新しい
章のタイトルが思いつかなかったので、それらしい
揃わない
「なぁ提督よ、大和の建造には何時着手するんだ?」
7月もそろそろ終わりそうになったある日。
執務室に乗り込んできた武蔵さんが言った。
「あ~……もう少し待ってもらえないかな?」
「昨日明石が言っていたが、戦艦大和の建造に必要な資材は一昨日の段階で集まったらしいじゃないか」
書類整理の手を止めた提督が武蔵さんと会話を始めた。
話題は大和さんの建造について、か?
戦艦大和
日本そのものを表す言葉を冠する超弩級の戦艦。
最大最強の戦艦にして大艦巨砲主義の極致。
本人は「大した活躍はしていません」なんて謙遜してたけど、そのネームバリューは最早言うまでもない。
何せアメリカの面々が皆揃って尊敬していたくらいだ。
『日本の技術者はマジで変態だ』ってアレックスさんも言ってたし。
軍艦なんて知らねぇよって人でも戦艦大和だけは知ってるって人は多いんじゃないだろうか。俺もそうだし。
そんな戦艦大和、もとい艦娘の大和さんの建造となるとそれはそれは……もう眩暈がしそうなくらい大量の資材を消費する。
武蔵さんの時も凄かったからなぁ……。
資材でいっぱいになってた倉庫が一晩ですっからかんになったのは多くの人のトラウマになったんだよ。明石さんが居なかったら何人か発狂してたね。
だから提督がゴーサインを出したとしても、俺や明石さんまで軽々しく首を縦に振る訳にはいかない。
「え~っとどこだったかな……あった。はいコレ!」
資料から月別、週別の資材状況のグラフを武蔵さんと、ついでに提督にも見せる。
「ココの部分! 必要最低限のラインをギリギリ維持してるのが一週間近く続いてるのが武蔵さんを建造した時の資材状況です」
「なんだ、悪かったなぁ! なぁに、その分はしっかりと働くさ」
豪快に笑いながら頭をガシガシとシェイクしてくる武蔵さんを睨む。全く効果が無いけど、せめてもの抵抗だ。
だって資材が無いと深海棲艦に対応出来ないんだよ!武蔵さん建造中に深海棲艦が大挙して押し寄せて来なかったのは本当に運が良かったんだからね!?
「提督もです。戦艦大和の建造をしたいならまずは資材倉庫の拡張をしてからにしてください。もしくは深海棲艦の活動が鈍くなる冬にお願いします……」
「ははっ提督よ、今の2択でまさか後者は選ぶまい?」
「そうだね。資材置き場の拡張を検討しておくよ」
その回答に満足そうに頷いた武蔵さんが執務室から出ていく。
やっぱり男気があると言っても姉妹、しかも他所には居て、大湊に居ないのが自分の姉だけとなると恋しくもなるのか。
いつもイタズラに集中してる卯月とか全方位にツンツンしてる時津風だって、同型艦が中大破したなんて連絡を受けた時は迎えに行くくらいだ。誰だって姉妹は大事なんだろう。
姉妹愛……やはり良いものだな。
相変わらず、何故かエアコンが導入されない執務室で書類を捌いていく。
しかし今日は何かがおかしい。
具体的には、今日の提督は仕事中に何故か俺のことチラチラ見てた。
絶対に何か隠してそうなんだよなぁ~。
「ん? !? 」
ホラあった! 怪し……くは無いけどそれなりに大事だと思われる書類!
「何かあったのかい?」
「コレ、どういうことですか?」
一枚の紙を提督に見せながら言葉を待つ。
確かにこれからもっと暑くなる季節だけど……なんでこんな、まるで隠すように優先度の低い書類に紛れさせてあるのかねぇ? 疚しい事でもあるのか?
「……夏季の慰労のお知らせだよ。ほら、去年もやっただろう?」
「そうですねぇ」
確か温泉旅館に行って、青葉さんたちと一緒に提督の寝顔を撮影するって
「去年と随分内容が違うように思うんですけど」
何で東南アジアの観光なんだよ!
暑いからか? 暑いからか海に行こうってか!?
いつも海は隣にあるじゃねぇかよ! なんでわざわざ海外に行ってまで海なんだよ信じられねぇ!
「いくつか候補は示されたんだけど、何故か他の提督達が選ばなくて……」
残り物には福があるってか? これは厄だろ。
もしかしなくても偵察任務も兼ねてると思うんだけどなぁ……。他の提督たちも選ばない貧乏くじだってことを察せなかったかぁ。
艦娘を大事に思ってるなら互いに押し付け合うくらいしろ。性格が良くて戦争に勝てるか! 譲れないラインってものは無いのか?
でもまぁ……スラバヤから日本までのルートを通った時も、遠洋に出ることは少なかったとは言え深海棲艦はあまり見なかったような気はする。
深海棲艦がどういう分布してるかは知らないけど、東南アジアの海って大戦中の激戦区だったみたいじゃん。
確かに海の色は綺麗だったし、こんな世界だから海に対して無警戒ってことはないだろうから観光が出来ないこともないだろうけど……素直に喜べないなぁ。
「まさかとは思いますけど、この慰労の企画はもう既に?」
「ああ、提出済みだ」
「……」
終わった……。
いやでも、もしかしたら本当に何にも無い観光になる可能性が……ダメだイメージ出来ない。どうせ
「他の人達もしっかり納得させてくださいね? 多分コレ、
「え? ……そういうことか。道理で誰も選ばない訳だ」
気付くのが遅すぎるんだよなぁ……。
「「「海!?」」」
その日の夜、人数が多くなってきた食堂で提督が告知した。
その結果、殆ど全員のテンションが信じられないくらい上がった。
「嘘だろ……」
皆いっつも海の上に立ってるじゃん。青い海と青い空、そして水平線なんて飽きるくらい見てる筈じゃん。
それなのに頭の中が完全に
誰かが言い出した「水着を買いに行こう」という言葉に釣られた人たちが、互いに休日の日程を確認し始める始末。
若いって良いねぇ~。俺には到底真似できないぞ?
俺は精々砂浜でビーチパラソルを広げて読書か昼寝か、皆の昼食の用意か……って違う! 一瞬忘れてたけど多分コレお仕事だからね!? ただ遊びに行くんじゃないんだよ!
準備するものは艤装と通貨とその他諸々だけで良い筈だ。あとは宿泊施設の下調べとか、妖精さんの管理とか。持って行く艤装の管理とか……
「うへぇ」
考えただけで頭が痛くなってくるね!
でも頭脳労働は提督に放り投げよう。何せ俺は只の駒。駒は将棋とかチェスを指さない。
それにしても……一応提督は仕事の一環ってこと伝えたよね? なんで観光の二文字に浮かされない人が少数派な訳?
いやでも「休める時にしっかり休むのも仕事の内」って言ってたよ? そんなにストレスが溜まってたのか?
まぁいいや。水着なんて俺には縁の無い物だし、明日の遠征に支障が出ないように早く休もう。
「ねぇスーちゃん!」
「スーちゃんって何!?」
食堂から出ようとしたら、両肩に手が置かれた。
でも聞こえてきたのは俺を呼ぶような名前じゃ無かったから、つい反射的に答えてしまった。
「佐世保の
なに吹き込んでくださりやがった佐世保の夕張さん!?
確かに渾名っぽくてなんか仲良くなれた感じがするから嫌では無いけど……これが照れてるってこと?
「それと明後日休みだって言ってたよね? 一緒に買い物に行かない!?」
そう言う夕張さんの後ろには明後日が休みの他の人達も居た。
やっぱり断れない感じ?
「……」
水着を買う為に買い物には行きたく無いんだけどなぁ。
でも待てよ? 買い物に行くっては言ってたけど、水着を買うなんて一言も言ってないね?
なんだ、ただの早とちりか。
それに万が一そんなことになっても既に持ってるって言えば何とかなるでしょ。
「良いですよ、行きましょうか」
この時、俺は忘れていたんだ。
綾波たちとショッピングモールへ買い物に行ったときにみんな服屋を梯子して、大半の時間を過ごしたことを。
アメリカでフレッチャー級の二人が見せたファッションへの熱意を。
と言うよりも、女性がお洒落の為に使う気力や神経、その他諸々を舐めていた。
つまりなんだ。
俺は後悔することになったんだよ。
・夕張
大湊の夕張から入れ知恵された結果、主人公を渾名で呼び始めた。曰く、照れてる時と真面目くさった普段とのギャップが良いとのこと。
大湊では珍しく主人公に対して積極的に構うお姉さん。
謎の投擲物と盾のデータが欲しいけど、妖精さんに邪魔されてデータが集められないことに悲しみを抱いている。