私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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140話です。

幕間(オマケ)です。

雪かきは重労働。
去年の積雪が如何に少なくて助かったことか…


7章 〜幕間①〜

・その心の内は……?

――――――――――

 

 大本営へ呼ばれた理由は一体なんだろう?

 

 自分の靴音が良く響く廊下を歩きながら考える。

 

 年に何回か開かれる大本営主催の料理講習はは最近受けたばかりだからそれが理由で呼び出されたとは思えない。

 

 去年から食欲の秋(秋刀魚漁)、ハロウィン、クリスマス、年末年始、節分、バレンタインと、季節のイベントがある度に騒々しくなる北方棲姫。

 港湾棲姫と共に大本営に隠している自分の……大湊の大きな秘密だ。

 

 遂にバレたのかと思ったけど監査があった記憶は無いし、見つかったのなら本人や艦娘達から自分に連絡が来るはずだ。

 でももし本当にあの2人が原因だったら……その時は『捕獲に成功し、艤装を奪い観察していた』って言っても良いのかな?

 誰が言い始めたのかこの案にはみんな乗り気で、青葉を中心に北方棲姫の観察日記のようなものを作ってたりしてたし。

 

 その他には他所の鎮守府が大規模な深海棲艦の軍勢を発見したとかがあるのかなと思ったけど、自分を呼び出すより先に艦娘を現場に向かわせるように指示が来ると思う。

 

となると、書類の不備が一番可能性が高そうかな……?

 

 自分で呟いておきながらそれは無いだろうとすぐに否定する。

 提督の椅子に座ることになって半年以上。通常業務にも随分と慣れてきたから書類の不備は減っている。

 そもそも、最近はそこまで大切な書類を取り扱った記憶が無い上に、書類の不備を疑うのは手伝って貰ってる艦娘達と最終チェックを行っている大淀に対して失礼だろう。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 歩いていたら休憩時間になってしまった。まだ時間には余裕があるけど、もう少し早く着くようにしても良かったかなと思う。

 そんな風に呆けていたところで自分のすぐ横の扉が開かれ、中から二人の人影が現れた。

 

「きゃっ、すみません」

 

「いえいえこちらこそ……」

 

 ぶつかるかと思ったけど寸でのところで立ち止まることが出来た。

 それにしてもこの人は何処かで見たことがある、どころではない。

 

「鹿島さん!?」

 

「あら? 松田さ……松田提督?! お久しぶりです」

 

「お久しぶりです。鹿島さんに提督と呼ばれると、むず痒く感じますね」

 

「さん付けなんて止めてくださいよ~! 松田提督は今はもう提督なんですから艦娘である私に遠慮なんてしないでください。それにしても、偉くなりましたね~?」

 

「勘弁してください……」

 

 普段は優しそうに微笑んでるのに、今は悪戯の標的が見つかったみたいな顔を向けてくる自分の元指導者の鹿島さん。

 二人で近況を話し合ってたりすると、鹿島さんが「そうです!」と言って後ろに居た人を紹介してきた。

 今年採用になった新人で竹下君と言うらしく、あろうことか自分も目標の内に入れてくれているらしい。自分なんかよりももっとベテランの提督たちを目標にしたほうが良いのではないだろうか?

 

「自分もまだまだ新米だから、仲良くしようね」

 

 軽く挨拶をしたら鹿島さんからアドバイスを求められたので、妖精さんは甘い物が好きだから調理実習は真面目に受けた方が良いという事と、女性に対する免疫を着けておいた方が良いとだけ言っておいた。

 少なくとも自分の最近の悩みはそれだから間違いないと思う。

 

 

 

 いつまでも話し込んでいては佐藤元帥との約束の時間に遅れてしまうので、話を終わらせて指定の部屋へ向かわせてもらうことにした。

 ノックをすると中から返事が返ってきたので、もう一度身なりを確認して入室する。

 

「失礼します」

 

「久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 

 部屋に入ると佐藤元帥は一人掛けのソファーに身を預け、“寛ぎ”を体現していた。

 驚きのあまり身体が強張って、ただでさえ緊張していたのが更に酷くなった気がした。

 

「は、はい! 自分は何事も無く―――

 

「そういう堅い事は会議中だけで頼むよ。会話する相手がみんなそうだと疲れちゃうからね」

 

「……失礼しました」

 

 元帥とは思えない態度に硬くなるもの一瞬、敬礼をすると止めるように言われてしまった。

 

そういうところなんだけどな……

 

 佐藤元帥の呟きが耳に入ってくるけど、上司からそう“お願い”されたところで、普通の人はいきなり態度を軟化させることは出来ないと思う。

 ちょっと複雑な心境のまま椅子に座らせて貰い、呼び出した理由について尋ねる。

 

「この度自分が呼ばれたのは、どのような要件でしょうか?」

 

「随分と忙しいみたいだね。まぁいい、私もこの後に用事があってね。手早く終わらせよう。……要件は二つあってね。まずはコレを渡しておこう」

 

 そう言って渡されたのは小さな袋と封筒。袋の方は中身は見えないけど非常に小さくて軽い。封筒にも何も書いてないから中身が分からない。だけどこれを渡す為に自分を呼んだとするなら中には余程大切な物が入っているのだろうと察せた。

 

「これは何でしょうか?」

 

「それは帰ってからのお楽しみだよ。まぁ、これで君を呼んだ要件の半分が片付いた訳だ」

 

 どうやら中身は教えてくれないらしい。帰るまでお預けされては気になってしまう。

 

「残りの一つはオマケみたいなものでね。……今は大湊警備府の一艦隊がアメリカへ出向しているね?」

 

「はい」

 

「その中にスチュワートが入っている筈だ」

 

「! はい」

 

 「スチュワート」と、彼女の名前が出てきたことに反応してしまう。

 佐藤元帥にこっちへ来いと手招きをされ、近くに寄ると辺りを確認して耳元に口を近づけた。

 

スチュワートがアメリカへ異動するかもしれない

 

「……え」

 

 言葉が上手く呑み込めない。

 スチュワートがアメリカへ?

 

「どうしてそんなことに!?」

 

「まぁ落ち着いてくれ。まだ決定ではないんだ。あと声が大きい」

 

「失礼しました……でもどうしてそんな」

 

 先程渡された袋と封筒を放り出すように机の上に乗せ、佐藤元帥の言葉を逃さないように今まで以上に身を入れて話を聞く体勢を整える。

 

「ほら、アメリカって艦娘が少ないだろう? 幾つか基地はあって、日本から出向してるとは言っても一時的な物だからね。アメリカから『一人でも艦娘を常駐させられないか』ってお願いは前からあったんだよ。こっち(日本の方)でも話し合いはしてたんだけどね、ピッタリな人員が見つかるじゃないか」

 

「それが彼女ですか」

 

「そう。やっぱり彼女の現状に納得してない連中が騒ぐんだよ。『あんなのを手元に置くなんて考えられない!』ってね。ここぞとばかりにアメリカへ押し付けようとしてたよ」

 

 佐藤元帥の言葉を聞いていて頭が熱くなってくる。

 騒いでる人達は彼女の何を知っているんだろうか? 今まで彼女が半年以上かけて築いた艦娘同士の信頼関係や大湊で挙げてきた戦果は意味の無いものだとでも言うつもりなんだろうか。

 一年近く経った今でも昔のことを掘り返すのか、過去の話し合いで決まったことにまだ文句を言うつもりなんだろうか。

 

 思考がだんだんヒートアップしてきたところで佐藤元帥が口を開いた。一瞬で落ち着いて次の言葉に耳を傾ける。

 

「伝えたいことはそれだけだよ。もう一度言っておくけどまだ予定だからね?」

 

 話は終わりらしい。

 「秘密にしてくれよ」と笑う佐藤元帥。態々伝えてくれたことに感謝が尽きない。

 

「教えて頂きありがとうございます」

 

「今の話での一連の反応を見て確信したよ。随分入れ込んでるみたいじゃないか」

 

「それは……」

 

 図星だ。恥ずかしいやら何やらで顔が熱くなったような気がする。

 簡単に看破されてしまう辺り、そんなにわかりやすかったのか……

 

「おや、そろそろ会議の時間だ。急に呼び出して悪かったね」

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 佐藤元帥が部屋から出ていこうとした時に動きが止まった。

 

「そうそう、欲しい物があるなら自分から掴み取りに行かないと。流れに身を任せるのは楽で良いけど、勇気を持って行動した方が後悔は少ないとだけ言っておくよ」

 

 今度こそ止まる事なく部屋から出ていった。

 

 その後、部屋に残された自分は佐藤元帥の言葉を反芻して、溜息と唸り声を一時間近く出し続けた。

 

 

 

 

 

お帰りなさい司令……司令?

 

 今日の秘書艦当番の浜波が出迎えてくれたが、生憎今日はもう書類仕事をやる気にはなれそうになかった。幸い今日の朝の時点では書類はあまりなかったし、最悪明日に持ち越しても全然問題は無い。

 

「済まない、少し一人にさせてくれないか?」

 

はい……分かりました……

 

 そのまま執務室ではなく、自室に向かう。

 

「……」

 

 部屋に入ってから、まるで吸い込まれるようにベッドに倒れ込む。

 

 佐藤元帥から話をされてから調子が悪い。

 いや、調子が悪いのではなくて……頭の片隅から離れない彼女のことが気になって仕方ない。

 

「はぁ」

 

 溜息が出てしまう。

 色々な感情が混ざり合って上手く表現出来そうにない。

 これはきっと……

 

 自分はきっと、彼女のことが好きなんだろう。

 

「……そうだ」

 

 ふと、佐藤元帥の言葉を思い出して起き上がる。

 何か現状を打開出来るものが入ってないかなぁと、僅かな希望を持って佐藤元帥に貰った袋を開ける。

 

 中には小さな箱が入っていた。

 

 何処かで見たことのあるような箱にまさかとは思って封筒も開ける。

 

 

 

 

 

 

 

結婚届(仮)

 

 佐藤元帥には全てお見通しだったらしい。

 




次回に続きます。

・佐藤元帥

帽子を深く被ってたり、やたら反射する眼鏡をかけてたり、背中で会話したりするから目を見たことがある人が少ない謎のお偉いさん。
明らかに出自の不明な怪しい艦娘の凶行にあまり忌避感を示さなかったり、当時提督候補生だった松田クンを提督の椅子に座らせたりと色々と変なことをしている。
 北方棲姫と港湾棲姫についても気付いてたりする。

【ご都合主義】特有の変なところでガバガバなトップ。
 作者のやりたい展開に進める為の便利な小道具。
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