二章が始まりました。
ほのぼの、日常会を計画してます。
引き続きよろしくお願いします。
目覚め
――ここは何処だ?
俺は歩いていた。前後左右も足元も空も全部真っ白な世界だった。足音も風も感じない。
「貴女は──」
後ろの方から声が聞こえた。振り返って走り出す。
一体どれほど走っただろうか。十秒か? それとも二十分以上だろうか。
すると前方に黒い点が見えてきたので思わず足が止まる。全てが真っ白なこの世界に於いて自分以外の「色」はかなり浮いていた。
「貴女は、こっちに来ちゃ駄目ですぅ」
そんな最近までずっと聞いていたような、ずっと聞きたかったような間延びした声を聞いたから、止まっていた足を再び動かし始める。
点は少しずつ大きくなり、掌大のになったときには足元にあった。
「……なんで来ちゃうんですかぁ? 最後の時といい頭大丈夫ですぅ?」
「随分辛辣じゃない? それはそうと来るなと言われるほど行きたくなるのは人の性だから諦めて。それと俺の頭はこれでデフォルトだから安心しろ。追加パッチも空き容量もないから改善はしないぞ諦めてくれ」
文句を言う妖精さんを拾い上げてそう返す。随分と懐かしく感じるのはなんでだろう。
「で、ここどこ?」
「死後の世界ですぅ」
ふーんと返事を返す。実感も何も無いから感想も出てこない。精々「実在したのか」くらいだ。
それにしても……薄々と気付いていたが死後の世界、あの世ねぇ。まぁ駆逐棲姫に自爆特攻したんだから自分も魚雷の大爆発に巻き込まれたんだろうなぁ。
「今頃は
魚に突かれて痛みと共に体の表面から少しづつ削られて無くなっていく感覚を味わわずに済んだと喜ぶべきか、溺死する苦しみを味わわずに済んだと喜ぶべきか、妖精さんから貰ったこの体を粗末にしたことを謝罪するべきか、そういえば駆逐棲姫には一矢報いることは出来たかなんて心配するべきか。
「まぁいいか、過ぎた事だし」
「あっさりし過ぎじゃないですかぁ?」
「お互い様じゃない? 妖精さんは俺に対して「もっと逃げに専念していたらもしかしたら助かったかもしれない~」とか怒鳴る権利があると思うんだけど?」
そう言うと妖精さんは鼻で笑った。
「あまり自惚れないでください。駆逐棲姫と言ったらかなりの強敵ですぅ。それを艦娘歴の浅い
「ッ! この──」
続く言葉は頭を叩かれたことで中断された。反射的にそれを手に取るとハリセンだった。しかもみるみるうちに小さなクリアファイルに挟まれた紙に変化した。どうなってんだ。
「それを持って後ろの橋を渡ってください。……絶対に中を覗かないでくださいよ?」
だからそんなこと言われると余計に見たくなるんだって……。あと今のやり取りも懐かしいな。鶴の恩返しじゃ無いんだよ。
振り返ると、先程まで白かった世界に明るい紅に塗られた橋が架かっていた。色褪せたら良い感じに渋くなりそうな橋だけど今は非常に目に優しくない色をしている。
「これはどこに繋がってるの?」
妖精さんの言葉と直感、前世で身に付けた知識から考えてあの先は現世だろう。だけど確信が欲しいから妖精さんに訊いたが手の上には妖精さんは居なかった。
――どこからともなく声が聞こえる。
(私は別に貴女を恨んだりはしてませんよ。日本の海で散れただけ全然良かったですぅ)
「……あぁそうかい。俺はアンタの頼みごとを最低ラインまでしかこなせなかったって訳ね。じゃあ妖精さん。またいつか会おうな! 俺は忘れねぇからよ!」
(その時は貴女が死んだときなので「二度と会わねぇ!」くらいは言って欲しかったですぅ)
そんなもんなのか。振り返って端に向かって歩き出し、一歩足が掛かったところで大声を出す。
「あーあー! 最後まで締まらねぇなぁ! 俺らしいけどよぉ! じゃあな!」
橋を渡る途中、そして渡り終わって辺りの白が黒に変わるまで、妖精さんからの返事は無かった。
「なんだよもう……」
▼―――――――――――――――
あれから一週間、謎の艦娘――彼女が工廠の医務室に運び込まれてから私たちは付きっきりだ。
運び込まれた直後に修復剤をぶっかけたり、体を洗おうとして風呂に連れて行ったら耐性の無い駆逐艦の子が気分悪くしたり、静かに首を横に振る妖精さんを叱ったり……
「これで目を開けなかったら恨むわよ…はぁ~疲れた~」
「修理できない艦はありませんって言えなくなっちゃうもんね……。でも、昨日は咳してたし一応回復はしてるんだよ? だから自信持ちなよ明石」
でも~……なんて言ってすっかり自信もやる気も気力も失くして机に突っ伏す明石を見る。
艤装は妖精さんが全員首を横に振ったから仕方がないにしても轟沈寸前、沈んでないのが不思議な状態で運び込まれた彼女は本当に酷いものだった。
むしろよくここまで回復したとすら思える。これが妖精さん、艦娘の力なのかと自分たちの事なのに不気味に思えてしまうほどに。
もはやガラクタ同然の艤装を見る限り戦艦や空母、潜水艦ではない。かなりコンパクトなので恐らく駆逐艦だろう。聞いた話だと彼女は単艦で駆逐棲姫と交戦していたらしい。そのときは驚きと呆れで言葉が出なかった。
いろいろと訊きたいことが多すぎるけど、目が覚めるまではどうしようもない。
ベッドで眠る彼女を見ると呼吸もしっかりしているしここ最近の体温も高い。あとは明石の言う通りちゃんと起きて「問題ない」って言ってくれれば良いんだけど……
「さっさと起きなさいよ。本当にそろそろ動かないと「処置無し」って判断されちゃうわよ。解体されたくないなら早く起きなさいよ……」
そう言った私は日々の疲れからかゆっくりと瞼が降りて行くのを止められなかった。
▲―――――――――――――――
「ん……」
目が覚めた。身動ぎすると何か柔らかいものに包まれている感触がある。これは……布団か? 布団……
張り付いたように固くなっていた瞼を開ける。倉庫、コンテナ、廃墟、空、そのどれでもないような天井が目に入る。病院みたいにとてもきれいな天井だ。
掛け布団には妖精さんが数人乗っていた。敷き布団ではなくベッドだったか。
妖精さんが居るとなるとここは……鎮守府? いやいやまさかそんなと思って周りを見ると見たことがある人が二人居た。……あれは明石と……誰だっけ?
「え? ホントに? マジで鎮守府なのここ?」
「おぉ! 様子を見に来てみれば。気が付いたのかね?」
誰だこのオジ様!?
死角から話しかけてきたのは白い服を着て柔和そうな顔をしている人だった。
これは誰だか知らないけど知ってる。『艦これ』に於いて立ち絵もボイスも一切ないが最も重要な役割……提督じゃん。
俺がここに居て助かったのはきっとこの提督のお陰だろう。お礼を言っておかねば……
「こっ、この度は助けてくださいまとこっ……誠に有難うございました!」
噛んだ……所詮俺のコミュ力なんてこんなもんだよ。
「ハッハッハ、元気になって何よりだ。今はまだ万全ではないだろう。ここに居る彼女、明石と夕張の言うことを聞いて安静にしていなさい。後日、君から話を聴けることを楽しみにしているよ」
そう言って二人を指す提督。あぁそうだ、夕張だ夕張。……って違う!
「あの……」
「おっと忘れていたよ。私はここ、佐世保鎮守府で提督をやらせてもらっている田代という。気軽に提督と呼んでくれ。……それで、君のことは何て呼べば良いかな?」
なるほど、田代さん。いや提督さんね……ってヤバイヤバイ。
俺も名乗らねば……頭の中空っぽ! どうすりゃいいんだよ。
「ク、クレムソン級駆逐艦、スチュワートです…? え~っと……ありがとうございました……ハイ」
やっぱり今回も駄目だったよ。見ての通り、苦笑いすら貰えない残念な自己紹介だろう?
「あーっ! 起きてるっ! って提督ぅ!? お、お茶でもしていきますか?」
「遠慮しておくよ。彼女の様子を見に来ただけだからね、仕事がまだ残っているんだ。お茶はまた時間があるときに付き合おう。それに君たちも疲れているだろう? 彼女も目を覚ましたみたいだからゆっくり休んでくれ。それと、後日彼女を連れて執務室まで来てくれ。時間は大淀に伝えるといい。空けておこう」
「分かりました!」
近くでうたた寝していた夕張が飛び起きて騒ぎ出す。分かりましたなんて言ってたけど提督さんが出て行ったときに残念そうな顔をしてたから多分提督と一緒に居たかったんだろう。
慕われてるじゃん。ま、言葉からして優しい人って分かるんだけどさ。
グルリ! と効果音が付きそうな速さで夕張がこちらに顔を向けた。怖……あと目がヤバい。獲物を狩る目をしている。
「私は兵装実験軽巡、夕張よ。それでそこで寝てるのが工作艦の明石。おーい、明石~? ……起きなさいよ! 彼女、起きたわよ?」
「何よ夕張……え゛、彼女が起きたぁ!?」
これが、鎮守府で目覚めた俺の最初の一幕だった。
やっと主人公が他の艦娘と会話しました。
死んでも復活できるのは主人公の特権。
提督さんはフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。