私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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138話です。

書くのがとても難しかった。
一週間も開けてしまった……。


闇に一点

「腹が減っては戦は出来ぬ……という訳で厨房からおにぎりを貰ってきました。適度な休息も必要ですよ?」

 

 夜になり、俺が加賀さんと交代する時になっても船内に戻らずに深海棲艦を警戒していた神通さんにおにぎりを渡す。一食くらいは抜いても大丈夫なのは分かってるけど二食抜くのは戦う仕事やってる以上ちょっと見過ごせないかな……。

 

「……ありがたく頂きますね」

 

「こちらこそずっと出て貰っちゃって申し訳ないです」

 

「体調不良なら仕方ないです。悪化されても困りますし」

 

 初風のアレはもう末期症状だから放置でも良いような気がするけど。

 いくら提督とは言え艦娘全員のプライベートを細かいところまでは把握なんてしてないに決まってる。

  陽炎も妹が心配なのは分かるけど、それなら最初から初風を妙高さんから離さないように提督に陳述をだね? いや、妹がストーカー予備軍なんですっては言いたくないか。

 

「人って難しいですよね」

 

「はい?」

 

 ちょっと心配そうな目で見られた。解せぬ。

 

 

 

 夜が深くなってからは深海棲艦が出てこなかった。この海域の深海棲艦は生活リズムが整ってて実に良いヤツらだ。そのまま永久に海底に引き篭もって勝手に自滅してくれたら良いんだけどなぁ。

 

 そんなこんなで平和だったから自然とお喋りが続き、話題は帰ったらやりたいこと、詳報(レポート)の中身について、出向で散々やった陸上戦闘の必要性について、そして格闘戦で俺が使った奇抜な戦い方についてシフトしていった。

 

「あのような動きを何処で学ばれたんですか?」

 

「那珂ちゃんに仕込まれました」

 

 特に秘密にするようなことじゃないから素直に答える。

 仕込まれたって言ったもののその名目はなんと戦闘訓練の一環では無くなんとバックダンサーの練習。

 何も無いような日に突然駆逐艦を集めたと思ったらまさかのまさかだったね。

 しかも何人か乗ったから止められなくなって結局プチライブにまで発展した。行動力の化身かよ。

 

 そんな那珂ちゃんの熱意は金剛さんの恋心に匹敵するレベルの熱量で、バックダンサーとして見出されてしまった俺を含む数人は夜になると呼び出されて特別練習(レッスン)を受けた。

 要求されるレベルは一般にテレビで見られるようなアイドルとかのダンスの振り付けだったんだけど、それをクリアしてる間にいつの間にか振り付けが難しくなっていって、終いにはバク宙を含むアクロバティックな練習をさせられた。目標が高いのは良いんだけど高すぎるのは問題だと思う。

 どこで役に立つんだと思いながら練習してたけど、思いがけないところで役に立ったな。

 

「妹がご迷惑を……」

 

「い、いえいえ……神通さんも大変ですね」

 

「分かってくれますか? ふふ……ふふふ……」

 

 暗い目をしながらドス黒いオーラを放つ神通さんの笑顔が怖い。俺じゃなくても後ろに般若が見えるのは間違いない。

 提督にねだりにねだって防音室の用意までしてもらった妹と夜になる度に大量の苦情を集める姉。

 これは神通さんの胃がストレスがマッハになること間違いなし。流石の神通さんと言えどこの二人に挟まれて生活するのは中々に難しいものがあるらしい。他所の神通さんと情報共有会でも開くことを提案しておこう。

 

 取り敢えず川内さんと那珂ちゃんは神通さんに泣いて感謝するべきだと思う。

 

 

 

 

 

 楽しいお喋りはその後も続いたけど、全く何もないなんて優しい現実は無かった。

 日付けが変わってからしばらくした頃、神通さんが急に話を止めて手を上げて静かにするようにジェスチャーをした。

 

「スチュワートさん、気が付きましたか?」

 

「? ……アレですか?」

 

 さっきからレーダーに一つだけ反応がある方向を指差す。

 

「そうです」

 

 合ってた。頓珍漢なこと言って失望されることにはならなさそうで取り敢えず一安心だ。

 でも多分はぐれ駆逐級じゃないかなぁ?

 

「神通さんも居ますし大した脅威になるとは考え辛いんですが……アレ一隻だけですよね?」

 

 もう一度確認してもやっぱり反応は一つだけ。

 はぐれ駆逐級一匹程度だったらどうとでもできるから無視して良いと思うんだけど。

 

「本当にただ逸れただけの深海棲艦だったら良かったんですけれど……」

 

 え、違うの?

 確認しても反応は一つだけ……あっそういうこと?

 さっきから全然距離変わってないじゃん。

 件の反応は一定の距離を保ちつつ何かしてくる訳でも無い。威嚇射撃で数発撃っても反応が無いのが不気味だ。これがイ級とかなら頭悪いから突っ込んでくるんだけどなぁ。

 

「偵察ってことですか?」

 

「その可能性もあります」

 

「ちょっと見てきましょうか?」

 

「いいえ、待って下さい」

 

 神通さんが探照灯でモールス信号を始めた。『貴艦 一時停止されたし』かな? 打ち込みが速すぎてよく分からない。

 

「通信にも反応なし……お願いします」

 

「お願いされました」

 

 そう言って一気にスピードを上げた。

 

 

 

 かなり速いぞコイツ!

 

 感想はそれだけ。

 ある程度近づいたら逃げるように距離を開けられた。

 

『深追いは危険です! 船まで戻ってきてください!』

 

「……了解です」

 

 結局神通さんから止められるまで全力で追いかけても追いつけなかった。

 イ級の全速力もかなり速いことは知ってるけど、逃げる = 捕まりたくない = 疚しいことがある の図式で遠慮は要らないだろうと思って魚雷で攻撃した。

 真後ろに付けていたからほぼ間違いなく5発全弾命中させた自信があるにも関らず、相手は止まってくれないどころか減速すらしなかった。駆逐級なら大体はなんとかなりそうなんだけど……もしかして駆逐級じゃ無かったのか?

 

「まぁあとは神通さんと相談かな」

 

 船から結構離れちゃったし。

 今居る場所も神通さんの索敵範囲ギリギリのラインだろうし。

 

「帰ろう……次はその顔拝んでやるからな?」

 

 暗闇に向かって話しかける。やっぱり返答は無かった。

 

 

 

 

 その後、神通さんが休んでいた四人と乗組員に説明をしに船内に戻っていった。

 代わりに引っ張り出された陽炎に説明していたら船が進路を緩やかに変えた。大陸をなぞるようなルートに変更したらしい。最短距離を進むんじゃなくて安全を取ったと神通さんから説明され、半日の遅れで済むと良いねって言い合った。

 

「あの後の反応はどうでしたか?」

 

「反応は明るくなってきた頃にレーダーから消えてしまいました」

 

 陽炎も同じように判断してるから間違いない。

 偵察かもしれないけど今のところ実害は無いし、こっちから出来る手段も無いからと「もしかするとガチの幽霊の類かもしれない」と陽炎と密かに盛り上がったのは秘密だ。

 

 

 長門さんには一応提督に謎の反応の報告をしてもらった。

 加賀さんも日中に艦載機を使ってかなり広範囲に渡って偵察してくれたらしいけど、怪しい影は見つからなかったらしい。

 

 なにより嫌らしいのは謎の影は夜にだけ現れることだ。

 一度神通さんと初風の2人で追跡しようとした時もあっという間に逃げられた上に反応も消えてしまったから追いつけないことが分かった。

 けど夜には艦載機がまともに機能しないから加賀さんはダメ、長距離から砲撃しようにも俺の砲じゃ貧弱過ぎてダメ、ワンチャンに賭けて長門さんに砲撃してもらったけど長門さんが出てきたら逃げられてしまった。

 

 一度気が付いてしまった以上、無視し続けるのは部屋の天井の明かりに羽虫が群がってるのを見たような感じのなんとも言えない不快感がある。

 でもどうしようもないから何もしてこないなら取り敢えず不干渉にしようという形に落ち着いた。

 

 

 

 そして更に三日後……

 

「来ます」

 

 神通さんにそう言われて、警戒を強めて砲を闇に向ける。

 遥か前方から凄いスピードで何かが突っ込んでくるのが分かる。とうとう来たか。

 

「警備府に近付いて私たちの気が緩まるのを待ってたの?」

 

「最後くらい大人しくして欲しかったわ」

 

 だよねぇ……うっすらと日本の施設の光とか見え始めたのにさ、今まで見てただけなんだったら最後まで手を出さずにいて欲しかったね。

 

 お~~……

 

「何か聞こえました?」

 

「わざわざ鳴くなんてバカみたい。隠密って知らないのかしらね」

 

「……」

 

 言うねぇ。

 でも神通さんも砲を構えてやる気十分、俺だって最後の最後までコケにされたままでは終われない。クソ正直に真正面から突っ込んでくるんだ、盛大に歓迎してやろう。

 

 

 

 

 

か~~~~りぃっ! って危ない!」

 

 現れたのは川内さんだった。

 レーダーの謎の反応は相変わらず遠くにポツンと存在していた。

 




謎の存在……一体何者なんだ……

・ガンビア・ベイ
 普段はちょっとビビリだけどやるときはやる。
 加賀に空母自身の砲撃の重要性を力説した。
 サムとジョンストンとは特に仲が良い。
 自室には一般小説を始め、日本のマンガやラノベの英訳が多く揃えられていてスチュワートがしょっちゅう彼女の部屋を訪れた。
 外出する時は一人では行動しないようにしている。
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