間切れのルールを適用しないぞ。なぁサウスダコタ?」

 

「勿論だ! 娯楽(エンターテインメント)も兼ねてるからな。」

 

 絶望のアナウンスが聞こえてきた。

 いや、客観的に見て面白くは無いんだろうけどさぁ……元々こうなったのってアメリカ側が悪ノリし過ぎたからじゃね? いや、俺も乗ったから人のことは言えないけどさぁ。

 だからちょっと申し訳ないかなぁなんて思って長門さんに攻撃はしてないんだけど。このまま逃げるの止めて大人しくやられろって? あんまりじゃねぇかな。

 

「ん?」

 

 ピタリと長門さんからの攻撃が止まった。

 

「スチュワートがこのまま逃げ続けるならば、帰還時にスチュワートを置いて帰還して、提督には『スチュワートは日本に帰りたくなかったようだ』と報告しなければいけなくなるな」

 

 待って。何それは。

 

「それだけは困ります!」

 

「ならば来るがいい! 臆病者と言われて何も感じないのか? 私は悔しいぞ!」

 

「大湊警備府の初期艦がこのような不甲斐ない方とは……悔しいです」

 

「そうよ! 私のライバルは臆病者だなんて言わせないでね!」

 

 長門さんと神通さんの言葉が胸に刺さる。陽炎は俺のことをライバルって……マジかぁ。

 申し訳無さと一抹の嬉しさで目頭熱くなっちゃったじゃないか。

 

「なら……行きますよ!」

 

 低い姿勢で懐にダイブする。そしてそのまま首元と腕を掴んで背負い投げの要領で……

 

重っ!

 

 投げられない! 咄嗟の判断で手を離して距離を取る。

 ボクシングの漫画でやってたように小刻みに跳ねながら近寄られないように移動するが、長門さんはその場から動かない。やりにくいなぁもう。

 

「「……」」

 

 視線が合うけど長門さんは動かないし。

 

「サウスダコタさん、ルールは何でも良いんですよね?」

 

「ああ」

 

 その返答を聴くなり再び近寄って宙返りしながら蹴りを、所謂サマーソルトキックを入れる。

 

『Foo! ガ○ルの技よ! 信じられない!』

 

 着地するなり、仰け反ってバランスを崩している長門さんの顔……は止めておこう。流石に気が引けるしそもそも届かない。代わりに心臓をダルマ落としするつもりで後ろ回し蹴り! 死神の鎌みたいに命を刈り取る(かたち)をしてるだろ? 

 

「ぐぅっ!」

 

 身体が柔らかいって素晴らしいなぁ! いい感じの手応え有り!

 

「調子に乗るなよ」

 

「え? あっ!」

 

 足を掴まれたぁ!?

 

こりゃ駄目だね。うえぇ!?

 

 遠心力ッ!? 頭に血がぁ! 頭割れる! 割れる! 破裂するヤバいって! あ、浮いた。

 

 

 急速に迫る壁か床のどっちかを見て直感的に受け身は出来ないと悟った。

 瞬間、意識が途絶えた。

 

▼――――――――――

 

「あ、繋がった」

 

 初風が何度目かも分からない通話をかける。

 今までは聞こえすらしなかった呼び出し音に逆に少し驚いていた。

 

「そう。連絡はしっかりとお願いね」

 

「任せてよ……もしもし?」

 

『どうしかした? 着信履歴すごいことになっててビックリしたんだけど』

 

「残念だけどそんなこと言ってる場合じゃないわ。もっと大変なことがあるんだけど……スチュワートがアメリカに残るかもしれないわ」

 

『……少なくとも報告の為に一度帰還する筈だけど』

 

「えっ? ……それもそうね。き、切るわね!忙しいところ悪かったわね!」

 

 言うなりスマホの電源を切って部屋の外に向かおうとする初風。

 

「何を言われたのか説明してもらえないかしら?」

 

 それを加賀が引き止めようとする。

 

「報告あるから日本には戻るって!」

 

 そう言う初風の表情はどことなく嬉しそうだ。

 

「そう……なら、不毛な争いを止めに行きましょう」

 

 加賀は初風と移動を開始した。

 そうして辿り着いた総合体育館の一室では、リングの上に倒れたまま動かないスチュワートの姿があった。

 

「どうしてこうなったのよ……」

 

▲――――――――――

 




提督はまともだった……?

・サウスダコタ
アメリカ艦の誇る殴り愛ガチ勢。海の上で戦艦棲姫の艤装(化物)と殴り合ったのは語り草となっている。
髪は地毛。星の模様が一定の位置に留まるのはアメリカ艦の七不思議の一つ。

「如何にも! この私がSouth() Dakotaだが……何? North() Dakota はだと? ……知らんな! いや、居たことは知ってるが……」

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